45 / 82
45.神からの電話【ニック視点】
しおりを挟む
オレが騎士団に戻った頃、時が動き出した。
仲間達は驚いていたが、作戦は聞いていたので透明化が切れたと思っているようだ。
「ニック、おかえり!」
みんなが迎えてくれた。団長への報告を済ませたあたりで、神の姿が街中に流れて、懲罰はもう行わないと言われている。良かった。これで少なくとも愛梨沙が痛い思いをすることは無い。
「良かったな、ニック」
「うまくいったか?」
「聖女様を口説けたかー?」
うっ、やはりバレバレだったようだ……。
「なんとか、うまくいったぞ。ダリス、買い物助かった。みんなもありがとな」
「おう、おめでとう」
「ありがとう。でも、これからだ」
オレは、愛梨沙と恋人になれた。だが、今のままではおそらく愛梨沙は、生涯神殿から出られない。彼女もそれを受け入れているし、オレもそれでも良いと言った。その言葉に嘘はないが、出来るなら愛梨沙を自由にしてやりたい。
それに、オレは、愛梨沙と結婚もしたいし、子どもだって出来るなら欲しい。
自分がこんなに欲深いとは思わなかったな。
街の様子、気遣う様子の仲間、団長の言葉からも今後が簡単に進むわけはないと痛いほど分かる。
「前進したなら、問題ねぇよ。恋に障害はつきものって言うしな」
そうだな。ダリスの前向きさにはいつも救われる。
「とにかく、今日はもう休め。遠征隊が戻るのは急いでも明後日だ。それまでお前は騎士団から出れないし、仕事もさせられん」
「かしこまりました、団長、オレはできるだけ部屋に居るようにします」
「鍛錬くらいなら構わんぞ。とにかく、団員以外の者が居る場所には、行くな」
「はっ」
……………………
部屋に戻り、一息つく。
なんだか、寂しい。さっき別れたばかりなのにな。愛梨沙から貰ったペンダントで通信を試みるが、留守番とやらになっている。残念だ。
「ニックだ、しばらく部屋に居るからいつでも連絡してくれ。部屋を出る時は留守番にするから」
メッセージを残し、ペンダントを見つめる。ずいぶん色んな事があった。聖女様は、愛梨沙と言う名前だった。これは、団長にも報告していない。愛梨沙の名前は、誰も聞かなかったと言っていた。なら、オレだけ知ってれば良い。
愛梨沙は、話してみると色んな事を知っていた。改めてオレ達とは、違う世界から来たんだと実感する。18歳とは驚いた。立派な成人ではないか。本来なら結婚できるし、子どもも……いや、落ち着け、まだ恋人になったばかりだ。邪な事を考えるのは早い!
なんだか悶々としてきたところで、耳から不思議な音がした。これは、透明化で隠したイヤーカフか。神様からだな。何かあったのだろうか?
「はい、ニックです」
「我じゃ、ニック大事な話がある。愛梨沙には言えぬ」
「それは、先程少し話題に出た愛梨沙から出た黒いモヤの事ですか?」
神様が、話題を逸らしたがっているのが分かったので、あまり深く聞かなかったが、やはりアレは気のせいじゃなかったのか。
「察しが良いのぉ。先程も、シスターコリンナがやらかしてのぉ。懲罰は必要だと、愛梨沙を鞭で打とうとしたのじゃ」
「神様、少し神殿まで行って参ります」
「待て待て待て! 愛梨沙が上手くやり、シスターの鞭は消え去った。そのあと、聖女として懲罰の撤廃を我に宣言した。神殿長を差し置いての。立派な姿じゃったぞ。愛梨沙のホログラムの機械がまだ残っとるから、その様子も全て公開したいのじゃが、国王が不快にならぬかと心配しておったから先に確認させてくれぬか?」
「すぐ団長に確認します。その前に……」
「分かっとる、あのモヤの説明じゃな。あれはの、聖女の呪いじゃ」
「呪い……ですか?」
「そうじゃ、聖女は人の安穏を願う存在として召喚されておるから、人を案じたり、愛したりする分には良いのじゃが、その力が憎しみに向くと呪いに囚われる。過去にひとり、呪われた聖女がおる。だが、我も聖女の力が強くならぬと様子が見えぬ、我が見たのは、聖女が呪われた瞬間だけじゃった……なんとか力を抑えたのじゃが、その時我の力もほとんど失われたんじゃ。その時最後の力で神殿に聖女を大切にし、決して無理はさせるな。愛する者が居ればその意思を尊重しろと告げはしたが、長い時を経てその教えは失われたようじゃのぉ」
「じゃあ、愛梨沙から出たモヤは……」
「呪いのはじまりじゃな。あのモヤが聖女の身体を覆い尽くせば、聖女ではなくなるし、人でもなくなる」
「止めるには、憎しみより、愛情を愛梨沙に示せば良いんですか?」
「正解じゃ、其方はうまく止めたようじゃのう」
あの時の愛梨沙は、明らかにおかしかった。目の焦点は定まってなかったし、身体中汗びっしょりだった。
慌ててオレに意識が向くように話しかけたら、真っ赤な顔して可愛らしかった。そうか、やはりアレは良くないものだったのか。だが、気になる事がある。
「今までの愛梨沙の状況からして、憎しみを抱くなと言う方が無理ではないですか? 今までは何故問題なかったのでしょう?」
「今までは、憎しみより恐怖が勝っておったのじゃ、じゃが、作戦準備で無理をさせすぎた。ニックがおらぬ状況で、愛梨沙のストレスはピークじゃった。そして、自分が安全になる結界を使った事で恐怖は失われて、憎しみだけが残ったのじゃ」
そうか、オレと会えないだけでそんなにも不安定になるのか。仄暗い喜びが生まれるのを感じる。やはり、できるだけ愛梨沙のそばにいる方法を考えねば。
「神様、そのモヤを止める方法はないのですか?」
「聖女を辞めるか、愛情で包むしかないのぉ」
「聖女、辞めさせてぇなぁ」
「気持ちは分かるが、外で言うなよ」
「分かってます。極力愛梨沙と居るように工夫をして、愛梨沙が不安にならないようにします」
「頼む、本来なら色んな人と話す事で発散するストレスを全部ニック任せなのは忍びないがのぅ」
「愛梨沙が頼るのはオレだけなんて、最高ですよ」
神様は若干呆れた声色で、頼むと言って通話は切れた。
仲間達は驚いていたが、作戦は聞いていたので透明化が切れたと思っているようだ。
「ニック、おかえり!」
みんなが迎えてくれた。団長への報告を済ませたあたりで、神の姿が街中に流れて、懲罰はもう行わないと言われている。良かった。これで少なくとも愛梨沙が痛い思いをすることは無い。
「良かったな、ニック」
「うまくいったか?」
「聖女様を口説けたかー?」
うっ、やはりバレバレだったようだ……。
「なんとか、うまくいったぞ。ダリス、買い物助かった。みんなもありがとな」
「おう、おめでとう」
「ありがとう。でも、これからだ」
オレは、愛梨沙と恋人になれた。だが、今のままではおそらく愛梨沙は、生涯神殿から出られない。彼女もそれを受け入れているし、オレもそれでも良いと言った。その言葉に嘘はないが、出来るなら愛梨沙を自由にしてやりたい。
それに、オレは、愛梨沙と結婚もしたいし、子どもだって出来るなら欲しい。
自分がこんなに欲深いとは思わなかったな。
街の様子、気遣う様子の仲間、団長の言葉からも今後が簡単に進むわけはないと痛いほど分かる。
「前進したなら、問題ねぇよ。恋に障害はつきものって言うしな」
そうだな。ダリスの前向きさにはいつも救われる。
「とにかく、今日はもう休め。遠征隊が戻るのは急いでも明後日だ。それまでお前は騎士団から出れないし、仕事もさせられん」
「かしこまりました、団長、オレはできるだけ部屋に居るようにします」
「鍛錬くらいなら構わんぞ。とにかく、団員以外の者が居る場所には、行くな」
「はっ」
……………………
部屋に戻り、一息つく。
なんだか、寂しい。さっき別れたばかりなのにな。愛梨沙から貰ったペンダントで通信を試みるが、留守番とやらになっている。残念だ。
「ニックだ、しばらく部屋に居るからいつでも連絡してくれ。部屋を出る時は留守番にするから」
メッセージを残し、ペンダントを見つめる。ずいぶん色んな事があった。聖女様は、愛梨沙と言う名前だった。これは、団長にも報告していない。愛梨沙の名前は、誰も聞かなかったと言っていた。なら、オレだけ知ってれば良い。
愛梨沙は、話してみると色んな事を知っていた。改めてオレ達とは、違う世界から来たんだと実感する。18歳とは驚いた。立派な成人ではないか。本来なら結婚できるし、子どもも……いや、落ち着け、まだ恋人になったばかりだ。邪な事を考えるのは早い!
なんだか悶々としてきたところで、耳から不思議な音がした。これは、透明化で隠したイヤーカフか。神様からだな。何かあったのだろうか?
「はい、ニックです」
「我じゃ、ニック大事な話がある。愛梨沙には言えぬ」
「それは、先程少し話題に出た愛梨沙から出た黒いモヤの事ですか?」
神様が、話題を逸らしたがっているのが分かったので、あまり深く聞かなかったが、やはりアレは気のせいじゃなかったのか。
「察しが良いのぉ。先程も、シスターコリンナがやらかしてのぉ。懲罰は必要だと、愛梨沙を鞭で打とうとしたのじゃ」
「神様、少し神殿まで行って参ります」
「待て待て待て! 愛梨沙が上手くやり、シスターの鞭は消え去った。そのあと、聖女として懲罰の撤廃を我に宣言した。神殿長を差し置いての。立派な姿じゃったぞ。愛梨沙のホログラムの機械がまだ残っとるから、その様子も全て公開したいのじゃが、国王が不快にならぬかと心配しておったから先に確認させてくれぬか?」
「すぐ団長に確認します。その前に……」
「分かっとる、あのモヤの説明じゃな。あれはの、聖女の呪いじゃ」
「呪い……ですか?」
「そうじゃ、聖女は人の安穏を願う存在として召喚されておるから、人を案じたり、愛したりする分には良いのじゃが、その力が憎しみに向くと呪いに囚われる。過去にひとり、呪われた聖女がおる。だが、我も聖女の力が強くならぬと様子が見えぬ、我が見たのは、聖女が呪われた瞬間だけじゃった……なんとか力を抑えたのじゃが、その時我の力もほとんど失われたんじゃ。その時最後の力で神殿に聖女を大切にし、決して無理はさせるな。愛する者が居ればその意思を尊重しろと告げはしたが、長い時を経てその教えは失われたようじゃのぉ」
「じゃあ、愛梨沙から出たモヤは……」
「呪いのはじまりじゃな。あのモヤが聖女の身体を覆い尽くせば、聖女ではなくなるし、人でもなくなる」
「止めるには、憎しみより、愛情を愛梨沙に示せば良いんですか?」
「正解じゃ、其方はうまく止めたようじゃのう」
あの時の愛梨沙は、明らかにおかしかった。目の焦点は定まってなかったし、身体中汗びっしょりだった。
慌ててオレに意識が向くように話しかけたら、真っ赤な顔して可愛らしかった。そうか、やはりアレは良くないものだったのか。だが、気になる事がある。
「今までの愛梨沙の状況からして、憎しみを抱くなと言う方が無理ではないですか? 今までは何故問題なかったのでしょう?」
「今までは、憎しみより恐怖が勝っておったのじゃ、じゃが、作戦準備で無理をさせすぎた。ニックがおらぬ状況で、愛梨沙のストレスはピークじゃった。そして、自分が安全になる結界を使った事で恐怖は失われて、憎しみだけが残ったのじゃ」
そうか、オレと会えないだけでそんなにも不安定になるのか。仄暗い喜びが生まれるのを感じる。やはり、できるだけ愛梨沙のそばにいる方法を考えねば。
「神様、そのモヤを止める方法はないのですか?」
「聖女を辞めるか、愛情で包むしかないのぉ」
「聖女、辞めさせてぇなぁ」
「気持ちは分かるが、外で言うなよ」
「分かってます。極力愛梨沙と居るように工夫をして、愛梨沙が不安にならないようにします」
「頼む、本来なら色んな人と話す事で発散するストレスを全部ニック任せなのは忍びないがのぅ」
「愛梨沙が頼るのはオレだけなんて、最高ですよ」
神様は若干呆れた声色で、頼むと言って通話は切れた。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気をゴシップ誌で知った私のその後
桃瀬さら
恋愛
休暇で帰国中のシャーロットは、婚約者の浮気をゴシップ誌で知る。
領地が隣同士、母親同士の仲が良く、同じ年に生まれた子供が男の子と女の子。
偶然が重なり気がついた頃には幼馴染み兼婚約者になっていた。
そんな婚約者は今や貴族社会だけではなく、ゴシップ誌を騒がしたプレイボーイ。
婚約者に婚約破棄を告げ、帰宅するとなぜか上司が家にいた。
上司と共に、違法魔法道具の捜査をする事となったシャーロットは、捜査を通じて上司に惹かれいくが、上司にはある秘密があって……
婚約破棄したシャーロットが幸せになる物語
【完結】キノコ転生〜森のキノコは成り上がれない〜
鏑木 うりこ
BL
シメジ以下と言われ死んでしまった俺は気がつくと、秋の森でほんわりしていた。
弱い毒キノコ(菌糸類)になってしまった俺は冬を越せるのか?
毒キノコ受けと言う戸惑う設定で進んで行きます。少しサイコな回もあります。
完結致しました。
物凄くゆるいです。
設定もゆるいです。
シリアスは基本的家出して帰って来ません。
キノコだけどR18です。公園でキノコを見かけたので書きました。作者は疲れていませんよ?\(^-^)/
短篇詐欺になっていたのでタグ変えました_(:3 」∠)_キノコでこんなに引っ張るとは誰が予想したでしょうか?
このお話は小説家になろう様にも投稿しております。
アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会に小話があります。
お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354
デボルト辺境伯邸の奴隷。
ぽんぽこ狸
BL
シリアルキラーとして捕えられた青年は,処刑当日、物好きな辺境伯に救われ奴隷として仕える事となる。
主人と奴隷、秘密と嘘にまみれた二人の関係、その果てには何があるのか──────。
亜人との戦争を終え勝利をおさめたある巨大な国。その国境に、黒い噂の絶えない変わり者の辺境伯が住んでいた。
亜人の残党を魔術によって処分するために、あちこちに出張へと赴く彼は、久々に戻った自分の領地の広場で、大罪人の処刑を目にする。
少女とも、少年ともつかない、端麗な顔つきに、真っ赤な血染めのドレス。
今から処刑されると言うのに、そんな事はどうでもいいようで、何気ない仕草で、眩しい陽の光を手で遮る。
真っ黒な髪の隙間から、強い日差しでも照らし出せない闇夜のような瞳が覗く。
その瞳に感情が写ったら、どれほど美しいだろうか、そう考えてしまった時、自分は既に逃れられないほど、君を愛していた。
R18になる話には※マークをつけます。
BLコンテスト、応募用作品として作成致しました。応援して頂けますと幸いです。
浮気で得た「本当の愛」は、簡単に散る仮初のものだったようです。
八代奏多
恋愛
「本当の愛を見つけたから、婚約を破棄する」
浮気をしている婚約者にそう言われて、侯爵令嬢のリーシャは内心で微笑んだ。
浮気男と離れられるのを今か今かと待っていたから。
世間体を気にした元婚約者も浮気相手も、リーシャを悪者にしようとしているが、それは上手くいかず……。
浮気したお馬鹿さん達が破滅へと向かうお話。
明け方に愛される月
行原荒野
BL
幼い頃に唯一の家族である母を亡くし、叔父の家に引き取られた佳人は、養子としての負い目と、実子である義弟、誠への引け目から孤独な子供時代を過ごした。
高校卒業と同時に家を出た佳人は、板前の修業をしながら孤独な日々を送っていたが、ある日、精神的ストレスから過換気の発作を起こしたところを芳崎と名乗る男に助けられる。
芳崎にお礼の料理を振舞ったことで二人は親しくなり、次第に恋仲のようになる。芳崎の優しさに包まれ、初めての安らぎと幸せを感じていた佳人だったが、ある日、芳崎と誠が密かに会っているという噂を聞いてしまう。
「兄さん、俺、男の人を好きになった」
誰からも愛される義弟からそう告げられたとき、佳人は言葉を失うほどの衝撃を受け――。
※ムーンライトノベルズに掲載していた作品に微修正を加えたものです。
【本編8話(シリアス)+番外編4話(ほのぼの)】お楽しみ頂けますように🌙
※こちらには登録したばかりでまだ勝手が分かっていないのですが、お気に入り登録や「エール」などの応援をいただきありがとうございます。励みになります!((_ _))*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる