上 下
26 / 27
番外編・その後

お嬢様は幸せそうだ【ダニエル視点1】

しおりを挟む
「ねぇ、これどう思う?」

お嬢様が、嬉しそうに取り出したのは美しいドレスのデザイン画。

「素晴らしいですね。左右の形が非対称なのが新鮮で美しいです」

「売れるかしら?」

「売れると思いますよ。宣伝としてお嬢様が着用して夜会にご出席すれば、確実に売れます」

「分かったわ。試作品を着て明日の夜会に行ってみる」

試作品?
なにを言ってるんだこのお嬢様は。ご自身の美しさを分かってらっしゃらない。

「商品化して、在庫を整えてから夜会で着用する方がよろしいかと」

「作っても、売れないかもしれないわよ?」

「確実に売れますよ。マークさんもそうおっしゃっているのでは?」

「……うん。そう言ってた」

「欲しいものが目の前にあるのに手に入らない。そんな時、人はストレスを抱えます。大切な婚約者様のお店を困らせたくはないでしょう?」

「そうね。分かったわ。ありがとうダニエル」

……なにを言ってるんだ俺は。マークさんはお嬢様に相応しい。あの人は平民なのに、貴族より力を持っている。金もあり、お嬢様一筋だ。

なにより、マークさんの前で話をするお嬢様は無邪気で美しい。いつも表情を変えないお嬢様は、冷静で感情的にならないと思われているが違う。

王妃教育で叩き込まれて、我慢しているだけだ。

彼女の内面は、常に燃え上がっている。だが、それを見せる相手は限られる。お嬢様は、俺に気を許してくれている。だけど、お嬢様が求めるものを俺は返せない。

マークさんのような知的なやり取りは、できない。

お嬢様とマークさんは、流れるようなやり取りをなさる。二人の話を聞きながら、毎日勉強する日々だ。

俺がマークさんと同じくらいお嬢様と年齢が離れていれば……お嬢様は俺を選んでくれたのだろうか。

……いや、無理だな。

あの人は、お嬢様の事を大切にしているし、お嬢様もマークさんを好いている。俺が入る隙間はない。

お嬢様の指に輝く指輪は、外見からは分からないが肌に触れる部分は木でできている。お嬢様は、金属を肌に付けて時間が経つと赤くなる。ネックレスも服の上から身に付けるし、指輪は滅多にしない。

お嬢様自身は、なんだか違和感があるから好きではない程度に思っているが、おそらく金属アレルギーなのだろう。最近発見されたアレルギーという症状。人によっては、毒でないものが毒になる。お嬢様にとって、金属は毒なのだ。

マークさんが医師を呼び、大量の医術書を買い集めていたと情報は得ている。

お嬢様は、入浴と睡眠の時以外はずっとマークさんから贈られた指輪をしている。お嬢様の指は美しいままだ。

俺には、マークさんのような資金力も人脈もない。

分かってただろ。マークさんを調べれば調べるほど、無理だと諦める日々だったじゃないか。

……それでも、俺はお嬢様を諦められない。今は立派な国王陛下だが、あの人と婚約している時はまだ良かった。お嬢様は俺を頼ってくれたし、旦那様のお力で城に入り込む事ができる。結婚しても、お嬢様を支えられる。そう思っていた。

だが、マークさんと結婚してしまえば話は変わる。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【ほか】続きです。

結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。ありがとうございます。

黒田悠月
恋愛
結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。 とっても嬉しいです。ありがとうございます!

私の婚約者はお姉さまが好きなようです~私は国王陛下に愛でられました~

安奈
恋愛
「マリア、私との婚約はなかったことにしてくれ。私はお前の姉のユリカと婚約したのでな」 「マリア、そういうことだから。ごめんなさいね」 伯爵令嬢マリア・テオドアは婚約者のカンザス、姉のユリカの両方に裏切られた。突然の婚約破棄も含めて彼女は泣き崩れる。今後、屋敷でどんな顔をすればいいのかわからない……。 そこへ現れたのはなんと、王国の最高権力者であるヨハン・クラウド国王陛下であった。彼の救済を受け、マリアは元気づけられていく。そして、側室という話も出て来て……どうやらマリアの人生は幸せな方向へと進みそうだ。

余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。
恋愛
 昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。  しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。  そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。  彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?

このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!

夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」 自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。 私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。 覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?

新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

処理中です...