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57.追放テイマーと女神様の発明

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 温泉の湯けむりの中で、自慢げに腰に手を当てている女神様。
 ふわふわだった金色の髪は、濡れてストレートみたいに肌に張り付いてる。
 けど、それも可愛くて可愛くて。

 ――うわぁぁ。
 ――本当にお人形みたいなんだけど!

「ちょっと、勇者ショコラ! ちゃんと私の話を聞いてますか?」
「あ、うん。聞いてるよ、エリエルちゃん」
「ちょっと、ちゃん・・・ って! スーパー女神ですからね、私!!」

 小さな女神様は、頬を大きく膨らませる。

「前にお会いしたときは、私とあんまり変わらない年齢にみえましたけど?」
「ああ、この姿のことね」

 彼女は、両手を広げて自分自身の姿をきょろきょろと見つめる。 
 なんだか、一つ一つの仕草がすごく可愛くて。
 なんかもう、思わず抱きしめたくなるんだけど!

「こっちの世界に具現化するのって、たくさん力を使うのよ。今は、これが限界ね」
「……具現化って?」
「そうねぇ、この世界に合わせて肉体を持たせたって感じかしら?」

 ……この世界に合わた肉体?
 
 そっか。
 世界ごとに違うんだ。

 まぁ……考えてみたら。
 前世でこんなピンク色の髪の子なんていなかったし、魔法を使える人もいなかったよね。

 こんな天使みたいな子も……。

「やだ、勇者ったら。いくら私が魅力的だからって……そんなに熱い視線で見つめられると……」
「……え? ち、ちがうわよ。可愛いとはおもうけど、それだけだから!」
「……カワイイ? ホントに?」

 ちょっと。
 なんでそこで、頬を染めて嬉しそうな表情になるのよ。
 エリエル様はゆっくり目をつむると、背伸びして顔を近づけてくる。

 私は慌てて彼女の頬を両手で抑えた。

「……もう、照れ屋さんね」
「ちょっと、なにしてるんですか、女神様!」
「安心して! 時間をとめてるから、私たちの愛の語らいを誰も邪魔しないわ!」

 どうみても、おませな子供がキスをねだってるようにしか見えないんだけど。
 可愛いけど。
 可愛いけど。

 これ犯罪だから!!

「え、えーと。そうだ! エリエル様は、私に伝言するためにこの世界にきたんですね?」
「まぁ、そうこと。まずは、ちゃちゃっと願い事を言ってよ。すぐ叶えてあげるわ」

 彼女は嬉しそうに私に微笑みかける。

「……さっきも言ったけど、私魔王を倒してないですよ?」
「魔王や魔王軍を手下にしたってことは、倒したのと一緒よ! ホント、調教師テイマーのスキルをあげて正解だったわ!」

 魔王様と魔王軍のメンバーを思い浮かべてみる。
 手下……うーん。
 
 なんだか違う気がする。

 大体、魔王軍って全然悪っぽくないんだけどなぁ。
 これで世界を救ったことになるのかなぁ。

 ……うん。でも。

「……ホントに、どんな願いでもかなうの?」
「何でも言って。女神の力を見せてあげる!」
 
 どんな願いでも……。
 それじゃあ……。
 
「憧れのスローライフを過ごしたいとかでも平気?」
「それだと曖昧過ぎて難しいわ。具体的にどうして欲しいかを言ってもらわないと」
「えー。具体的って?」
「例えば、そうね。大体の勇者が『元に世界に戻りたい』って願うわよ?」

 元の世界っていうと。
 転生前の前世に戻るってこと?

「……戻れるの?」
「女神の力を使えば余裕だわ! ショコラちゃんは戻りたい?」
「うーん?」

 ――私って。

 前の世界と今の世界の年齢って、今ちょうど一緒くらい。
 だから愛着も半分ずつだし。

 すごく懐かしいけど、無理に戻りたいなんて思ったことないんだよね。
 この世界もそれなりに楽しいし。
 
 ……なんだか最近変なことが多いけど。

「あれね。この世界を気に入ってくれてるなら、担当女神としては嬉しいわ!」
「うん……好きかな」

 美しい空があって、自然が豊かで。
 ゲームやラノベの中にしかなかった魔法が存在していて。
 村の人も皆やさしくて。

 配達の仕事もやりがいがあるし。
 普段家あまりにいない冒険者の両親のことも好きだし。
 幼なじみのリサやコーディーとも仲良しだし。

 勇者パーティーで知り合った、妹みたいなダリアちゃん、賢者のアレス様、戦士ベルガルドさん。
 王族の可愛い美少女ヒロイン、ミルフィナちゃん。

 ちょっと変わってるけど、すごくいい人な魔王シャルル様。
 四天王のメルクルさんやドルトルトさん。
 愉快な魔王軍のみんな。

 それと……。

 偶然テイムした、金色のまるいドラゴン。
 金色の美しい髪、この世界の青空みたいに澄んだ瞳。
 太陽みたいに優しい笑顔。
 
 この国の第一王子……ベリル様。
 
 胸がドキドキして、いっきに頭がのぼせそうになる。


「……はぁ、ちょっとショコラちゃん。なんて表情してるのよ」
「え?」

 女神様が私をみて大きなため息をついた。

 ……なになに?
 ……私ヘンな顔してた?

 うわぁぁぁ。
 慌ててお湯に入ると、両手で頬をおさえる。

 ノー!
 ノーだよ!

 恥ずかしすぎる!

「やっぱり恋する女の子は可愛いわぁ。相手が私じゃないのが残念だけど」
「えええ?! 恋って、別にそんなんじゃ……」
「見ればわかるわよ」

 女神エリエル様は私を指さすと、聖剣を手に取った。
 彼女の手の中で、剣は星のようにキラキラと輝きだす。

「まぁ、いつか私がその表情にさせてみせるから、覚悟してなさいよ!」 

「もしかして、魔王との戦いが終わったから、聖剣を回収するんですか?」
「んー、ちがうわよ」

 彼女は、聖剣の表面を指でなぞるような仕草をしている。

「なぜか伝令のフェニックスが全然仕事してくれないのよ。でね! 聖剣を少し改良しちゃおうってわけ」

 刀身が不思議な輝きを放ちだした。
 あれ、でも。
 あんな感じの光、私知ってる気がするんだけど……。
 
「うふふ、さぁ、これで大丈夫よ。使い方は見ればわかると思うわ」
「え?」
「安心して! この天才スーパー女神エリエル様が作ったんだら!」

 私はお湯に入ったまま聖剣をうけとると、刀身の光をのぞき込む。

 ……。

 …………。
 
 え? なにこれ。

「すごいでしょ。絶対気に入ってもらえると思うわ!」
「えーと、気に入ったっていうか……」
「追加でインストールも出来るわよ!」

 聖剣の表面の一部に、長方形に光る場所があって。 

 『電話のマーク』『神ッター』『写真』『カメラ』……。

 たくさんのアイコンが映し出されている。

「エリエル様……まさかこれって?」
「そう! スマホよ、スマホ! 聖剣に機能追加してみたの。どう、私ってば天才すぎ!」

 ……ウソでしょ。
 ……こんな聖剣、聞いたこともないんですけど。

「これで、いつでも私と話せるわよ。番号も登録しといたわ」

 女神様は嬉しそうに私の隣に回り込むと、頬をよせて聖剣をのぞき込んできた。

「願い事が決まったら、いつでも教えて。あー、もちろんそれ以外でも普通に話してきてよね!」

 話すって……聖剣を耳にあてて?

 ――会話してる自分を想像してみる。 

 うわぁぁ。
 なんなの、そのシュールな光景!!

 私はおもわず、ぶくぶくとお湯の中にもぐりこんだ。


 やっぱり絶対呪いのアイテムだよね、これ。
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