聖女は世界を愛する

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60.国王との謁見

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街に戻る時は、馬も一頭だけだし、ゆっくり歩いて行こうとしたんだけど、イツキが早く街に戻りたいと騒ぐから、グライダーを作って空から1日で帰った。

「其方らと野営など、ごめんじゃ!」

イツキの主張は、わたしの寝顔を見られたくないニックにも支持されて、何か早く帰る方法を考えろとイツキに丸投げされた。
グライダーって、意外に早いのね。空からだからすぐ着いたよ。森を歩いてたら、障害物もあるし時間かかるもんね。
馬は、縮小してニックに持って貰って、街の近くまできたらグライダーは仕舞って、馬を連れて3人で歩いて帰る。

「ホントに、魔物居ないね」

「だな」

「一応浄化かけとくね、討ち漏らしあると困るし。浄化、国中に広がれ!」

「魔法は、我の力を借りて行うものじゃったが、愛梨沙は自分の魔力をうまく使っておるのぉ」

「神様居ないと魔法使えなくなるの? 今はできたけど」

「今までの魔法の使い方は出来んじゃろうの。愛梨沙はいつの間にか魔法を使う時に我に祈らなくなったからの。自分の魔力を引き出せれば良いのじゃから、愛梨沙の魔法はこのままじゃろ。ただ、魔力量は桁外れじゃが、有限になるの」

「あ、だからおばあちゃんの時、魔力切れ起こしかけたんだ」

「回復量も桁外れのようで、会話しとる間に回復しとったから、ほぼ無限と言って良いかもしれんの」

「そいや、オレも普通に魔法使えるな。無限収納とかさっきも使ったし」

「我に祈って魔法を使っておるのは神殿の者だけかもしれんの。騎士は魔法も無詠唱で使えんと戦闘で困るじゃろうから、我に祈って魔法など使わんじゃろ?」

「そうだな、魔力をコントロールして自分で魔法してる感じだな。詠唱なんてしねぇな」

「我に祈って魔法を使っておった者達は困るじゃろうけど、慣れればまた皆も魔法が使えるようになるじゃろ」

「もともと無詠唱で魔法してたし、神様に祈らないで出来るかちょっと試してみる!」

ニック、光れ!

「オイ、愛梨沙、何しやがった……」

「ニックは今日も、輝いてるね!」

「すぐ戻せ!」

「はぁい」

ニック、元に戻れっと。

「これで、癒しとか浄化もサクッと出来るね!」

私達3人に、癒しと浄化っと。うん、奇麗になった!

「「規格外……」」

ちょっと! 2人でハモるのやめてよー!

「愛梨沙が大変じゃなどと言ったが、大変なのはニックかもしれんのぉ」

「愛梨沙の為にする苦労は歓迎だけどよ、自重は覚えて貰うことにするぜ……」

「そうじゃの、頑張れニック」

……………………

「国王陛下、聖女様をお救いして、魔物の発生は止めました」

「よくやってくれた、ニック、聖女様……神様もおられるのですか!」

「わたくしはもう、聖女ではありませんわ。呪われていた聖女様をお救いする為に、わたくしも、神様も力を失いました。ですが、聖女様は救われ、別の世界で穏やかに過ごされておられます」

ここは、ぼかして言う事にしたのだ。わたしみたいな嘘を見抜く魔法があるかもしれないし、嘘はつけない。イツキだってもう人間なんだから国王様に目を付けられたくない。でも、おばあちゃんが元の世界に帰った事は言わない事にした。王妃様や、他の元聖女様の心を、これ以上揺さぶらない為に。

「聖女様は、わたくしの祖母でした。亡き祖父は、突然消えた祖母を生涯待っておりましたわ。祖母は今頃、祖父と暮らしておりますわ」

これを聞いて、どう判断するかは人それぞれ。でも、大半の人は、聖女様は亡くなったと判断してくれるだろう。ひとつも嘘はついてない。

「そうですか……聖女様、我が国の所業を、国を代表して心から謝罪致します。おばあさまも、本当に申し訳ない事を……」

国王様も、これ以上追及はしてこない。出来ないと言う方が、正しいかな。わたしは神殿に虐待され、もう1人の被害者はわたしのおばあちゃん。罪悪感刺激しまくりだよね。国王様は、神殿に全ての罪をなすりつけるような事はなさらないってニックは言ってたけど、ホントにそうね。信頼できる人、なのかな?

「祖母は、祖父と居られれば幸せですわ。ご安心下さいませ」

「本当に、申し訳ありません」

「そんなに謝らないで下さい。国王様が仕組んだ事ではないでしょう」

「この国の代表は、私です。国のものが他国の、いや、別の世界の方にした事は全て私の罪です。私が出来るお詫びなら、なんでも致します。叙勲して、貴族になられて生活の保障を……」

違う、そんなの要らない。怒りのスイッチが入るのが分かる。ニックが慌てて止めようとするけど、止まらない。

「なら、二度と聖女召喚などしないで下さい!」

「聖女様……?」

「わたしは、もう聖女じゃありません! わたしの名前は、清川愛梨沙です! ニック以外に名前を聞いてきた人は居ませんでした! 急に知らない所に連れてこられて、説明もないまま祈れって言われて、誘拐だって言ったら鞭で打たれました! 祈らないとごはんあげないって言われて、祈り方なんて教えてもくれなかったのに、聖女は死なないから良いってまた鞭ですよ?! 起き上がる事すら出来なかったわたしに、祈り方を教えてくれたのは神殿の人じゃない! 国王様でもない! ニックです! 祭壇まで連れてってくれて、身体も動かなかったから祈れるように手も合わせてくれた。だからわたしは、おばあちゃんみたいにならなかっただけです! ニックが居なかったら、今頃この街も魔物だらけですよ!!!」

「愛梨沙、落ち着け、大丈夫だから、な?」

「国王様が悪いとは思ってません。だから、もう聖女様を呼ばないで下さい。自分達の国の困りごとを、他所から誘拐した人に任せないで下さい! わたしの願いは、それだけです」

感情が溢れ、泣き喚く私をニックが抱きしめてくれる。

「……我々の罪は、私が思った以上に重かったのですね。安易な言葉で誤魔化そうとして申し訳ありませんでした。愛梨沙様、我が国は二度と聖女召喚はしない事を神に誓います」

「それじゃがのぉ、我も神ではなくなってもしもうたのじゃ」

「……ち、力を失われたとはまさか……」

「我はもう人間じゃ、寿命もあるし、いつかは死ぬのぉ、この世界にもう神は居らぬ故、我も人間として生きていく事にしたぞ。愛梨沙共々この国に住んで良いかのぉ?」

「おい、イツキ。それじゃお前と愛梨沙が一緒に住むみたいだろ。国王陛下! 愛梨沙はオレと結婚するので、住まいはオレがなんとかします! 元神様の住居だけ、手配してあげて下さい!」

「……嫉妬深い男は嫌われるぞ」

「その、イツキとは……?」

「我の名じゃ、ないと不便じゃから付けたぞ。亡くなった愛梨沙の祖父の名前じゃそうじゃ、愛梨沙、おじいちゃんと呼んで良いぞ」

「……おじいちゃんもっとカッコいいもん」

「ニックとどっちがカッコいいかの?」

「……ニック」

「あ、頭が追いつかない……」

やば、国王様置いてきぼりにしちゃってた!

「す、すいません! とりあえずわたしの願いは、聖女召喚をもうしない事と、イツキとわたしがこの国で自由に暮らせるようにする事です。自由ってのが、大事です!」

「かしこまりました。イツキと愛梨沙を我が国の民として歓迎致します。もちろん自由も保証します。ですが、我が国の法律などには従って頂きますし、私が国王ですから立場は私が上ですよ?」

「もちろんです! 普通に生きていきます!」

「国王がまともな政治をするのであれば、我はこの国の民として生きて死ぬ。じゃが、まともでないなら、他所の世界から神を呼んでみようかのぉ」

「イツキ、大丈夫だ。国王陛下に限ってはそんな心配はないぜ」

「ニック! そ、そうです! 私は民の為に国王をしています!」

「国王陛下は信頼出来るお方です。私も、愛梨沙に手を出されない限り、国王陛下に従います」

「其方も条件を付けておるではないか」

「国王陛下に限ってあり得ないが、自分が決して譲れない事は名言すると決めたんだ。国王陛下は良くても、他の人は違うかも知れないだろ? イツキと愛梨沙の力で、この謁見は国中で見られてるんだ。愛梨沙に手を出すなと、忠告するのにちょうどいい」

「……国中に見られているだと?!」

「あれ? 伝えてなかったの、ニック」

「申し訳ありません! 伝える事を失念しておりました! ですが問題ないでしょう? 国王陛下は、誠実なお方ですし、二度と聖女召喚をしないと国中にお触れを出す手間が省けて良かったでしょう?」

あ、ニックの顔がちょっと黒い。コレはわざと言わなかったな。

「そう……だな、ニックの言う通り、これは全国民の罪でもある。皆が見ておるならここで宣言しよう。ロチァ聖王国は、聖女召喚を二度と行わず、今後聖女召喚をした者は厳罰に処す事を全国民に通知する。場合によっては死刑もあり得るからな。聖女召喚のやり方を知っている者はすぐに資料などを破棄せよ! また、召喚魔法の研究をする者は報告せよ! 召喚魔法は、呼び出すだけなど許さん。元の世界に戻せぬのならば研究する事は禁じる!」

「国王様……」

「聖女様を呼んで、勝手に祈らせて、元の世界に帰せませんなどの愚行は二度と行わない事を誓います。すぐに法も制定します。聖女様が来る事に慣れていた我々が、おかしかったのです。我々の国の問題は、我々が工夫して解決するべき筈なのに、いつの間にか困れば聖女様が来ると国王の私ですら思っていました。我が国は変わります。よいか! 全国民に告ぐ! もう魔物は居らぬし、聖女様も来ない。神様も居らぬ。 聖女召喚は、偶然でも神の使いでもない。神殿の都合で、無理矢理呼んでいた。今後は神殿はもちろん、神殿以外の者でも聖女召喚をしようとした者は厳罰に処す! 明日には法を制定し発布するからな! 最後に、聖女として呼ばれた皆様への心からのお詫びと、今後の補償を改めて国王の名において誓います! 本当に、今まで申し訳ありませんでした」
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