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⑬嫉妬【クリストフ視点】
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「……確かに、リュカがイザベラを褒めるのは気分が悪い。何故だ?」
こんなにもやもやした気持ちは初めてだ。
「俺もカティの事を他の男が褒めるのは気分が悪いぜ」
リュカはそうだろう。カトリーヌ王女と結婚する為にあれだけの実力をつけたんだ。本当ならカトリーヌ王女を誰の目にも触れさせたくないし、どこかに閉じ込めてしまいたいと言っていた。
だが、彼女を閉じ込めたりしたら退屈してそのうち逃げ出してしまうそうだ。僕はカトリーヌ王女はおしとやかな女性だと思っていたが、実際はなかなかに活発な女性らしい。だから逃げられないように彼女に相応しい男になって死ぬまで一緒に居るとリュカは笑っていた。僕にはリュカの気持ちが理解できなかった。僕がカトリーヌ王女に惚れたのは彼女が大人しく優秀で、僕に相応しいと思ったからだ。リュカのように一緒に居たいと思ったからではない。魅力的な方だから惚れていたのは間違いないが、リュカの言うような活発な面が見えたら幻滅したかもしれん。
そんな事、恐ろしくてリュカには言えないがな。
イザベラは幼い頃から仲良くしている幼なじみだ。優しいし、可愛い。彼女と一緒に居るのは楽しい。だが、彼女は王族ではないから僕の結婚相手にはなりえない。
そんな事わかっていた筈ではないか。なのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだ。
「……これではまるで……いや、あの時カトリーヌ王女に感じていた気持ちと同じではないか……」
「カティが何だって?!」
「リュカ! 怖いぞ! 全く、カトリーヌ王女のことになると気が短いな」
「んな事わかってるよ。けどしょーがねぇだろ! クリストフが過去にした事は、許すけど忘れねぇからな!」
許してくれるなんてリュカは慈悲深いと思う。僕なら相手の国に厳重に抗議する。相手がどうなろうと気にしない。だが、リュカは僕の事を許してくれて、怒っていた人達を宥めてくれた。騎士達がこっそり話しているのをたまたま聞いた時は、恥ずかしいやら情けないやら……国に帰る前に、ゼム国で謝罪行脚をした。王太子が簡単に頭を下げるなと言われているから、使用人も連れずにこっそりとな。
怒っていた人達を宥めて、父上の耳に入らないように配慮してくれたのはリュカだ。
こんなに偉大な人ですら、愛する人の事になると途端に余裕がなくなる様は見ていて面白い。だが、そろそろ謝らないとまた叱られてしまいそうだ。
「その節はすまなかった。なぁ、リュカはカトリーヌ王女が他の男を親しく話している所を見たらどう思う?」
「ものすげぇ嫉妬するな。夜会なら乱入するだろうし、こっそり話してたなんて聞いたら相手を調べる」
リュカが調べるなら、相手は丸裸だろうな。どういうルートなのかは分からないが、リュカの情報収集能力は侮れない。
「カトリーヌ王女に直接聞いたりは?」
「するに決まってんだろ。きっちり話し合いするぜ」
ニヤリと笑うリュカはただならぬ色気を放っている。話し合いがどんなものなのか、婚約者も恋人も居ない僕には想像するしか出来ないが、閨授業で聞いたような事が繰り広げられるのだろうと容易に想像がついた。
「そうか……夫婦だものな……」
「まぁな。クリストフはイザベラ様が他の男と話していて嫉妬しねぇのか?」
「イザベラが他の男と話している事などない」
「なんでそんなこと言い切れるんだよ。婚約者がいない公爵令嬢、しかもあんなに美人なら引く手数多だろ。昨日のパーティの様子からして、クリストフはいつもイザベラ様を見てるわけじゃねぇし、案外クリストフが知らねぇだけで婚約者候補がもう居たりしてな」
頭がカッとなるのが分かる。イザベラはいつも僕が探した時はすぐに見つかる。目が合えば嬉しそうに来てくれる。男と話している姿など見た事がない。
「イザベラにそんな男は居ない」
「言い切るなぁ。クリストフはイザベラ様と結婚する気はねぇんだろ?」
「イザベラと結婚……? 考えた事はなかったな」
「だったらいくら王族でも彼女を縛り付ける権利なんてねぇだろ。いい加減に開放してやれよ」
リュカの方がイザベラを分かっている。そんな言い方にイライラする。
「開放とは何だ。僕はイザベラを縛り付けたりしていない」
「さっきは引く手数多だって言ったけどな、王太子がベッタリの女性にアプローチする勇気がある男なんていねぇよ。よほどイザベラ様と親しいなら別だが彼女と親しい男なんてクリストフだけだろ。幼い頃から王子の話し相手をしていた令嬢のお相手が簡単に見つかる訳ねぇだろ。クリストフの妻になるかもしれねぇのに手を出せるかよ」
仲良くしてはダメなのか?
僕にもイザベラにも婚約者は居ない。なら、別に構わないではないか。
さすがに婚約者が出来れば僕だってイザベラと距離を置く。それに、幼馴染同士で結婚したリュカに言われたくない。
「リュカだってカトリーヌ王女と幼馴染だろう!」
「まぁな。けど、カティはある程度の年齢になったらちゃんと俺と距離を取ってたぜ。2人で話した事は……まぁ、ちょっとはあったけど……けどよぉ、クリストフとイザベラ様は親し過ぎる。恋人みてぇじゃねぇかよ」
「む……! 2人は幼い頃から相思相愛だったんだろろう?」
「色々あったんだよ」
リュカはこれ以上話したくなさそうだったから聞かない事にした。今は理想の夫婦だと名高いリュカとカトリーヌ王女だが、身分差のある婚約が簡単に認められたとは思えない。リュカの魔法も、今は使えないらしいからな。結婚の理由になった魔法が、結婚間際に使えなくなるなんて大変だっただろう。
「分かった。なら聞かない。けど、僕らの事にも口出ししないでくれ」
僕だってリュカのように愛する人が居れば良いと思う。だが、なかなか見つからないんだ。婚約者が出来れば僕だってイザベラと距離を取る。
そのつもりで話をしていたら、リュカは見た事がないくらい渋い顔をしている。
「あのな、俺だって人の色恋沙汰に口出しなんてしたくねぇよ。けど、このままだとイザベラ様は死ぬぞ。それでも良いのか」
「なんで……そんな事になるんだ……」
「イザベラ様に付けられた侍女は、カティをじゃじゃ馬王女と笑った。クリストフならどんだけヤバいか分かるよな?」
「……なんだと?」
それはだいぶまずい。公式の場であればその場で処刑されるし、イザベラもタダでは済まない。
「安心しろ。誰も居ない休憩室での話だ。カティは俺以外には誰にも伝えてねぇ。俺にも口止めしてた。だからクリストフも誰にも言うなよ」
またこの2人に助けられるのか。カトリーヌ王女は国賓。我々王族と同じ扱いになる。そんな事も分からない使用人を使うなんて、イザベラは何をしているんだ。
「すまない……また……助けられてしまったな……」
「カティは気にしてないから大丈夫だ。カティが傷ついていたら許さないけどな。侍女にカティの悪口を吹き込んだのは国王陛下だぞ」
「は?! 今なんと言った?!」
「イザベラ様の侍女は、国王陛下の紹介だって言っただろう。色々聞いてみると、カティだけじゃなくて色んな人の悪口を吹き込まれてた。礼儀も全くなっていない」
「なんでそんな侍女を……、まさか……父上はイザベラを……」
考えたくない。そう思っているのに、リュカはあっさりと僕の心を突き刺した。
「ブエ公爵は隙がないんだろ? だったら娘から切り崩す方が早い。カドゥール国の法律では、王族に危害を加えれば、一族郎党処刑。侮辱行為もかなり厳しく処罰される。侍女がやらかしてくれりゃあ、邪魔な宰相は排除出来る」
「イザベラは、どうして侍女を解雇しなかったんだ」
「出来る訳ねぇだろ。国王陛下から紹介された侍女だぞ」
「そういう事か。その侍女と話がしたい。だが……僕が会おうとするのを見られたらまずいな。ブエ公爵家へ出入りするのは目立つからな……」
「カティの部屋に匿ってるから、会いたいなら来いよ。俺が居る時なら会って良いから」
「匿う?」
「カティが休憩室を出た時、すぐに何か不都合はなかったかって声をかけられたらしいぜ。カティが何もなかったって言ったらすげぇ残念そうだったらしい」
「見張られてたのか……」
「多分な。幸い、イザベラ様に用意された休憩室とカティの部屋が近かったから、部屋に招待するフリしてカティの部屋に匿ってる。イザベラ様は慈悲深いよな。自分を陥れようとしてた侍女を庇ったんだってよ。侍女は泣き崩れて話を聞ける状態じゃねぇから、カティの侍女と衣装を交換して侍女のフリをして貰った」
「会えるか?」
「ああ、今から会うか? カティの部屋の出入りは見張られてるかもしれねぇけど……」
「隠し通路がある。リュカの部屋からカトリーヌ王女の部屋に行ける」
「マジか……! そんな部屋、よく提供してくれたな」
「隠し通路の事を知ってるのは王族だけだ。父上は、リュカに最底辺の客室を用意しろと言っただけで部屋の指定まではしなかった。だから僕が部屋を指定したんだ。使用人達は隠し通路の事は知らないから、僕が父上の指示に従ったと思ってるよ」
「へぇ、やるな。さすがだぜ」
「パーティで着飾れたという事は、隠し通路に気が付いたんだろう?」
リュカなら、気が付くかもしれないと思っていた。パーティでは見事な装いだったから恥をかかせず済んで良かった。
「いや、気が付かなかった。俺は変装してカティの部屋に行ったんだ」
なんだと?! 報告では、女性が部屋の外をうろついていたと聞いていたが、まさか……!
「リュカ、女装したのか?」
「おう」
「おかしいと思わないなんて、うちの使用人は無能か……!!!」
リュカの体格で、女性の格好をしたらおかしいだろ! 気が付かなくて良かったが、注意力が無さすぎだ。
「あー……ま、あんま言えねぇけど、色々工夫したんだよ。本題に戻るけど、クリストフはイザベラ様をどうしたいんだ? 結婚する気がねぇなら、彼女にハッキリ言った方が良いぜ。イザベラ様は縁談を断りまくってるそうだ。クリストフの事を諦められねぇんだよ」
全身の血が沸騰するような感覚がする。イザベラが縁談……そんな……。
こんなにもやもやした気持ちは初めてだ。
「俺もカティの事を他の男が褒めるのは気分が悪いぜ」
リュカはそうだろう。カトリーヌ王女と結婚する為にあれだけの実力をつけたんだ。本当ならカトリーヌ王女を誰の目にも触れさせたくないし、どこかに閉じ込めてしまいたいと言っていた。
だが、彼女を閉じ込めたりしたら退屈してそのうち逃げ出してしまうそうだ。僕はカトリーヌ王女はおしとやかな女性だと思っていたが、実際はなかなかに活発な女性らしい。だから逃げられないように彼女に相応しい男になって死ぬまで一緒に居るとリュカは笑っていた。僕にはリュカの気持ちが理解できなかった。僕がカトリーヌ王女に惚れたのは彼女が大人しく優秀で、僕に相応しいと思ったからだ。リュカのように一緒に居たいと思ったからではない。魅力的な方だから惚れていたのは間違いないが、リュカの言うような活発な面が見えたら幻滅したかもしれん。
そんな事、恐ろしくてリュカには言えないがな。
イザベラは幼い頃から仲良くしている幼なじみだ。優しいし、可愛い。彼女と一緒に居るのは楽しい。だが、彼女は王族ではないから僕の結婚相手にはなりえない。
そんな事わかっていた筈ではないか。なのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだ。
「……これではまるで……いや、あの時カトリーヌ王女に感じていた気持ちと同じではないか……」
「カティが何だって?!」
「リュカ! 怖いぞ! 全く、カトリーヌ王女のことになると気が短いな」
「んな事わかってるよ。けどしょーがねぇだろ! クリストフが過去にした事は、許すけど忘れねぇからな!」
許してくれるなんてリュカは慈悲深いと思う。僕なら相手の国に厳重に抗議する。相手がどうなろうと気にしない。だが、リュカは僕の事を許してくれて、怒っていた人達を宥めてくれた。騎士達がこっそり話しているのをたまたま聞いた時は、恥ずかしいやら情けないやら……国に帰る前に、ゼム国で謝罪行脚をした。王太子が簡単に頭を下げるなと言われているから、使用人も連れずにこっそりとな。
怒っていた人達を宥めて、父上の耳に入らないように配慮してくれたのはリュカだ。
こんなに偉大な人ですら、愛する人の事になると途端に余裕がなくなる様は見ていて面白い。だが、そろそろ謝らないとまた叱られてしまいそうだ。
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リュカが調べるなら、相手は丸裸だろうな。どういうルートなのかは分からないが、リュカの情報収集能力は侮れない。
「カトリーヌ王女に直接聞いたりは?」
「するに決まってんだろ。きっちり話し合いするぜ」
ニヤリと笑うリュカはただならぬ色気を放っている。話し合いがどんなものなのか、婚約者も恋人も居ない僕には想像するしか出来ないが、閨授業で聞いたような事が繰り広げられるのだろうと容易に想像がついた。
「そうか……夫婦だものな……」
「まぁな。クリストフはイザベラ様が他の男と話していて嫉妬しねぇのか?」
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頭がカッとなるのが分かる。イザベラはいつも僕が探した時はすぐに見つかる。目が合えば嬉しそうに来てくれる。男と話している姿など見た事がない。
「イザベラにそんな男は居ない」
「言い切るなぁ。クリストフはイザベラ様と結婚する気はねぇんだろ?」
「イザベラと結婚……? 考えた事はなかったな」
「だったらいくら王族でも彼女を縛り付ける権利なんてねぇだろ。いい加減に開放してやれよ」
リュカの方がイザベラを分かっている。そんな言い方にイライラする。
「開放とは何だ。僕はイザベラを縛り付けたりしていない」
「さっきは引く手数多だって言ったけどな、王太子がベッタリの女性にアプローチする勇気がある男なんていねぇよ。よほどイザベラ様と親しいなら別だが彼女と親しい男なんてクリストフだけだろ。幼い頃から王子の話し相手をしていた令嬢のお相手が簡単に見つかる訳ねぇだろ。クリストフの妻になるかもしれねぇのに手を出せるかよ」
仲良くしてはダメなのか?
僕にもイザベラにも婚約者は居ない。なら、別に構わないではないか。
さすがに婚約者が出来れば僕だってイザベラと距離を置く。それに、幼馴染同士で結婚したリュカに言われたくない。
「リュカだってカトリーヌ王女と幼馴染だろう!」
「まぁな。けど、カティはある程度の年齢になったらちゃんと俺と距離を取ってたぜ。2人で話した事は……まぁ、ちょっとはあったけど……けどよぉ、クリストフとイザベラ様は親し過ぎる。恋人みてぇじゃねぇかよ」
「む……! 2人は幼い頃から相思相愛だったんだろろう?」
「色々あったんだよ」
リュカはこれ以上話したくなさそうだったから聞かない事にした。今は理想の夫婦だと名高いリュカとカトリーヌ王女だが、身分差のある婚約が簡単に認められたとは思えない。リュカの魔法も、今は使えないらしいからな。結婚の理由になった魔法が、結婚間際に使えなくなるなんて大変だっただろう。
「分かった。なら聞かない。けど、僕らの事にも口出ししないでくれ」
僕だってリュカのように愛する人が居れば良いと思う。だが、なかなか見つからないんだ。婚約者が出来れば僕だってイザベラと距離を取る。
そのつもりで話をしていたら、リュカは見た事がないくらい渋い顔をしている。
「あのな、俺だって人の色恋沙汰に口出しなんてしたくねぇよ。けど、このままだとイザベラ様は死ぬぞ。それでも良いのか」
「なんで……そんな事になるんだ……」
「イザベラ様に付けられた侍女は、カティをじゃじゃ馬王女と笑った。クリストフならどんだけヤバいか分かるよな?」
「……なんだと?」
それはだいぶまずい。公式の場であればその場で処刑されるし、イザベラもタダでは済まない。
「安心しろ。誰も居ない休憩室での話だ。カティは俺以外には誰にも伝えてねぇ。俺にも口止めしてた。だからクリストフも誰にも言うなよ」
またこの2人に助けられるのか。カトリーヌ王女は国賓。我々王族と同じ扱いになる。そんな事も分からない使用人を使うなんて、イザベラは何をしているんだ。
「すまない……また……助けられてしまったな……」
「カティは気にしてないから大丈夫だ。カティが傷ついていたら許さないけどな。侍女にカティの悪口を吹き込んだのは国王陛下だぞ」
「は?! 今なんと言った?!」
「イザベラ様の侍女は、国王陛下の紹介だって言っただろう。色々聞いてみると、カティだけじゃなくて色んな人の悪口を吹き込まれてた。礼儀も全くなっていない」
「なんでそんな侍女を……、まさか……父上はイザベラを……」
考えたくない。そう思っているのに、リュカはあっさりと僕の心を突き刺した。
「ブエ公爵は隙がないんだろ? だったら娘から切り崩す方が早い。カドゥール国の法律では、王族に危害を加えれば、一族郎党処刑。侮辱行為もかなり厳しく処罰される。侍女がやらかしてくれりゃあ、邪魔な宰相は排除出来る」
「イザベラは、どうして侍女を解雇しなかったんだ」
「出来る訳ねぇだろ。国王陛下から紹介された侍女だぞ」
「そういう事か。その侍女と話がしたい。だが……僕が会おうとするのを見られたらまずいな。ブエ公爵家へ出入りするのは目立つからな……」
「カティの部屋に匿ってるから、会いたいなら来いよ。俺が居る時なら会って良いから」
「匿う?」
「カティが休憩室を出た時、すぐに何か不都合はなかったかって声をかけられたらしいぜ。カティが何もなかったって言ったらすげぇ残念そうだったらしい」
「見張られてたのか……」
「多分な。幸い、イザベラ様に用意された休憩室とカティの部屋が近かったから、部屋に招待するフリしてカティの部屋に匿ってる。イザベラ様は慈悲深いよな。自分を陥れようとしてた侍女を庇ったんだってよ。侍女は泣き崩れて話を聞ける状態じゃねぇから、カティの侍女と衣装を交換して侍女のフリをして貰った」
「会えるか?」
「ああ、今から会うか? カティの部屋の出入りは見張られてるかもしれねぇけど……」
「隠し通路がある。リュカの部屋からカトリーヌ王女の部屋に行ける」
「マジか……! そんな部屋、よく提供してくれたな」
「隠し通路の事を知ってるのは王族だけだ。父上は、リュカに最底辺の客室を用意しろと言っただけで部屋の指定まではしなかった。だから僕が部屋を指定したんだ。使用人達は隠し通路の事は知らないから、僕が父上の指示に従ったと思ってるよ」
「へぇ、やるな。さすがだぜ」
「パーティで着飾れたという事は、隠し通路に気が付いたんだろう?」
リュカなら、気が付くかもしれないと思っていた。パーティでは見事な装いだったから恥をかかせず済んで良かった。
「いや、気が付かなかった。俺は変装してカティの部屋に行ったんだ」
なんだと?! 報告では、女性が部屋の外をうろついていたと聞いていたが、まさか……!
「リュカ、女装したのか?」
「おう」
「おかしいと思わないなんて、うちの使用人は無能か……!!!」
リュカの体格で、女性の格好をしたらおかしいだろ! 気が付かなくて良かったが、注意力が無さすぎだ。
「あー……ま、あんま言えねぇけど、色々工夫したんだよ。本題に戻るけど、クリストフはイザベラ様をどうしたいんだ? 結婚する気がねぇなら、彼女にハッキリ言った方が良いぜ。イザベラ様は縁談を断りまくってるそうだ。クリストフの事を諦められねぇんだよ」
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