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星降る世界とお嬢様編

59.吉永家の幸せなひととき

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<<由衣目線>>


「お姉ちゃん、見て見て! ついに買ってきたよ!」

 私は玄関を開けるとすぐに、大きな声でお姉ちゃんに報告する。

「……買ってきたって、なにをさ?」

 うわぁ。
 なにそのお姉ちゃんのジト目。
 
 今度のは絶対当たりなのに!

「もう、あんまり無駄遣いしないでよね。先月だって大きなぬいぐるみを買ったばっかりでしょ」
「あれは、どうしても欲しかったのよ……」

 お店で見かけた大きなペンギンのぬいぐるみ。
 大きな瞳とか、可愛らしいクチバシがすごく可愛らしくて。
 ……お姉ちゃんに似てるって思ったんだもん。

「はぁ、それで。今度は何を買ったの?」
「ふふふ、驚かないでよね! じゃじゃーん!」

 私は、買ったばかりのアイテムをカバンから取り出した。

「なにそれ?」
「えー!? お姉ちゃん知らないの? 今すごく流行ってるのに!」

 可愛らしい女の子が真ん中でドレスを着ていて。
 周囲にイケメンな男の人が描かれている。
 キラキラ光る豪華なパッケージに入っているのは。

 今、大人気の乙女ゲーム。

 『ファルシアの星乙女』 

「テレビCMもたくさんやってるし、友達もみんな遊んでるんだよ!」
「んー……そういえば、見たことあるような……」
「でしょ!」

 そう。
 
 今大人気のこのゲームは。

 洋服・髪型・メイク・アクセサリーが豊富で、自分コーデで楽しめるし。 
 王子、騎士団長や宰相の息子なんて定番キャラから、執事や悪役キャラとか、さまざまなタイプのイケメンたちが揃っていて。
 すごく自由に恋愛を楽しめる。
 もちろん世界を救うっていうストーリーも楽しめるんだけど。
 最終的に誰と結ばれるかはプレイヤー次第なんだって。

「スマホ版とかパソコン版まであるんだよ。ほんとに大人気なんだから!」
「それじゃあさ、スマホでよかったんじゃない?」
「それは……」

 それだと、お姉ちゃんと一緒にあそべないじゃん。

「ねぇ、すぐにやってみようよ」
「由衣、それ一人でやるゲームだよね?」
「いいじゃん。一緒に遊ぼうよ!」

 ふふふ。
 それにね、このゲームを遊ぶのにはちゃんと計算があるんだから!

 お姉ちゃんは……中学を卒業する前あたりから……ため息をつく回数が増えた気がする。

 もともと美人で自慢の姉だったんだけど。
 たまに見せる愁いをおびた表情が、まるで恋する乙女のようで。
 呼吸が止まってしまうくらい……綺麗。

 もしかして誰かに恋してるのかと、色々しらべてみたんだけど。
 そんな相手見つからなくて。
 でも……いつか……お姉ちゃんが誰かと……。

 ダメ!
 絶対ダメ!

 お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんだから!

 でよ!
 リアルに誰かとくっつくくらいなら、二次元に萌えてもらった方が良いんじゃないなって。
 
 ――うん、私、天才!!

「それじゃあ、はじめるね!」

 私は、ワクワクしながら、ゲームの電源を入れた。


**********

<<朱里目線>>  


 最近、由衣がゲームにはまってる。
 
 いわゆる乙女ゲーて言われている、プレイヤーがイケメンキャラと恋愛を楽しむゲームなんだけど。
 
「由衣、そろそろ寝ないとダメでしょ!」
「えー、もうちょっと! 今いいとこだから!」

 テレビの画面には、黒髪の可愛らしい女の子が映っている。
 たくさんのイケメンに好かれてるっていうのも……まぁ少しだけ納得だけどね。
 このヒロイン、すごくカワイイよね。

「ほら、見てみて。シュトレ王子の告白シーン始まるよ!!」

 由衣が、ゲーム画面を見ながら、嬉しそうに腕に抱きついてくる。

「いかにも王子様って感じのキャラだねー」
「でしょ! すっごいオレ様キャラなんだよね」

 ゲームの中の王子様が、若干上から目線でヒロインに告白してくる。

「……由衣、これ断っていいんじゃない? すごく偉そう」
「えー! ここまで攻略するの大変だったんだから!」
「でもさ。私の知ってる王子は、もっと紳士で優しかったわよ」

「私の知ってる?」
 
 由衣は不思議そうな顔をして、きょとんと首をかしげる。

 (……アカリちゃん、大好きだよ)

 ――あれ?
 
 急に頭の中に、金色の髪、青い瞳をした優しい男の子が浮かんでくる。

 ……これは、誰?。
 ……会ったこともないのに。

 胸が苦しくなって。
 いつのまにか景色が滲んでくる。

 えええ、なんで泣いてるのさ私。
 ちょっと謎すぎるんですけど!

「わかったから! そんなにシュトレ王子のこと嫌いなのね。それじゃあ、断ると……」

 由衣は慌ててゲームを操作する。
 テレビには、絶望的な顔をしたシュトレ王子の顔が映っていた。

「はぁ、お姉ちゃんって、ホントにオレ様キャラきらいだよね」
「そういうわけじゃないんだけさぁ」

 私が涙をぬぐっていると、由衣が抱きついて頬を寄せてきた。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
「んー、なに?」
「このゲームでお姉ちゃんの推しキャラって誰?」

 由衣は、興奮した表情で私を見上げている。
 横から見てただけだから……誰が推しって言われてもなぁ。
 
「主人公か……リリアナかなぁ?」
「なにそれ! どっちも女キャラじゃん!」
 
 そうなんだけどさぁ。
 主人公のヒロインちゃん、すごく性格良くてカワイイんだよね。
 まぁ……プレイヤーによっては逆ハーレムになるんだろうけど。

 リリアナは典型的な悪役令嬢なんだけど……。
 自分の気持ちに素直でまっすぐなところが、うらやましいなぁって。
 
「もう! 真面目に答えてよ!」
「答えてるってば。それじゃあ、由衣は誰が好きなの?」

 私の言葉を待っていたかのように。
 由衣の瞳が輝きだす。

「シュトレ王子や攻略対象も捨てがたいんだけど、やっぱりこのキャラでしょ!」

 由衣はゲーム画面を操作して、一人のキャラを映し出した。
 黒髪に紫の瞳。
 どことなく影のある執事姿のイケメンキャラだ。

「なんだけっけ、このキャラ。えーと……」
「クレナ! もう、お姉ちゃんの好きなリリアナの執事だよ!」
「ああ、そうだよね、うん」
「もうね。すごく強いしカッコいいの! 最後まで主人のリリアナと一緒に行動して……」

 由衣は嬉しそうに、クレナの魅力を語っている。

「噂では攻略ルートがあるみたいなんだよね……絶対落として見せるんだから!」

 由衣が画面のウィンドウを閉じると。
 再び、悲しそうな顔の金髪王子が映し出された。

 ――なんだろう。
 ――やっぱり……胸が苦しいよ……。

「そっか……お姉ちゃんはイケメンに興味ないのかぁ……まぁ、私がいるし、良いよね」
「……何の話よ?」
「ううん、なんでもない!」

 
 その日の夜。
 私はベッドの中で、今日の胸の痛みを思い出していた。

 なんだったんだろう。
 もしかして、ゲームキャラを好きになったとか!

 うーん。

 ……。

 …………。


 ないな。
 
 だって私、あのキャラ偉そうで嫌いだし。

 
 でも、それでも。
 今も溢れ出てくるこの気持ちは……なんなのかな?
 
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