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28.追放テイマーと赤いローブ

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「それ本物なのですか?」
「んー、本物かどうかはわからないんだけど」

 私たちは酒場の隅のテーブルで、一枚の紙をじっと眺めていた。
 ミルフィナちゃんは興味深そうに、角度を変えて見ようと顔をいろんな方向に動かしている。
 なんだか小動物みたいで、すごく可愛い。

「確かに……魔王軍四天王と書かれていますね……」

 賢者アレス様は、メガネを押さえながら、お店にあった勇者新聞をずっとチェックしている。

「だろ? でも確かにさ、勇者のスキルを解除するほどの実力者だったんだ」
「もう……。王子その話はやめようよ? ほんとにスキルがかかってたか分からないし」
「その話がもし本当でしたら、わたくしが勇者をぶっ殺してさしあげますわ!」
「ミルフィナちゃん。それ怖いから……」
「あら、恋する乙女は無敵ですのよ?」

 ミルフィナちゃんが、顔を傾けてニッコリ笑った。
 ラベンダー色の髪が優しく揺れて……。なにもうこの子、美少女すぎるんですけど!
 
「……あった、これですよ。ここを見てください!」

 アレス様が、勇者新聞の記事を指さした。
 えーと?
 
 『ハファルル王国、魔王軍四天王メルクルの攻撃を受けて陥落』

 記事には、攻撃を受けたときの強力な水魔法の恐ろしさと、目撃者による四天王メルクルのイラストが描かれていた。
 顔があって。
 長い髪があって。
 目があって、鼻があって、なにか丸いものを持っているみたい。

 ……。
 
 …………。

 なんなのこれ!
 こっちの世界では、みんなこんなイラストを描くの?

「……なぁショコラ。似てる……かなぁ?」
「……ゴメン。このイラストだと全然わからない」
「……だよなぁ」

 私と王子は目を合わせて苦笑いする。
 似てるといえば似てるきもするけどさぁ。

「おまちどう。今日も来てくれてありがとね。もう料理置いちゃってもいいの?」
「はい、すぐかたづけますので!」

 昨日と同じかっぷくのいいお姉さんが、いっぱい料理を持ってきてくれた。
 うわぁ、すごく美味しそうな匂い。
 私たちはテーブルに広げていた勇者新聞を隅にかたづける。

「はいよ、こっちはサービスね。今日はお嬢ちゃん達歌わないのかい?」
「あはは、私たち今日はちょっと忙しくて、ごめんなさい」
「あら、わたくしはいつでも歌えますわよ?」
 
 ミルフィナちゃんの言葉に、周囲のテーブルから拍手がおこる。
 
「おお。昨日のお嬢ちゃん達か!」
「いいぞいいぞー!」
「また聞きたいわー」

 えー……。
 
「おお、嬢ちゃん達。今日も歌うのでござるか!」

 近くのカウンターから、知っている声が聞こえてきた。
 甲冑の大男ドルドルトさんだ。

「ラブリーショコラ、プリティーミルフィナ! ふっふー!」

 彼は立ち上がると、大きな体を揺らしながら応援をはじめた。
  
「いいぞーおっさん!」
「さぁ、みなさんもご一緒に!」
「「ラブリーショコラ、プリティーミルフィナ! ふっふー! ふっふー!」」
 
 えええええ!?
 うそでしょ。
 なんで、酒場が大合唱になってるのよ!
  
「うふう、ショコラちゃん。さぁ歌いましょう?」

 ミルフィナちゃんが満面の笑みで手を差し出してきた。
 
 ……ああこれ。
 ……逃げられないやつだ。

「もう……わかったわよ。ミルフィナちゃん。何歌う?」
「うふふ。それはもちろん、これですわ!」

 ミルフィナちゃんはカバンから黄色い旗を取り出すと、可愛らしくステップを踏み始める。

「旗をふって進もう~旗を振って進もう~、大事なにもつを届けるために~」

 よし! こうなったら笑顔で思い切り楽しもう。
 私も、彼女の踊りと声に合わせて歌い始めた。

「「真心こめてどこまでも~、幸せを届けるために~、あの山こえて谷こえて~」」  


**********

 ――酒場の中は、さっきまで歌っていた熱気が残っていた。
 
 運送ギルドのテーマ曲を口ずさんでいる人や、口笛の音、乾杯でグラスをぶつける音が鳴り響いている。
 うわぁぁ。
 恥ずかしかったけど……楽しかったぁ。

「いやぁ、すごくよかったわよ。毎日歌いに来てくれればいいのに。ハイこれ、お店からのサービスね」

 お姉さんは嬉しそうに笑いながら、テーブルに追加の料理を届けてくれた。
 
「ありがとうございます」
「ありがとうですわ」
「かたじけないでござる!」

 いつのまにか、私たちの目の前に、甲冑の大男ドルドルトさんが座っていた。
 
「いやぁ、本当に可愛かったでござる。拙者すっかりファンになったでござるよ!」
「あはは……ありがとうございます」
「ショコラちゃんは本当に可愛いのですわ!」
「ラブリーショコラ、ふっふー!」

 いやいや、可愛いのはミルフィナちゃんでしょ。
 それと、ドルドルトさん。

 ……テンション高すぎだから!!
 
 もう……私は袋からタオルを取り出した。
 
「はい、ミルフィナちゃん」
「ありがとう、嬉しいですわ。うふふ、すごくいい香りのタオル」
「それね、さっき話してた魔女のお姉さんからもらったの」

 ……あれ?
 ……メルクルさんからもらった袋の中に、タオル以外の手触りを感じる。  

 私は袋の奥に入っていた、赤い生地を手に取って広げてみた。

 襟がセーラー風のワンピっぽい真っ赤なローブだ。
 胸元に大きなリボン、スカートにはフリルがたくさんついている。

「あれ、ショコラ、それって」
「うん、たぶんあの時の借りたローブだと思う」

 ローブには、メッセージカードが添えられていた。
   
 『すごく似合ってたからプレゼントするわ。今度是非、私たちの国にそれを着て遊びに来てね』

 あはは……。
 私たちの国って……魔法国のこと……だよね? 
 
 
「それは栄えある魔王軍宮廷魔術師のローブではござらんか!」

 取り出したローブを見て、ドルドルトさんが興奮気味に話しかけてきた。

「少しアレンジされているでござるが、間違いござらん!」
「……魔王軍?」

 私たちの表情をみたドルドルトさんが、慌てて両手を振った。

「言い間違いでござる。魔法国……そう、魔法国でござるよ!」

「あの、これメルクルさんっていう黒髪の美人なお姉さんにいただいたんですけど。ご存じないですか?」
「ほぅ。これをメルクルがでござるか。なるほど、確かにアリでござるな……」
「やっぱりお知り合いなんでか? この方なんですけど」

 私は、メルクルさんからもらった名刺を差し出した。
 ドルドルトさんの顔は瞬き一つせず、いきなり固まる。

「あのバカ、名刺を間違えてるでござる! それは侵略用の……」

 彼は言葉の途中で、あわてて両手で口をふさいだ。


 ――え?
 ――今、侵略用っていいました?
 
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