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5.失礼なメイド

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「ケネス殿下、うちの妹が大変失礼致しました!」

フィリップは、ケネスに土下座をして謝った。

「もう良いよ。ジーナには、もう謝らないでって言ったから。わざわざ仕事の最中にすまなかったね。フィリップは仕事に戻って。ジーナは本を読む?」

「はい!」

「分かった。お茶を用意させるね。ちゃんと部屋の扉は開けておくから安心して」

「お気遣いありがとうございます。ジーナ、もう失礼な事するなよ。余計な事も言うなよ!」

「分かってるわ。お兄様ごめんなさい」

フィリップが去ろうとすると、メイドがお茶を持って現れた。フィリップが礼を言うと、うっとりとした顔をしている。

ケネスはため息を吐いて、メイドに言い付けた。

「それ置いたら、出て行って良いから」

「はぁーい。ぷっ……貴女も大変ねっ……」

「……」

ジーナは、失礼な態度を取るメイドを怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、兄との約束を思い出して我慢した。

メイドが出て行ってから、ケネスは自らお茶を淹れ始めた。

「ケネス殿下がお茶を淹れるのですか?」

「……ん、ああ。メイドに任せると渋いお茶しか出さないからね。心配なら飲まなくて良いけど……」

「いえ、頂きます。ありがとうございます」

そんな怪しいメイドが持ってきたお茶なら、自分が毒味をした方が良いだろうと考えたジーナは、先にお茶に口を付けた。

「……美味しい……」

「そう。良かった。本、どれを読みたい?」

「あまりに多くて決められなくて……本棚を拝見してもよろしいですか?」

「良いよ。僕はここで座って本を読んでるから、好きに選んで」

『ケネス殿下は、部屋の外からすぐに見える所にいらっしゃる。これなら、本を読んでいるだけだと分かるわ。きっと、わたくしを気遣って下さってるのね。なんてお優しい方なのかしら』

ジーナが本を選んでいると、ポツリとケネスが口を開いた。

「ジーナは、どうしてここに戻って来たの?」

「お約束でしたので。もしかして、戻らない方がよろしかったのでしょうか?」

「ううん。戻って来てくれて嬉しい。けど、戻って来るとは思わなかった」

『どういうことよ?! どっちが正解だったの?! わたくし、また何か失礼をしてしまったの?!』

混乱しているジーナに、ケネスは独り言のように呟いた。

「僕が誘ったら、みんな嫌がるから」

「恐れながら申し上げます。わたくしは、殿下からお誘い頂けて嬉しかったです。そのような事を仰らないで下さいまし」

「僕が話しかけてもみんな嫌な顔するよ。ジーナは目が悪いから良いけど、僕は見るに堪えない顔だって……」

「どなたがそのような事を仰るのですか?」

ジーナの質問に、ケネスはビクリと肩を震わせた。

「……誰って……みんな……」

「うちの兄もですか?」

「ううん。フィリップはそんな事言わないよ。むしろ言った人を注意してくれる」

「では、みんなではありませんわね」

満面の笑みを浮かべたジーナは、ケネスの顔をじっと見つめた。

「わたくしは確かに目が悪いですけど、ケネス殿下のお顔をきちんと拝見致しました。とても、殿下の仰る『みんな』と同じ感想は持てませんでしたわ」

「だって僕は拾われっ子だって……」

「殿下の瞳は綺麗な青紫。王族の特徴ではありませんか。それに、過去に茶髪の国王もいらっしゃったのですから、殿下が茶髪でもおかしくありません」

「兄上もそう言ってくれる……けど……」

「王太子殿下と、その辺の有象無象、どちらのお言葉を信じるのですか?」

「……それは……兄上……だけど……」

「なら、それでよろしいではありませんか。わたくしは身分上殿下のお相手にはなり得ませんが、ケネス殿下はお優しく素晴らしい方だと思いますし、見た目だって素敵です。そもそも、殿下の出自を疑うなんてそれこそ処刑ものではありませんの?」

「ぷっ……あははっ……! 確かにその通りだ! さすがフィリップの妹!」
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