上 下
31 / 95

31.追放テイマーと田舎の暮らし

しおりを挟む
 フォルト村の中央広場に建っている、黒猫マークの運送ギルド。
 昼前はギルド職員以外あまりいないみたいで、建物内はかなり静かに感じる。
 考えてみたら、輸送隊ってみんな朝早く出発するもんね。

「で。なんなのその恰好?」
「あはは、コスプレ……なんだけどさ……」
「ふーん、まぁアンタに似合ってるけどね。まさか、『天才ちびっ子魔法使いダリア』のコスプレ?」
「もう、ちがうわよ」

 私は、空いているカウンターで受付嬢のリサと話していた。

「またまた。結構人気あるみたいよ、ダリアのコスって。ウチの姪っ子も欲しいっていってたんだよね」
「ねぇ! リサの姪っ子って……まだ五歳だったよね!」

 ちょっと、そんなに子供に見えるってこと?
 私は、親友の頬をぎゅっとひっぱった。
 
「ひょっほぉ。じょうだんふゃってばぁ」
「もう、これでもちゃんと成人してるんだからね!」
「ふぇいじん……」
 
 親友は私の胸に視線を落とす。

「ちょっと! なんでそこで胸を見るのよ!」
「いやぁ、確かに成人だわ、うんうん」
「もう、リサ!!」
「あんなに小さかったショコラが、すっかり大きくなって……」
「……それなんだかエロ親父っぽいからやめた方がいいよ……」
  
 私は胸を両手で抑えると、大きなため息をついた。

 この世界では、十五才になると神の祝福を受けて成人する。
 祝福っていっても、神殿にいってお祈りして終了、みたいな感じなんだけどね。

 私もリサも、去年一緒に成人の祈りを済ませている。
 そうそう! 神殿に神様の像が飾られてたんだけど。
 あれって……転生した時に会った女神さまにそっくりだったんだよね。
 
 私以外にも、たくさんあの場所にいた気がするんだけど、この世界で転生者に会ったことはまだないんだけど。
 みんなどこにいったんだろう?
 
 ……もしかして違う世界とか?

「……で、今日は何の用事なの? そのロリっ子コスを見せつけにきたわけ?」
「もう。そんなわけないでしょ。この書類を持ってきたのよ」
「なにこれ、パーティー申請書?」
「うん。そう」

 私は、新しい申請書をカウンターに置いた。

「ははーん? さては、はやくも脱退者がでたのね!」

 リサはカウンターに肘をつきながら、いたずらっぽく笑っている。
 
「違うわよ。ほらココちゃんと見てよね! 逆に一名追加なの!」
「ふーん?」

 彼女は、申請書を手に取ると、中身を確認しはじめた。

「ダリアさんねぇ……え? 待って、ダリアってもしかして?」
「うん、たぶんそのまさかなんだけどさぁ。ちょっと待ってね」

 私は振り返ると、ギルドの入り口に向かって声をかけた。

「もう入ってきても大丈夫だよ。おいでー!」

 扉の影から、恐る恐る長い金髪の小さな女の子が入ってきた。
 手には魔法の杖がぎゅっと握られている。

「……お姉さま……もう終わったの?」
「ううん、今手続き中だよ。リサ、この子はダリアちゃん」

 私は近づいてきたダリアちゃんを抱きしめた。

「きゃー! 可愛いわね。初めましてダリアちゃん。お姉さんはギルドの受付をしてるリサよ」
「……何コイツ。馴れ馴れしいわね」
「……え?」
「はぁ、一度言って分からないの? 馴れ馴れしくしないでよね! アンタお姉さまのなんなのよ?」

「ごめんね、この子人見知りなのよ」
「……人見知り……ねぇ……?」

 金色の髪を私に押し付けたまま、顔をあげようとしない。

「あのね、ダリアちゃん。リサは私の幼なじみなのよ」   
「……そうなんですか?」
「うん。小さい頃からの親友なんだ」

 ダリアちゃんは顔を上げて、カウンターにいるリサをじっと見つめる。
 あらためて私の瞳を見ると、私から手をはなして、可愛らしくお辞儀をした。   

「お姉さまのお友達なんですね。初めまして、魔法使いのダリアです」
「あはは、変わった子なのね。よろしく、ダリアちゃん」
「こちらこそです。うふ、最初からお姉さまのお友達っていってくれればよかったのに」

 ダリアちゃんは嬉しそうにその場で一回転した。
 金色の髪と赤いローブがふわりと広がった。

「見て見て、お姉さまとお揃いの真っ赤なローブなのよ!」
「それでさ、ずっとこの格好なのよ」
「なるほどねー、アンタも大変だわ」

 ダリアちゃん変わってないなぁ。

 ふと、周りを見ると。
 いつのまにかカウンターの周囲に職員さんの人だかりができはじめている。

「……魔法使いのダリアちゃんだよね」
「……あの天才ちびっこ魔法使いの?」
「……本物だ……何でこんな村に……」

「とりあえずさ、二階にあがろうか? 騒ぎになりそうだからね」

 リサが顔をひきつらせながら、階段を指さした。

「そ、そうだね」
「……ねぇ、賢者に魔法使いって……アンタのパーティー、世界でも救うつもりなの?」
「あはは……」
「あのね、私とお姉さまがいれば、魔王なんてあっというまに倒せるよ!」

 リサが横目でじとっと私をみつめてきた。

 ちがうから!
 ちがうからね!

 私が目指してるのは、田舎でのスローライフだから! 


**********

<<魔王視点>>

「それでは、ここから先は我一人が向かう。皆は国境付近で待機するように」

 今日のオレは、人間の冒険者風の恰好に変身している。
 こういう姿だと、ファンタジー小説みたいでテンション上がるなぁ。
 
「うぉぉ、何故ですか魔王様! どこまでも一緒にいるって約束したじゃないですか!」
「俺たちは死ぬまで一緒ですぜ!」
「ご一緒させてください、魔王様!」

 部下たちがオレにしがみついてきた。
 待て待て、そんな約束してないからね?
 
「こほん、これは決定ぞ! 我が帰ってくるまで決して侵攻しないように。わかったな!」

「ははっ、我ら魔王様の帰りをいつまでもお待ちしております!」
「魔王様愛してますー!」
「フーレーフレー! 魔王様!」

 さてと。
 オレは、旅行雑誌『大陸ウォーカー』を開いた。

 小高い丘の緑と美しい草原の景色。
 ふーん。
 
 フォルト村か……楽しみだな。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

石田三成だけど現代社会ふざけんな

実は犬です。
ファンタジー
 関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた石田三成。  京都六条河原にて処刑された次の瞬間、彼は21世紀の日本に住む若い夫婦の子供になっていた。  しかし、三成の第二の人生は波乱の幕開けである。 「是非に及ばず」  転生して現代に生まれ出でた瞬間に、混乱極まって信長公の決め台詞をついつい口走ってしまった三成。  結果、母親や助産師など分娩室にいた全員が悲鳴を上げ、挙句は世間すらも騒がせることとなった。  そして、そんな事件から早5年――  石田三成こと『石家光成』も無事に幼稚園児となっていた。  右を見ても左を見ても、摩訶不思議なからくり道具がひしめく現代。  それらに心ときめかせながら、また、現世における新しい家族や幼稚園で知り合った幼い友人らと親交を深めながら、光成は現代社会を必死に生きる。  しかし、戦国の世とは違う現代の風習や人間関係の軋轢も甘くはない。  現代社会における光成の平和な生活は次第に脅かされ、幼稚園の仲間も苦しい状況へと追い込まれる。  大切な仲間を助けるため、そして大切な仲間との平和な生活を守るため。  光成は戦国の世の忌むべき力と共に、闘うことを決意した。 歴史に詳しくない方も是非!(作者もあまり詳しくありません(笑))

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...