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14.毒が吐ける

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シルビア様とフィリップに仕事を教えるのは簡単だった。シルビア様は、これくらいなら出来ますと挑発的な事を言い出した。

フィリップも真面目にやっていたけど、仕事が少なくなっている事には気が付かなかった。余裕そうだったわ。フィリップは仕事が出来たはずなのに、なんでサボるようになっちゃったのかしら。最近は忙しくて話す暇もなかったけど、以前はこんな人じゃなかったのに。シルビア様も、わたくしを敵視してるけど真面目にやっている。

けど、フィリップが迷うとすぐシルビア様が口を出すのが気になるわ。それに、なぜか人が来ると二人で甘い雰囲気を作り出していちゃつくのも変。

フィリップの様子が、なんだかおかしい。シルビア様を愛しているのは本当だと思う。けど、なんだか無理してるように見える。シルビア様も、人がいる時だけ、わたくしに敵意を向ける。

フィリップが馬車まで送りに来てくれたので、婚約破棄で良いから早く別れましょうと囁くとシルビア様の顔色が変わった。フィリップは受け入れてくれたけど、シルビア嬢は『今まで尽くしてきたマーガレット様を蔑ろには出来ません。わたくしは側妃としてフィリップ様を支えます』なんて面倒な事を言い出した。

そのせいで、フィリップも迷い始めてしまった。あのおバカ! お人好し!
マーガレットが正妃なら良いのかな。なんて言い出した時はキレそうだったわ。

フィリップって、こんなに頼りなかったかしら? 優しい良い人だったけど、芯はしっかりしてたと思うんだけど。

恋は人を変えるって本当なのね。

「それでは、またお仕事を教えて下さいませ」

そう言って、シルビア様は帰って行った。勝者の笑みを浮かべていたわ。

マークの接待を受けた侍女達は、肌がツヤツヤになっていた。

「……ええ、わたくしは疲れたから寝るわ」

「お嬢様。その前に頼まれていたお兄様の誕生日プレゼントをご用意しましたので、見て下さいますか?」

「分かったわ」

侍女達がわたくしを馬鹿にした目で見てくる。商人が顧客の買い物情報を漏らすなんてあまりない。マークは、嫌々わたくしと取引をしているんだろう。そう思わせる為の行動だ。

子羊達を見送り、馬車が見えなくなった瞬間ため息を吐いた。

「その顔は、なんか失敗したな?」
「うん。婚約破棄、駄目かも」
「……そうか。まさかと思うがあのお嬢さんの前で婚約破棄の話をしたんじゃねぇよな?」
「……ごめん、話した。もしかして、ダメだった?」
「子羊は、ハリソン家が独立したらまずい。そう思ってるみたいだぜ」
「しまった……だからわたくしに正妃になれって言ってきたのね。シルビア様の前できちんと話をして正妃になる覚悟を決めてもらおうと思ったのよ。けど、あの子が王妃で大丈夫かしら。シルビア様は黙って自分の意見が出るまで待ってくれるなんて言ってたけど、シルビア様がフィリップを誘導してる。あのままじゃ、国王はシルビア様になってしまうわ。確かにあの子は仕事が出来る。わたくしと違って単純作業は早いわ。けど、それだけでわたくしがやってきた事を全て理解したと思われても困る」

シルビア様を認めたくない。そんな気持ちがあるせいでどうにも彼女への評価が厳しめになってしまう。誰にも言えないけど、マークの前では、こんな毒も吐ける。
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