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6.リュカの気持ち
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「何を笑っている! やはりルイーズの訴える通り貴様は悪女だな! 国に戻る事は許さない! 貴様はルイーズの代わりに仕事だけしていろ! 貴様の父親が来る時だけは王妃の振りをさせてやる!」
いけない。婚約破棄が嬉し過ぎて笑みが溢れていたようですね。過去を思い出していたら笑えてきてしまったのです。結果的にですが、リュカが居て良かったです。でないと、わたくしはとっくに潰れていました。なにせ、この城でわたくしの味方をしてくれるのはリュカだけなのですから。
わたくしが笑ったのが余程気に入らなかったのでしょう。クリストフ様は頭から火を噴き出しそうな程怒っていらっしゃいます。
お父様が来た時だけ王妃の振りをさせるなんて上手くいく訳ないのに。こんなに頭が悪い方だったかしら?
「一方的な婚約破棄を突きつけるだけでなく、わたくしを便利に扱うと? ふざけないで下さいませ。すぐに国に戻ります。クリストフ様の所業はしっかり報告させて頂きます。ルカ、帰るわよ!」
ルイーズは、突然現れました。お母様に送ってもらったと言っておりました。もしかしたら、おば様は転移の魔法が使えるのかもしれませんわね。ですが、普通ならば突然現れた他国の公爵令嬢の滞在など許されません。
それなのに、クリストフ様が強引に部屋を用意したのです。しかも、クリストフ様のお部屋の隣に。結婚したら、わたくしが住む予定で模様替えをしていた部屋を急いで整えさせてルイーズに与えたのです。
もちろん、クリストフ様のお父様もお母様も最初は咎めました。ですが、すぐにわたくしの悪口を叫ぶ息子を信じてしまわれたのです。今では、わたくしを王妃にして仕事だけさせておき、ルイーズを側妃にすれば良いと言っておりますわ。
なんだかおかしいです。こんな事がまかり通るなんて。
今回の婚約破棄も、ルイーズが言い出したに違いありません。きっと、ルイーズは側妃では嫌だったのでしょう。
「このっ! 悪女め!!!」
クリストフ様が剣を構えます。
まずい! このままでは殺されてしまいます。
「おやめください」
リュカ、いえ、侍女となったルカが素早くクリストフ様を止めました。姿は変わっても力は変わりません。クリストフ様も鍛えてはおりますが、リュカに勝てる訳ありません。
「この! 侍女の癖に王族に逆らうつもりか! コイツはカトリーヌの侍女だったな、ちょうどいい! 王族への反逆は処刑だ!」
「やめて! やめてください! お願い! なんでもするから彼女に手を出すのはやめて!」
わたくしは王女ですし、ルイーズの仕事をさせたいでしょうから利用価値があります。だけど、侍女であるルカは違います。クリストフ様の不興を買えば簡単に殺されてしまいますわ。それだけは嫌です。ルイーズが来てからは王妃教育も地獄でした。だけど、ルカが、いや……リュカが居たからなんとかやってこれました。何度もここを出ようと誘われましたわ。でも、リュカが居れば大丈夫だからと、あと少し、もう少しだけと我慢をしてしまったのです。
わたくしの必死な様子に、クリストフ様はニヤリと笑いました。
「なんでも……と言ったな。ならばルイーズの仕事をする為に王妃教育に励め。貴様は地下牢に入れる。仕事だけして生涯を終えろ」
「ルカは……わたくしの侍女はどうなりますの?」
「貴様が牢に入るなら解放してやる」
「駄目です。こんなクズの言葉をお耳に入れる必要はありません」
次の瞬間、優雅な所作で踵落としをする侍女が現れました。相変わらず強過ぎます。クリストフ様はあっさり倒れ、慌てて駆けつけた護衛達も一瞬で気絶しました。
「姫、此処に居てはなりません。逃げますよ」
そのままわたくしを抱えて物凄いスピードで走り出しました。
「クリストフ王子に手を出した侍女を殺せ!」
すぐに追っ手がかかりました。だけど、リュカに戻れば見つかりません。わたくしは、ルカの予備の服を着せられております。
「こんなもの、いつも持ち歩いていたの?!」
「ルイーズ様が現れてからいつでも逃げられるようにご用意しておりました。こんな事になるなら姫のご意思を尊重せずにさっさと此処を出れば良かった。俺の判断ミスです。さ、こんな所に長居は無用です。参りましょう。それとも、まだあの男が好きですか?」
「……クリストフ様への愛情なんて一欠片も残っていないわ」
「なら、俺を愛してくれますか? 国王から、貴女があの男に愛想を尽かしたなら口説いて良いと許可は頂いています」
「え……。ど、どうしてわたくしを口説くの?」
「俺はずっとカティが好きだったんだ。伯爵なら武功を立てれば王女と結婚出来るかもしれないって父上が言うから、必死で頑張った。けど、王子が相手じゃ勝てないからな。それに、カティを大事にしてるみたいだったからお似合いだと諦めたんだ。なのにあのザマだ。噂嫌いの父上の耳にまでえげつない話が伝わるくらいだから相当な事やってんだろ。だったら諦めなきゃ良かったってすっげぇ後悔した。ちょっとでも良いからカティの助けになりたくて、父上や国王陛下にカティの護衛に俺を付けろと直談判したんだ。都合の良い魔法が使えるからって、父上が国王陛下を説得してくれた。国王陛下はずいぶん怒っておられるみたいだぜ。手紙が来て、ルイーズ様は王城への生涯出入り禁止を言い渡されたそうだ。娘に甘い母親もな。だからあのクズを頼ったんだろ。ルイーズ様が現れた事は報告済みだ。さすがに国王陛下が許容する限界値を超えている。カティがまだ我慢すると言っていると手紙に書いたら、迎えを寄越すと返事が来た。そろそろ来る頃だろ。ルイーズ様も連れて帰る予定らしいぜ。国に帰って来てもルイーズ様の居場所は何処にもねぇけどな。ルイーズ様は魔法を封じられる。俺らの持つ特殊な魔法を封じる魔法ってのもあるんだと。結構なんでもありだよな。そうすりゃ、あの王子も元に戻るだろ。けど、もう我慢したくねぇ。アイツじゃなくて俺を選んでくれよ」
「例え元に戻ったとしてもクリストフ様とは結婚したくないわ。お父様が命じるなら仕方ないけど……」
「国王陛下はここまでの事をした男に大事な娘を嫁がせたりしねぇよ」
「そ、そうよね。リュカの事は信頼してるわ。でも……急過ぎて……」
「だよな。悪りぃ。けど、カティがアイツを好きじゃないのなら、俺を見てくれよ」
「それは……嬉しいわ。でも、わたくしは……。ねぇ、お父様はクリストフ様との結婚がうまくいかなければわたくしとリュカを結婚させようとしているのよね? だからリュカは色々詳しいの?」
「ああ、国王陛下が色々教えてくれた。カティを守る為だって機密情報まで教えられたぜ。結構きつかったけど、記憶力を高める魔法ってのがあるんだと。それでなんとかなった。でないと侍女の仕事なんてなかなか覚えられねぇよ。城の侍女長にめちゃめちゃ扱かれた。すげー怖かったぜ」
「ふふっ、そうね。彼女は厳しいわ」
リュカと国を出る時には、お父様とお母様以外は何故かわたくしに冷たかった。きっと、婚約者の心を繋ぎ留める事の出来ないわたくしに愛想を尽かされてしまったのでしょう。
だけど、侍女長はわたくしに付いて行くとまで言ってくれた。彼女も少し冷たかった気がしたのだけど、嫁ぐ前日には泣きながら準備をしてくれたわ。他の侍女達は、準備すらしてくれなかった。長年わたくしに仕えてくれたリリアも、冷たかったわ。
だから実は、久しぶりに会ったリュカの態度が変わらなくてホッとしたし、嬉しかった。そういえば、クリストフ様とルイーズの浮気現場を初めて見た時、たまたまだけどリュカに会ったのよね。すぐに別れたけど、わたくしが落ち込んでいるのを察してくれたのか優しく笑いかけてくれたわ。
リュカはとても人気があるし、強くて立派な騎士。婚約者に愛されないわたくしがリュカに相応しいとは思えない。
そんなリュカが、わたくしを好き? 最初は、お父様の命令で仕方なく言ってるのかと思ったけど、リュカはそんな事をする人ではない。
混乱しているわたくしに、リュカは優しく笑いかけてくれた。
「俺さ、国王陛下に直談判したんだ。俺の方がカティを幸せに出来るし、必要ならもっと武功を立てるからカティと結婚させてくれって。けど、カティの婚約はもう成立してる。国同士の約束だから簡単に解消出来ない。口説く許可を貰うのがやっとだった」
「そうだったのね。わたくしはリュカを好ましいと思っているけど……異性として好きかどうかは、まだ分からないわ」
それに、本当にわたくしで良いのかとも思う。
「嫌われてないなら充分だ。これから、ちょっとずつで良いから俺を意識してくれよ。言っとくけどカティが幸せならこんな事言うつもりは無かったぞ。アイツは酷すぎる。ってか、この城全部がおかしい。なぁ、ルイーズ様って王族の血を引いてるから俺みたいな特殊な魔法が使えるんだよな? なんか魔法使ってんじゃねぇの?」
「……そうね。でも、どんな魔法かは親しか知らないのよね」
「魅了とかじゃねぇと思うんだけどな。魅了は、必ず報告しないといけないらしいからな。あーもぅ! くっそ! せめて国王陛下には全部知らせるようにすりゃあ良いのに。鑑定人の記憶を奪ってまで秘密にするから、今まで情報が漏れなかったんだろうけど、国王陛下は知ってて良いだろ。父上みたいに自主的に伝える奴ばっかりじゃねぇんだ! くっそ! 俺に鑑定がありゃあ良かったのに……!」
リュカは、険しい表情で舌打ちをしました。
「リュカ、口調が乱れてるわ」
「カティと話すなら敬語なんて使わねぇよ。それとも姫として扱うか?」
「……今のままが良いわ」
「って事は、ちょっとは脈があると自惚れるぞ。さっきだって、なんで俺のためになんでもするなんて言うんだよ。俺が言われてみたい台詞だぞ。あんなクズに言わないでくれよ」
「だってリュカが殺されると思って!」
「そんな簡単に殺されねぇよ。ほら、行こうぜ。顔、隠せよ。俺の顔を知ってる奴はいねぇから、堂々と出て行こうぜ」
顔を隠せて良かったですわ。今のわたくしは、おそらく顔が真っ赤でしょうから。
いけない。婚約破棄が嬉し過ぎて笑みが溢れていたようですね。過去を思い出していたら笑えてきてしまったのです。結果的にですが、リュカが居て良かったです。でないと、わたくしはとっくに潰れていました。なにせ、この城でわたくしの味方をしてくれるのはリュカだけなのですから。
わたくしが笑ったのが余程気に入らなかったのでしょう。クリストフ様は頭から火を噴き出しそうな程怒っていらっしゃいます。
お父様が来た時だけ王妃の振りをさせるなんて上手くいく訳ないのに。こんなに頭が悪い方だったかしら?
「一方的な婚約破棄を突きつけるだけでなく、わたくしを便利に扱うと? ふざけないで下さいませ。すぐに国に戻ります。クリストフ様の所業はしっかり報告させて頂きます。ルカ、帰るわよ!」
ルイーズは、突然現れました。お母様に送ってもらったと言っておりました。もしかしたら、おば様は転移の魔法が使えるのかもしれませんわね。ですが、普通ならば突然現れた他国の公爵令嬢の滞在など許されません。
それなのに、クリストフ様が強引に部屋を用意したのです。しかも、クリストフ様のお部屋の隣に。結婚したら、わたくしが住む予定で模様替えをしていた部屋を急いで整えさせてルイーズに与えたのです。
もちろん、クリストフ様のお父様もお母様も最初は咎めました。ですが、すぐにわたくしの悪口を叫ぶ息子を信じてしまわれたのです。今では、わたくしを王妃にして仕事だけさせておき、ルイーズを側妃にすれば良いと言っておりますわ。
なんだかおかしいです。こんな事がまかり通るなんて。
今回の婚約破棄も、ルイーズが言い出したに違いありません。きっと、ルイーズは側妃では嫌だったのでしょう。
「このっ! 悪女め!!!」
クリストフ様が剣を構えます。
まずい! このままでは殺されてしまいます。
「おやめください」
リュカ、いえ、侍女となったルカが素早くクリストフ様を止めました。姿は変わっても力は変わりません。クリストフ様も鍛えてはおりますが、リュカに勝てる訳ありません。
「この! 侍女の癖に王族に逆らうつもりか! コイツはカトリーヌの侍女だったな、ちょうどいい! 王族への反逆は処刑だ!」
「やめて! やめてください! お願い! なんでもするから彼女に手を出すのはやめて!」
わたくしは王女ですし、ルイーズの仕事をさせたいでしょうから利用価値があります。だけど、侍女であるルカは違います。クリストフ様の不興を買えば簡単に殺されてしまいますわ。それだけは嫌です。ルイーズが来てからは王妃教育も地獄でした。だけど、ルカが、いや……リュカが居たからなんとかやってこれました。何度もここを出ようと誘われましたわ。でも、リュカが居れば大丈夫だからと、あと少し、もう少しだけと我慢をしてしまったのです。
わたくしの必死な様子に、クリストフ様はニヤリと笑いました。
「なんでも……と言ったな。ならばルイーズの仕事をする為に王妃教育に励め。貴様は地下牢に入れる。仕事だけして生涯を終えろ」
「ルカは……わたくしの侍女はどうなりますの?」
「貴様が牢に入るなら解放してやる」
「駄目です。こんなクズの言葉をお耳に入れる必要はありません」
次の瞬間、優雅な所作で踵落としをする侍女が現れました。相変わらず強過ぎます。クリストフ様はあっさり倒れ、慌てて駆けつけた護衛達も一瞬で気絶しました。
「姫、此処に居てはなりません。逃げますよ」
そのままわたくしを抱えて物凄いスピードで走り出しました。
「クリストフ王子に手を出した侍女を殺せ!」
すぐに追っ手がかかりました。だけど、リュカに戻れば見つかりません。わたくしは、ルカの予備の服を着せられております。
「こんなもの、いつも持ち歩いていたの?!」
「ルイーズ様が現れてからいつでも逃げられるようにご用意しておりました。こんな事になるなら姫のご意思を尊重せずにさっさと此処を出れば良かった。俺の判断ミスです。さ、こんな所に長居は無用です。参りましょう。それとも、まだあの男が好きですか?」
「……クリストフ様への愛情なんて一欠片も残っていないわ」
「なら、俺を愛してくれますか? 国王から、貴女があの男に愛想を尽かしたなら口説いて良いと許可は頂いています」
「え……。ど、どうしてわたくしを口説くの?」
「俺はずっとカティが好きだったんだ。伯爵なら武功を立てれば王女と結婚出来るかもしれないって父上が言うから、必死で頑張った。けど、王子が相手じゃ勝てないからな。それに、カティを大事にしてるみたいだったからお似合いだと諦めたんだ。なのにあのザマだ。噂嫌いの父上の耳にまでえげつない話が伝わるくらいだから相当な事やってんだろ。だったら諦めなきゃ良かったってすっげぇ後悔した。ちょっとでも良いからカティの助けになりたくて、父上や国王陛下にカティの護衛に俺を付けろと直談判したんだ。都合の良い魔法が使えるからって、父上が国王陛下を説得してくれた。国王陛下はずいぶん怒っておられるみたいだぜ。手紙が来て、ルイーズ様は王城への生涯出入り禁止を言い渡されたそうだ。娘に甘い母親もな。だからあのクズを頼ったんだろ。ルイーズ様が現れた事は報告済みだ。さすがに国王陛下が許容する限界値を超えている。カティがまだ我慢すると言っていると手紙に書いたら、迎えを寄越すと返事が来た。そろそろ来る頃だろ。ルイーズ様も連れて帰る予定らしいぜ。国に帰って来てもルイーズ様の居場所は何処にもねぇけどな。ルイーズ様は魔法を封じられる。俺らの持つ特殊な魔法を封じる魔法ってのもあるんだと。結構なんでもありだよな。そうすりゃ、あの王子も元に戻るだろ。けど、もう我慢したくねぇ。アイツじゃなくて俺を選んでくれよ」
「例え元に戻ったとしてもクリストフ様とは結婚したくないわ。お父様が命じるなら仕方ないけど……」
「国王陛下はここまでの事をした男に大事な娘を嫁がせたりしねぇよ」
「そ、そうよね。リュカの事は信頼してるわ。でも……急過ぎて……」
「だよな。悪りぃ。けど、カティがアイツを好きじゃないのなら、俺を見てくれよ」
「それは……嬉しいわ。でも、わたくしは……。ねぇ、お父様はクリストフ様との結婚がうまくいかなければわたくしとリュカを結婚させようとしているのよね? だからリュカは色々詳しいの?」
「ああ、国王陛下が色々教えてくれた。カティを守る為だって機密情報まで教えられたぜ。結構きつかったけど、記憶力を高める魔法ってのがあるんだと。それでなんとかなった。でないと侍女の仕事なんてなかなか覚えられねぇよ。城の侍女長にめちゃめちゃ扱かれた。すげー怖かったぜ」
「ふふっ、そうね。彼女は厳しいわ」
リュカと国を出る時には、お父様とお母様以外は何故かわたくしに冷たかった。きっと、婚約者の心を繋ぎ留める事の出来ないわたくしに愛想を尽かされてしまったのでしょう。
だけど、侍女長はわたくしに付いて行くとまで言ってくれた。彼女も少し冷たかった気がしたのだけど、嫁ぐ前日には泣きながら準備をしてくれたわ。他の侍女達は、準備すらしてくれなかった。長年わたくしに仕えてくれたリリアも、冷たかったわ。
だから実は、久しぶりに会ったリュカの態度が変わらなくてホッとしたし、嬉しかった。そういえば、クリストフ様とルイーズの浮気現場を初めて見た時、たまたまだけどリュカに会ったのよね。すぐに別れたけど、わたくしが落ち込んでいるのを察してくれたのか優しく笑いかけてくれたわ。
リュカはとても人気があるし、強くて立派な騎士。婚約者に愛されないわたくしがリュカに相応しいとは思えない。
そんなリュカが、わたくしを好き? 最初は、お父様の命令で仕方なく言ってるのかと思ったけど、リュカはそんな事をする人ではない。
混乱しているわたくしに、リュカは優しく笑いかけてくれた。
「俺さ、国王陛下に直談判したんだ。俺の方がカティを幸せに出来るし、必要ならもっと武功を立てるからカティと結婚させてくれって。けど、カティの婚約はもう成立してる。国同士の約束だから簡単に解消出来ない。口説く許可を貰うのがやっとだった」
「そうだったのね。わたくしはリュカを好ましいと思っているけど……異性として好きかどうかは、まだ分からないわ」
それに、本当にわたくしで良いのかとも思う。
「嫌われてないなら充分だ。これから、ちょっとずつで良いから俺を意識してくれよ。言っとくけどカティが幸せならこんな事言うつもりは無かったぞ。アイツは酷すぎる。ってか、この城全部がおかしい。なぁ、ルイーズ様って王族の血を引いてるから俺みたいな特殊な魔法が使えるんだよな? なんか魔法使ってんじゃねぇの?」
「……そうね。でも、どんな魔法かは親しか知らないのよね」
「魅了とかじゃねぇと思うんだけどな。魅了は、必ず報告しないといけないらしいからな。あーもぅ! くっそ! せめて国王陛下には全部知らせるようにすりゃあ良いのに。鑑定人の記憶を奪ってまで秘密にするから、今まで情報が漏れなかったんだろうけど、国王陛下は知ってて良いだろ。父上みたいに自主的に伝える奴ばっかりじゃねぇんだ! くっそ! 俺に鑑定がありゃあ良かったのに……!」
リュカは、険しい表情で舌打ちをしました。
「リュカ、口調が乱れてるわ」
「カティと話すなら敬語なんて使わねぇよ。それとも姫として扱うか?」
「……今のままが良いわ」
「って事は、ちょっとは脈があると自惚れるぞ。さっきだって、なんで俺のためになんでもするなんて言うんだよ。俺が言われてみたい台詞だぞ。あんなクズに言わないでくれよ」
「だってリュカが殺されると思って!」
「そんな簡単に殺されねぇよ。ほら、行こうぜ。顔、隠せよ。俺の顔を知ってる奴はいねぇから、堂々と出て行こうぜ」
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