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67.追放テイマーとメディアの力

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 私は玉座に座ったまま部屋を見渡した。

 二つ並んでいる椅子のもうひとつには、魔王シャルルさん。
 謁見の間には、親衛隊と側近のメンバーが左右に並んでいる。

 みんな慌てて整列したみたいで。
 よく見ると裏表逆に服を着ていたり、旗が逆向きだったりする人もいる。

 ――でもさ。
 
 さっきの伝令のこともあるし。
 狙ってやってる可能性もあるよね。
 ツッコミ待ちみたいな……。

 だって魔王軍だし。

「……我が主よ、よろしいかな?」
「あ、大丈夫です。新聞記者を通してください」
「かしこまりました!」

 謁見の間の大きな扉が開かれて、一人の男が入ってきた。

 丸い小さな眼鏡を片目にかけていて、長身で細身な感じ。
 長い三角形の顔、細長く笑っているような糸目。
 動物でいうとキツネみたいな印象かな。

「いやぁ、魔界の主様と魔王様に拝謁を賜りまして、恐悦至極です」

 彼は両手をこすりながら、一枚の紙を差し出してきた。

「ふむ。名刺なら、拙者が受け取りましょうぞ」
「あら、私が受け取るわよ」

 近くに控えていた四天王の二人が、代わりに名刺を受けとった。
 
「魔王様、とくに危険はなさそうでござる」
「うふふ。主様どうぞ」

 水の魔性メルクルさんが調べた後、私に名刺を手渡してくる。

「ありがとうございます」
「うふふ、どういたしまして」

 黒い長い髪が流れるように優しく揺れる。
 彼女って、動作の一つ一つが優雅でキレイなんだよね。
 ホントあこがれるなぁ。

「ご挨拶が遅れました。わたくし編集長をしております、ヘルガークと申します」

 編集長!?
 私は名刺に書かれた文字を確認する。

 『勇者新聞 編集長ヘルガーク・ジャックス』 
  
 ……ホントだ。
 
「勇者新聞の編集長が、この魔界に何のご用事ですか?」
「いやぁ、魔界の主がまさかショコラさんだとは。ビックリしましたよ!」
「貴様、我が主に向かって失礼であろう!」
「魔王さん落ち着いて!!」

 大きな声を上げた魔王さんを、慌てて制止する。
 そんな玉座から立ち上がって興奮しなくても……。

「私の事を知ってるんですか?」
「当然です。勇者新聞の編集長たるもの、勇者パーティーのメンバーは全員熟知してますとも」

 言われてみたら、そうだよね。
 でも……勇者パーティーではそんなに目立ってなかったと思うんだけど。

「おや。以前、ショコラさんの特集号も作ったのですが、ご存じありません?」 
「……え?」

 なにそれ。
 知らないんだけど、私。

 キョトンとした顔を見た編集長さんは、くすっと笑うと、カバンの中をごそごそ探しはじめる。

「この号はコアファンに大人気でしたので、あまり残っていないのですが。よろしければこちらをどうぞ」

 え、持ってきてるの?

「うわぁ、可愛い! これもっとないのですか? 私も欲しいですわ!」

 キツネ目編集長から新聞を受け取ったメルクルさんが、歓声を上げた。
 手渡された新聞のトップには大きな見出しが躍っている。
 
 『勇者パーティーの動物姫 大人気、癒し系調教師テイマーショコラ 大特集!!』

 頬を赤く染めて笑ってる私の写真のアップ。

 ……。

 …………。

 い、い、いつ作ったのこれ?!

「ちょ……ちょ、聞いてないんですけど……」
「はて? 勇者様の許可はいただいたので、ご存じかと……」

 勇者様ぁ……。
 そういえば、魔道具で私のことパシャパシャとってたことがあったけど……これだったんだ!

「パーティーの皆さまの特集号は全員作ったのですが、いやぁ、勇者様の次に売れましてね。儲けさせていただきました」

 嬉しそうに目を細めて笑う編集長。
 ちょっと!
 ほ、本人をまえにそういうこというかな!!

「おお。さすが主様だ!」
「その特集号を魔界中に配るべきでは!」
「それはいいアイデアですな!!」

「絶対ダメだから!!」

 私は慌てて新聞を玉座の後ろに隠す。

「……オレも欲しい」

 魔王さん……ぼそっと何言ってるの!!

「さて、ご理解いただいたようですので、取材を申し込ませてください」
「あの、『勇者新聞』は勇者の活躍をとりあげる新聞ですよね?」
「ええ、その通りです」
「それなら。なぜ危険をおかしてまで魔界に……それも魔王城へ?」

 編集長はうやうやしく、私に向かって一礼をした。

「それは、アナタが勇者だからですよ。勇者ショコラ様!」
「……え? あはは、勇者様なら王国の王様として王都に……」

「あまり、勇者新聞の取材力をなめないでくださいね」

 丸メガネの奥にある細い瞳がきらりと光る。

 ……バレてる。
 ……なんで?

「こいつ、主様に失礼であろう!」
「無礼な!」
「今すぐ追い払いますか?!」

「勇者ショコラ様、魔王様。どうか取材の許可と、この村への本社移転を許可ください」

 編集長ヘルガークさんは、周りの声を無視して頭を下げている。

「……ショコラ、もうバレてるようだしさ。許可してもいいんじゃないかな?」
「えー……シャルルさん、他人事だと思ってない?」
「そんなことないさ。この世界でもメディアを味方につけるっていうのはありじゃない?」
「そうかなぁ……」

 私は魔王さんに近づいてコソコソ話している。

「主様、魔王様、いかがされますか?」

「取材はともかく、本社の移転は許可する。ただし!」

 シャルルさんは立ち上がると、魔王の威厳を見せつけるように大声で宣言した。
 マントをひるがえす姿が、すごく様になってる。

 ふーん。
 なんか条件つけるんだ。
 やっぱり。勇者であることをバラさないように、とかかな?

「ただし、本社移転後はすみやかに、先ほどの特集号を増刷すること!」

 ……はい?

「おおおお!!」
「それはいい考えですな、さすが魔王様!」
「それは素敵ね!」

 謁見の間は大きな歓声に包まれた。

「ちょっと! シャルルさん何言ってるんですか!」
「いや……だって。オレも欲しいし……」
「こ、これあげるから。今すぐ取り消して!」

 私は背に隠していた新聞を魔王さんに押し付ける。

「ははっ、ありがとうございます。特集号は必ず増産いたします。取材は後日改めて。あー皆様にもご挨拶を」

 キツネ目の編集長は、まるで忍者の分身のようなスピードで名刺を配っていく。

「私、こういうものです」
「ああ、オレは魔王軍側近の……」
「私は魔王軍近衛隊の……」

 目の前で、前世でみた会社ドラマみたいな光景が繰り広げられている。

「編集長さん、待って! 増刷とかしなくていいですから!!」

 私の声は、主様コールの大声にかき消される。
 なんでこんなに盛り上がってるのよ!

 編集長は最後に一礼すると、嬉しそうに謁見の間をあとにした。


 なにこれなにこれなにこれ。
 
「裏切りものぉ……」
「え。い、い、いや。味方は多い方がいいよね!」

 私は玉座にもたれかかった姿勢で、シャルルさんをじっと睨んだ。

 これって。
 魔界だけじゃ無くて……世界中に勇者だってバレちゃうじゃない!!
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