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13.追放テイマーは青空を眺めたい

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 お日様がキラキラかがやいて、真っ青なには雲一つ浮かんでいない。

 うーん、すごくいい天気。
 快晴ってやつだよね。気持ちいい!

「なんだか朝からご機嫌だね、ショコラ」 
「んー、ほら。こんなにいい天気だと気分がいいでしょ?」
「そういうものかなぁ」
「そういうものなの! 王子はあんまりお天気とか気にしない?」

 私はくるっと振り返ると、後ろからついてきたベリル王子の顔を見つめた。
 金色の髪が眩しく輝きながら、さらさらと風に揺れる。

 ホントにカッコいいな、この人。

「僕の場合はさ、ドラゴンになって雲の上に飛んでしまえば、天気関係ないから」
「そうなの?」
「うん。ほら、後ろ向きに歩かない! 危険だよ?」
「もう、平気だって……って」

 うわぁ!
 言い終わらないうちに、いきなりアイスちゃんが足元にじゃれついてきた。

「危ない!」

 次の瞬間。
 私の体は宙に浮いたような感覚がした。

 太ももと肩に、彼の大きな手のぬくもりがある。

「落ちちゃうから、手を首にかけて?」
「う、うん」

 私は慌てて、彼の首に手を回した。

 ……もしかして、これって。
 ……お姫様だっこ、だよね?

「大丈夫、ショコラ?」
「う、うん。ありがと……」

 王子様の顔が近い。
 近いよぉ。
 しかも、頬も耳も真っ赤なんですけど。

「あのね、もう大丈夫だから……降りてもいい?」
「ああ……そうだね、うん。足もとに気を付けて」

 王子はゆっくりと腰を下ろしてくれて、私は彼の首に手をかけたまま地面に降りた。

 胸のドキドキが止まらない。
 なんだか心臓が思い切りジャンプしてるみたい。
 ……大丈夫、ちょっとビックリしただけ。

 そう……だよね?


**********
 
 フォルト村の広場にある黒猫のマークの扉を開けると、女の子の元気な声が聞こえてきた。
 
「いらっしゃいませー!」
「おはよう、リサ。今日は絶好の運送日和よ!」
「ショコラおはよう。晴れてよかったわね。荷物はもう奥にまとめてあるわよ?」
「ありがとうー、リサ。愛してるー!」

 私はカウンター越しに、受付のリサに抱きついた。
 彼女の黒髪が揺れて、ほのかに花のいい匂に包まれる。
 
「あれ? ショコラ、ちょっと顔が赤いけど。風邪でもひいたの?」
「あはは、なんでもないよ。うん」

 まだ顔の火照りがとれないんだよね。
 お姫様だっこなんて……勇者様にだってされたことなかったのに。
 いきなりあんなことがあれば、誰だって……。

「そういえば。ショコラの事探してた人がきたわよ?」
「探してた? 誰が?」

 リサはカウンターから新聞を取り出した。
 あ、勇者新聞。

「この人!」

 彼女の指さした記事には似顔絵が描かれている。

「賢者……アレス様?」
「賢者様! はぁ、やっぱショコラって勇者パーティーにいた人なんだねぇ」
「あはは。もう引退したから過去の話だけどね」

 アレス様が私を探してる?
 どうしたんだろう?

「一応さ。何か事情もあるんだと思ったから、今日ここに来る話はしてないけど」
「そっか……。ありがとう、リサ。さすが大親友!」
「いいのよ、別に。親友だからね。だから……」

 リサが私の耳元に顔を近づけてくる。

「そのかわりぃ、アンタの従兄との食事会、セッティングよろしくね?」
「……え?」
「親友なんでしょ? 私たち!」

 彼女は、両手を胸の前で組んで、にこりと微笑んだ。

 おーい……大親友?


**********

<<勇者目線>>

 オレ率いる勇者パーティーは、大森林の中で休憩していた。
 これがゲームやアニメだったら、すぐに街に帰れるんだろうけど。
 
 現実は疲労もあるし、お腹もすく。
 
「……疲れた」
 
 くそう!
 なんでこんな目に合わないといけないんだ。

 ……オレが。
 ……オレこそが。

 この世界に選ばれた転生勇者なんだぞ!

「ねぇ、結局なんだったのよ。あのダンジョン!」
「いやいや、良い修行になったではないか!」
「あの……勇者様……落ち込まないで……?」

 あれから森の奥にある古代ダンジョンをくまなく探したのに、伝説の鎧は発見できなかった。
 本当にあそこに封印されてたのか?

「なぁ、勇者よ。もしかすると、森に別のダンジョンがあったんじゃないか?」

 戦士ベルガルトが焚火にあたりながら、地図を見ている。

「そうね。はぁ、賢者のアレスがいたらよかったのに」

 魔法使いのダリアと、精霊使いのシェラは食事の準備をしている。
 まぁ、嫁候補の手料理を食べて少し落ち着こう。

「ほら、出来たわよ。さっさと食べて街に帰りましょう」
「あの……熱いので……気を付けてくださいね?」
「それじゃあさ、シェラ。フーフーってしてから渡してくれない?」
「勇者様が……そうおっしゃるなら……」

 シェラは銀色の長い髪をかきあげると、よそられたスープに息を吹きかける。
 本当にカワイイなぁ。
 さすがオレの嫁候補その一だ。

「あまやかしすぎよ、シェラ。いっとくけど次の食事当番、アンタとベルガルトだからね?」
「ああ、わかった」

 ベルガルトは、金髪ロリッコからスープを受け取ると神妙にうなずいた。

「はぁ? ベルガルトはともかく、なんでオレが食事当番なんてやるんだよ!」
「アンタが、お姉さまを追い出したからでしょ!」
「あのな、オレは勇者なんだぞ!」
「だからなによ! 今までお姉さまがやってたんだから、分担するの当たり前でしょ!」

 くそう。
 ダリアは、ちょっとツンが強すぎるんじゃないか?
 怒った顔も……可愛いけどさ。
 そのうち、オレの転生チート能力で、そのツン顔をおもいきりデレさせてみせるぜ!

「それで、どうするんだ。もう少しこの辺りを探索するか?」
「いや、やめておこう。一度街にもどって体制を立て直す」

 木々の切れ間から、よく晴れた青空が見える。
 そういえば。
 賢者アレスは、ダンジョンや街への道を調べる時に、よく空を見ていたな。
 以前、隣で一緒に眺めたことがあるが、青空にショコラの鳥くらいしか飛んでいなかった。
 
 ……賢者だけが使えるスキルがあるんだろうな。
 ……まずあいつを呼び戻さないと。

 オレは嫁の手作りスープを口に運ぶと、おもわず思考が停止した。

「どうした、勇者よ? 食べないと体力が持たんぞ?」
「あの、少しでいたら……おかわりもありますよ?」
「ちょっと、なんで変な顔してるのよ?」

 なんだこれ?
 どうすればこんな味のスープが作れるんだ?
 
 オレは口を押えてなんとか飲み込んだ。

 くそう。
 
 街に戻ったら……。
 パーティーに、荷物持ちと料理人を雇ってやる!
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