聖女は世界を愛する

編端みどり

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38.規格外【ニック視点】

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「その、ニックさんのお母さんの話聞いてて、前から気になってて、美味しいもの食べて元気出たし、今なら街中の人を癒せたりしないかなぁと、思いまして、やってみた次第でございます……」

オレの一言で、癒しを街中全てにかけるなど、規格外にも程がある。母は元気になったのだろうか。気になるが、おそらく大丈夫だろうと確信が持てるのは、聖女様だからか。癒しをかける姿は、神々しくて見とれてしまった。

聖女様の魔法の力は素晴らしい。聖女様の頭の中にはどのような魔法のイメージが詰まっておられるのか。無限収納など思いつかなかったし、透明化も然り。見たことのない街すべてに癒しの力を広げるなど普通は不可能だ。しかし、今はおとなしくしておいて頂こう。

「聖女サマ結界を解かれるまでは、魔法を使われるならば、オレに、必ず、言ってくださいね?」

「はい……」

うっ、涙目で上目遣いなど反則ではないか。なんと愛らしい。

「でも、オレの母のことを案じていただきありがとうございます。離れていても聖女様と連絡が出来れば、元気なのが分かればすぐお知らせしてお礼を申し上げるのですが」

「あ、そっか! 出来るじゃん!」

出来るじゃん? 今度は何を思いつかれた!

「聖女サマ、どのような魔法を使うおつもりですか? オレに、必ず教えてから使ってください!」

「大丈夫です、これは外まで光ったりはしないはずっ! ってか魔法光らないようにしてたのに何でさっき光ったんだろう?」

「魔法を、光らないで発動……そうですね、出来てましたね」

規格外すぎて忘れていたが、聖女様の魔法は発動が光らない珍しいものだ。どのように光らないようにしてるのかを聞くと、魔力で身体を覆って光を抑えているらしい。身体強化の応用か。おそらく、光に暗幕をかけるようなイメージで光を抑えておられるのだろう。

「おそらく先程の癒しは、力が強すぎて光を抑えられなかったのでしょう。ですので、強い魔法を使う場合は、特に、警戒してくださいね!!!」

「わかりました! でもこれは大丈夫! ほら! できたっ!」

この人はオレの話を聞いておられたか? 何故いつの間に魔法が完成しているのだ!

「大丈夫じゃねぇよ! 使う前に説明しろって言っただろ!」

「う、ごめんなさい。でも、ホントに平気だったじゃん! これでいつでも連絡取れるよ! 違和感ないようにペンダント型にした!」

「なんだこれ?」

「つけてつけて!」

対の、ペンダントか? オレのほうには青い宝石が、聖女様には赤い宝石が光っている。ってこれまさか!

「通信魔道具か?!」

「電話だよ! あ、こっちの言葉わかんないけど、お互い通信できる感じだから、そんな名前かな? 見た目は可愛いからペンダントにした!」

とんでもないもの作りやがったな。通信魔道具は希少で、王族くらいしか持ってない。我が国にあるのは、公にされているのは3つ。全て交易のある国との連絡用だ。他にもあるだろうが、10あればいいほうだと思う。

「なぁ、これ持ってんの見られるとオレは牢屋行きだぞ」

「ええ?! マジで? なんで?!」

通信魔道具なんて、見る人が見ればすぐわかる。オレが持てるわけはないのだから、持ってる瞬間に盗難を疑われるか、そうでなくてもオレを投獄して取り上げるだろう。国王はそんな人ではないが、欲深いものは王城にもいる。たとえ通信が出来ない片割れでも、価値はものすごく高いし、聖女様と繋がってるとなれば、価値は天井知らずだ。
オレが透明化を使えれば良い。そうすれば、これを隠せる。聖女様との連絡手段を手放してたまるか!

「あ、あれ? ペンダント消えた?!」

「何とかなったようですね。透明化のコツがわかりました」

そう言って、聖女様の前で消えてみると、みるみる泣きそうな顔をしている。あわてて解除して、抱きしめたら嬉しそうにしておられる。なんと可愛らしいのだ。

「に、ニックさん?!」

「失礼しました。透明化ができるようになりましたので、聖女様のお手を煩わせることはありませんよ。聖女様も、そのペンダントは透明化にするか、無限収納にしまっておきましょうね? 通信魔道具は非常に貴重で王族しか所持を許されていないのです。でも、オレも聖女サマと話したいですからね。だからこのペンダントはオレたちだけの秘密ですよ?」

「わ、わかりました!」

「オレも乱暴な言葉で話してしまい失礼しました」

「いやその、それは全然かまわないというか。むしろそっちのほうがいいというか」

そうなのか? そういえばダリスもマリアとは敬語で話したりしていないな。騎士仲間の結婚を後押ししたことが何度かあるが、皆最初は丁寧な言葉遣いだが、カップルになってからは砕けた口調が多い気がする。というか、いつまでも聖女様でいいのか? なんとなく意識してもらうために、少しだけ砕けて聖女サマなどと呼んでいるが、そもそも彼女の名前は何だ? 愛し合う者同士は名前で呼ぶのではないのか? オレは、口説こうとしておきながら基本的なことができていなかったではないか!

「じゃぁ、結界の中だけはお互い敬語をやめるか。オレのこともニックでいいぜ。いちいちさん付け要らねぇよ。それで、オレも聖女サマを名前で呼びたいんだが、名前、教えてくれるか?」

「なまえ……」

ちょっと待て! 何故号泣しておられるのだ! オレは何を間違えた! やはりきちんとした言葉遣いのほうが良かったのではないか?! だが、表情は笑っておられる! どうなってるんだ!

「こっちにきて、初めて名前聞かれた……嬉しい」

そう言って聖女サマは、しばらく泣き続けた。
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