聖女は世界を愛する

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66.未来に向けて

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「ニック、動けない」

「悪い、愛梨沙が可愛すぎてやりすぎた。癒すか?」

「それは嫌」

だって、恥ずかしいけどニックに愛された証だから消したくない。

「……なんで、嫌なんだ?」

うう、耳元で低い声は反則ですよ。

「ニックが愛してくれた証が消えるみたいで嫌」

「……へぇ、可愛すぎてまたやりたくなるんだが」

「今は無理、もうちょっと休ませてっ!」

「分かってるよ、オレはちょっと王城に仕事行かなきゃなんねぇし、愛梨沙は休んでな? アイツら今日開放なんだよ」

「あー、わたしが居たら可哀想な事になるし、ここで休んでるよ」

「結界の中で寝てろ。食事はここにあっから」

「うん、早く帰ってきてね。旦那様」

「……やっぱり行くのやめようかな。もうちょっと愛梨沙を可愛がりたい」

「今は無理! あとで!」

「あとなら良いんだな?」

「ひゃぁうっ!」

すっかり敏感になった身体は、些細な事で反応してしまう。布団を被って、ニックを見送ったら結界の中でぐっすり眠ってしまった。

………………ニック視点

やっぱり行きたくねぇなぁ。愛梨沙が可愛すぎてやりすぎた。

だけど、これだけは愛梨沙が居ない時しかできねぇし、さっさと終わらせよう。

「来たか、ニック」

「お待たせしました。昨日はありがとうございました」

「盛大だったな。結婚式で振る舞われた食事も評判だったぞ。聖女様はやはりお優しいとな」

「あまり愛梨沙の支持が高まりすぎて目立つのも困るのですが」

「頑張って守るしかないな。英雄殿」

「もちろん、全力で守りますよ。それで、ゴミどもは何処ですか?」

「どんどん口が悪くなるな。致し方ないがな」

団長が言うのも無理はない。神殿の奴らは全く反省してないからだ。本当に開放するのかと何度も聞かれたが、オレと愛梨沙が望めば、開放は叶う。

「魔道具はつけましたか?」

「これからだ、全て確認したいだろう?」

「ありがとうございます」

罵倒する神殿の奴らに、魔道具をつけていく。特に神殿長とシスターコリンナの罵倒は酷い。

「聖女様を、たぶらかすなんて! わたくしを騙していたのね! 護衛は解任したのに、どうして聖女様と会っているの! ありえないわ! 聖女様共々、懲罰よ!」

「ニックよ、我々神殿に歯向かうとは神の怒りを思い知れ」

「神様はもういねぇよ。呼び出されたばかりの聖女様に鞭打ちする娘を見るのは楽しかったか? なんで止めなかった」

「……ああなった娘を止める事はできん。そのあとは懲罰は控えるよう指導はしたぞ」

「食事が与えられてなかったのはどうしてだ?」

「聖女様は死なないのだから、神に祈らない聖女に与える食事はありませんわ!!!」

「……黙れ」

殺気を当てすぎて、神殿長以外気絶しやがった。ちっ、起こす手間がかかるな。今のうちに仲間に魔道具をつけてもらうか。

「なぁ、娘も気絶したから教えてくれよ。元神殿長さんよぉ。聖女様の教育係にアンタの娘を指名したのは何でだ。あんだけ懲罰、懲罰言ってたんだから、聖女様がひでぇ目にあうって予想してたよな? 神殿長ともあろう者が、予想してなかったなんて言わねぇよなぁ?」

「聖女様にずっと神殿にいてもらうためだ」

「はぁ?!」

「我々、神殿は聖女様がいれば潤うのだ! そのためには、聖女様は神殿にずっと居てもらわねばならん! 3年の任期では足らんのだ! 王妃様のおかげで我々の地位は上がった! ならば次はずっと聖女様が居てくれれば神殿は安泰だった筈なのだ! 娘は洗脳教育のスペシャリストだ! 娘の洗脳を受ければ、永遠に神殿で祈って頂ける! それを貴様は台無しにしおって! 娘の言う事を聞いて、倒れた聖女様に手助けもしない奴だからと油断したわ!」

「食事の事も、分かってたんだな?」

「娘に確認したら、聖女様が食事を拒否しとると言っておったぞ」

「……そんな訳ねぇって、分かってたよな?」

「ワシはなんにも知らん! 娘を信頼して任せておったのじゃ! ワシは聖女様に危害など加えとらん!!!」

……なるほどな。聖女様への危害として罪に問われないように自分の手は汚さなかったのか。諸悪の根源は、このジジイか。

「団長、このクズにつける魔道具も、距離を調整します」

「かまわない、好きにしろ。反対する奴などおらん」

教皇の魔道具の距離は100キロ。神殿と、オレの家までの距離くらいだ。神殿に戻りゃあ、ずっと苦しみを味わえるぜ。

「聖女様に近寄れば、聖女様の味わった苦しみがわかるぜ。自分達がただ眺めて居た時、どんだけ聖女様が苦しんでたか、思い知れ。いつ来るか分からない痛みに恐怖しながら、反省して生きろ」

「……ふん」

「ああ、シスターコリンナ以外の魔道具はつけおわったな。神殿長、あんたの分は距離が長えからな。他の奴らを先行させて痛みを避けようなんて卑怯な真似、できねぇぞ」

歪んだ顔の神殿長に、さらに畳み掛ける。

「シスターコリンナの魔道具は、この街をすっぽり覆うからな、開放してやるけど、痛みと空腹、恐怖で騒ぐ娘を見捨てるのか、連れてくのか、アンタはどうすんだ?」

気絶したシスターコリンナに、魔道具をつける。

「ぎゃあぁぁぁ!!! 痛い、苦しい! お腹が空いた! 私が、私が鞭を持って笑ってるぅぅぅ!」

「大騒ぎだな、自分がした事だろうに」

神殿長をはじめ、全員怯えている。自分達もこうなるんだから、当然か。

「もうお前らは開放されたぜ。コレ連れてさっさと出て行けよ」

「……」

「どうした? 娘は連れていかねぇのか?」

神殿長は、シスターコリンナを放置して逃げるように出ていった。そっちはオレの家の方角だから、すぐ苦しむだろうな。やっぱり娘を置いていったか。

「うるさいですね」

「助けて、助けて……」

「お前は、助けてって言う愛梨沙に何を言った?」

「痛い、苦しい、辛い……」

シスターコリンナに、もうひとつだけ魔道具をつける。

「痛く、ない……」

「癒しと浄化の魔道具だ。1時間に一回だけ、この苦しみから開放されるぜ。もちろん、食事も要らねえから生きていけるぜ。なぁ、お前の寿命は残りどんだけだ?」

「ぎゃあぁぁ……」

…………

「国王陛下、我々の希望を叶えて下さり感謝いたします」

「ひとまず罪人は城の牢で預かるが、鍵や見張りは要らんのだな?」

「ええ、不要です。逃げるなら勝手に逃げれば良いですから。お約束通り、一度だけお披露目の夜会に出ますよ。2ヶ月後でしたよね? 愛梨沙にも色々なものを見せてやりたいので、2週間後にしばらく休暇を貰って、少しだけ旅に出たいのですが」

「仕事が片付けば構わんぞ。だが、この国に必ず戻って来い」

「もちろんです。国王陛下と団長が居るなら、オレはこの国に留まりますよ。愛梨沙が安全である限りは」

「だが、其方達が街から出れば、牢の罪人は逃げるぞい」

「イツキ、そんで良いんだよ。いつまでも城に迷惑かけられねぇだろ?」

「……やはり、ニックを敵に回したくないのぉ」
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