上 下
9 / 95

9.追放テイマーはスキルを使う

しおりを挟む
 私と王子はテーブルを挟んで向かい合っている。 

 丘の上にあるこの小さな家には、ちゃんと大きな厩舎がついてる。
 昔、ここで羊に似た動物『フォルト』を飼育してた人が利用してたんだって。

 でもね。
 家のほうはあくまでも飼育のための仮だったらしくて。
 この小さな家は、部屋が一つしかない。

 一人でいる分には何の問題もなかったんだけど、王子さまがいるとね。

 ……距離がすごく近い。
 ……近いんですけど!

 あらためてみると……。
 この人、すごくカッコいいよね。
 まるで黄金のような金色の髪、澄んだ青い瞳、整った顔立ち。
 小説やゲームの主人公みたい。

「どうしたの? ぼーっとして」
「え? ううん、なんでもないよ」
「そう? ならいいけど」

 朝食のベーコンを優雅に食べながら嬉しそうに笑う。
 ホントに食べるの大好きだよね、この人。

 ――ホントに、幸せそうに食べるんだから。

「王子様、あれから毎日食べに来てますけど」
「うん、ショコラの料理美味しいからね!」
「うーん。簡単料理なんだけど? よかったらレシピをお渡ししますけど」
「あのさ、ショコラの料理だから、美味しいんだけどな?」

 私の料理だったら、誰が作っても同じだと思うんだけどなぁ。
 もしかして、あれかな?
 王宮の料理が豪華すぎて、シンプルな料理が珍しいとか?

「さて、ご馳走になった分、働きますか!」
「お仕事に戻られるんですね。頑張ってください!」

 王子は、一瞬呆けた顔をした後、口元を押さえて笑い出した。

「違うよ。今日は荷物を運ぶ仕事があるんだよね?」
「……あれ? 私王子にその話しましたっけ?」
 
 私の不審そうな顔に気づいた王子が、慌てて顔の前で手を振る。

「ち、違うんだよ。先輩たちがそんな話をしてたから!」
「先輩って、チョコくんとかアイスちゃん?」
「そうそう。動物の先輩たちが教えてくれたんだよ」
「ふーん?」

 ……なんだか、王子様すごく焦ってるけど。

 そっか。
 あの子達とはなせるんだ。
 いいな。うらやましいな。

「ねぇ、ベリル様が、動物の言葉わかるのって、やっぱりドラゴンに変身できるから?」
「んー、そうなのかなぁ? 意識したこと無いんだよね」
「そうなの?」
「ショコラこそ、調教師テイマー のスキルでわかるんじゃないかな?」

 私は、テーブルに肘をついて両手で頬を支えた。

「あのね、調教師テイマー のスキルってね、使役獣が機嫌が良いとか悪いとか、何をして欲しいかはわかるんだけど」
「何を話してるか、まではわからないのかな?」
「うん、そうなの」

「それじゃあさ、今僕がどんな気持ちかわかる?」
「え? なんで?」
「だって、僕はキミの使役獣なんだよ?」

 そういえば、そうだった。
 なんだか変な感じだけど。

「んー、調べても平気なの?」
「さぁどうぞ、ご主人様」
「もぅ。それやめて欲しいのに」

 私は、調教師テイマー のスキルを発動すると、王子をじっと見つめる。

 ちょっと、なんでそこで頬を染めてるのよ。
 こ、こっちまでつられて……緊張してくるじゃない。

「ねぇ、なにかわかった?」
「え、えーとね。すごく楽しそうな気持ちが伝わってくるかな?」
「うん、正解!」

 王子は甘い表情で私を見つめてくる。

 この人……。
 何気に、天然のタラシなんじゃないのかなぁ?
 親友のリサがきゃーきゃー騒ぐ訳が分かる気がする。

「じゃあさ、どうして楽しいか理由はわかる?」
「さぁ? そこまでは調教師《テイマー 》のスキルじゃわからないから、いつも推測してるんですよ~」
「なるほど。じゃあ、僕の理由を推測してみて?」
「んー……美味しいごはんが食べれたから?」
「半分正解! それじゃあさ、僕は何をして欲しいでしょうか?」

 なにって、言われても。
 私は再びスキルを発動させる。

 頭の中に、イメージが浮かび上がってくる。
 
 ……。

 …………。

 え?
 
 なに今の。

 なんで。
 なんで。

 なんで王子が私を抱きしめてるのよ!!

「なにかわかった?」
「……あはは、やっぱり王子様は人間だから、よくわからないみたい?」
「ふーん、そうなのかぁ」

 ベリル王子は私の表情を見ると、くすくすと笑いだした。

 てっきり、ご飯をたくさん食べるイメージが出てくる思ったのに。
 なんなのよ、あれ!
 まずいよ。胸のドキドキが王子に伝わるくらい、大きくなっている。

 ああ、もう!!

 ノー!
 ノーだよ私!

 今の私、耳まで真っ赤だよね。
 変な人だと思われるよ、絶対!

 おもわず、頬を押さえてその場にしゃがみ込んだ。


「……ごめん、本当に考えてることがわかるんだね」
「え?」
「ちょっと試してみただけだから。そんなに警戒しないで?」

 王子がそっと片手を差し出してくる。

 ……まさか。
 ……今のって、イタズラだったの?

「もう! ホントにビックリしたんだから!」
「ごめんね。なにもしないからさ。……今はね」

 私は王子の手をとると、ゆっくりと立ち上がる。
 
 あれ?
 最後に、なにか変なこと言わなかった?

 あらためて王子の顔を見上げると、片目を閉じてウィンクしてきた。


 うわぁ。
 この人……ホントに。
 絶対、天然の女タラシだよ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

俺は5人の勇者の産みの親!!

王一歩
ファンタジー
リュートは突然、4人の美女達にえっちを迫られる!? その目的とは、子作りを行い、人類存亡の危機から救う次世代の勇者を誕生させることだった! 大学生活初日、巨乳黒髪ロング美女のカノンから突然告白される。 告白された理由は、リュートとエッチすることだった! 他にも、金髪小悪魔系お嬢様吸血鬼のアリア、赤髪ロリ系爆乳人狼のテル、青髪ヤンデレ系ちっぱい娘のアイネからもえっちを迫られる! クラシックの音楽をモチーフとしたキャラクターが織りなす、人類存亡を賭けた魔法攻防戦が今始まる!

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...