上 下
10 / 95

10.追放テイマーは秘密を知る

しおりを挟む
 私は、手を握られた状態で硬直していた。
 目の前には、金髪のイケメン王子。

 ……どうしよう、これ。
 ……なんだか意識しちゃって、手がほどけないんだけど。

 ベリル王子は、嬉しそうにニッコリと微笑む。
 私は慌てて顔を横に逸らした。

 ――あれ?
 
 部屋の窓に誰かいる?

 よく見ると、紫色の髪をした女の子がこちらをのぞき込んでいた。
 彼女は私と目があうと、慌てた表情でさっと姿を隠す。

「ベリル様、ストップ! 今窓から誰か覗いてなかった?」
「……窓? 誰もいないけど?」
 
 あらためて、窓をみてみると。
 誰もいない。

 ……気のせいだったのかな。

 でも、なんだか。
 家の外から色んな音が聞こえてくる。

 たくさんの人の話し声と、動物の鳴き声?

「お、お客さんがきてるのかも。ちょっと外見てくるね」
「ちょっとまってショコラ。むやみに扉を開けないで……」

 ふぅ。危なかった。
 まだ胸がドキドキいってるよ。
 どうしたんだろ……私。

 大きく深呼吸をして扉を開けると。


 真っ白な豪華な馬車と、びしっと左右に整列した騎士達。
 そして。
 紫色の長い髪をなびかせた、可愛いらしい女の子が立っていた。

 ………。

 …………ハイ?

「やっとお会いできました! これはもう運命ですわね!」

 彼女は、大きな目を潤ませると、両手を広げて嬉しそうに飛び込んで来た。
 ふわりと、全身が甘い匂いに包まれる。

 えええ!?
 なんでいきなり、すごい美少女に抱きつかれているの、私。

「ミルフィナ……なんでここに?」
「それは、お兄さまの後を追いかけてきたからですわ」

 お兄様? それにミルフィナって?

 ……えーと。

 もしかして。
 この国の第一王女、ミルフィナ様!?

 ミルフィナ様は、私に頬をよせてうれしそうにつぶやいた。

「うふふ、ずっとお慕いしておりました、ショコラさま!」 


********** 

 村から少し離れた丘の上の、一部屋しかいない小さな家。
 田舎でゆっくりスローライフを楽しむためのマイホームなのに。

 ――なぜか。
 
 部屋の雰囲気に不釣り合いな、キラキラした人物が二人も座っている。
 
「ミルフィナ、お兄ちゃんたちはこれから忙しいんだけど?」
「知っておりますわ。これから運送ギルドのお仕事なのですね」

 知ってるって、なんだか当然みたいにいわれたんだけど。
 あれ? もしかして。
 ベリル王子と同じで、チョコやアイスちゃんに聞いたのかなぁ。

「あの、ミルフィナさまも、竜に変身したり動物とお話したりできるのですか?」
「……え?」
「ショコラ、それはまずい!」

 ミルフィナ様は、可愛らしい大きな瞳をさらに大きくして、口元を押さえる。
 
「お兄さま、まさか王族の秘密をお話になられたのですか?!」
「うん。話したっていうかさ。見られた?」
「ええっ? お兄さま、それは本当なのですか?」

「……あの、やっぱりナイショだったんですか?」

 私はおそるおそる、ミルフィナ様に聞いてみる。

「もちろんですわ! 王族が竜の血をひいた一族だなんて!」
「こら、ミルフィナ!」
「あー、それで竜に変身できるんですね?」

 私は納得すると、ポンと手のひらを叩いた。
 そっか、王家って竜の血を引いてたんだ。
 すごいなぁ、さすがファンタジー世界。

「……もしかして、ご存じなかったのですか?」
「えーと、変身できることだけは聞いてたんですけど」

 ミルフィナ様はぶるぶると体を震わせる。

「お兄さま、どうしましょう! 王家の秘密を話してしまいました!」
「あー、いいんじゃないかな。どうせバレてたようなものだし」

 やっぱり、ナイショだったんだ。
 そうだよね、竜に変身できると血をひいてるとか、すごいと思うもん。
 あれ、でも……。

「ベリル様。王家の秘密なのに、先日街中で変身してましたよね?」
「うわぁ、ショコラ、その話は!!」
「……お兄さま?!」

 ミルフィナさまは、驚いた表情で口元を押さえる。

「あれはさ、ショコラを喜ばせようと……それだけで頭がいっぱいでさ……」

 少し頬を染めて、うつむいて言葉を続ける。

「でも、誰も見られてないのを確認してから変身してるから、平気だよ?」

 ……もう。
 そんなに顔を真っ赤にして見つめられたら。
 こっちまで……頬があつくなるじゃない。

 私の表情を見たミルフィナ様が、頬をぷくっと膨らました。

「わ、わたくしだって負けませんわ!」

 彼女の足元がキラキラ輝くと、光が全身を包んでいく。
 これってもしかして?

 彼女は紫色の小さなドラゴンに変身した。

 ほっそりとした体に、キレイな翼。
 頭には小さな角がちょこんとのっていている

「うふふ、どうです? わたくしのドラゴン姿」

 小さなドラゴンは、私の頬をぺろりと舐めてきた。
 
 うわぁぁ、なにこの生き物。
 可愛い。可愛すぎるんですけど!!

 おもわず、ぎゅっと抱きしめた。

「うわぁ、それ反則だろ、ミルフィナ!」
「勝負はもうはじまっているのですわ、お兄さま!」
「くそ、負けるもんか!」

 王子もまんまるな赤いドラゴンに変身した。
 お腹にある調教した証がキラキラと光を放っている。 
 
「お兄さま……そのお腹の模様……どうされたのですか?」

 そうだった!
 変身したら、私がテイムした事がばれちゃうじゃん!

「ああ、これはね……」

 私は慌てて、まんまるなベリル王子にかけよると、両手で口をふさいだ。

「あはは、きっとオシャレなんじゃないかな? ほら、お兄さんカッコいいから!」 

 ミルフィナ様は人間の姿に戻ると、抱きかかえられた王子をじっと見つめる。
 うわぁ。
 もし知られたらどうなんだろう……。

 王族をテイムするとか……。
 死罪? やっぱり死罪ですか?!

「あの、ショコラ様?」
「なんでしょう?」

「今の、調教印ですわよね?」

 私は目の前が真っ暗になったのを感じた。
 あー、終わったのね。
 私の異世界生活……。

 ……せめて最後に一目だけでも……勇者様にお会いしたかったな。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

魔獣っ娘と王様

yahimoti
ファンタジー
魔獣っ娘と王様 魔獣達がみんな可愛い魔獣っ娘に人化しちゃう。 転生したらジョブが王様ってなに? 超強力な魔獣達がジョブの力で女の子に人化。 仕方がないので安住の地を求めて国づくり。 へんてこな魔獣っ娘達とのほのぼのコメディ。

士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん
ファンタジー
以前の記憶もなく、突如として異世界の士官学校に入学することになったある男。 入学試験のダンジョンで大活躍してはみたものの、入学してわかったことは、彼には剣や弓の腕前も、魔法の才能も、その他あらゆる才能にも恵まれていないということだった。 だが、なぜか彼の周囲には笑いが絶えない。 「士官学校の爆笑王」と呼ばれたそんな彼が、やがてヴァイリスの英雄と呼ばれるなどと、いったい誰が想像し得ただろうか。

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...