上 下
173 / 201
星降る世界とお嬢様編

39.お嬢様と胸の鼓動

しおりを挟む
「あの……まさかとは思いますけど。クレナちゃん、一応話しておきますね?」
「うん、どうしたの?」

 リリーちゃんは、私の腕に抱きしめられたまま。
 顔を真っ赤にして、慌てたような表情で目を泳がせた。
 
「わたくし記憶を書き換えられてませんわよ?」

 周囲で私たちを囲んでいた人たちの動きが固まる。
 真っ白な世界に一瞬静寂が訪れた後。

「はぁ~、ウソでしょ!?」
「ホントですか?」
「だって、リリアナお前……」
 
 みんなが一斉に騒ぎ出す。


 あの日の夜に会った時にも。
 手のひらにメッセージをくれた時にも。
 もしかしてそうかなって。
 
 思ってたけど。
 思ってたけど。

 ……やっぱり!!

「わたくしが、クレナちゃんとの記憶を忘れるなんて……絶対にありえませんわ!」
 
 リリーちゃんは頬を染めて。
 天使のような微笑を私に向けてくる。

「もう……そうかなって思ってたけど。かみたちゃんが変なこと言うから~」

 私は、かみたちゃんをじっとにらむ。

「えええ!? 治すとはいいましたけど、記憶の話はしてませんよねー?」

 かみたちゃんはうろたえながら、キナコとだいふくもちに目線を移す。

「ご主人様、影の影響があったのは本当ですよ?」
「そうなのだ! 女神さまはウソをいっていないのだ!」

 そうだけどさぁ。
 絶対誤解すると思うんだけど。

 ……あれ?
 今だいふくもち、かみたちゃんのことを女神様って?

「ちょっと! じゃあ、なんで私たちを裏切ったのよ!」
「そうだね、説明してもらえるかな?」

 ジェラちゃんとガトーくんが、リリーちゃんに詰め寄る。
 当たり前なんだけど。
 すごく険しい表情をしている。
  
「ちょっとまって。一度落ち着こう? ね?」

 私は、リリーちゃんと二人の間に入って、両手で押しとどめる。
 
「クレナ! コイツは裏切り者なのよ! なんで庇うのよ!」
「……クレナちゃんも魔法で攻撃されてたよね!?」

 二人の怒りは収まりそうにない。
 困ったなぁ。

「あれは。あんまりアリアちゃんを攻めると、魔人が怒りそうだったからですわ」

 リリーちゃんが笑顔のまま答える。
 
 そういえば。
 私が魔法を使われたのって、アリア……由衣に近づいた時だけだった。
 植物が巻き付いたときも、痛くなかったし。

 本当は。

 彼女に……守られてたの?

「いざとなったら魔法の木で守ろうとしたんですけど、相手の魔人さんが冷静でよかったですわ」

 リリーちゃんと目が合うと。
 嬉しそうに顔を輝かせている。

 ――どうしよう。

 ……同性なのに。

 ……小さい頃からの大親友なのに。

 顔が勝手に火照りして。

 胸の高鳴りが止まってくれない。 
 
「じゃあ、なんでラスボスを召喚した時に、魔法で邪魔したのよ!」
「みなさん魔法が封印されてたのに、魔法陣に近づいたらあぶないですわよ?」

「なんでお姉ちゃんを裏切ったふりなんってしてたんですか?」
「そのほうが、クレナちゃんのお役にたてそうだったからですわ」

 リリーちゃんは、私たちの質問に丁寧に答えているんだけど。
 
 私の頭は、別の事でいっぱいになっていて。
 会話が全然頭に入ってこなかった。 
 
 なんで。
 なんでこんな気持ちになるの? 

 だって。おかしいよ。

 私にはシュトレ様がいるのに。
 ずっと胸の音がうるいし。
 視線がリリーちゃんに吸い込まれるようで、目を離すことが出来ない。
 

「……ご主人様、聞いてます?」
    
 気が付くと。
 すぐ横でキナコが耳打ちをしてきた。

「う、うん。キナコどうしたの?」
「だからですね、記憶を変えるんなんて強力な魔法……普通だったら影に取り込まれるんですよ」
「そっか……そうだよね」
 
 私はリリーちゃんを見つめたまま。
 静かにうなずいた。

「ご主人様への愛が、影の力に勝ったんですね」

 ちょっと、キナコ!

 愛。
 愛って。

 ダメだ。
 顔が蒸発しそうで、思わず両手で頬を抑えて座り込む。

「ご、ご主人様?」
「クレナ、どうした! 顔が真っ赤だぞ!」

 シュトレ様が慌てて、私のそばに駆け付け来る。
 申し訳なくて。
 彼の顔が……ちゃんと見れないよ。

  
「はーい! ラブラブ話はここまでにして。暗黒竜のお話をしましょうか?」

 かみたちゃんは、両手でパンパンと手を叩くと。
 背後に大きな画面が出現した。

 そこに映っているのは。
 
 巨大な黒い影。
 大きな四つ足と、三本の大きな首。
 空高くそびえる翼。
 高く持ち上がった長い尻尾。

 瞳が炎のように真っ赤に光っている。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』で最後に登場したラスボス。
 世界を飲みむ巨大な影の王。 
 
「リリアナちゃんー? 召喚する魔法陣に何かしましたねー?」

 かみたちゃんはじっと映像を眺めた後。
 目を細めならリリーちゃんに問いかけた。
 
 ――え?
 
 その場にいた全員の視線がリリーちゃんに集まる。

「今砦に出現している暗黒竜は、王宮の地下にいた時より、ずっと弱くなってますー」

 リリーちゃんはゆっくりと私に近づくと。
 両手を伸ばして嬉しそうに抱きついてきた。

「リリーちゃん……?」
「うふふ。魔法陣の文字を、いくつか別の文字に書き換えておきましたわ!」

 彼女は頬をすり寄せると、勝ち誇ったような表情を浮かべている。

 ……。

 …………。

 書き換えた?

 魔法陣の文字を?


 ええええええええええ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処理中です...