上 下
47 / 95

47.追放テイマーと魔界の暮らし

しおりを挟む
 フォルト村も含めて、魔王軍の占領してる魔王領を通称『魔界』っていうんだけど。
 本当に平和でのんびりとしている。

「うーん!」

 丘の草原に寝転がると、ポケットに入ってたコインを空にかざしてみた。
 陽の光を浴びたコインは金色にキラキラ光る。

 天空の城がデザインされた真新しい通貨なんだけど、すごくキレイ。

 今度、私の顔に変えるって言われたので、全力で拒否してるとこなんだよね。
 こんなに素敵な絵柄なんだから、変えたらもったいないし。
 ていうか、私の通貨なんてお断りだけど!

「魔王軍かぁ……なんだか全然悪っぽくないんだよねぇ」

 この世界では国ごとに通貨が違ったりしたんだけど、魔界では共通のものを使用している。
 おかげで、領内の経済がすごく活発になっている。
 魔王軍が占領した時に最初に行うのがこの通貨交換なんだけど、円滑に変更してもらうために、少しだけ上乗せしてるんだって。

 リサもコーディーも、得したって嬉しそうに話していた。
 あと、魔王ランドの招待券もついてきたんだって。

 今度三人で遊びに行く予定なんだよね。
 みんな今、彼氏とかいないし。

 寂しくないんだから!
 やっぱり友達って最高だよね!!

 でも……どうせだったら、ベリル王子と行きかったなぁ。
 あはは、なんてね。

 ……まぁ、そういう仲じゃないし。
 ……最近全然会えないし。

「……会いたいな」
「やぁ、ショコラ。こんなところにいたんだね」

 突然、目の前に金色の美しい髪が飛び込んできた。
 澄んだ青い瞳の中に、私が映りこんでいる。
 
 あれ、幻?
 それにしてはすごくリアルだし。
 私の大好きなお日様みたいな匂いがする。  

「誰に会いたいの?」
「……え」
「だからさ。誰に会いたいのかな、ショコラは?」

 ……。

 …………。
 
 もしかして本物?
 うわぁぁ。よりによって本人に聞かれるなんて!

「な、なんでもないから。あと、顔近すぎかな!」

 私は慌てて両手で顔をおおった。
 は、恥ずかしすぎる。
 
「なんだ。僕にだったら嬉しかったのに」
「もう、その自信はどこからくるのよ!」

 当たってるけど。
 おもいきり当たってるけど。
 ダメだ。恥ずかしくて顔を上げれない。

 ――なにか話題を変えないと、うん。

「今日は珍しく外に出てるんだ?」
「ずっと家の中で会議だと疲れちゃうからね。僕もアレスもさ」
「なにかアイデア浮かびました?」
「うーん、相手が勇者だからね、やっぱり難しいかな」

 王子は、勇者様に国を追われてフォルト村に来てから、ずっと賢者アレス様のところで会議をしている。
 賢者の塔で一番優秀だったアレス様なら、この問題も解決できるかもしれない。
 たまに変だけどすごく頭いいもんね、アレス様って。

 ちなみに、ミルフィナちゃんは我が家で暮らしてるんだよね。
 通販が間に合ってホントによかった。
 部屋がベッドで占領されちゃってるけど、これはまぁ、仕方ないかな。
 
「隣いいかな?」
「あ、うん」

 ベリル王子は自然な感じで私の横に座った。
 はぁ、意識してるの私だけなんだろうなぁ……これ。
 い、いいけどさ、別に。

「ショコラ、その恰好ってことはさ、魔王城に行ってたの?」
「うん、毎朝の日課だから。一応、主ってことになってるし」
「ふーん。ショコラらしくて似合ってるんだけどね……でもあまり行ってほしくないなぁ」
「え、なんで?」
「それはさ……」

 王子がセリフを言い終わる前に、仔馬のチョコくんが、頭をすりよせてきた。

「うわ、こら、くすぐったいったら。もう、甘えん坊なんだから」

 足元に白狼のアイスちゃんが近づいてきて、丸まって横になった。
 可愛いなぁ。

 空を見上げると、赤い小鳥のイチゴちゃんがキレイな声で鳴いている。

「……ねぇ、どうみても普通の動物にしか見えないんだけど」
「まぁ、普通そうだよね」
「……ほんとに魔獣なの? この子達」
「ショコラは、先輩たちを使役してて何も感じない?」
「うーん」

 みんなちょっと力もちかなって思ったりするけど。
 それくらいなんだよね。

 ナイトメアとか、雪狼とか、ましてや勇者を導くフェニックスとか。
 どうみても違うと思うんだけど。

「まぁ、ショコラがそれでいいなら、良いと思うよ」
「えー、なにそれ」
「言葉通りの意味なんだけどなぁ」

 なにそのさわやかな笑顔。
 反則だと思うんだけど。


「そこにおられましたか、第一王妃ショコラ様!」
「反逆者の元王子から、お救いしろ!」

 ――突然。
 私たちのいる丘に大きな声と足音が響き渡る。

 あの鎧、王城に招待された時に見たことがある。
 たぶんこの人たち、グランデル王国の近衛騎士だ!

「ショコラ、下がって!」
「王子、お覚悟を!」

 ベリル王子は、私の前に立つと、ゆっくりと剣を抜いた。
 近衛騎士は十人以上いるみたい。

 いくらなんでも、無理だよ。

「待って、誤解なの! 私王妃なんかじゃないし。クーデターなんてしてないし。魔王軍も無理に侵略なんてしないから!」 

「元王子に言わされているのですね」
「このように可憐な王妃に手をだすとは、悪魔め!」
「なんと健気でおいたわしい。いますぐお救いしますので!」

「ちがいますってば! ねぇ、戦う必要なんてないんです!」

 ダメだ。
 この人たち、全然話をきいてくれそうもない。

「大丈夫、ショコラのことは必ず守るから!」

 剣のぶつかり合う音がはじまった。

 いくらなんでも大丈夫なわけないよ。
 せめて私も。

「さぁ、王妃様こちらに!」

 剣を抜こうとした瞬間。
 一人の騎士が、後ろに回りこんできて、私の手を引いた。
 
「え、ちょっと!」
「ショコラ!!」
「早くこの場所から逃げましょう。さぁ……」

 騎士が決め顔で私に振り返った直後、 
 チョコくんがおもいきり蹴り飛ばした。

 え。

 なにチョコくん。その体格。
 ものすごく大きいんですけど。
 いきなり巨大化してるんですけど。

「うわぁ、なんだこの巨大な火の鳥は」
「この大きな狼は……まさか、伝説の雪狼……」

 慌てて声のする方をみるとは、巨大な火の鳥と白い狼が騎士たちを威嚇している。

 ……えーと。
 ……もしかして、イチゴちゃんとアイスちゃん?

 驚いた私は、抜きかけた剣を落としてしまった。
 鞘から抜け落ちたそれは、まぶしい光を放ちだす。

「こ、この輝きは……勇者の聖剣……」
「なぜそれを王妃様が……」
「ショコラ……?」

 近衛騎士のみなさんと、ベリル王子の動きがいきなり固まった。

 そういえば、この剣……聖剣だったよね。
 完全に忘れてた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...