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魔法学校高等部編

16.魔法学校の先輩とお嬢様

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<<グラウス先輩目線>>


 魔法学園の訓練場の横を通り抜けると。
 小さな庭園がある。
 
 この季節には。
 春の日差しを受けて、色とりどりのバラが咲き誇っている。
 
 僕は、その中央にある白いガゼボに向かっていた。
 この時期は、ガゼボのベンチで読書をするのが日課だから。
 
 美しい庭園の景色と甘い香りの中で本を読むと。
 自分の推理力や考察力が高められる気がする。

 そして。
 
 この胸の痛みも……。
 少しだけ軽くなる気がするから……。

 けれど。

 この日は少し違っていた。
 いつもの見慣れたバラの景色の中に。

 ――赤いセーラー服を着た少女が立っていた。


 薄桃色の髪が、ふわりと風に揺れている。
 声をかけようかためらっていると。
 大きな赤紫の瞳と目があった。
  
 彼女は、少しはにかむように微笑んできた。
 それは庭園の景色と溶け込むようで。

 ……美しい絵画のようだと……思った。

「グラウス会……先輩、お久しぶりです」
「久しぶり、クレナちゃん……」

 まるで、花の妖精のような笑顔に。
 鈴の音色のような声に。

 心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 ……僕は、動揺に気づかれないように言葉を続けた。

「めずらしいですね、こんな所でお会いするなんて」

「あはは、実はですね。生徒会の活動で校内の撮影をしてるんですよ」

 なるほど。
 彼女は大きな映像クリスタルを抱えている。

「そうでしたか。会長みずから、大変ですね」
「んー。私に出来ることって少ないから……」

 照れたように笑うけれど。
 君がどれだけ頑張る子かは。

 誰よりよく知ってるつもりだよ。

 ……中等部で二年も一緒に活動してたんだから。

 
 シュトレ王子と婚約の仮期間を延長したことは、すぐにわかった。
 元々仮であること公表はしていなかったから、表向きは何の変化もなかったけれど。

 ある日から、父が貴族の娘の絵姿を広げて悩まなくなった。
 ウワサで聞こえてきた、帝国の第一皇女のとの婚約話も完全に消えていたし。

 そして、王宮で見かけた、君と王子の笑顔……。

 ……残酷なくらい……簡単な推理だよね。


「ねぇ、シュトレ王子は優しい?」

 思わず。
 心の声が口に出てしまった。

「……え?」

 彼女は。
 驚いた顔をした後、真っ赤に顔をしてうつむいた。

「……すごく……優しいです」

 幸せそうな笑顔に、胸が締め付けられる。
 
 でも。君の気持ちが伝わってくるから……。
 知っているんだよ。

 ……諦めるしかないことは。

 ふと。
 彼女の肩に、バラの赤い花びらが付いていることに気づいた。

「クレナちゃん、肩に花びらが……」
「え?」

 近づいて、花びらを払おうとした時。
 
 彼女の甘い匂いが、庭園のバラの香りと一緒に風にのって伝わってきた。

 ……ダメだ。
 ……この想いを抑えられない。

「え?! グラウス先輩?!」

 思わず彼女を抱きしめる。
 柔らかなぬくもりが伝わってくる。
 手放したく……ない……。

「……先輩! やめてください!」

 彼女の大きな声でハッとする。
 手を離して、顔を見ると。

 赤紫の瞳に涙がたまっていた。

 こんなつもりじゃ……。

「すみません……」

 僕は慌てて謝罪する。
 彼女は映像クリスタルを抱えて、無言で庭園の出口へ走っていった。

「……先輩」

 庭園の出口付近で、急に立ち止まると。
 振り返って、泣きそうな顔で微笑んだ。
 
「先輩……いつか。私なんかより、ずっとずっと先輩にお似合いの人が現れますよ」

 それは。
 まるで絵本の妖精が語りかけてくるようで。

 いつか……。

 それはいつだろう?

 いつか彼女へのこの苦しい想いは……想い出に変わっていくのだろうか……。


**********

<<ファニエ先輩目線>>


「ふぅむ。新しい生徒会は順調のようじゃな」
「ありがとうございます。おかげさまで大丈夫ですわ」

 妾は、高等部の生徒会に遊びにきておる。

 いやぁ。
 選挙の結果は意外じゃった。

 まさか、一年生のクレナがなぁ。
 三年のシュトレ王子や、ティル先輩。
 二年のグラウスのやつに勝つとは。

 あいつの悔しそうな顔を思い出す。

 まぁ……ざまぁみろじゃな。
 どうせ生徒会で、また一緒に活動したかったのじゃろうし。
  
「それで、生徒会長はどうしたのじゃ?」
「今日は天気もいいので、外に撮影に出かけてますわ」

「撮影? なんのじゃ?」

「次の交流会の資料作りですわ」
「そうか、大変じゃのう」

 生徒会室におるのは。
 妾と、リリアナだけじゃ。
 
 リリアナの淹れてくれた紅茶を飲みながら、軽く雑談をしておる。
 クレナに部の予算のことで相談があったのじゃが。
 まぁ、そのうち来るじゃろ。

 ああ、そうじゃ!
 リリアナといえば。
 ニヤリとしながら、リリアナを見つめる。

「先輩? どうかされましたか?」
「ところで、リリアナ。その後、クレナとの仲はどうなんじゃ?」
「仲良しですわよ?」
「いや、友達としてじゃなくて、恋愛相手としてじゃ」

 まどろこしいのは嫌いじゃから、ストレートに質問してみる。
 この方が、伝わりやすいからのう。

「ななな、何の話ですか?!」

 リリアナが明らかに取り乱したように、顔を真っ赤にして立ち上がる。

「とぼけなくても平気じゃ。今この部屋には妾とリリアナしかおらんぞ」

 なんじゃ。
 バレてないと思っておったのか。
 後輩ながら……可愛いのう。

「……親友のままですわ」

 リリアナは真っ赤な顔をしたまま。
 俯いた姿勢でボソッとつぶやいた。

「クレナちゃんは、シュトレ王子が好きですので……今はこのままですわね」

 金色の髪がさらりと肩から流れる。
 青い瞳が少し潤んでいるようじゃ。

 ……妾が男じゃったら、抱きしめてるところじゃぞ。

「……それで良いのか?」
「……良くはないですけど……クレナちゃんの気持ちが一番ですから」

「そうか……あいつも見る目がないのぉ。こんなにいい女がおるのに……」
「もう! クレナちゃんを悪く言わないでくださいね?」

 うーん。

 リリアナを褒めたつもりじゃったが。
 本当にクレナが大好きなのじゃな。

「それに! まだ負けてません。いつか振り向かせてみせますわ!」
「リリアナも成長したのう……」
 
 胸を張るリリアナを見て。
 妾は別の事を考えておった。

 リリアナもクレナも。
 中等部の頃にくらべて、ずいぶん女らしくなってきたのじゃ。
 胸がずいぶんふくらんでおるし、なんだか全体的に大人っぽくなった気がするのじゃ!
 
 自分の姿をじっと確認する。
 うーむ。
 いや、妾はまだ成長期がきてないだけじゃ!

 そのうちこの二人に追いつくのじゃ!

「……ファニエ先輩?」
「な、なんでもないのじゃ」

 ふふん。
 そのうちナイスバディになった妾を、二人に見せつけてやるのじゃ。  

「先輩こそ、平気なんですか?」
「なななな、何の話じゃ!?」

 成長期の話じゃったら。
 余計なお世話じゃぞ。

「……気づいてますわ。先輩の気持ち」

 な、な、な。
 何を言っておるのじゃ!
 リリアナは!

「あの人にだけ、好きな人の話をふったり。告白のアドバイスに乗ってたり……バレバレでしたわ」

 思わぬ不意打ちに。
 
 顔が沸騰したように熱くなるのを感じた。 
 これは……隠しようがない……のじゃ。

「かなわんのう……内緒じゃぞ」

 唇に人差し指をあてて、ナイショのポーズをとる。

「いつか、先輩の気持ちも推理してもらえるといいですわね」
「せ、先輩をからかうな! きょ、今日は帰るのじゃ! またな!」

 はぁ、おもわぬ反撃にあったのじゃ。


 あいつが妾の気持ちを推理する……か……。

 ……全然想像できないのじゃ!
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