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16.この気持ちは【ニック視点】
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「おかしい」
身体の調子が異常に良いのは、聖女様が癒しを下さったおかげだとは思うのだが、癒し以外に何かがかかっている気がする。聖女様がかけてくださったものだし、悪いものではなさそうだが、なんだコレ?
しかし、聖女様は癒しを秘密裏にかけることがおできになるとは驚いた。もしかしたら、他にも何かお出来になるのかもしれんな。本日の授業も、こちらの世界の常識をご存知ないはずなのに、シスターの異常に難しい問題には全て正解。授業も、肯定の言葉とシスターへの賛辞しか仰らない。
聖女様の瞳には、生気がなかった。なぜ神殿の方々は気が付かないのだ。授業とは本来、疑問が出て質問も行い、間違いもするはずだろ?
それに、なんだあの食事は!
みな驚いていた様子だったが、シスターは笑いながら聖女様は粗食を好まれるとか言ってやがった。粗食だと! アレは罪人の食事よりも粗末ではないか! それを嬉しそうに食べる聖女様をみて確信した。おそらくあのシスターは、また食事を与えてやがらねぇ。しかし、聖女様が衰弱したご様子はない。どういうことだ?
「ただいま戻りました。団長」
「ご苦労、聖女様のご様子はどうだ?」
「本日は、シスターの授業を受けておられましたが、生気がないご様子で、ひたすらにシスターへの賛辞を繰り返しておられました。本日は、わたしのいる時には、懲罰などはありませんでした」
「そうか、懲罰はなかったようで良かったが、生気がない様子というのが気になるな」
「聖女様が授業中話されたのは4つの言葉だけです。はい、わかりました、シスターのおかげです、素晴らしい。コレだけです」
「すっかりシスターの言いなりか」
「ええ、他の神殿の方々が聖女様に話しかけようとなさいましたが、頑なにお話をされませんでした」
「そうなると、なかなか聖女様とシスターを引き離せないか?」
「シスターは、周りの目があれば懲罰などは避けるようですので、神殿で出来るだけシスターの授業を見ると良いと話をしておきます。また、シスターより聖女様が注目されると聖女様が危険です。本日も、聖女様が浄化をなさいましたが、おそらく街中に広がった筈です。その前に行ったシスターの浄化とは桁違いでした。それに嫉妬の目を向けておられましたので、シスターの指導力があるからだとシスターを褒める方へ話を誘導したところ、機嫌良く退出なさいました」
「あの異常な浄化は、やはり聖女様か」
「やはり街中でも感じましたか」
「ああ、それどころか、街の外の魔物も消滅したらしいぞ」
「凄まじいですね」
「しかし、国と神殿にとってはありがたいが、聖女様にとってはまずいかもしれん」
「と、言いますと?」
「ここまで強力な力をお持ちの聖女様の場合、生涯神に仕えることを、国に望まれるかもしれん」
「な?!」
「国王陛下も、聖女様をお守りしたいだろうが、聖女様の評判が上がれば上がるほど聖女様が生涯神殿に仕えれば上手くいくなどと考える輩が出る。本来なら、有力貴族が目をつけるからそういった話は出る事はないが、今回は状況が違う。いつもだったら、聖女様が祈った姿を見た貴族連中がこぞって求婚にくるが、そもそも祈る場に部外者は立ち入り禁止だ。俺も神殿に祈りを見学したいと申し出たが、許されなかった。他の貴族の大量の申し出も、聖女様はまだ召喚されたばかりだと言い、断っている。国王陛下も、聖女様と会えていない」
「そういえば、シスターコリンナは、はじめて聖女様が祈られた時、護衛騎士と聖女様が恋仲になった事もあるが、そんな感情は不要だと言っておられました。教皇様も否定するご様子が無かったので、少し疑問に思っていたのです」
「神殿ははじめから、聖女様を一生飼うつもりか」
「可能性はありますね。聖女様と話すのはシスターだけ、オレは聖女様のお相手にはなりえません。ですが貴族と、聖女様が望めばお幸せになれる。そもそもそんな選択肢があると聖女様に知らせないのでしょう。対外的には、聖女様が望んで神殿に仕えているとすれば良いですからね」
あんな可愛い方だ、貴族と会ってしまえばすぐに妻にと求められる。聖女様だって、シスターと過ごすより愛されて幸せな暮らしをする方が良いはずだ。
なんだか、胸が痛いが気のせいだろう。聖女様が癒して下さったんだ。痛みなどないはずなのに。
「ニック、ひどい顔だぞ。お前は昔からわかりやすいな。聖女様がお前を選ぶかもしれんだろう。実際、護衛騎士と結婚した方もおられるのだから」
「あり得ませんよ、助けてと言われても助けなかったオレなんて」
「お前は充分聖女様をお助けしていると思うが」
「それに、オレは話す事もできないんですよ」
確かに聖女様は可愛い。こっそりオレに癒しをくれた時の悪戯っぽい顔はものすごく魅力的だったし、守りたいとも思う。
「そうか、会話が禁じられた聖女様など初めてだな」
「食事も、罪人よりも粗末です。しかし、嬉しそうに食べておられました。おそらく、きちんと毎回食事が出ているわけではないと思われます。オレが護衛をはじめて、食事を拝見するのははじめてですから」
「ありえんな」
「食事すらも聖女様を操る手段なのかもしれません。ただ、衰弱されたご様子はありません」
理由はわからないが、最初よりもだいぶお元気そうだった。
「聖女様は、任期の間にお役目を果たされるが、お役目が何かは神殿しか知らない。もしかしたら、聖女様のお役目が今回は違うのかもしれん」
聖女様はいつもいるわけじゃねぇ。10年や20年いない事もあれば、立て続けに召喚される事もある。だから、王妃様も召喚は事故のようなものと割り切ったのだろう。基本的に魔物が増えたら聖女様が召喚され、聖女様のお役目が終わる頃には、魔物が少なくなる。
今回は、聖女様の凄まじいお力で魔物は居なくなっているが、発生も増えていて、減らした翌日には出てくる。まあそれも、すぐ聖女さまが祈るからいなくなるので余計な不安を与えないように、この事は極秘だ。知ってるのは騎士団と、国王様だけ。神殿も独自に魔物の調査をしてはいるが、奥までは入らないから知らないだろう。
今までは魔物を減らせばしばらくは安全だったから、色々疑問が残る。
「とにかく情報が足りん、しばらくは聖女様が出来るだけ穏やかに過ごされるよう、陰ながらサポートするしかない」
「そうですね」
身体の調子が異常に良いのは、聖女様が癒しを下さったおかげだとは思うのだが、癒し以外に何かがかかっている気がする。聖女様がかけてくださったものだし、悪いものではなさそうだが、なんだコレ?
しかし、聖女様は癒しを秘密裏にかけることがおできになるとは驚いた。もしかしたら、他にも何かお出来になるのかもしれんな。本日の授業も、こちらの世界の常識をご存知ないはずなのに、シスターの異常に難しい問題には全て正解。授業も、肯定の言葉とシスターへの賛辞しか仰らない。
聖女様の瞳には、生気がなかった。なぜ神殿の方々は気が付かないのだ。授業とは本来、疑問が出て質問も行い、間違いもするはずだろ?
それに、なんだあの食事は!
みな驚いていた様子だったが、シスターは笑いながら聖女様は粗食を好まれるとか言ってやがった。粗食だと! アレは罪人の食事よりも粗末ではないか! それを嬉しそうに食べる聖女様をみて確信した。おそらくあのシスターは、また食事を与えてやがらねぇ。しかし、聖女様が衰弱したご様子はない。どういうことだ?
「ただいま戻りました。団長」
「ご苦労、聖女様のご様子はどうだ?」
「本日は、シスターの授業を受けておられましたが、生気がないご様子で、ひたすらにシスターへの賛辞を繰り返しておられました。本日は、わたしのいる時には、懲罰などはありませんでした」
「そうか、懲罰はなかったようで良かったが、生気がない様子というのが気になるな」
「聖女様が授業中話されたのは4つの言葉だけです。はい、わかりました、シスターのおかげです、素晴らしい。コレだけです」
「すっかりシスターの言いなりか」
「ええ、他の神殿の方々が聖女様に話しかけようとなさいましたが、頑なにお話をされませんでした」
「そうなると、なかなか聖女様とシスターを引き離せないか?」
「シスターは、周りの目があれば懲罰などは避けるようですので、神殿で出来るだけシスターの授業を見ると良いと話をしておきます。また、シスターより聖女様が注目されると聖女様が危険です。本日も、聖女様が浄化をなさいましたが、おそらく街中に広がった筈です。その前に行ったシスターの浄化とは桁違いでした。それに嫉妬の目を向けておられましたので、シスターの指導力があるからだとシスターを褒める方へ話を誘導したところ、機嫌良く退出なさいました」
「あの異常な浄化は、やはり聖女様か」
「やはり街中でも感じましたか」
「ああ、それどころか、街の外の魔物も消滅したらしいぞ」
「凄まじいですね」
「しかし、国と神殿にとってはありがたいが、聖女様にとってはまずいかもしれん」
「と、言いますと?」
「ここまで強力な力をお持ちの聖女様の場合、生涯神に仕えることを、国に望まれるかもしれん」
「な?!」
「国王陛下も、聖女様をお守りしたいだろうが、聖女様の評判が上がれば上がるほど聖女様が生涯神殿に仕えれば上手くいくなどと考える輩が出る。本来なら、有力貴族が目をつけるからそういった話は出る事はないが、今回は状況が違う。いつもだったら、聖女様が祈った姿を見た貴族連中がこぞって求婚にくるが、そもそも祈る場に部外者は立ち入り禁止だ。俺も神殿に祈りを見学したいと申し出たが、許されなかった。他の貴族の大量の申し出も、聖女様はまだ召喚されたばかりだと言い、断っている。国王陛下も、聖女様と会えていない」
「そういえば、シスターコリンナは、はじめて聖女様が祈られた時、護衛騎士と聖女様が恋仲になった事もあるが、そんな感情は不要だと言っておられました。教皇様も否定するご様子が無かったので、少し疑問に思っていたのです」
「神殿ははじめから、聖女様を一生飼うつもりか」
「可能性はありますね。聖女様と話すのはシスターだけ、オレは聖女様のお相手にはなりえません。ですが貴族と、聖女様が望めばお幸せになれる。そもそもそんな選択肢があると聖女様に知らせないのでしょう。対外的には、聖女様が望んで神殿に仕えているとすれば良いですからね」
あんな可愛い方だ、貴族と会ってしまえばすぐに妻にと求められる。聖女様だって、シスターと過ごすより愛されて幸せな暮らしをする方が良いはずだ。
なんだか、胸が痛いが気のせいだろう。聖女様が癒して下さったんだ。痛みなどないはずなのに。
「ニック、ひどい顔だぞ。お前は昔からわかりやすいな。聖女様がお前を選ぶかもしれんだろう。実際、護衛騎士と結婚した方もおられるのだから」
「あり得ませんよ、助けてと言われても助けなかったオレなんて」
「お前は充分聖女様をお助けしていると思うが」
「それに、オレは話す事もできないんですよ」
確かに聖女様は可愛い。こっそりオレに癒しをくれた時の悪戯っぽい顔はものすごく魅力的だったし、守りたいとも思う。
「そうか、会話が禁じられた聖女様など初めてだな」
「食事も、罪人よりも粗末です。しかし、嬉しそうに食べておられました。おそらく、きちんと毎回食事が出ているわけではないと思われます。オレが護衛をはじめて、食事を拝見するのははじめてですから」
「ありえんな」
「食事すらも聖女様を操る手段なのかもしれません。ただ、衰弱されたご様子はありません」
理由はわからないが、最初よりもだいぶお元気そうだった。
「聖女様は、任期の間にお役目を果たされるが、お役目が何かは神殿しか知らない。もしかしたら、聖女様のお役目が今回は違うのかもしれん」
聖女様はいつもいるわけじゃねぇ。10年や20年いない事もあれば、立て続けに召喚される事もある。だから、王妃様も召喚は事故のようなものと割り切ったのだろう。基本的に魔物が増えたら聖女様が召喚され、聖女様のお役目が終わる頃には、魔物が少なくなる。
今回は、聖女様の凄まじいお力で魔物は居なくなっているが、発生も増えていて、減らした翌日には出てくる。まあそれも、すぐ聖女さまが祈るからいなくなるので余計な不安を与えないように、この事は極秘だ。知ってるのは騎士団と、国王様だけ。神殿も独自に魔物の調査をしてはいるが、奥までは入らないから知らないだろう。
今までは魔物を減らせばしばらくは安全だったから、色々疑問が残る。
「とにかく情報が足りん、しばらくは聖女様が出来るだけ穏やかに過ごされるよう、陰ながらサポートするしかない」
「そうですね」
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