上 下
159 / 201
星降る世界とお嬢様編

25.お嬢様と幼馴染

しおりを挟む
「私のせいだ……」

 私が。
 私が……サキさんを信じてって言ったから。

 リリーちゃん……。
 

 王国軍が帝国の本陣に攻め込んだ日。
 セントワーグ領軍とハルセルト領軍は、突然現れた魔人たちに攻撃された。
 
 まるで……こうなるのを知ってたように。

 全く予想外の反撃に、両軍は守り切ることが出来ずに撤退。
 ハルセルト領軍は、お父様とお母様の活躍で大きなダメージを受けなかったみたいなんだけど。

 セントワーグ領軍は……。リリーちゃんのところは……。

 無事に帰ってきた人たちの話だと。
 魔人達は、執拗にリリーちゃんとナナミちゃんを狙ってきたって。
 その理由はわからないけど。
 
 だけど……。
 リリーちゃんは、魔人に連れ去られたらしい……。


 ――ダメだ。
 
 今ここで泣き叫んでも。
 
 リリーちゃんは助けられない。
 私は涙をこらえると、ぎゅっと手を握りしめた。
 
 待ってて。
 なにがあっても絶対、私が助けるから!

「コラ! どうせ、自分のせいだとか思ってるんでしょ!」

 いきなり、頭にぱしっと強い衝撃がはしる。
 振り向くと、腰に両手を当てたジェラちゃんが立っていた。

「ジェラちゃん……びみょうに痛いんですけど?」
「当り前じゃない! おもいきりはたいたんだから!」
 
 彼女はそういうと、両手を伸ばしてきた。
 抱きしめられた腕の中はすごくあたたかくて。
 
 身体の力がすっと抜けるような感覚がした。

「ねぇ、前に言ったでしょ? もっと周りを頼りなさいよ……バカ……」

 頬にかかるラベンダー色の髪が少しくすぐったくて。
 甘くて優しい香りに包まれる。

「ゴメン……ありがとう、ジェラちゃん……」
 
 やっぱり。

 昔ラスボスと戦った時とちがって。
 今回の私は……すごく恵まれてるなぁ……。
 
 あれ?
 今回って……なんだろう……? 

 
**********
 
「こんな時に、個人的なお願いなんて、わがままだってわかってるんだけど……」

 その日の夜。
 砦の応接間に集まってもらったのは。
 
 ジェラちゃん。
 ガトーくん。
 ナナミちゃん。
 それと、キナコとだいふくもち。

「でも、どうしても! リリーちゃんを助けたいんです。お願いします。みなさんの力を貸してください!」

 私は大きく頭を下げた。
 今の私にできるのは、それくらいだから。

「もし、無事に助け出せたら、なんでも……なんでもするから! お願いします!」

 国同士の戦いをしている時に、助けにいくなんて。
 それがどれくらい危険なことなのか。
 わかってる……わかってるつもりだけど。


 応接間に静寂が訪れる。
 
 そうだよね。
 こんな時にわがままなんて……。  

「お姉ちゃん、本当になんでもですよね!……ああ、楽しみです!」

 思わず顔を上げると、すぐ近くにナナミちゃんの顔があった。
 大きな目がキラキラ輝いている。

「ナ、ナナミちゃん? ホントに危険なんだよ?」
「かまいません! お姉ちゃんと一緒にいられればそれで!」

 頬を赤く染めて、両手をそっとにぎってくる。
 
 ……あれ?
 なんだろう。私このシーン知ってる気がする。

 えーと……。
 
 そうだ!
 思い出した。

 帝国軍がラスボスを出現させた時、ヒロインの星乙女が攻略対象に言ったセリフと一緒だよ。
 
 ナナミちゃんの純白の魔星鎧スターアーマー も可愛らしく微笑む表情も。
 うん。
 間違いない。妹と見た画面の彼女と一緒だ。
 
 ……。

 ……攻略対象じゃなくて、私にしてどうするのさ!


「ちょっと、ナナミ。少し離れなさいよ!」

 恍惚とした表情のナナミちゃんを、ジェラちゃんが引きはがす。

「ちょっと、なにするんですか!」
「いいから少し落ち着きなさい。私だってホントは抱きつきたいんだから……」

 ちょっと、ジェラちゃん?
 今、さらっとおかしなこと言ったよね?

「……アンタに頼まれなくても、助けに行くにきまってるでしょ。リリアナも幼馴染みたいなものなんだから」
「そうだよ。それに、ゲームでも星乙女は一人じゃ戦ってなかったよね?」

 ジェラちゃんの言葉に、ガトーくんが続けた。
 
「永遠の愛を貴方に。この戦いで僕の体が闇に飲まれたとしても、ずっと君だけを……」

 それ!
 ゲームで攻略対象のガトーが星乙女にいうセリフ!
 絶対ワザとだ!
 
 なのに……なんでそんな甘いマスクで優しく微笑むのさ。
 本当に乙女ゲームの好感度最高時のスチルシーン……みたいだよ。


「あのさぁ。簡単に『なんでも』なんていわないでくれよ……」

 気が付くと、いつの間にか部屋の扉が開いていて。
 金髪の美青年が立っていた。
 
「シュトレ様……」

 シュトレ王子は、ゆっくりと私に近づいてくると。
 両頬をぎゅっとひっぱってきた。

「……ふゅ、ふゅとれさま?」
「なにやってるのかな? オレの婚約者様は?」
「ふゃふぃって、それふぁ……」

 あー、この王子の表情は。
 怒ってるわ。それもかなり。

「オレには相談できないことだったのかな? オレも『幼馴染』ってやつだと思うけど?」

 今までの丁寧な喋り方と全然ちがう。
 ブラックだ。
 シュトレブラックだ。

「ふぉれはですね、ふゅとれおうふぃをこまらせないように」

 慌てて、ジェスチャーを交えながら説明しようとするんだけど。
 頬をつかまれてるから上手く喋れない。

「そろそろさ、クレナが誰のものなのか、わからせた方がいいよね?」

 シュトレ王子は、頬から手を離すと、私の顎を指でクイッと持ち上げた。
 彼の瞳に映る私の姿が大きくなっていく。
 
「お兄様! やりすぎです!」
「金色毛虫! お姉ちゃんから離れろ!」
  
 私と王子の間に、ジェラちゃんとナナミちゃんが飛び込んできた。

 びっくりしたぁ。
 今の何?
 
 ――まだ心臓がドキドキいってるよ。  
 

「あらあら。あいかわらず、主人公側はにぎやかねぇ」

 部屋の奥の空間がゆがんで。
 中から紫色の長い髪に、赤い目の美女が出現した。


 サ……サキさん?!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

貴方様の後悔など知りません。探さないで下さいませ。

ましろ
恋愛
「致しかねます」 「な!?」 「何故強姦魔の被害者探しを?見つけて如何なさるのです」 「勿論謝罪を!」 「それは貴方様の自己満足に過ぎませんよ」 今まで順風満帆だった侯爵令息オーガストはある罪を犯した。 ある令嬢に恋をし、失恋した翌朝。目覚めるとあからさまな事後の後。あれは夢ではなかったのか? 白い体、胸元のホクロ。暗めな髪色。『違います、お許し下さい』涙ながらに抵抗する声。覚えているのはそれだけ。だが……血痕あり。 私は誰を抱いたのだ? 泥酔して罪を犯した男と、それに巻き込まれる人々と、その恋の行方。 ★以前、無理矢理ネタを考えた時の別案。 幸せな始まりでは無いので苦手な方はそっ閉じでお願いします。 いつでもご都合主義。ゆるふわ設定です。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。

処理中です...