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星降る世界とお嬢様編
34.お嬢様と黒い影の塊
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「もう、なんで主人公側って、すぐに力に頼ろうとするのかしら?」
「あはは。でも、あの炎ブレスの奇襲はすごかったね。結構いけてたと思うよ!」
私たちは、帝国のテントの中で。
サキさんとカレンさんにかけられた結界魔法でぐるぐる巻きにされていた。
ストップの魔法が使えなかった私たちは……くやしいけどほとんど抵抗できなかった。
結界がかかった状態って。
ある程度動いたりは出来るんだけど。
魔法は全く使えないし、小さな子供くらいの力しか出せないみたい。
「お姉ちゃん待っててね。すごいもの見せてあげるから!」
「お供しますわ、アリアちゃん」
由衣は私たちに結界がかかったのを確認すると。
満面の笑みを見せて、リリーちゃんと先にテントから出ていった。
「ねぇ、サキさん。由衣を止めて! サキさんのいうことなら……」
サキさんは、この世界で由衣のお姉ちゃんだと思う。
私の言葉は届かなくても、彼女の言葉なら。
「んー。止める理由がないのよね。あの子、この日の為に頑張ってきたし」
彼女はテントの奥にあった金庫のような箱から、書類の束を持ってきた。
どれもぎっちり可愛らしい文字が書き込まれている。
「これは……」
「あの子の努力の一部よ。転生してからゲームのエンディングをどう回避するのか。あの子なりにずっと考えてたの」
『ラスボスを回避するには……』
『魔人の子たちの救い方……』
『王国と帝国の戦力分析……』
帝国側から見たこの世界の事が、由衣の視点で書かれていた。
そういえば……。
あの子、テスト対策ですごく綺麗なノートを作ってたよね……。
こういうとこは……変わってないんだ……。
不器用なくらい真面目で……。
しっかりものの、大切な私の妹……。
「世界を制服したあとの政治形態とか、国や人の配置まで、ホントにいろいろ書かれているわ」
サキさんは紫色の長い髪をかきあげると、真剣な表情で見つめてきた。
「思い付きで言ってるわけじゃないのよ、あの子。これも全部……あなたと一緒にいたいから……よ」
由衣……。
私がうつむいていると、カレンさんが嬉しそうに近づいてきた。
「いいじゃん。転生者で集まって、ゲームの世界で無双しちゃおうよ! ほら、ラノベの定番って気するっしょ!」
確かに……。
大好きだった異世界転物のラノベやマンガって、そんな話が多かった気がする。
チート無双で英雄になったり。
影の支配者になったり。
自分の国を作ったり。
でもそれって。
その世界に住んでいる人たちや国のことを……本当に考えてたのかな……。
**********
しばらくすると、嬉しそうな顔をして由衣が飛び込んできた。
「お姉ちゃん、準備出来たよ! こっちこっち!」
私の手を引いて、テントの外にひっぱっていく。
サキさんとカレンさんに促されて、ほかのメンバーもテントの外に出た。
――そこには。
いつの間にか、巨大な魔法陣が描かれていた。
魔法石を砕いて書いたみたいで、文字や図形がキラキラ光っている。
「ね? お姉ちゃん、キレイでしょ!」
「……そうね」
確かにすごくキレイだけど。
なんだろう。
全身の感覚が危険を知らせている。
よくわからない不安な感情が膨らんでいく。
「ご主人様、今すぐその魔法陣を壊して! 発動させちゃダメ!」
「それはダメなのだ!」
「アリアちゃんの邪魔はゆるしませんわ!」
駆け寄ろうとするだいふくもちの前に、リリーちゃんが立ちふさがる。
魔法の木が現れて、大きな壁になった。
「ちょっと、大人しく見ててよね。せっかく準備したんだから」
由衣は不満そうに頬を膨らませた。
もしかして、あの魔法陣。
……まさか!?
……まさかだけど。
「由衣やめて! この魔法陣はラスボス召喚の……」
由衣は満面の笑みで振り返ると、胸のネックレスに両手を当てた。
「あたりよ、お姉ちゃん。宮廷の地下で育てたこの子を見せてあげるね!」
ネックレスから、黒い影が幾重にも伸びて。
魔法陣に流れ込んでいく。
やがて影は魔法陣を包み込み。
巨大な黒い塊になっていく。
「さぁ、私の呼びかけに応えて!」
あっという間に巨大化した黒い塊から。
大きな手と、三本の大きな首。
巨大な翼。
長い尻尾が伸びてくる。
それは……。
妹と何度もゲーム画面で見た……。
公式には名前がついてなくて。
ゲームキャラやプレイヤーから『暗黒竜』とだけ呼ばれていた存在。
巨大な……影の集合体。
この世界の空の星を食べつくし、やがて世界そのものも飲み込んでしまう存在。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』に登場するラスボスが……。
そこに……出現した。
「どう! すごいでしょ。これが私たちの切り札よ!」
由衣の言葉に、暗黒竜が答えるように大きな咆哮を上げた。
それは。
砦が……ううん。
この世界全体が大きく揺さぶられるような恐ろしい声で。
私たちは恐怖で動くことが出来なかった。
――次の瞬間。
「やっぱり、召喚されちゃいましたかー。ここは一度逃げましょうー」
金色の輝く少女が目の前に現れた。
彼女が、両手を大きく広げると。
いきなり視界が強い光に包まれる。
眩しくて目を開けていられない。
やがて、意識がゆっくりと遠くなっていった。
**********
気が付くと、全てが白い空間にいた。
周囲を見ると。
みんな真っ白な空間でぷかぷか浮かんでいる。
「ちょっと……これどうなってるのよ?」
「ひょっとして僕……死んじゃいました?」
「死後の世界でもお姉ちゃんと一緒なんて……嬉しい……」
ジェラちゃんとガトーくんは身体を回転させながら、周囲をくるくると見渡している。
ナナミちゃんは、頬を赤くして潤んだ瞳で見つめてきた。
さすがヒロイン……どこまでもカワイイ。
「……クレナごめん。約束を守れなかった」
シュトレ王子は、水中をおよぐように私に近づいてくると。
そのまま泣きそうな顔をして、強く抱きしめてきた。
私の頬に、彼のぬくもりと心臓の音が伝わってくる。
そっか。
突然こんなところに来たら。
死んだって思うよね。
……ラスボスの目の前だったし。
私はそっとシュトレ王子を抱きしめ返すと、笑顔で話しかけた。
「あのね……ここ天国じゃないよ。多分、私の知ってる場所だから」
「あはは。でも、あの炎ブレスの奇襲はすごかったね。結構いけてたと思うよ!」
私たちは、帝国のテントの中で。
サキさんとカレンさんにかけられた結界魔法でぐるぐる巻きにされていた。
ストップの魔法が使えなかった私たちは……くやしいけどほとんど抵抗できなかった。
結界がかかった状態って。
ある程度動いたりは出来るんだけど。
魔法は全く使えないし、小さな子供くらいの力しか出せないみたい。
「お姉ちゃん待っててね。すごいもの見せてあげるから!」
「お供しますわ、アリアちゃん」
由衣は私たちに結界がかかったのを確認すると。
満面の笑みを見せて、リリーちゃんと先にテントから出ていった。
「ねぇ、サキさん。由衣を止めて! サキさんのいうことなら……」
サキさんは、この世界で由衣のお姉ちゃんだと思う。
私の言葉は届かなくても、彼女の言葉なら。
「んー。止める理由がないのよね。あの子、この日の為に頑張ってきたし」
彼女はテントの奥にあった金庫のような箱から、書類の束を持ってきた。
どれもぎっちり可愛らしい文字が書き込まれている。
「これは……」
「あの子の努力の一部よ。転生してからゲームのエンディングをどう回避するのか。あの子なりにずっと考えてたの」
『ラスボスを回避するには……』
『魔人の子たちの救い方……』
『王国と帝国の戦力分析……』
帝国側から見たこの世界の事が、由衣の視点で書かれていた。
そういえば……。
あの子、テスト対策ですごく綺麗なノートを作ってたよね……。
こういうとこは……変わってないんだ……。
不器用なくらい真面目で……。
しっかりものの、大切な私の妹……。
「世界を制服したあとの政治形態とか、国や人の配置まで、ホントにいろいろ書かれているわ」
サキさんは紫色の長い髪をかきあげると、真剣な表情で見つめてきた。
「思い付きで言ってるわけじゃないのよ、あの子。これも全部……あなたと一緒にいたいから……よ」
由衣……。
私がうつむいていると、カレンさんが嬉しそうに近づいてきた。
「いいじゃん。転生者で集まって、ゲームの世界で無双しちゃおうよ! ほら、ラノベの定番って気するっしょ!」
確かに……。
大好きだった異世界転物のラノベやマンガって、そんな話が多かった気がする。
チート無双で英雄になったり。
影の支配者になったり。
自分の国を作ったり。
でもそれって。
その世界に住んでいる人たちや国のことを……本当に考えてたのかな……。
**********
しばらくすると、嬉しそうな顔をして由衣が飛び込んできた。
「お姉ちゃん、準備出来たよ! こっちこっち!」
私の手を引いて、テントの外にひっぱっていく。
サキさんとカレンさんに促されて、ほかのメンバーもテントの外に出た。
――そこには。
いつの間にか、巨大な魔法陣が描かれていた。
魔法石を砕いて書いたみたいで、文字や図形がキラキラ光っている。
「ね? お姉ちゃん、キレイでしょ!」
「……そうね」
確かにすごくキレイだけど。
なんだろう。
全身の感覚が危険を知らせている。
よくわからない不安な感情が膨らんでいく。
「ご主人様、今すぐその魔法陣を壊して! 発動させちゃダメ!」
「それはダメなのだ!」
「アリアちゃんの邪魔はゆるしませんわ!」
駆け寄ろうとするだいふくもちの前に、リリーちゃんが立ちふさがる。
魔法の木が現れて、大きな壁になった。
「ちょっと、大人しく見ててよね。せっかく準備したんだから」
由衣は不満そうに頬を膨らませた。
もしかして、あの魔法陣。
……まさか!?
……まさかだけど。
「由衣やめて! この魔法陣はラスボス召喚の……」
由衣は満面の笑みで振り返ると、胸のネックレスに両手を当てた。
「あたりよ、お姉ちゃん。宮廷の地下で育てたこの子を見せてあげるね!」
ネックレスから、黒い影が幾重にも伸びて。
魔法陣に流れ込んでいく。
やがて影は魔法陣を包み込み。
巨大な黒い塊になっていく。
「さぁ、私の呼びかけに応えて!」
あっという間に巨大化した黒い塊から。
大きな手と、三本の大きな首。
巨大な翼。
長い尻尾が伸びてくる。
それは……。
妹と何度もゲーム画面で見た……。
公式には名前がついてなくて。
ゲームキャラやプレイヤーから『暗黒竜』とだけ呼ばれていた存在。
巨大な……影の集合体。
この世界の空の星を食べつくし、やがて世界そのものも飲み込んでしまう存在。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』に登場するラスボスが……。
そこに……出現した。
「どう! すごいでしょ。これが私たちの切り札よ!」
由衣の言葉に、暗黒竜が答えるように大きな咆哮を上げた。
それは。
砦が……ううん。
この世界全体が大きく揺さぶられるような恐ろしい声で。
私たちは恐怖で動くことが出来なかった。
――次の瞬間。
「やっぱり、召喚されちゃいましたかー。ここは一度逃げましょうー」
金色の輝く少女が目の前に現れた。
彼女が、両手を大きく広げると。
いきなり視界が強い光に包まれる。
眩しくて目を開けていられない。
やがて、意識がゆっくりと遠くなっていった。
**********
気が付くと、全てが白い空間にいた。
周囲を見ると。
みんな真っ白な空間でぷかぷか浮かんでいる。
「ちょっと……これどうなってるのよ?」
「ひょっとして僕……死んじゃいました?」
「死後の世界でもお姉ちゃんと一緒なんて……嬉しい……」
ジェラちゃんとガトーくんは身体を回転させながら、周囲をくるくると見渡している。
ナナミちゃんは、頬を赤くして潤んだ瞳で見つめてきた。
さすがヒロイン……どこまでもカワイイ。
「……クレナごめん。約束を守れなかった」
シュトレ王子は、水中をおよぐように私に近づいてくると。
そのまま泣きそうな顔をして、強く抱きしめてきた。
私の頬に、彼のぬくもりと心臓の音が伝わってくる。
そっか。
突然こんなところに来たら。
死んだって思うよね。
……ラスボスの目の前だったし。
私はそっとシュトレ王子を抱きしめ返すと、笑顔で話しかけた。
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