上 下
39 / 47

三十九話

しおりを挟む
無事、ロザリーとマーティンは試験に合格した。マーティンは、寮でずっと勉強していたそうだ。その上鍛錬もしているのだから凄い。アイザックも合格したが、通えるかどうかわからないそうだ。試験は必ず出ると先生と約束したらしい。

「授業のレベルが高いな。試験に合格して良かった」

「本当なら最初からこの授業が受けられる筈だったのに……! 半年以上損したわっ!」

合格祝いに、寮で立食パーティーを開いた。アイザックが学園に戻って来た時を見計らい彼も呼んだ。これで、ロザリーはアイザックに久しぶりに会えるし、周りからうるさく言われる事もない。ウィルやサイモンはマーティンに勉強を教えていたからという理由で呼んだ。マーティンがサイモンの監視役なのはみんな気が付いているし、問題なく呼べた。

そして、あと1人。

「なぁ? こんな楽しそうな場に教師は要らないんじゃないか?」

「何を言うんですか! マーティンとロザリーが合格したのは先生のおかげですよ」

「俺は頼まれたから教えただけだ。結局、合格者は3人だけだったな。次回の試験で最後だから、不合格者も真剣に勉強してる。教えてやりたいから、少しだけ参加したら抜けるよ。アイザック、マーティン、ロザリー、頑張ったな。マーティンの成績の上がりっぷりは目を見張るものがあった。平民クラスの授業にもついていける。俺が保証する。ロザリーは元々特待生になるくらい賢かったが、苦手分野もあった。マナーが出来るようになったのはオリヴィアのおかげかな? アイザックも忙しい中よく頑張った」

「そうです! ずーっとオリヴィアが教えてくれたんです! オリヴィアは凄いんですよ! とっても優しいし、可愛いし、賢いし! それに、料理も上手だし手先も器用だし強いし……」

今日もロザリーの賛辞が止まらない。その度にアイザックが居心地悪そうにしてるんだけど……。

「ロザリー様、大事な婚約者様が罪悪感で潰れそうですよ」

サイモンがクスクスと笑う。ロザリーは、上質なドレスや宝飾品を身に付けている。全てサイモンの手配だ。ウォーターハウス商会がロザリーの為だけに用意してくれた。サイモンはニコニコ笑いながらロザリーが舐められない為だって言ったけど、多分別の意図もある。

品不足の恐怖はまだみんなの心に残ってる。ロザリーを支援してるのは誰なのか、遠回しに示したいんだろうなって思う。

ロザリーは、分かっててサイモンから手配された品を身に付ける。平民クラスになったから学園で着飾らなくて良いのは嬉しいと喜んでた。

社交界では、誰よりも豪華な品を身に付けているロザリー。わたくしも同じくらいの物を身に付けてるけど、全てサイモンからの借り物だ。父はわたくしに資金も物資も送ってこない。

どうやら、だいぶ資産を減らしたらしい。たまに屋敷に戻ると、アイザックと仲良くやっているかしか聞いて来ない。あまりにしつこいとロザリーに愚痴ったら、アイザックが送迎してくれるようになった。

父は上機嫌になったけど、申し訳なさそうに縮こまるアイザックと一緒の馬車が辛い。だから、もう実家に戻るつもりはない。

実家にあるわたくしの物はいつの間にかどんどん売られていた。社交界に着て行くドレスはもうない。

サイモンが貸してくれて、本当に助かっている。そのままあげると言われたけど、高価過ぎるしもうすぐ平民になるわたくしには無用の品だからと断った。

ロザリーは、すっかりわたくしを慕ってくれている。本当なら、ロザリーの侍女にでもなれれば安泰なんだろう。エドワードにもそう勧められた。けど、もう貴族は懲り懲り。やってみたい事はいっぱいあるし、幸い職には困らなそうだから平民として暮らしたいと断った。

「アイザックは好きだけど、オリヴィアを蔑ろにした事は一生許さないわ」

「怖っ! いいのアイザック?」

「私が悪いんだ……。一生反省する」

「良いの。おかげでわたくしは解放されたから!」

「うぐっ……」

「オリヴィア、アイザックがした事は最低だ。許してやってくれなんて言えない。けど、必死で間違いを正そうとしてる事だけは知っておいてくれ」

ほとんど学園に居る先生がわざわざ城に出入りしてアイザックを指導している。今までの指導係は国外に逃げた。

「分かってます。ロザリーと、国さえ大事にしてくれればわたくしに罪悪感なんて感じなくて良いです」

「今までの事を水に流せるわけじゃねぇけど、悪いと思ってんなら良い国づくりしてくれって事だろ?」

「わたくしは本当に過去の事なんて気にしてないわよ。むしろロザリーに感謝……」

「オリヴィア、それ以上は勘弁してやって。アイザックの背が縮んでしまいそう」

「私が悪いんだ……本当にすまない……」

「大丈夫です。陛下はきちんと反省して前に進んでおられます。思う所はたくさんありますが、オリヴィアは陛下の事など気にもしておられません。無闇に彼女の生活に関わらず、ロザリー様を大事になさって下さい」

「マーティン、言うようになったね」

「マーティン様に見捨てられたら陛下は終わりですよね。だってマーティン様が一番お優しいですもん。ところで、この料理オリヴィアが作ったの?」

「ええ。そうよ」

「この菓子、見た事ないんだけど……」

「ああこれ? 前世にあったお菓子よ。エクレアって言うの」

「美味しいね。作り方教えてくれる?」

「もちろん。そう言うと思ってレシピを書いておいたわ。マリーに渡して」

「了解。ありがとう。レシピのお金は今度払うね」

「分かったわ。わたくしが卒業して平民になったら頂戴」

ほとんどの料理は、サイモンが商品化する。わたくしは利益の一部を受け取れる。

マーティンに頼まれたクッキーだけは、卒業まで内緒にしてる。約束だしね。今回は、合格祝いに作ったから後で渡す予定よ。

ロザリーには、大きなケーキを焼いた。喜んでくれると良いな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

愛する婚約者の君へ。

水垣するめ
恋愛
 私エレナ・スコット男爵令嬢には婚約者がいる。  名前はレイ・ライランス。この国の騎士団長の息子で、次期騎士団長だ。  金髪を後ろで一束にまとめていて、表情と物腰は柔らかく、とても武人には見えないような端正な顔立ちをしている。  彼は今、戦場にいる。  国の最北端で、恐ろしい魔物と戦っているのだ。  魔物との戦いは長い年月に及び、この国の兵士は二年、最北端で魔物と戦う義務がある。  レイは今、その義務を果たしているところだ。  婚約者としては心配なことこの上ないが、次期騎士団長ということもあり、比較的安全な後方に置かれているらしい。  そんな私の愛する婚約者からは、毎日手紙が届く。

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】

仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。 「嘘、私、王子の婚約者?」 しかも何かゲームの世界??? 私の『宝物』と同じ世界??? 平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子? なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ? それが認められる国、大丈夫なの? この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。 こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね? 性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。 乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が…… ご都合主義です。 転生もの、初挑戦した作品です。 温かい目で見守っていただければ幸いです。 本編97話・乙女ゲーム部15話 ※R15は、ざまぁの為の保険です。 ※他サイトでも公開してます。 ※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)  それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。  昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。 ※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。

【完結】ただの悪役令嬢ですが、大国の皇子を拾いました。〜お嬢様は、実は皇子な使用人に執着される〜

曽根原ツタ
恋愛
「――あなたに拾っていただけたことは、俺の人生の中で何よりも幸運でした」 (私は、とんでもない拾いものをしてしまったのね。この人は、大国の皇子様で、ゲームの攻略対象。そして私は……私は――ただの悪役令嬢) そこは、運命で結ばれた男女の身体に、対になる紋章が浮かぶという伝説がある乙女ゲームの世界。 悪役令嬢ジェナー・エイデンは、ゲームをプレイしていた前世の記憶を思い出していた。屋敷の使用人として彼女に仕えている元孤児の青年ギルフォードは――ゲームの攻略対象の1人。その上、大国テーレの皇帝の隠し子だった。 いつの日にか、ギルフォードにはヒロインとの運命の印が現れる。ジェナーは、ギルフォードに思いを寄せつつも、未来に現れる本物のヒロインと彼の幸せを願い身を引くつもりだった。しかし、次第に運命の紋章にまつわる本当の真実が明らかになっていき……? ★使用人(実は皇子様)× お嬢様(悪役令嬢)の一筋縄ではいかない純愛ストーリーです。 小説家になろう様でも公開中 1月4日 HOTランキング1位ありがとうございます。 (完結保証 )

処理中です...