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魔法学校高等部編

39.お嬢様とだいふくもち

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 結界の奥にいた、巨大な白い毛のかたまりは。
 キナコの声が聞こえていないのか、まったく反応しない。

「はぁ。このまま帰ります? きっとその方が……」
「でもさ、かみたちゃんが会えっていったのって、この竜のことなんだよね?」
「それは多分……そうなんですけどね……」

 キナコは、少し寂しそうな表情をして下を向いた後。
 笑顔で私を見つめてくる。
 
 でもそれ。作り笑いだよね?
 私たち、どれだけ一緒にいたと思ってるのさ!
   
「ご主人様がおこせば、起きると思いますよ。やってみましょうか?」 
「ううん。このまま帰ろうよ。かみたちゃんにも、ちゃんと話すから」

 彼女は、ビックリした顔で固まると。
 嬉しそうに頬をすりよせてきた。

「……大丈夫ですよ。今度こそきっと」
「今度って?」
 
「なんでもありませんよ。さぁ、この白いのをおこしましょうか!」

 キナコは再び、口元に手を当てると、大きな声で叫びだす。

「だいふくもち! もう朝だよ! 起きないとおいていくよー!」

 やっぱり何の反応もない。
 ホントに、生きてるんだよね? 

「ほら、ご主人様も!」
「私?」
「ご主人様の声ならおきますって。ほら、早く!」

「……ほんとに『だいふくもち』って名前なの?」
「もう! 今更、何言ってるんですか?」

 キナコは不思議そうな表情をした後、あわてて両手で口を押さえた。
 
 なんだろう?
 そもそも、日本語だよね?
『だいふくもち』って。

「ねぇ、だいふくもち。そろそろ起きませんかー?」

 キナコのマネをして、そっと呼びかけてみる。

 ――突然。
 
 白い毛の塊が大きく動き出した。

 巨大な首が毛玉から伸びてきて。三角の耳がぴんと立つ。
 さらに、ネコのような伸びるポーズをとると、二枚の白い羽が大きく広がった。

 白い羽毛におおわれた、巨大なドラゴン。

 すごく……優雅で……きれい。


「いやぁ、よく寝たわね。なんだ、星乙女と竜王じゃないか」

 大きな青い瞳がくるくる動くと、私と目が合った。
 透き通るような女性の声で話しかけてくる。

「ほー? 乙女はなんだか大きくなったな。竜王は……なんだい、その恰好は!」

 聖竜様は。
 人化したキナコと私を見比べたあと。

 大きな声で笑い始めた。

「アンタの乙女ちゃん好きは知ってたけどさ、そこまでするか! いやぁ、すごいわ!」

 キナコは真っ赤な顔をして、聖竜様をけとばす。
 見た目と声はすごく可愛らしいのに。
 
 しゃべりかたとのギャップが……すごいんですけど。
 
「で、どうしたんだい? また魔物でも現れたのか?」

 聖竜様は、大きな顔を伸ばして、こちらに近づけてきた。

 なんだか、すごく親しそうに話してくるんだけど。
 多分、初代の星乙女……かみたちゃんと勘違いしているんじゃないかな?
 
「あの。初めまして、聖竜様。私、クレナといいます」

「なんだって?」

 大きな青い瞳がさらに大きく開かれる。

「なるほど……そういうことかい」 

 聖竜様は、私とキナコをじっと見つめた後。
 小さな声でつぶやいた。

「……それ、転生ってやつなんだろ? 面白いことするなお前ら」

 うん。確かに転生者だけど。
 なんだろう?

 なんだか……ちがう意味で話されてる気がするんだけど。

「あの、聖竜様……?」

「そんな堅苦しい呼び方しなくていいんだよ……昔と同じで、『だいふくもち』でさ」

 聖竜様は、大きな目を細めて。
 優しい声でそっとささやく。

「それじゃあ……だいふくもちさん?」

「なんだい、ずいぶん他人行儀じゃないか……ってまぁ、そういうことなんだよな?」

 聖竜……だいふくもちは、少し悲しそうな表情をして。
 キナコに視線をうつした。

「そうだね、だいふくもち……」

 キナコは、少しうつむいたまま、ぼそっとつぶやいた。

 ごめん。
 全然わからないんですけど。


 ――あと。

 なんでキナコとこんなに仲が良いの?!

 昔からの知り合いっぽいけど。
 それだと時代が合わないよね?

 ドラゴン同士って……なにか特別なつながりとかあるのかなぁ。


**********

「で。なんで私はおこされたんだい?」

 だいふくもちは、大きな頭を私にすりよせてきた。
 白い羽毛がすごく柔らかくて、気持ちいい。

 キナコも、だいふくもちも。
 やっぱり……しぐさがネコっぽい。

「あの、私たち。金色に輝く神様みたいな女の子に、白い聖竜に会えって言われたんです」
「はぁ?」

 だいふくもちは。
 ビックリした表情で、私とキナコを見比べはじめた。

「金色に輝く女の子っていったら……そりゃ……」

「そんなことより!」

 キナコが突然大きな声をあげる。

「今は、ここから出ようよ。黒い影も復活してるみたいなんだ」
「なんだい、あいつも復活してるのか。ははん、それで私をおこしたんだな!」

 納得したように、白い首を上下させたあと。
 周囲をぐるりと見渡した。

「で……ここはどこなんだい?」
「キミが眠っている場所の上にね。人間が大きな宮殿を建てたんだよ」

「ふーん、何のために?」
「キミを守るために。あと……君を利用するために……」

「なるほどね。はぁ、相変わらずだなぁ、人間は」

 ……え?
 上に宮殿を建てた?

 だいふくもちが、白い大きな羽を広げると。
 突然、地面が青く光りだす。

「……それ、キミを逃がさないための、結界だよ」
「ほう! 面白いじゃないか!」

 翼を大きく羽ばたかせ、上へ飛ぼうとした瞬間。
 結界の青い光が、包み込むように、だいふくもちを覆う。

「……あはは、さすがにこれは飛べないねぇ」
「まぁ、そうでしょうね」

 だいふくもちは、大きなため息をつくと、羽根をたたんで丸くなる。
 すると、結界の光は消えて。
 覆っていた光も消えていく。

「おまけに、キミの魔力はその魔法陣に吸われ続けてるんだ。法国はその力で発展してるんだよ」

 ……え?
 寝ているドラゴンの魔力を強制的に?

 そんな……。

「そこで、ご主人様! 時間を止めてください!」

 キナコは、私に向かって振り向くと。
 わざとらしく両手を胸の前に組んでおねだりしてきた。

「なるほど、あの魔法か。懐かしいな~」

 だいふくもちは、嬉しそうな瞳をこちらに向ける。

 ……もう。
 なんだかわからないけど。
 とにかく時間を止めればいいのね。

「お願い、時間を止めて!」

 ……。

 …………。

 
 えーと?

 もともと、静かな空間だったから。
 変化があったのか全然わからないんですけど!

「大丈夫、ちゃんとかかってますから」

 キナコは、ぴょんと、だふくもちに飛び乗ると。
 私に手を差し出してきた。

「さぁ、だいふくもちに乗って、脱出しましょう!」
「なんだい、お前ものるのか! 自分で飛べばいいだろうに」

 あきれた顔をして、小さくため息をつく、
 なんだか。
 本当に、仲良しみたい。

「まぁ、いいさ。それじゃあ、いくよ!」

 私が乗ったのを確認した、だいふくもちは。

 再び大きな白い羽を広げると、吹き抜けの天井に向かって飛び上がった。
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