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9.マーク視点1

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「マークさん。旦那様がお呼びです」

お嬢様に商品を勧めて帰ろうとすると、ダニエルさんに呼び止められた。やっべ。もう伝わってんな。さすが有能執事。

先を越されて怒ってるよなー。

けど、先手必勝だ。マーガレットの外見はクールビューティだけど、中身は乙女だからストレートな愛の言葉が効く。きっと今頃、俺の事で頭がいっぱいになってるだろう。

「分かりました。伺います」

不機嫌なダニエルさんと歩くのは居心地が悪りぃけど、これくらい我慢しよう。多分この人、内心めちゃくちゃムカついてんだろーなぁ。

平民の商人が王太子の婚約者を口説くなんて、前代未聞だもんな。

マーガレットを口説く為に爵位がいるんなら、伯爵までは用意できるけどよ。伯爵家と公爵家ならギリありじゃね? 色んな貴族が俺に借金してるからな。爵位を買うのは簡単じゃねぇが可能だ。膨れ上がって返せそうもねぇ額を借りてるお貴族様も多い。

爵位を売り買い出来るこの国は、爵位の価値が低い。俺みたいに、確実に支払いをしてくれそうな奴に売るのは悪い選択ではない。

「着きました。どうぞごゆっくり」

「……ダニエルさんは、入らないんですか?」

「私は大切な用があるので失礼します」

あーこれ、マーガレットのとこに行くな。
……ちぇ、ライバル登場かよ。ダニエルさんは子爵家の次男だったよな。ちょっと調べておくか。ま、それは後回しだ。

今はまず、どうやって生きて帰るか考えねぇと。

「よく来たな」

部屋に入ると、ハリソン公爵とマーガレットの兄上のルーク様が笑顔で待っていた。

チッ……! 部屋に入った瞬間、殺気を浴びせるんじゃねぇよ!

笑顔で殺気って、この人達くらいしか出来ねぇよな。こんなもんに負ける気はねぇけど。あの甘ちゃん王子なら気絶してんじゃね。

「いつも弊社をご贔屓頂きありがとうございます」

商人の仮面を被り、微笑む。こんなもので騙せるとは思ってねぇが、俺の武器はこれしかねぇからな。

「いつも滞りなく支払いをしていたはずだが、今日はずいぶん法外な報酬を要求したらしいな」

ルーク様が、獲物を見定めるように俺を睨みつける。怖えけど、これくらいは想定内だ。

俺は肩をすくめ、余裕ありげに微笑む。これは商談だ。

「くれ、なんて言ってませんよ。口説く許可を頂きたいとお願いしただけです。それに、まだ許可すら頂いていませんよ」

「まずは我々に話を通すべきだろう」

そんな事したら、手に入らないだろう。だから裏技を使ったんだよ。

「マーガレットは喜んでいた。貴様! いつからマーガレットを狙っていた!」

ルーク様はイライラした様子で俺に殺気を浴びせる。

そう。マーガレットは俺の事を気に入ってくれている。彼女の好みは強く優しい男。だから俺は、体を鍛えて紳士的な振る舞いを身に付けた。

「私は商人です。欲しいものが手に入るチャンスを逃すほど愚かではないのです」
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