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⑥ふざけないで

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「失礼します。部屋を出ていた使用人をお連れしました。どうか、部屋を出ないようお願いします」

「まあ、申し訳ありません。夫の部屋に使用人が誰も居ないのは困るので送ったのですが、それもいけませんでしたの? それより、夫に早く会いたいのですが……」

「パーティーのお時間にお迎えに来られますよ。カトリーヌ王女以外は、部屋を出ないで下さい。ウロウロされたら困ります」

冷たく言う男が、ルカを部屋に連れて来ました。

貴方の国の王子様は使用人も含めて、散々うちの城をウロウロしていたけどねっ! 心の中で舌を出しながらにこやかに話を流します。何度言っても、リュカの部屋は教えて貰えません。それどころか、とんでもない事を言い出しました。

「リュカ様は、カトリーヌ王女が居ないと何も出来ないのですか?」

……その瞬間、部屋中の空気が冷たくなりました。使用人全員から睨まれた事に気が付いた男は、逃げるように部屋を出て行きました。

その後、怒りを抑えて部屋に鍵をかけて使用人を全員集めます。念のため土魔法で囲んだ部屋を作り、風の結界を用意してから、ようやく本音を曝け出します。

「ふざけないで! リュカは何でも出来るわ! 丁寧なフリして夫婦を別室に案内するなんて何を考えてるのよ! 絶対許さない!」

あの男は、過去でも会いました。執事のフィリップです。優秀でしたが、嫌味な事をよく言う男でした。確か賭け事が好きで、横領がバレてクビになったんじゃなかったかしら?

後でクリストフ様に耳打ちしてやるわ! ああでも、どうやって言おうかしら。過去で知ったとバレないように言わないと……。

「カティ、まーた余計な事を考えてるだろ? とりあえず今はパーティーを上手く乗り切る事に集中してくれ」

「分かったわ。あの男に何もされなかった?」

「あー……ルカになってる間は、すげえエロい目で見てきたぜ」

「絶対許さないわ」

「大丈夫、睨んだら何もされなかったから。単なる小心者だよ」

「部屋はどんな部屋だった?」

「普通の客間だな。ベットと机があるだけだ」

「王族を案内する部屋ではありませんわね。ここは一応使用人部屋もありますから、リュカ様もこちらでお過ごし下さい」

「ありがとうございます。リリアさん。そうさせて貰います。誰か来る時はルカの姿で過ごしますね」

「それがよろしゅうございますわ。お迎えの手配などは何と言われましたか?」

「時間になったら勝手にカトリーヌ王女を迎えに行って下さいって言われましたよ。一応招待状はくれましたけど、集合時間も場所も書いてないんですよ。聞いても教えてくれませんでした。部屋の時計は、1時間遅れてます。ったく、陰湿過ぎんだろ」

そう言って、ルカはリュカの姿に戻ります。今回連れて来た使用人と護衛は、全員リュカの魔法を知っています。結婚してから明かしました。特殊魔法が無効化される事は内緒ですけどね。

「リュカ様、この部屋の時計も遅れておりますわ」

「……俺らが時計を持ってるとは思わねぇんすかね?」

「時差がありますからね。誤魔化せるとでも思っておられるのでは?」

リリアがクスクス笑いながら言います。笑ってますけど、アレは相当怒ってますわね。

「時差なんて、国境越えたら時計をすぐ調整するに決まってんだろうに」

「カドゥール国ではそのような習慣がないのではありませんか?」

「な訳ないでしょう。クリストフはちゃんと時計を調整してましたよ。リリアさん、めちゃくちゃ怒ってますねー……」

「当然です。リュカ様を舐めるのもいい加減にして頂きたいですわ」

「ま、クリストフが王族としか結婚しないって断言してる時点でちょっと予想はしてましたよ。けど、あからさまですよねー……」

「大事な一人息子がリュカを褒め称えるから気に入らないんじゃない? クリストフ様が時間と場所を教えて下さったのは、絶対わざとよ。彼がわたくし達に出来る精一杯の手助けなのでしょうね」

「だろうな。クリストフが時間を伝えた後、何人か使用人が走り去っていくのを見たから、急いで時計をずらしたんじゃねぇの?」

「そこまでするなんて、何がしたいのかしら?」

「俺に恥をかかせたいんだろうな。伯爵家の三男坊なんて、王族に相応しくないってな」

「……許せないわね。みんな、リュカを王族らしく飾り立てて頂戴。わたくしの夫は、世界一素敵だと自慢してやるんだから」

「「「承知しました!」」」

「ちょ! カティの準備は……!」

「姫様は後はティアラを付けるだけですわ。お化粧直しも完璧です」

「リュカ様の服装はこちらです。飾りはこれで……」

あっという間に侍女達に囲まれたリュカは、観念したように大人しくしています。そんなリュカを、護衛の騎士達が憐れんだ様子で見ておりました。

「姫様、私達は護衛なのに部屋を出れないのでしょうか?」

「今のところは、指示に従う方が良いわ。大丈夫、わたくしにはリュカが居るから」

「承知しました。では、この部屋は完璧に守ってみせます」

「お願いね。リュカ!! 案内された部屋には何も荷物は残してないわよね?!」

着せ替え人形にされているリュカに、大声で話しかける。風の結界が有効だから、外には漏れないから安心して話せるのが良いわね」

「おう! 何もねえぞ」

「分かったわ。とりあえずパーティーを何とかしましょう。招待客には、リュカの事を気に入ってる方もいらっしゃるから、味方は多いわ」

「分かった! なぁ! 俺ってここまで着飾る必要があるか?!」

「あるわ! 歓迎されるのはわたくし達なんだから、一番豪華な装いでないと失礼なのよ!」

「じゃあ、俺だけ別室になったのって……」

「着飾る事が出来ないようにでしょうね。そのままの格好でもギリギリ失礼じゃないけど、遅刻して来たら目立つわよ」

「悪質だなー……」

「ふふっ、リュカを舐めた事、心から後悔させてあげましょうね」

「もしかして、カティもめちゃくちゃ怒ってるか?」

「当然よ」

リュカを蔑ろにした事を絶対後悔させてやるわ!

「姫様、会場の場所は分かるんですか?」

「安心して、分かるわ」

だって、住んでた事もあるんだもの。この城の構造は、隠し扉まで熟知してるわ。ルイーズが来てから何でもかんでもわたくしに押し付けるようになったから、仕事も大量にしてたし、この国の弱点もバッチリ分かる。

とはいえ、わたくしがそんな事を知っているとバレる訳にいかないからあまり派手な事は出来ないんだけど……。

「では、わたくしの仕事は部屋を見張る邪魔者を排除する事ですわね」

リュカの準備が済んだ事を確認したリリアは静かにドアを開けました。すぐに人が飛んできて何やら話しかけておりましたが、しばらくすると静かになりました。

「姫様、リュカ様、今なら部屋を出れますわ。開始までもう少し時間がありますけれど、場所も変更される可能性がありますから早く出られた方がよろしいかと」

場所を変えられていても、パーティーの出来そうなホールは3つしかない。場所は分かるから、今から動けば絶対に遅刻はしない。

「分かったわ! リュカの準備は問題ない?」

「「「完璧ですわ!!」」」

「……本当だわ。とっても素敵」

「そう言って貰えるなら、頑張った甲斐があるな。お手をどうぞ、可愛いカティ」

「うぅう……そんなの反則だわ……」

「いちゃつくのは後になさいませ! 見張りがすぐに戻って来ますわ!」

「い、行きましょう! リュカ!」

「おう、行くか」

リュカの顔を直視できない。わたくしの旦那様が、かっこよすぎて困るわ。
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