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魔法学校高等部編

41.お嬢様と白い少女

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「それじゃあ。時間を動かすよ? いい?」
「大丈夫ですよ」

 止めていた時間を動かすと。
 地面にあった結界が少しだけ青く光った気がした。

「それじゃあ、ご主人様。でましょうか?」
「うん、そ、そうだね」

 私は事前に打ち合わせした内容を、頭で繰り返していた。
  
 ……。

 …………。

 無理!!
 私、演技とか下手なんだけど!
 ホントに大丈夫かなぁ。

 おもわず、同じ側の手と足が同時に出る。
 うわぁ、すでにダメっぽいんですけど。

「もぅ。ボクもフォローしますから。大丈夫ですよ」

 キナコに背中をおされて。
 私たちは結界の外に飛び出した。


**********

「おお、竜姫様!」
「クレナ様、どうでしたか?」

 結界を出てすぐに。
 法王様とリュート様が駆け寄ってきた。

 法王様は、かなり興奮しているみたいで。
 顔は真っ赤だし、なんだか手もふるえているみたい。
 
「これを……」

 私は二人に、手に持っていた大きな白い羽を見せた。
 床に並べるた羽毛とは別に、キナコがだいふくもちから抜き取ったものなんだけど。

「竜姫様……これはまさか……」
「ハイ、聖竜様の羽根です」

 法王様は真っ赤な顔をさらに赤くして、おおげさな仕草で手を広げた。

「なんと……すばらしい!」

 だいふくもちの大きな白い羽根は。
 どこかうっすらと輝いているように見える。

「触らせていただいても、よろしいですかな?」
「ええ、どうぞ」

 彼は、ゆっくりと手を伸ばすと。
 持っていた羽根に触れた。

「ああ、感じますぞ、聖竜様の強大な魔力を! まるで今抜け落ちたかのように新鮮ですな!」
 
 うわ。
 そんなのわかるの?
 
 さすが法王様。
 
 うん。ほとんど正解なんだけど。
 抜け落ちては……いない……かなぁ……。

 おもわず目を逸らすと。
 隣に立っているリュート様と目が合った。
 
 澄んだ優しい瞳がとてもきれい……。
 彼は、ジェラちゃんが見たら喜びそうな、甘い表情で問いかけてきた。

「それで、聖竜様にはお会い出来ましたか?」

「ありがとうございます。おかげで聖竜様とお会いすることが出来ました」
「そうですか、よかったです」

 嫌だなぁ。
 こんなに澄んだ瞳で見つめてくる人に、ウソつくの。

 でも……。
 
 仕方ないよね。

「法王様、リュート様。聖竜様のお言葉をお伝えします」


**********

「なるほど、よくわかりました」

 地下空間から外に出た私たちは。
 法王様の執務室に招かれていた。
 
 壁にはびっしり本棚がならんでいて。
 タイトルを見ると。どれも聖竜関連の資料みたい。

「聖竜様は、そのようにおっしゃられたのですね」

 法王様は、窓際でだいふくもちの白い羽を陽の光で透かしながら、満足げにうなずいた。

「はい、これからもよろしくと言っていました」

 私がお二人に伝えたのは。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 静かに眠っていた聖竜様は、私の呼びかけにこたえて、少しだけ話をしてくれた。
 
『世界の危機に備えて力を蓄えているから、今は起きることが出来ない』
『法国のおかげで、ゆっくり休むことができる、感謝している』
 
 そして、出会えた記念に羽根を渡してくれた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ええ、ウソです。
 ウソですとも!

 全部キナコの考えたシナリオなんだけど。

「クレナ様。アンネローゼの事だけではなく、聖竜様のお言葉まで……。本当にありがとうございます」

 リュート様が、キラキラした瞳で笑みを浮かべる。
 緑色の髪がまるで新緑のように静かに揺れて。
 
 うわぁ。
 すごく……心が痛い……。

 ちらっとキナコを見る。
 キナコは口に手をあてて、ないしょのポーズをとっていた。
 
 まぁ、そうなんだけどさぁ……。

「それにしても……すごい魔力だ。もっと大量の羽根を集めることが出来たら……星空も……」

 ……法王様は、羽根を眺めながら、目を細める。
 
 その低く冷たい声に。
 全身が凍るような感覚を覚えて。
 
 おもわず両手で身体を抱きしめた。

「いや、いっそ……息子と竜姫様が結ばれれば……」

「父上!」

 リュート様が立ち上がって、真っ赤な顔で法王様に詰め寄る。

「あはは、なぁに、かるい冗談ですぞ」

 法王様は朗らかに笑って席を立ったんだけど。 
 やっぱり……。

 目が笑っていない。

「できればもっと留まっていただきたかったのですが、そろそろ出発のお時間ですかな?」

 もしかして。
 羽根をお渡ししたの……失敗だったのかなぁ……。


**********

 私たちを乗せた飛空船は。
 
 法王様や、セーレスト神聖法国魔法学校の生徒会メンバーに見送られながら。
 ゆっくりと上昇していく。

 飛空船のすぐ横を、金色の飛竜が並走するように追いかけてきた。

「クレナ様、お元気で! またお会いしましょう!」

(また遊びに……きなさいよね! まってるから!)
 
 リュート様と、アンネローゼちゃんだ。

「ハイ! また遊びにきますね!」

(その時までに、彼を心をつかんでみせるから。お祝いにきてよね!)

 えーと?
 
 ドラゴンと人の恋愛って……どうなんだろう?
 キナコみたいに人化ができれば。
 可能……なのかな?

 でもなんだか……すごく、可愛い!

「うん、楽しみにしてるねー!」


 飛空船の魔法石の輝きが大きくなって。
 キラキラと帯を引きながら、速度が上がっていく。

 やがて。
 二人の姿が小さくなって、見えなくなっていった。


「ずいぶんさっきのドラゴンと仲良くなったみたいだね? 寂しい?」

 ぼーっと小さくなる宮殿を眺めていたら。
 背後に気配を感じた後、身体がふんわりと暖かくなった。

 首元に、見覚えのある大好きな腕が見える。

 大好きな香りにつつまれて。すごく……安心する。

 私はそのまま、彼に身体を預けた。

「うん、ちょっとだけ寂しいかなぁ……でもきっと、また会えるから」
「そうか……。ねぇ、一応確認してもいい?」

「うん?」

「……会いたいのは、あの飛竜だけだよね?」

 え?
 だって今その話だったよね?

 ビックリして、王子を見上げると。
 彼は真っ赤な顔で私を見つめていた。

 だけっていうと……あれ?
 もしかして。

「あの! 違いますからね! リュート様とはホントに何もなくて!」
「ああ……うん。ごめん、ヘンな話をして。忘れていいよ!」

 私は。
 目の前の彼の腕を、そっと抱きしめた。

「私には……シュトレ様だけですよ」
「クレナ……」

 このまま。
 ずっとこうしていられたらいいのに。

 ゆっくりと瞳が近づいていく。

 唇に柔らかい感触が伝わる寸前。

 突然、背後から大きな声がした。

「ほう、これが今の王子なわけね!」

 慌てて振り向くと。
 小さな女の子が、腰に手を当てて立っていた。

 大きな青い瞳に、白髪の絹のようなロングヘア。
 服装も、フリルのついた真っ白なワンピース姿。
 絵本の天使みたいな、白くて可愛らしい女の子。
 
 十歳くらいにみえるんだけど。
 この船に、こんな子いたっけ?

「ちょっと! ご主人様がお楽しみなんだから、邪魔しちゃダメですよ」

 後ろから、慌ててキナコが女子を取り押さえる。

 お楽しみって!
 ちょっとキナコさん?!

 思わず顔が沸騰しそうになる。

「あはは。なんだぁ、それは悪かったなぁ!」

 容姿からは、大人しそうな印象を受ける、すごく可愛らしい女の子なんだけど。
 容姿や声と喋り方のギャップがすごいんですけど!

 ……あれ?
 もしかして……。

「クレナ、この子知り合い?」

 シュトレ王子が私に尋ねてきた。
 知り合いっていうか。
 多分……。

「おう。オレの名前は、だいふくもちっていうんだ。よろしくな!」

 王子にむけて、ニヤッと笑った。

 横にいたキナコが、大きなため息をつく。

 まさかと思ったけど。

 やっぱり、だいふくもち……!?
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