上 下
23 / 63

23.あり得ない報告

しおりを挟む
「クリストフ様は、カトリーヌが自分の求める条件を満たした相手だから求婚しただけで、カトリーヌ自身を求めた訳ではなかったのかもしれないわね」

「お似合いだと、国中で祝福されておりましたよ」

リュカが、面白くなさそうに呟きました。

「そりゃあ王女の婚約はそう言われるでしょうよ。わたくしだって、婚約期間が3年あったけどあの人を愛してるって思ったのは2年くらい経ってからよ」

「そうか、私は一目惚れしたから必死でアプローチしたんだけどな」

「お兄様達みたいに愛しあってると、婚約期間が短くなるのよね。王族同士の結婚だと会うのも距離があるから、早く一緒に居たくて結婚を急ぐのよ。カトリーヌの婚約期間は、2年の予定だったのよね? 結婚を急いでいる印象はないわね」

お兄様は、婚約して1年でご結婚なさいました。王族同士の結婚としては最短のスピードです。普通は、1年半から3年は婚約期間を設けます。

「王族は、場合によっては未成年でも結婚するからなぁ」

「そうね。18歳になるのを待つ事も多いけどね。カトリーヌもそうだったのかもね。2年あればゆっくり仲良くなれば良いから、まだお互いの事を知ろうとしている段階って感じよね。そのタイミングでルイーズと浮気でしょう? 王妃教育もまだだったし、普通は婚約解消するわよね」

あ、またお父様が落ち込んでしまわれましたわ。

「気になっている事がありまして、国王陛下と王妃様以外は、みんなカティに冷たかったんです。全員ではなくて、侍女長や騎士達など普通の人も多かったのですが、なんだか変な気はしていました。俺は普段は城に居る訳ではありませんから確証はないですし、カティが国を出る時に王太子殿下がなんだか冷たいなと感じた程度なのですが……」

「私がまともならカトリーヌの旅立ちに侍女が1人など認めん。いくらリュカが居ても、他に侍女を10人は付けろと進言する」

「そうですよね。僕も姉さんがそんな寂しい旅立ちをするなんて認めませんよ。絶対父上に進言したと思います。もしかして、父上はわざと姉さんに付ける侍女を減らして、僕達が反対するかどうか見ていたんじゃないですか? あとは、魅了されている人ばかりで信用出来る人が居なかったとか。リュカは魔法が効かないんでしょう? しかも、姉さんを連れて行っちゃうクリストフ様を好きになるとも思えないし。だから安心して姉さんに付けられた。侍女を付けなかったのではなく、リュカ以外は危なくて付けられなかったのでは?」

「ありえるね。じゃあ、過去の僕達はねーさまに冷たかったって事ですか?」

弟達が、不安そうに聞いてきました。わたくしは、こんなに慕われていたんですね。嬉しくて泣きそうです。

「……カティを見送ったのは、王太子殿下と国王陛下と王妃様だけでした。抱きしめたりなさる国王陛下と王妃様と違い、王太子殿下は一言挨拶をなさっただけでした」

「僕らは、姉さんの旅立ちを見送る事すらしなかったの?!」

「ねーさま、ごめんなさい……。僕の事嫌い??」

「そんな事ないわ。2人とも大事な弟だもの。大好きよ!」

「カトリーヌ……私はどうだ……?」

「もちろん、お兄様もお姉様も、お義姉様もみんな大好きですわ! お父様も、お母様も、リュカも此処に居る方はみんな大好きです!」

「全ての原因は魅了魔法です。王太子殿下や他の方の変貌ぶりから、国王陛下はルイーズ様が魅了を使ったと勘づいていたのではないでしょうか? ですが、鑑定を頼もうにもみんなルイーズ様の味方では正確な情報は得られないどころか、ルイーズ様に情報が伝わる可能性が高い。そうなるとカティが危険です。だから、カティを国外に出している間に対処しようとお考えになったのではないでしょうか。実際、俺達が国を出てすぐにルイーズ様は城への生涯出入り禁止を通達されています。国王陛下がルイーズ様の魅了を封じようと対策なさっている間に、ルイーズ様はカドゥール国に現れた。あとは、ご報告した通りです」

「なるほどな……それならリュカを付けたのも、逃げて構わないと言った事も納得するし、慌てて迎えを寄越すのも当然か。城中が敵なららどこで誰が聞いているか分からないから手紙にしたんだろう。リュカに国家機密まで教えているという事は、万が一の時にカトリーヌを守れる人材が居なかったという事だろうな。私達はルイーズに魅了されて敵となっていたのだろう。父上、申し訳ありません。私が原因かもしれません」

「誰が原因かなんて議論する意味はもうないわ。わたくしはもう時を戻してしまったし、今はみんな優しいもの。ルイーズの魅了もないなら、もう大丈夫よね?」

「……いや、まだ分からない。シャヴァネル公爵夫人の転移も厄介だ。ルイーズ様は今はどうなさっているのですか?」

「いつまでも城に置いておく訳にいかん。やった事は単にパーティーに乱入しただけだからな。監視を付けて記憶を消し、公爵と共に家に帰した。記憶を消せるのは1日が限界だから、これ以上留めておけん。記憶を消すならとルイーズと公爵に魅了魔法の事を聞いたが、惚けるばかりで、情報は得られなかった」

「いっそ拷問すれば良いではありませんか。怪我を治して、記憶を消せば良い」

冷たく言ったのはお兄様。とってもお怒りのご様子だわ。リュカも、隣で静かに頷いている。拷問は、さすがにまずいのではないかしら。

「落ち着いて、あなた。ルイーズの記憶を消してしまったから、しばらくは記憶を消せないわ。確か……1週間くらいは使えないのではなかった?」

お義姉様?! 止めて下さったと思ったら、そういう理由ですの?!
お姉様も悔しそうに呟いた。

「そうね。1週間も待てないし、記憶を消さないなら拷問するにはもっとやらかした証拠がないと無理よ」

何故、拷問が前提になっておりますの?!

「そうだな。捕らえるには証拠が足りぬ。ルイーズは魅了を使った事も、リュカがカトリーヌの婚約者になった事も忘れさせた。公爵もパーティーの最中の記憶を消した。だから、ルイーズはパーティー会場に現れてすぐに追い出された事になっておる。だが、パーティーに参加した全員の記憶を消す訳にいかん。他の貴族達から情報が漏れるのは時間の問題だ。とにかくルイーズが余計な事をしないように監視するしかない」

「そういえばシャヴァネル公爵夫人はパーティーにおられませんでしたね」

「今回は、国内の貴族は各家から1人だけと限定しておったのだ。メインはカトリーヌのお相手探しだったからな。国外の王族が多いパーティーでの出来事だから、子どもだから許せと言う者も現れなかった。ルイーズは一生王家主催のパーティーに参加させないと宣言したから、撤回は出来ない。そのうち怒り狂った妹が抗議に来るだろう。出来るだけ城に留めておき、最短で魔法を封じる」

お父様が宣言したところで、乱暴に扉がノックされました。許可を得て部屋に入って来たのは、王家お抱えの密偵です。

「失礼します! 緊急事態です!!! ルイーズ様が、クリストフ様を魅了なさいました!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する

蓮恭
恋愛
 父親が自分を呼ぶ声が聞こえたその刹那、熱いものが全身を巡ったような、そんな感覚に陥った令嬢レティシアは、短く唸って冷たい石造りの床へと平伏した。  視界は徐々に赤く染まり、せっかく身を挺して庇った侯爵も、次の瞬間にはリュシアンによって屠られるのを見た。 「リュシ……アン……さ、ま」  せめて愛するリュシアンへと手を伸ばそうとするが、無情にも嘲笑を浮かべた女騎士イリナによって叩き落とされる。 「安心して死になさい。愚かな傀儡令嬢レティシア。これから殿下の事は私がお支えするから心配いらなくてよ」  お願い、最後に一目だけ、リュシアンの表情が見たいとレティシアは願った。  けれどそれは自分を見下ろすイリナによって阻まれる。しかし自分がこうなってもリュシアンが駆け寄ってくる気配すらない事から、本当に嫌われていたのだと実感し、痛みと悲しみで次々に涙を零した。    両親から「愚かであれ、傀儡として役立て」と育てられた侯爵令嬢レティシアは、徐々に最愛の婚約者、皇太子リュシアンの愛を失っていく。  民の信頼を失いつつある帝国の改革のため立ち上がった皇太子は、女騎士イリナと共に謀反を起こした。  その時レティシアはイリナによって刺殺される。  悲しみに包まれたレティシアは何らかの力によって時を越え、まだリュシアンと仲が良かった幼い頃に逆行し、やり直しの機会を与えられる。  二度目の人生では傀儡令嬢であったレティシアがどのように生きていくのか?  婚約者リュシアンとの仲は?  二度目の人生で出会う人物達との交流でレティシアが得たものとは……? ※逆行、回帰、婚約破棄、悪役令嬢、やり直し、愛人、暴力的な描写、死産、シリアス、の要素があります。  ヒーローについて……読者様からの感想を見ていただくと分かる通り、完璧なヒーローをお求めの方にはかなりヤキモキさせてしまうと思います。  どこか人間味があって、空回りしたり、過ちも犯す、そんなヒーローを支えていく不憫で健気なヒロインを応援していただければ、作者としては嬉しい限りです。  必ずヒロインにとってハッピーエンドになるよう書き切る予定ですので、宜しければどうか最後までお付き合いくださいませ。      

忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子

水空 葵
恋愛
 公爵令嬢のシルフィーナはとあるパーティーで、「忌み子」と言われていることを理由に婚約破棄されてしまった。さらに冤罪までかけられ、窮地に陥るシルフィーナ。  そんな彼女は、王太子に助け出されることになった。  王太子に愛されるようになり幸せな日々を送る。  けれども、シルフィーナの力が明らかになった頃、元婚約者が「復縁してくれ」と迫ってきて……。 「そんなの絶対にお断りです!」 ※他サイト様でも公開中です。

半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多
恋愛
 侯爵令嬢のレティシアは恵まれていなかった。  両親には忌み子と言われ冷遇され、婚約者は浮気相手に夢中。  そしてトドメに、夢の中で「半月後に死ぬ」と余命宣告に等しい天啓を受けてしまう。  そんな状況でも、せめて最後くらいは幸せでいようと、レティシアは努力を辞めなかった。  すると不思議なことに、状況も運命も変わっていく。  そしてある時、冷徹と有名だけど優しい王子様に甘い言葉を囁かれるようになっていた。  それを知った両親が慌てて今までの扱いを謝るも、レティシアは許す気がなくて……。  恵まれない令嬢が運命を変え、幸せになるお話。 ※「小説家になろう」「カクヨム」でも公開しております。

【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ
恋愛
【完結しました】 アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。 だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。 気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。 「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」 アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。 敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。 アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。 前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。 ☆ ※ざまぁ有り(死ネタ有り) ※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。 ※ヒロインのパパは味方です。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。 ※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。 2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!

【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる
恋愛
領地が災害に見舞われたことで貧乏どん底の伯爵令嬢サラは子爵令息の婚約者がいたが、裕福な子爵令嬢に乗り換えられてしまう。婚約解消の慰謝料として受け取った金で、それまで我慢していたスイーツを食べに行ったところ運命の出会いを果たし、店主に断られながらも通い詰めてなんとかスイーツショップの店員になった。 貴族の令嬢には無理と店主に厳しくあしらわれながらも、めげずに下積みの修業を経てパティシエールになるサラ。 そしてサラを見守り続ける青年貴族との恋が始まる。 全44話、7/24より毎日8時に更新します。 よろしくお願いいたします。

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

処理中です...