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三十六話【ウィル視点】

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「さぁな。未来の事なんて分かんねぇよ。けど、オレが身代わりになってオリヴィアを助けられるなら喜んで死ぬな」

サイモンが居れば、オリヴィアは大丈夫だからな。考えたくねぇけど、オリヴィアが処刑される事があればオレと入れ替われるなら絶対入れ替わるし、入れ替われないなら無理矢理処刑を止める。

エドワードルートは、どれもオリヴィアは処刑されるらしい。けど、オレやサイモンがそんな事許す訳ない。国外追放ならオリヴィアは自由になるだけだからラッキーだし、修道院なら入ってから助ければ良い。国内の修道院なら、サイモンの顔が効かない場所はない。

処刑されるしかないなら、オレが代わりに死ぬだろうな。オリヴィアの変装が出来るように、あまり筋肉がつかねぇように鍛えてるんだから。女装が似合うと仲間たちには馬鹿にされるが、オリヴィアの助けになるなら構わない。

けど、そろそろ体型を誤魔化すのが限界だ。背もオリヴィアより高くなったから、変装する時は無理に足を曲げて身長を誤魔化している。ぶっちゃけかなりキツい。

っと、いけねえ。考え込んでる場合じゃねぇな。コイツらを敵に回すのは厄介だ。どこまで計画を話して良いか見極めねぇと。

オリヴィアを好いてるのはバレバレだけど、公私混同する奴らじゃねぇから大丈夫だとは思うが……下らねぇ婚約話は絶対止めてやる。

「……だよね。君はそういう人だよね。オリヴィアの事で宣戦布告したいのはやまやまなんだけど、とりあえず休戦にしない? 今の事態が片付かないとオリヴィアに告白してもフラれるだけでしょ。どうせ、サイモンも参加するだろうし。マーティンはどうする?」

「……? つまり、みんなオリヴィアが好きなのか……?」

「そだよ。気が付いてないなんて言わせないよ」

「そうだな。私もオリヴィアが好きだ。彼女を愛してる」

「いつからだ?」

分かってたけど、ライバルが増えるのは気分が良くない。

「自覚したのは最近だな。しかし、昔から好いていたのかもしれん」

くっそ、コイツみたいにストレートに言う男はやべえ。気が付いたらオリヴィアを掻っ攫われてるかもしれねぇ。

幼い頃からコイツらの名前はオリヴィアからよく聞いた。学園で会ったら、予想以上に見目がいいし優秀だしで、内心すげえ焦った。だから、必死で勉強している。オレはエドワードより地頭が良くねぇし、マーティンみたいに真っ直ぐでキラキラしてもいねぇ。狡賢さはエドワードに勝てるし、卑怯な手段も使えばマーティンに戦いで負けたりしねぇ。けど、誰がオリヴィアに相応しいかって言われたらエドワードがマーティン、もしくはサイモン……攻略対象って意味では先生もか。ま、先生は今のところオリヴィアを生徒としか見てねぇからノーカンだ。油断はならねぇけど、今は考えない事にする。

オレは、単なるモブ。オリヴィアの手足となって、オリヴィアの為に死ぬ存在だ。

オリヴィアの為なら死ねるが、攻略対象となっているアイツらが羨ましいと思う事もある。だって、攻略対象になるくらい魅力的だという事なんだから。

「マーティンも参戦か。オリヴィアは人気者だね」

「……とにかく、この話は後だ。話し出したらキリがねぇし、そろそろオリヴィア達が戻って来る」

「なんで分かるの?」

「西棟までの往復時間を計算すりゃ分かる。そんなにのんびり出来る程仲良しじゃねぇだろ。お前らならもう少し時間稼ぎ出来るだろうけど、罪悪感でいっぱいの王子様は長くはもたねーよ」

「確かに。さっさと本題に入ろうか。これから君達は、何をしようとしてる?」

「役立たずの大人達に降りてもらうだけだ。安心しな。命までは取らねぇよ」

「取られたら困るね。殺人、しかも王族殺しとなると処刑以外あり得ない。君を処刑したりしたらオリヴィアが悲しむ」

「大丈夫だ。ウィルは私より強いがむやみに力を振るったりしない。オリヴィアに危険が及ばなければ、乱暴な事はしない」

「よく分かってんじゃねーか」

「付き合いは短いが、ウィルの人となりは分かった。悪い人じゃない。どちらかというと良い人だ。だからこそ、オリヴィアも貴方を信用したんだろう」

「……ちっ」

真っ直ぐな目で見るんじゃねぇよ。オレとは正反対の光の道を歩んできた男が眩しくてしょうがない。

「マーティンは、たまに人たらしになるね。さ、時間がないから教えて。僕らで協力出来る事はある?」

「オレらのやろうとしてる事は犯罪だぞ」

「アイザックが王になれば、罪にはならない。むしろ英雄だね。だから、気にしないで。ほら、オリヴィアには知られたくないでしょ。さっさと教えてよ。君らは優秀だけど、計画には僕らの協力が必要でしょ? だから、ここに来たんでしょ?」

くっそ、この腹黒!
サイモンも大概だがこの男もだいぶやべえ。

けど、コイツらの力は必要だ。
オレはエドワードとマーティンを巻き込んだ。

1週間後、国王の退位を迫るデモが城に押し寄せた時には……国王や国王に擦り寄るだけの貴族達は全員逃亡していた。

自分達が殺されるかもしれないと恐怖を煽り、そこに蜘蛛の糸を垂らせば全員飛びついた。国外に逃げた事を確認してから、国境を封鎖。そして、国王に即位したアイザックは、逃亡した者達が国内に戻ると混乱するからという理由で、全員の入国を拒絶すると各国に通達した。戻ろうとした者達も居たが、そのうち諦めたようだ。ま、財産は自由に持ち出せたんだ。そこそこ暮らしていけんだろ。威張りさえしなきゃな。

アイザックは、すぐに税率を戻した。

ウォーターハウス商会の営業は再開され、街は今まで通り平穏になった。利益が得られるのなら1年もすれば色々な商会が戻って来るだろう。

オレ達は、残り僅かな学園生活を学生らしく過ごせる事になった。だが、アイザックは王の仕事がありほとんど学園に通えないようだ。

エドワードもマーティンもオリヴィアも、それから秘密裏に正式な婚約者となったロザリーも放課後にアイザックを支えている。

オリヴィア達が仕事をしていた時、お前は何にもしなかっただろ! そう言いたいのを堪えて、オレとサイモンも仕事の手伝いをしている。

最近は、ロザリーがオリヴィアに懐き過ぎていて少々面倒だが、オリヴィアはとても良く笑うようになった。半年前とは大違いだ。

「ウィル! ここが分からないの! 教えて!」

勉強は、努力の甲斐ありオレが一番出来る。だからオリヴィアが勉強で頼るのはオレだ。

「分かった! ありがとうウィル!」

この笑顔を守りたい。ずっと……オリヴィアの側に居たい。この世界でオレが生きる意味はそれだけだ。
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