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24.追放テイマーと想う気持ち

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 朝を覚ますと、とても甘い匂いに包まれていた。
 まるでお花畑の中にいるみたいな、優しい香り。
 
 それに。

 ……なんだかすごくあたたかい。
 ……なんだろうこれ……。

 目をぱっちりあけると、可愛らし美少女の寝顔が目の前にあった。
 紫色の髪、透き通るような白い肌、ぷっくりとした愛らしい唇。

 ……。

 …………。

 ななななな!?
 なんで、ミルフィナちゃんが私のベッドで寝てるのよ!!

 昨日は確か……。
 みんなで賢者様お勧めの酒場にいって、歌ったり美味しいものを食べたりして。
 そうそう、友達の仇を探している大男さんと一緒に盛り上がって。

 そのあと、えーと?

「おはようございます、ショコラちゃん……」

 ミルフィナちゃんが、横になったまま声をかけてきた。
 毛布を口元に当てながら恥ずかしそうに頬を染めている。

 うわぁぁぁ。
 可愛いけど、ものすごく可愛いけど。

 ――昨日の夜何があったの、私!?

「あの……ミルフィナちゃん。昨日って……えーと」
「うふふ、もうすごく楽しかったですわね。ショコラちゃんと二人で……」
「……二人で?」

 えええ?!
 なんでミルフィナちゃん、両手を胸の前に組んで、目を潤ませてるの?
  
 ……そんなはずないよね?
 ……ちがうよね?


「一緒に踊ったり歌ったり。はぅ、夢のような時間でしたわ……」

 あー……。
 そうだ、思い出した。

 昨日、酒場から出た私とミルフィナちゃんは、すぐ近くにあった『空音楽のお店』にいったんだった。

 『空音楽のお店』っていうのは、前世でいう『カラオケ』みたいなところ。

 結界で防音された部屋に、ちょっとした楽器とか魔道具で出来たマイクがあって。
 魔導書の中から好きな歌をタッチすると、音楽が流れるようになっている。

 ファンタジ―世界でも、大人から子供まで大人気なんだよね。
 好きな歌をおもいきり自由に歌うのって楽しいし。

「あれ? でも宿についたあと、ミルフィナちゃん自分の部屋に戻ったよね?」
「ええ、戻りましたよ?」
「ここ、私の部屋だよ?」
「ええ、そうですわね?」

 ミルフィナちゃんは不思議そうに首をかしげる。

「……じゃあなんで、ミルフィナちゃんが、私のベッドにいるのかな?」
「それは、わたしくしが一緒にいたかったからですわ!」

 彼女は嬉しそうに、私の腕に抱きついてきた。  

「おかげで、ぐっすり眠れましたわ」

 ふぅ、なんだぁ。一緒に寝てただけか、ビックリしたぁ。
 って、落ち着いて私。
 全然良くないから!

「もう。ミルフィナちゃん! 勝手にベッドにもぐりこむの禁止!」
「ええええええ!?」

 ミルフィナちゃんは、この世の終わりみたいな顔をした後、枕に顔をうずめた。


********** 

 私たちは運送ギルドの倉庫に集まっていた。
 昨日運んだ荷物の中から、個別に宅配を頼まれている品を届けるためだ。

「どうした、ミルフィナ。朝から機嫌が悪そうだね」
「ショコラちゃんが、一緒のベッドで寝ちゃダメだっていうんですよー」

 王子の質問に、頬を膨らませながらすねるミルフィナちゃん。

 うわぁぁ!
 こんなところで、何言ってるの!

「……え、ベッドって?」

 王子は、ミルフィナちゃんの言葉を聞いて、口を押さえて顔を真っ赤にする。
 ちょっと何を想像したのよ!

「誤解だからね! 昨日ミルフィナちゃんが私のベッドにきて一緒に寝ただけだから!」
「そ、そうだよね。あはは、女の子同士だしね」
「……べつに、同性同士でも問題ないと思いますけど?」

 ミルフィナちゃんは、ジト目で私を見つめてくる。
 それって、一緒に寝るだけの話だよね?

「と、とにかく。今日中に荷物を届けましょう!」
「そ、そうだね。それじゃあ、手分けして配ろうか!」

 私と王子は目を合わせると、慌てて視線をそらした。
 賢者様は、さっきからずっと、真っ赤な顔をして固まっている。

 もう。
 なんなのよ、この微妙な空気!!

 私達は、無言で荷物をチョコくんとアイスちゃんに載せると、二手に分かれて街に配達に出かけた。

 
「……なぁ、ショコラ」
「なんですかぁ?」
「本当になにもなかったんだよね?」
「もう、しつこいですよー。あるわけないですよね?」

 私は隣を歩いている王子の足元を見ていた。
 たまに歩幅を変えたりして、たぶん歩く速度を私に合わせてくれてる。
 
 ……そういうとこ、やさしいよね。

「……うん、そうか。そうだよな」
「あたりまえじゃないですかー」

 私は王子の足をみながら、何度もうなずいた。
 だって、恥ずかしくて顔をあげられないから。

 なんで、王子はそんなに気にしてるのかな?
 自分の妹だから……?
 それとも……。

 もう、もうもうもう!
 なんだかすごく意識しちゃうんですけど!!
 私は胸のドキドキが聞こえてしまわないように、少しだけ王子と距離をとった。

「それに私には……」

 勇者さまと言いかけて、慌てて口を押させた。

 なんで今急に、勇者様の顔が想い浮かんだんだろう?
 まるで無意識に反応したみたいに。

 いつの間にか、胸の高鳴りも勇者様への想いに変わっている気がする。
 なんだろう、この変な感覚。
 胸の奥がぎゅっと痛くなる。
 勇者様になぜか会いたい……会いたいよ……。


「……ショコラ?」
「ううん、なんでもないから。さぁ、頑張って荷物を届けましょう!」

 私は、後ろからついてくるチョコくんを撫でると、地図を改めて確認する。

「大体このあたりだよね?」
「うーんそうだね」

 王子は地図をのぞき込んでくる。
 金色の髪が風に揺れて、そっと私の頬をなでた。

 ――次の瞬間。

 チョコが突然地図を口にくわえて、走り出した。

「え? ちょっと、チョコくん!」
「先輩、どうしたんですか!」

 チョコくんは、細い路地を走り抜けると、テントのような建物に飛び込んでいった。
 私たちは慌てて、チョコくんの後を追って走っていく。

「チョコくん戻って! 勝手に人に家に入っちゃダメだってば!」
「先輩! それはまずいですよ!」

「あら、珍しい客がきたわね。ふーん。アナタ飼われてるの? 珍しいわね」

 建物の奥から、女性の声が聞こえる。

「あの、すいません。うちの子がご迷惑をおかけしまして」
「先輩、早くこっちに戻ってきてください」

 チョコくんが飛び込んだ建物は雑貨屋みたいで、いろんな小物が並べられている。 
 カードのような物、藁で出来た人形、大きな水晶玉。

 なんだか少しだけ……怪しい。

「欲しいアイテムがあったら声をかけてね。今ならサービス価格で売っちゃうわよ!」

 長くて黒い髪。
 大きな帽子に、長いローブ。
 まるで魔女のような恰好をした女性が声をかけてきた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ほら、チョコくん帰るよ!」

 私は店内にうずくまるチョコくんに声をかけた。

「ふーん、アナタが飼い主なのね。すごいわね、こんなにすごい生き物をテイムできるなんて」

 女性はゆっくり私に近づくと、顔を近づけてきた。
 大きな帽子からのぞくお姉さんは、まるで美しい絵画のような美人だった。
 うぁ、なんてきれいな人なんだろう……思わず息をのんだ。 

「……あら? アナタ呪われてるわよ?」
「……え?」
 
 魔女さんは、口元を押させるとくすくすと笑い出した。

「あの、呪われてるって、私がですか?」
「ええ、巧妙に隠されてるけど。まちがいないわ」

 突然の彼女の言葉に、私と王子はきょとんと顔を見合わせた。 

 ……。

 …………。

 えええええええええ?!
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