82 / 95
82.追放テイマーと追放女神
しおりを挟む
胸に手を当てて、ぎゅっと両手を握りしめる。
……大丈夫
……わかる。伝わってるよ。
みんなとつながってる温かい気持ち。
――だって。
私は調教師なんだから!!
契約した使役獣の感情がわかるのは、調教師の大事なスキルの一つ。
使役獣を操るっていうのは、ゲームや小説とかなり違ってて。
動物を自由に操れるわけじゃないんだよね。
すごく簡単にいうと。
相手の気持ちを理解しながら、こっちの希望をお願いする感じ。
まぁ、当り前だよね。お違い生き物なんだし。
お互いの信頼関係で成り立つ職業。
……。
…………。
だけど。
だけど。
うん、すごく温かい気持ちなんだけど。
こんな風に一方的に感情が流れ込んでくるスキルじゃないんだけど!!
聞いてる私が恥ずかしいレベルなんですけど!!
『ショコラちゃん、好き。大好き! 心から愛してます』
『ショコラ……国や王位を捨てたとしても……君のそばに……』
『マイヒロイン。この世界を君と一緒にいつまでも……』
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
どうしよう。
罰ゲーム?
なにかの罰ゲームなの?
「……水沢さん、どうしたの? 真っ赤な顔をしてますよ?」
「め、女神エリエル様。私ちゃんと覚えてます、忘れてなんていません」
「……ウソ? あはは、まさか異世界がある、なんて言いませんよね?」
私は大きく深呼吸して、大きな声ではっきり答えた。
「あります。だって私、そこでちゃんと生活してましたから!!」
**********
校長先生……ううん、エリエル様は、私の言葉に驚いたような表情をする。
「そう……魔法を破ったのね、水沢さん。それじゃあ……仕方ないわね」
彼女は大きなため息をつくと、少しづつ距離をつめてきた。
さっきの記憶を閉じ込める魔法は……女神の力。
今度はどんな魔法を……。
ぎゅっと身構えた次の瞬間。
女神様は、泣きそうな顔で私にしがみついてきた。
「えー。なんでよぉ。予定と全然ちがうじゃない!」
「予定ってなんです!」
「だってだって。こんなに一瞬で記憶が戻るとか、聞いてないんですけど!」
涙で服の袖が濡れている。
あー。
やっぱり……私の知ってるエリエル様だ。
「しばらくこっちの世界で過ごして、何かをきっかけに思い出すのが定番なのに!」
「知りませんよ! っていうか、なんですか定番って!」
「どうしよおぉぉ、ねぇ、私どうしたらいいのぉ?」
どうしたらって。
私が聞きたいんですけど、それ。
「エリエル様、なんで私、いきなり前世に戻ったんですか?」
「ぐすぐす。それはあれ。例の女神の試練ってやつよ」
「試練?」
「そう。転生前の世界にもどった勇者が、異世界を思い出すっていう……よくあるやつよね!」
確かに、ラノベで読んだことある気もするけど。
よくあるのかなぁ……。
「せっかく、せっかく。ショコラちゃんのコンサートを我慢して準備を進めでだのにぃぃぃ」
「準備って?」
エリエル様は顔を上げると、涙目でうったえてくる。
「例えばぁ。偶然、宅急便の黒猫マークを見て思い出すように、宅急便をたくさん依頼したり……」
「うわぁ……すごく迷惑……」
「商店街で乗馬体験が当たって……黒馬に乗馬するイベントがあったりぃ……」
「それは、ちょっと楽しそう」
「あとあと、謎の金髪好青年が転校してくるイベントも……」
「なにそれ!?」
「なのになのに。なんでこんなにあっさり思い出しちゃうのよぉぉぉ」
「なんでって言われても……」
だって。
今この瞬間も、みんなの感情が流れ込んできてるんだから。
……。
というか。
本当にこれ、聞いてて恥ずかしすぎる。
どうしよう、何かの呪いみたい。
「ねぇぇ、ショコラちゃん。しばらく異世界忘れたふりしてもらってもいい? ねぇ、いい?」
エリエル様は、再び私に抱きついてきた。
「え、エリエル様?」
「これバレたら、私今度こそ天界追放されちゃうから。ホント、ピンチだからぁぁ!!」
頬をすりよせてくるから、私の頬も涙で濡れる。
「ちょ、ちょっと。わかりました。ふりをすればいいですね?」
「そう。あとで思い出したって感じで!」
女神も……なんだか大変なんだなぁ。
私は抱きつかれたまま、うなずいた。
「ありがとう! さすがショコラちゃんね。先輩として全力でフォローするからね!」
「先輩って?」
「いいのいいの、こっちの話よ。じゃぁ、さっそくだけど、何か困ってることある?」
エリエル様は、指で涙をふくと、可愛らしく微笑んだ。
困ってることっていったら。
今緊急でなんとかしなくちゃいけないことが……。
「エリエル様、調教師のスキルが暴走してるみたいで……感情が流れ込んでくるんです」
「あー。そんなの簡単よ超天才女神、エリエル様に任せてよね!」
彼女が小さく指で丸を描くと、周囲が光で包まれた。
「どう? これで静かになったでしょ?」
ホントだ。
さっきまで内側から聞こえてきた声が静かに……。
『ショコラ。もし元の世界にもどっていたとしても。必ず君を見つけ出すよ』
『マイヒロイン、ショコラ。もう、君のいない魔界なんて……考えられない』
……。
……あれ?
「サービスで、王子と魔王の感情だけ残しておいたわ。どう? 嬉しいでしょ?」
エリエル様はいたずらっぽい顔でニヤッとわらっている。
もう。
もうもうもう!!!
「いいから、二人の感情も、早くなんとかしてください!!」
私は両手で頬を押さえてその場にうずくまった。
……大丈夫
……わかる。伝わってるよ。
みんなとつながってる温かい気持ち。
――だって。
私は調教師なんだから!!
契約した使役獣の感情がわかるのは、調教師の大事なスキルの一つ。
使役獣を操るっていうのは、ゲームや小説とかなり違ってて。
動物を自由に操れるわけじゃないんだよね。
すごく簡単にいうと。
相手の気持ちを理解しながら、こっちの希望をお願いする感じ。
まぁ、当り前だよね。お違い生き物なんだし。
お互いの信頼関係で成り立つ職業。
……。
…………。
だけど。
だけど。
うん、すごく温かい気持ちなんだけど。
こんな風に一方的に感情が流れ込んでくるスキルじゃないんだけど!!
聞いてる私が恥ずかしいレベルなんですけど!!
『ショコラちゃん、好き。大好き! 心から愛してます』
『ショコラ……国や王位を捨てたとしても……君のそばに……』
『マイヒロイン。この世界を君と一緒にいつまでも……』
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
どうしよう。
罰ゲーム?
なにかの罰ゲームなの?
「……水沢さん、どうしたの? 真っ赤な顔をしてますよ?」
「め、女神エリエル様。私ちゃんと覚えてます、忘れてなんていません」
「……ウソ? あはは、まさか異世界がある、なんて言いませんよね?」
私は大きく深呼吸して、大きな声ではっきり答えた。
「あります。だって私、そこでちゃんと生活してましたから!!」
**********
校長先生……ううん、エリエル様は、私の言葉に驚いたような表情をする。
「そう……魔法を破ったのね、水沢さん。それじゃあ……仕方ないわね」
彼女は大きなため息をつくと、少しづつ距離をつめてきた。
さっきの記憶を閉じ込める魔法は……女神の力。
今度はどんな魔法を……。
ぎゅっと身構えた次の瞬間。
女神様は、泣きそうな顔で私にしがみついてきた。
「えー。なんでよぉ。予定と全然ちがうじゃない!」
「予定ってなんです!」
「だってだって。こんなに一瞬で記憶が戻るとか、聞いてないんですけど!」
涙で服の袖が濡れている。
あー。
やっぱり……私の知ってるエリエル様だ。
「しばらくこっちの世界で過ごして、何かをきっかけに思い出すのが定番なのに!」
「知りませんよ! っていうか、なんですか定番って!」
「どうしよおぉぉ、ねぇ、私どうしたらいいのぉ?」
どうしたらって。
私が聞きたいんですけど、それ。
「エリエル様、なんで私、いきなり前世に戻ったんですか?」
「ぐすぐす。それはあれ。例の女神の試練ってやつよ」
「試練?」
「そう。転生前の世界にもどった勇者が、異世界を思い出すっていう……よくあるやつよね!」
確かに、ラノベで読んだことある気もするけど。
よくあるのかなぁ……。
「せっかく、せっかく。ショコラちゃんのコンサートを我慢して準備を進めでだのにぃぃぃ」
「準備って?」
エリエル様は顔を上げると、涙目でうったえてくる。
「例えばぁ。偶然、宅急便の黒猫マークを見て思い出すように、宅急便をたくさん依頼したり……」
「うわぁ……すごく迷惑……」
「商店街で乗馬体験が当たって……黒馬に乗馬するイベントがあったりぃ……」
「それは、ちょっと楽しそう」
「あとあと、謎の金髪好青年が転校してくるイベントも……」
「なにそれ!?」
「なのになのに。なんでこんなにあっさり思い出しちゃうのよぉぉぉ」
「なんでって言われても……」
だって。
今この瞬間も、みんなの感情が流れ込んできてるんだから。
……。
というか。
本当にこれ、聞いてて恥ずかしすぎる。
どうしよう、何かの呪いみたい。
「ねぇぇ、ショコラちゃん。しばらく異世界忘れたふりしてもらってもいい? ねぇ、いい?」
エリエル様は、再び私に抱きついてきた。
「え、エリエル様?」
「これバレたら、私今度こそ天界追放されちゃうから。ホント、ピンチだからぁぁ!!」
頬をすりよせてくるから、私の頬も涙で濡れる。
「ちょ、ちょっと。わかりました。ふりをすればいいですね?」
「そう。あとで思い出したって感じで!」
女神も……なんだか大変なんだなぁ。
私は抱きつかれたまま、うなずいた。
「ありがとう! さすがショコラちゃんね。先輩として全力でフォローするからね!」
「先輩って?」
「いいのいいの、こっちの話よ。じゃぁ、さっそくだけど、何か困ってることある?」
エリエル様は、指で涙をふくと、可愛らしく微笑んだ。
困ってることっていったら。
今緊急でなんとかしなくちゃいけないことが……。
「エリエル様、調教師のスキルが暴走してるみたいで……感情が流れ込んでくるんです」
「あー。そんなの簡単よ超天才女神、エリエル様に任せてよね!」
彼女が小さく指で丸を描くと、周囲が光で包まれた。
「どう? これで静かになったでしょ?」
ホントだ。
さっきまで内側から聞こえてきた声が静かに……。
『ショコラ。もし元の世界にもどっていたとしても。必ず君を見つけ出すよ』
『マイヒロイン、ショコラ。もう、君のいない魔界なんて……考えられない』
……。
……あれ?
「サービスで、王子と魔王の感情だけ残しておいたわ。どう? 嬉しいでしょ?」
エリエル様はいたずらっぽい顔でニヤッとわらっている。
もう。
もうもうもう!!!
「いいから、二人の感情も、早くなんとかしてください!!」
私は両手で頬を押さえてその場にうずくまった。
0
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
俺は5人の勇者の産みの親!!
王一歩
ファンタジー
リュートは突然、4人の美女達にえっちを迫られる!?
その目的とは、子作りを行い、人類存亡の危機から救う次世代の勇者を誕生させることだった!
大学生活初日、巨乳黒髪ロング美女のカノンから突然告白される。
告白された理由は、リュートとエッチすることだった!
他にも、金髪小悪魔系お嬢様吸血鬼のアリア、赤髪ロリ系爆乳人狼のテル、青髪ヤンデレ系ちっぱい娘のアイネからもえっちを迫られる!
クラシックの音楽をモチーフとしたキャラクターが織りなす、人類存亡を賭けた魔法攻防戦が今始まる!
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる