聖女は世界を愛する

編端みどり

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39.自己紹介と……

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「えっと、清川 愛梨沙です。よろしくお願いします」

「ニック・カスティールだ。よろしく。愛梨沙でいいか? 助けた孤児のアリサと同じ名前なんだな」

「そうなんです! びっくりしました」

「敬語じゃなくていいぞ?」

「うん、ありがと」

ひとしきり泣いて、ようやく自己紹介タイムになった。

「さっきは、ごめん、いっぱい泣いて」

「いや、オレこそすまん。まさか名前を誰も聞いていないとは思わなかった。やっぱり神殿を潰せば良かったな」

「いや、それはやめよう? ニック……が、捕まったらヤダし」

呼び捨ては、まだ慣れないし、照れる。

「そうか、透明化で誰か分からないようにして、やるのはどうだ?」

「……それもやめよっか? ね?」

目が据わってるニックを必死で止めていると、ニックが笑い出した。

「冗談だ。愛梨沙が壊して欲しければ壊すが」

「今は、良いかな。それよりニックとおしゃべりしたいな」

「そうだな、オレも色々話したい。愛梨沙の事を教えてくれ」

それから、色んな事を話した。わたしの家族の事、ニックの家族の事、学校の事、バイトの事、騎士団の事、楽しくて、嬉しくて話すのに疲れたら癒しまで使ってずっとおしゃべりをした。

「愛梨沙は、オレ達とは全く違う世界に居たんだな。ずいぶん優しい世界だ」

「どうだろう、戦争とかもあったし、悪い人も居るし、天国みたいに良いことしかない訳じゃなかったよ。でも確かに、こっちは色々常識が違って驚くね。鞭なんて見た事も無かったしさ。あんなに痛いなんて知らなかった」

「……やっぱり、神殿を破壊しよう」

「あはは、ちょっと前なら賛成しちゃってたかもだけど、美味しいサンドイッチに免じて止めてあげてよ。そうだ! 貰ったご飯とかおやつ、食べよ? 今度こそ一緒に食べよう? どれが良いかな」

「どれも愛梨沙に買ったから、愛梨沙の好きなものを全部愛梨沙が食べてくれ」

「え、2人で食べたい! 1人はやだ!」

「そうか、ならオレに食べさせてくれ」

「顔赤いわよ! 照れてるなら言うな! まぁいいや、はい、あーん」

かわいいクッキーを、ニックの口に放り込んでやった。こんな事した事ないけど、気にしないでやってやる!

「……その、愛梨沙は向こうで恋人とか居たのか?」

「居なかったよ! 友達と遊んだりはあったけど、バイトと部活で忙しかったし、その、恋愛とかが良く分かんなくて……ニックは?」

「前に神様が来た時にも言ったが、オレも恋人は居ないぞ」

「そっか」

そっか、やっぱり居ないんだ。それなら、結界の中だけなら恋人っぽい事しても許されるかな。そう思いながら、ニックの口にまたクッキーを放り込んだ。

「だが、恋人になりたい人は居るな」

「……え?」

やばい、泣くな。そうか、そうだよね。好きな人居るんだ。居るよね。こんな素敵な人だもんね。

「そんなに泣きそうな顔をするなら、少なくともオレは嫌われてないと自惚れていいのか?」

ニックが、真っ直ぐわたしの目を見つめながら優しく言った。え……どう言う事?

「オレは、愛梨沙が好きだ。最初に意識したのは、愛梨沙が神殿を脱走する前に、オレに笑いかけてくれた時だ。あんなにつらいのに、なんでオレに笑いかける事が出来るんだと思った。その後も、事ある事に魔法で話しかけてくれただろう。その度に、意識するようになった。初めて話した時、本気で愛梨沙が欲しいと思った。笑った顔も、泣いた顔も、美味しそうに食事をする姿も全て愛おしい。愛梨沙、オレの恋人になってくれ」

あぁ、目の前がよく見えない。ニックの顔をちゃんと見たいのに、滲んで見える。ニックと一緒に居たいのに、なんでわたしは外に出れないの?

「嬉しい、嬉しいけど、わたし、ずっとここに居なきゃダメだし、恋人になっても、デートもできないよ」

「それでも良い、話せるのが結界の中だけでも構わない。愛梨沙がオレの事を好きで居てくれるのなら、オレの恋人になってくれ」

「だけど、ニックならどこにでも行けるし、わたしじゃなくても……」

嫌だ。ニックの側に、他の人が居るなんて嫌だ。

「本気でそう思うか? 短い時間だが、愛梨沙の事を少しは分かったつもりなんだが。オレが他の女の子と一緒に居ていいのか?」

「……やだ! ヤダヤダヤダ!」

「難しい事は後で一緒に考えようぜ、オレは愛梨沙以外いらない。だから、オレと恋人になってくれ」

「……うん、わたしもニックがいい。ニックじゃなきゃヤダ。お願い、わたしと恋人になって」

初めてのキスは、優しい味がした。
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