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星降る世界とお嬢様編
25.お嬢様と幼馴染
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「私のせいだ……」
私が。
私が……サキさんを信じてって言ったから。
リリーちゃん……。
王国軍が帝国の本陣に攻め込んだ日。
セントワーグ領軍とハルセルト領軍は、突然現れた魔人たちに攻撃された。
まるで……こうなるのを知ってたように。
全く予想外の反撃に、両軍は守り切ることが出来ずに撤退。
ハルセルト領軍は、お父様とお母様の活躍で大きなダメージを受けなかったみたいなんだけど。
セントワーグ領軍は……。リリーちゃんのところは……。
無事に帰ってきた人たちの話だと。
魔人達は、執拗にリリーちゃんとナナミちゃんを狙ってきたって。
その理由はわからないけど。
だけど……。
リリーちゃんは、魔人に連れ去られたらしい……。
――ダメだ。
今ここで泣き叫んでも。
リリーちゃんは助けられない。
私は涙をこらえると、ぎゅっと手を握りしめた。
待ってて。
なにがあっても絶対、私が助けるから!
「コラ! どうせ、自分のせいだとか思ってるんでしょ!」
いきなり、頭にぱしっと強い衝撃がはしる。
振り向くと、腰に両手を当てたジェラちゃんが立っていた。
「ジェラちゃん……びみょうに痛いんですけど?」
「当り前じゃない! おもいきりはたいたんだから!」
彼女はそういうと、両手を伸ばしてきた。
抱きしめられた腕の中はすごくあたたかくて。
身体の力がすっと抜けるような感覚がした。
「ねぇ、前に言ったでしょ? もっと周りを頼りなさいよ……バカ……」
頬にかかるラベンダー色の髪が少しくすぐったくて。
甘くて優しい香りに包まれる。
「ゴメン……ありがとう、ジェラちゃん……」
やっぱり。
昔ラスボスと戦った時とちがって。
今回の私は……すごく恵まれてるなぁ……。
あれ?
今回って……なんだろう……?
**********
「こんな時に、個人的なお願いなんて、わがままだってわかってるんだけど……」
その日の夜。
砦の応接間に集まってもらったのは。
ジェラちゃん。
ガトーくん。
ナナミちゃん。
それと、キナコとだいふくもち。
「でも、どうしても! リリーちゃんを助けたいんです。お願いします。みなさんの力を貸してください!」
私は大きく頭を下げた。
今の私にできるのは、それくらいだから。
「もし、無事に助け出せたら、なんでも……なんでもするから! お願いします!」
国同士の戦いをしている時に、助けにいくなんて。
それがどれくらい危険なことなのか。
わかってる……わかってるつもりだけど。
応接間に静寂が訪れる。
そうだよね。
こんな時にわがままなんて……。
「お姉ちゃん、本当になんでもですよね!……ああ、楽しみです!」
思わず顔を上げると、すぐ近くにナナミちゃんの顔があった。
大きな目がキラキラ輝いている。
「ナ、ナナミちゃん? ホントに危険なんだよ?」
「かまいません! お姉ちゃんと一緒にいられればそれで!」
頬を赤く染めて、両手をそっとにぎってくる。
……あれ?
なんだろう。私このシーン知ってる気がする。
えーと……。
そうだ!
思い出した。
帝国軍がラスボスを出現させた時、ヒロインの星乙女が攻略対象に言ったセリフと一緒だよ。
ナナミちゃんの純白の魔星鎧も可愛らしく微笑む表情も。
うん。
間違いない。妹と見た画面の彼女と一緒だ。
……。
……攻略対象じゃなくて、私にしてどうするのさ!
「ちょっと、ナナミ。少し離れなさいよ!」
恍惚とした表情のナナミちゃんを、ジェラちゃんが引きはがす。
「ちょっと、なにするんですか!」
「いいから少し落ち着きなさい。私だってホントは抱きつきたいんだから……」
ちょっと、ジェラちゃん?
今、さらっとおかしなこと言ったよね?
「……アンタに頼まれなくても、助けに行くにきまってるでしょ。リリアナも幼馴染みたいなものなんだから」
「そうだよ。それに、ゲームでも星乙女は一人じゃ戦ってなかったよね?」
ジェラちゃんの言葉に、ガトーくんが続けた。
「永遠の愛を貴方に。この戦いで僕の体が闇に飲まれたとしても、ずっと君だけを……」
それ!
ゲームで攻略対象のガトーが星乙女にいうセリフ!
絶対ワザとだ!
なのに……なんでそんな甘いマスクで優しく微笑むのさ。
本当に乙女ゲームの好感度最高時のスチルシーン……みたいだよ。
「あのさぁ。簡単に『なんでも』なんていわないでくれよ……」
気が付くと、いつの間にか部屋の扉が開いていて。
金髪の美青年が立っていた。
「シュトレ様……」
シュトレ王子は、ゆっくりと私に近づいてくると。
両頬をぎゅっとひっぱってきた。
「……ふゅ、ふゅとれさま?」
「なにやってるのかな? オレの婚約者様は?」
「ふゃふぃって、それふぁ……」
あー、この王子の表情は。
怒ってるわ。それもかなり。
「オレには相談できないことだったのかな? オレも『幼馴染』ってやつだと思うけど?」
今までの丁寧な喋り方と全然ちがう。
ブラックだ。
シュトレブラックだ。
「ふぉれはですね、ふゅとれおうふぃをこまらせないように」
慌てて、ジェスチャーを交えながら説明しようとするんだけど。
頬をつかまれてるから上手く喋れない。
「そろそろさ、クレナが誰のものなのか、わからせた方がいいよね?」
シュトレ王子は、頬から手を離すと、私の顎を指でクイッと持ち上げた。
彼の瞳に映る私の姿が大きくなっていく。
「お兄様! やりすぎです!」
「金色毛虫! お姉ちゃんから離れろ!」
私と王子の間に、ジェラちゃんとナナミちゃんが飛び込んできた。
びっくりしたぁ。
今の何?
――まだ心臓がドキドキいってるよ。
「あらあら。あいかわらず、主人公側はにぎやかねぇ」
部屋の奥の空間がゆがんで。
中から紫色の長い髪に、赤い目の美女が出現した。
サ……サキさん?!
私が。
私が……サキさんを信じてって言ったから。
リリーちゃん……。
王国軍が帝国の本陣に攻め込んだ日。
セントワーグ領軍とハルセルト領軍は、突然現れた魔人たちに攻撃された。
まるで……こうなるのを知ってたように。
全く予想外の反撃に、両軍は守り切ることが出来ずに撤退。
ハルセルト領軍は、お父様とお母様の活躍で大きなダメージを受けなかったみたいなんだけど。
セントワーグ領軍は……。リリーちゃんのところは……。
無事に帰ってきた人たちの話だと。
魔人達は、執拗にリリーちゃんとナナミちゃんを狙ってきたって。
その理由はわからないけど。
だけど……。
リリーちゃんは、魔人に連れ去られたらしい……。
――ダメだ。
今ここで泣き叫んでも。
リリーちゃんは助けられない。
私は涙をこらえると、ぎゅっと手を握りしめた。
待ってて。
なにがあっても絶対、私が助けるから!
「コラ! どうせ、自分のせいだとか思ってるんでしょ!」
いきなり、頭にぱしっと強い衝撃がはしる。
振り向くと、腰に両手を当てたジェラちゃんが立っていた。
「ジェラちゃん……びみょうに痛いんですけど?」
「当り前じゃない! おもいきりはたいたんだから!」
彼女はそういうと、両手を伸ばしてきた。
抱きしめられた腕の中はすごくあたたかくて。
身体の力がすっと抜けるような感覚がした。
「ねぇ、前に言ったでしょ? もっと周りを頼りなさいよ……バカ……」
頬にかかるラベンダー色の髪が少しくすぐったくて。
甘くて優しい香りに包まれる。
「ゴメン……ありがとう、ジェラちゃん……」
やっぱり。
昔ラスボスと戦った時とちがって。
今回の私は……すごく恵まれてるなぁ……。
あれ?
今回って……なんだろう……?
**********
「こんな時に、個人的なお願いなんて、わがままだってわかってるんだけど……」
その日の夜。
砦の応接間に集まってもらったのは。
ジェラちゃん。
ガトーくん。
ナナミちゃん。
それと、キナコとだいふくもち。
「でも、どうしても! リリーちゃんを助けたいんです。お願いします。みなさんの力を貸してください!」
私は大きく頭を下げた。
今の私にできるのは、それくらいだから。
「もし、無事に助け出せたら、なんでも……なんでもするから! お願いします!」
国同士の戦いをしている時に、助けにいくなんて。
それがどれくらい危険なことなのか。
わかってる……わかってるつもりだけど。
応接間に静寂が訪れる。
そうだよね。
こんな時にわがままなんて……。
「お姉ちゃん、本当になんでもですよね!……ああ、楽しみです!」
思わず顔を上げると、すぐ近くにナナミちゃんの顔があった。
大きな目がキラキラ輝いている。
「ナ、ナナミちゃん? ホントに危険なんだよ?」
「かまいません! お姉ちゃんと一緒にいられればそれで!」
頬を赤く染めて、両手をそっとにぎってくる。
……あれ?
なんだろう。私このシーン知ってる気がする。
えーと……。
そうだ!
思い出した。
帝国軍がラスボスを出現させた時、ヒロインの星乙女が攻略対象に言ったセリフと一緒だよ。
ナナミちゃんの純白の魔星鎧も可愛らしく微笑む表情も。
うん。
間違いない。妹と見た画面の彼女と一緒だ。
……。
……攻略対象じゃなくて、私にしてどうするのさ!
「ちょっと、ナナミ。少し離れなさいよ!」
恍惚とした表情のナナミちゃんを、ジェラちゃんが引きはがす。
「ちょっと、なにするんですか!」
「いいから少し落ち着きなさい。私だってホントは抱きつきたいんだから……」
ちょっと、ジェラちゃん?
今、さらっとおかしなこと言ったよね?
「……アンタに頼まれなくても、助けに行くにきまってるでしょ。リリアナも幼馴染みたいなものなんだから」
「そうだよ。それに、ゲームでも星乙女は一人じゃ戦ってなかったよね?」
ジェラちゃんの言葉に、ガトーくんが続けた。
「永遠の愛を貴方に。この戦いで僕の体が闇に飲まれたとしても、ずっと君だけを……」
それ!
ゲームで攻略対象のガトーが星乙女にいうセリフ!
絶対ワザとだ!
なのに……なんでそんな甘いマスクで優しく微笑むのさ。
本当に乙女ゲームの好感度最高時のスチルシーン……みたいだよ。
「あのさぁ。簡単に『なんでも』なんていわないでくれよ……」
気が付くと、いつの間にか部屋の扉が開いていて。
金髪の美青年が立っていた。
「シュトレ様……」
シュトレ王子は、ゆっくりと私に近づいてくると。
両頬をぎゅっとひっぱってきた。
「……ふゅ、ふゅとれさま?」
「なにやってるのかな? オレの婚約者様は?」
「ふゃふぃって、それふぁ……」
あー、この王子の表情は。
怒ってるわ。それもかなり。
「オレには相談できないことだったのかな? オレも『幼馴染』ってやつだと思うけど?」
今までの丁寧な喋り方と全然ちがう。
ブラックだ。
シュトレブラックだ。
「ふぉれはですね、ふゅとれおうふぃをこまらせないように」
慌てて、ジェスチャーを交えながら説明しようとするんだけど。
頬をつかまれてるから上手く喋れない。
「そろそろさ、クレナが誰のものなのか、わからせた方がいいよね?」
シュトレ王子は、頬から手を離すと、私の顎を指でクイッと持ち上げた。
彼の瞳に映る私の姿が大きくなっていく。
「お兄様! やりすぎです!」
「金色毛虫! お姉ちゃんから離れろ!」
私と王子の間に、ジェラちゃんとナナミちゃんが飛び込んできた。
びっくりしたぁ。
今の何?
――まだ心臓がドキドキいってるよ。
「あらあら。あいかわらず、主人公側はにぎやかねぇ」
部屋の奥の空間がゆがんで。
中から紫色の長い髪に、赤い目の美女が出現した。
サ……サキさん?!
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