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幼少期編
35.王子様と光と影の竜
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今日はクレナが王都にやってくる日だ。
魔道具の作成の為に、父が内緒で招待したらしい。
親父、正直よくやった!
クレナは。
いつもニコニコしている、妖精のような子だったから。
オーガと戦ってケガをしたと聞いたときには本当に驚いた。
男の子をかばって一人で戦ったらしい。
……すごいな。
オレにそんなことが出来るだろうか。
「シュトレ王子。ハルセルト伯の飛空船が到着されました」
「よ、よし! すぐに飛行場に向かう!」
誘導船には事前に伝えてあったので、オレの到着を見計らって、船は飛行場に降り立った。
飛空船のハッチが開き、中から可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
クレナと、クレナの親戚のキナコちゃんだ。
この二人は、本当によく似ている。
似ているんだが、どうしても目線はクレナに向かってしまう。
「ひ、ひさしぶりだな、クレナ」
「シュトレ王子、お久しぶりです」
「王子ー、ボクもいるんですけどー」
今日のクレナは、サイドを三つ編みにして後ろで結んでいる。
花柄のレースのついた、水色の可愛らしドレス姿だ。
キナコちゃんもお揃いのデザインでピンク色のドレスを着ている。
すごいな。
本当に双子みたいに可愛らしい。
「きょ、今日は親父に呼ばれたんだって?」
「ええ、そうなんです。魔道具の発明に協力して欲しいって」
「そうか」
「そうなんですよ」
「…………」
ダメだ!
以前毎日お見舞いにいって、少しは話が出来るようになったけど。
クレナの前だと、どうしても緊張してしまう。
「王子様~。そんなんじゃ他の人に取られちゃいますよー?」
うぉ、なんだ。キナコちゃんのその含み笑いは。
ひょっとして、き、気づいてるのか?
オレが動揺していると、突然オレに近づいて耳打ちしてくる。
「よかったら、協力しましょうか?」
ドキッとする。
協力? オレとクレナの仲を?
「ちょっと、キナコ! 王子様に失礼でしょう!」
「ハーイ! ゴメンね王子様~。でも、果物沢山くれるからそのお礼だよ!」
「ちょっと! キナコが失礼をして、申し訳ありません」
「……いや、いいんだ」
顔が真っ赤になっているのがわかる。
協力してくれる?
クレナと少しは仲良くなれるのだろうか?
**********
クレナ達は、明日の朝に親父と会うらしく。
今日は王宮に泊まるんだそうだ。
「王子、手が止まってますよ」
「す、すまない」
宰相のクライスに国の経済について教えてもらってるところなのだが。
まったく頭に入ってこない。
今同じ建物の中に、彼女がいる。
……会いたい。
「はぁ、そういえば今日は竜姫様がきてるんでしたね」
「そ、そうらしいな」
「らしいなって。王子、迎えにいったのでしょう?」
「な、なぜそれを知っている!」
「……みんな知ってますよ」
み、みんなとは誰の事だ。
ごくわずかなメンバーで内密に動いたはずなのに。
「今日はここまでにしましょう」
ため息をつきながら、宰相が教本を閉じた。
「いや……しかし」
「会いにいったらどうですか?」
クレナに会いに?
しかし……。
「今日はどうせ勉強になりませんよ。ご自由にどうぞ」
目をつむり、手を振る宰相。
……クレナ。
クレナの可愛らしい笑顔が頭に浮かぶ。
「す、すまいない。そうさせてもらう!」
オレは、部屋を飛び出して、クレナを探しに向かった。
**********
探すといっても。
王宮は広い。
もう部屋を出ていたら、探すのは大変だな。
彼女たちが泊っている部屋を訪ねると。
城の召使いが出迎えてくれた。
「お嬢様方は、ガトー様、ジェラ様とお出かけになられましたよ」
「そうか。どこに向かったか聞いてないかな?」
「いいえ。申し訳ありません……」
「……いや。ありがとう」
そうなのだ。
クレナは、王宮に来るとかならずジェラの部屋に遊びにいっている。
あの二人、オレよりも仲が良いように感じる。
ジェラはともかく、ガトーは……正直うらやましい。
あいつは、どんな女性にも歯の浮くような言葉を平気でいえるからなぁ。
オレも、せめて半分くらい話せたら。
ジェラの部屋を訪れると、外出して不在だという。
これは困った。
手当たり次第探すには、王宮は広すぎる。
「ふふふ、おこまりですかな、王子様」
声をした方を振り返ると。
キナコちゃんが、口を押さえてニコニコ笑っている。
「キナコちゃんか。クレナとは一緒じゃないのか?」
「ごしゅ……クレナちゃんがどこにいるか、知りたいですか?」
後ろに手を組んで近づいてくる。
イタズラを考えてる子供のような表情だ。
「……教えてくれるのか?」
「ボクは全員に中立なんだけど。王子は特別だよ!」
「そうか、ありがとう」
彼女は、クレナに一番近い存在だろう。
協力してくれるのは……恥ずかしいが、素直にありがたい。
「クレナちゃんたちは、お城の裏庭にいるはずだよ~」
「裏庭に?」
はて?
裏庭になんの用事があるんだろうか?
「わかった、行ってみるよ、ありがとう!」
「がんばってねー!」
オレは、笑顔のキナコちゃんに見送られながら、城の裏庭へ向かった。
**********
「ねぇ、おねえちゃん。これはどうやればいいの?」
「それはね、こうやってお花同士を交差させて、くるくるって」
「すてきですわ、クレナちゃん!」
「いやー、なかなかむずかしいもんだね」
「アンタ、こういうの器用よね~」
賑やかな裏庭をのぞくと。
お城の子供たちとクレナ、リリアナ、ジェラ、ガトーがいた。
みんなで座り込んで、何かを作っている。
「おねえちゃん、出来たー!」
「すごいっ! すごいっ! 上手に出来たわねー!」
「これね、おねえちゃんにあげる!」
小さい女の子が、クレナの頭に花の冠をのせる。
「せっかく上手に作れたのに、いいの?」
「また作るから平気ー」
「そっか~。ありがとう」
クレナがニッコリ微笑んだ。
そんなふうに、無邪気にわらうんだな。
……カワイイ。
「お似合いですわ、クレナちゃん」
「ボ、ボクもつくったらあげるから!」
「私も私も~」
「こっちのおねえちゃんは下手くそだな~」
「うっさいわね、こういうのは苦手なのよ」
みんな笑顔だ。
子供たちだけじゃない。
リリアナも、ジェラも、ガトーも。
……あんなふうに笑えるのか。
クレナを中心に、笑顔の輪がひろがっている。
すごいな。
まるで魔法だ。
「あー、向こうにもおにいさんがいるー!」
「ほんとだー」
「こっちにおいでよー」
オレをみつけた子供たちが、かけよってきて、手をひっぱっていく。
「お、お兄様?!」
「やぁ、兄さんがこんなところにくるなんて珍しいね」
輪に加わると、なんだかみんな静かになった。
オレが加わったのはまずかったか。
やはり、第一王子だからか……。
「うふふ、なんとこのお兄さんは、剣の達人なのです!」
「えー!」
「ウソだー」
「さぁ、みんなでお兄さんと戦ってみましょう!」
男の子たちが、木の棒にお花を巻き付けたようなお手製の剣を構える。
こんなものも作ってたのか。
クレナを見ると、片目を閉じて、笑顔でこちらを見ている。
お願いってことかな。
しかたないな。
「さぁ、この最強の剣士をたおせるのは、だれかな~」
クレナが花冠を大事そうに上にかがける。
「このお兄ちゃんを倒した人には、私がつくった花冠をプレゼントするよー!」
「えー! クレナちゃん、それわたしが欲しいですよー!」
「いくぞー!」
「おにいちゃん、かくごー!」
しばらく男の子達とあそんだあと、再び輪に戻ると、みんな笑顔でむかえてくれた。
「おつかれさま。ごめんね、ありがとー」
クレナの頭の上には、たくさんの花冠がのっていた。
「おにいちゃん、たのしかったー!」
「またあそぼうぜ!」
男の子がオレにだきついてくる。
不思議と……いやな気分じゃない。
「クレナちゃんが、王子さまも輪に入れるように気を使ったんですわ」
近くにすわっていたリリアナがボソッと声をかけてきた。
まぁ、そうだろうな。
「これは、お城の子供たちがヒマそうにしてたのを、クレナちゃんが声をかけたんですわ」
「そうだったのか」
「クレナちゃんは、優しすぎます……」
まぶしそうにクレナを見つめている。
「おい、これやるよ」
とつぜん、男の子が使っていた花の剣を渡してきた。
「つぎは負けないからな。その剣でお前もしゅぎょうしとけよ」
こまったな。
こういうときにどう反応すればいいんだろう。
少し周りが静かになる。
せっかくクレナが輪に入れてくれたのに。
「じゃあ、私からもプレゼント!」
突然クレナが近づいてきて、オレの頭に花冠を載せた。
「じゃじゃーん、第一回花の剣士大会の優勝は、このお兄さんですー!」
クレナが顔を近づけてきて、そっと耳打ちしてくる。
「ありがとうでいいんですよ。男の子も喜びます」
そうか。
そうだよな。
この男の子にとって、この剣は宝物だったんだよな。
「えー。こんなすてきなプレゼントをありがとう! 次も負けないぞ!」
もらった花の剣を大きく上にかかげてみる。
「楽しかったー!」
「次はぼくがかつぞー!」
「つぎはまけないー!」
剣をくれた男の子も、ほかの子供たちも、みんな笑顔だ。
横を見ると、笑顔のクレナがいる。
……本当に。
かなわないな、彼女には。
**********
子供たちと別れて。
オレはクレナを部屋に送っていった。
「ごめんなさい、シュトレ王子。まきこんじゃって」
「いや、久しぶりに全力で遊べて楽しかったよ」
「それって、本気で言ってます?」
「ははは、もちろん。オレがウソつきみえる?」
「うーん、どうでしょう?」
二人でクスクス笑いあう。
なんだなんだコレ。
自然に話せるぞ。
「なぁ、クレナ」
「ハイ? どうかしましたか?」
不思議そうな顔で見つめてくる。
頭に乗ったままの花冠がすごく似合っていて。
本当に、妖精みたいだ。
「……シュトレでいい」
「え?」
「シュトレと呼んでくれていいから」
きょとんとした顔のクレナ。
しまった!
勢いでおもわず言ってしまった。
すごく恥ずかしい。
少し考えるポーズをしたクレナが笑顔で答えた。
「わかりました、シュトレ様」
カワイイ。
抱きしめたい。
か、仮でも婚約者だし。
しかし、いきなりそんなことをしたら嫌われるんじゃないか。
「ふぅ、なんでそこで抱きしめないかなぁ?」
後ろから女の子の声がした。
「キ、キナコ!」
「キナコちゃん!」
キナコちゃんは、両手を広げて、やれやれといったポーズをする。
「あれだけ甘い雰囲気だったのに。キスくらいはするかと思いましたよ」
「キナコ! 面白がってるだけでしょう!」
「えー、ごしゅ……クレナちゃんに言われたくないなぁ」
……危なかった。
ホントに危なかった。
「それじゃあ、オレはこれで」
「今日はありがとうございました、シュトレ様」
笑顔で手を振ってくれた。
カワイイ。
この笑顔が見れただけで満足だ。
うん、満足……だよな。
**********
次の日。
門のある城壁から付近を眺めていた。
クレナ達は朝から、親父の工房に出かけている。
「クレナちゃんを、ここで待っているんですか?」
後ろから声をかけられた。
な、なんでオレの行動がバレてるんだ!
焦って振り向くと、金髪の少女が立っていた。
「なんだ、リリアナか。こんなところでどうしたんだ?」
「同じですよ」
「同じ?」
「私もここで、クレナちゃんを待ちますわ」
前から少しだけ思ってたことがある。
まさかなんだが、リリアナはもしかして……。
「あ、帰ってきましたわ!」
門の近くに、クレナとキナコちゃんの姿が見えた。
声をかけようとした次の瞬間。
暴走した馬車が後ろから近づき、クレナ達をさらっていった。
「ク、クレナちゃん!?」
「クレナー!」
なんだあいつらは。
クレナを誘拐だと。ふざけるな!
あの馬車にあった紋章。
あれは確か……。
「助けに行くぞ!」
「あたりまえですわ!」
クレナ無事でいてくれ!
オレは、リリアナに伝令を頼むと、逃げた馬車を追っていった。
魔道具の作成の為に、父が内緒で招待したらしい。
親父、正直よくやった!
クレナは。
いつもニコニコしている、妖精のような子だったから。
オーガと戦ってケガをしたと聞いたときには本当に驚いた。
男の子をかばって一人で戦ったらしい。
……すごいな。
オレにそんなことが出来るだろうか。
「シュトレ王子。ハルセルト伯の飛空船が到着されました」
「よ、よし! すぐに飛行場に向かう!」
誘導船には事前に伝えてあったので、オレの到着を見計らって、船は飛行場に降り立った。
飛空船のハッチが開き、中から可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
クレナと、クレナの親戚のキナコちゃんだ。
この二人は、本当によく似ている。
似ているんだが、どうしても目線はクレナに向かってしまう。
「ひ、ひさしぶりだな、クレナ」
「シュトレ王子、お久しぶりです」
「王子ー、ボクもいるんですけどー」
今日のクレナは、サイドを三つ編みにして後ろで結んでいる。
花柄のレースのついた、水色の可愛らしドレス姿だ。
キナコちゃんもお揃いのデザインでピンク色のドレスを着ている。
すごいな。
本当に双子みたいに可愛らしい。
「きょ、今日は親父に呼ばれたんだって?」
「ええ、そうなんです。魔道具の発明に協力して欲しいって」
「そうか」
「そうなんですよ」
「…………」
ダメだ!
以前毎日お見舞いにいって、少しは話が出来るようになったけど。
クレナの前だと、どうしても緊張してしまう。
「王子様~。そんなんじゃ他の人に取られちゃいますよー?」
うぉ、なんだ。キナコちゃんのその含み笑いは。
ひょっとして、き、気づいてるのか?
オレが動揺していると、突然オレに近づいて耳打ちしてくる。
「よかったら、協力しましょうか?」
ドキッとする。
協力? オレとクレナの仲を?
「ちょっと、キナコ! 王子様に失礼でしょう!」
「ハーイ! ゴメンね王子様~。でも、果物沢山くれるからそのお礼だよ!」
「ちょっと! キナコが失礼をして、申し訳ありません」
「……いや、いいんだ」
顔が真っ赤になっているのがわかる。
協力してくれる?
クレナと少しは仲良くなれるのだろうか?
**********
クレナ達は、明日の朝に親父と会うらしく。
今日は王宮に泊まるんだそうだ。
「王子、手が止まってますよ」
「す、すまない」
宰相のクライスに国の経済について教えてもらってるところなのだが。
まったく頭に入ってこない。
今同じ建物の中に、彼女がいる。
……会いたい。
「はぁ、そういえば今日は竜姫様がきてるんでしたね」
「そ、そうらしいな」
「らしいなって。王子、迎えにいったのでしょう?」
「な、なぜそれを知っている!」
「……みんな知ってますよ」
み、みんなとは誰の事だ。
ごくわずかなメンバーで内密に動いたはずなのに。
「今日はここまでにしましょう」
ため息をつきながら、宰相が教本を閉じた。
「いや……しかし」
「会いにいったらどうですか?」
クレナに会いに?
しかし……。
「今日はどうせ勉強になりませんよ。ご自由にどうぞ」
目をつむり、手を振る宰相。
……クレナ。
クレナの可愛らしい笑顔が頭に浮かぶ。
「す、すまいない。そうさせてもらう!」
オレは、部屋を飛び出して、クレナを探しに向かった。
**********
探すといっても。
王宮は広い。
もう部屋を出ていたら、探すのは大変だな。
彼女たちが泊っている部屋を訪ねると。
城の召使いが出迎えてくれた。
「お嬢様方は、ガトー様、ジェラ様とお出かけになられましたよ」
「そうか。どこに向かったか聞いてないかな?」
「いいえ。申し訳ありません……」
「……いや。ありがとう」
そうなのだ。
クレナは、王宮に来るとかならずジェラの部屋に遊びにいっている。
あの二人、オレよりも仲が良いように感じる。
ジェラはともかく、ガトーは……正直うらやましい。
あいつは、どんな女性にも歯の浮くような言葉を平気でいえるからなぁ。
オレも、せめて半分くらい話せたら。
ジェラの部屋を訪れると、外出して不在だという。
これは困った。
手当たり次第探すには、王宮は広すぎる。
「ふふふ、おこまりですかな、王子様」
声をした方を振り返ると。
キナコちゃんが、口を押さえてニコニコ笑っている。
「キナコちゃんか。クレナとは一緒じゃないのか?」
「ごしゅ……クレナちゃんがどこにいるか、知りたいですか?」
後ろに手を組んで近づいてくる。
イタズラを考えてる子供のような表情だ。
「……教えてくれるのか?」
「ボクは全員に中立なんだけど。王子は特別だよ!」
「そうか、ありがとう」
彼女は、クレナに一番近い存在だろう。
協力してくれるのは……恥ずかしいが、素直にありがたい。
「クレナちゃんたちは、お城の裏庭にいるはずだよ~」
「裏庭に?」
はて?
裏庭になんの用事があるんだろうか?
「わかった、行ってみるよ、ありがとう!」
「がんばってねー!」
オレは、笑顔のキナコちゃんに見送られながら、城の裏庭へ向かった。
**********
「ねぇ、おねえちゃん。これはどうやればいいの?」
「それはね、こうやってお花同士を交差させて、くるくるって」
「すてきですわ、クレナちゃん!」
「いやー、なかなかむずかしいもんだね」
「アンタ、こういうの器用よね~」
賑やかな裏庭をのぞくと。
お城の子供たちとクレナ、リリアナ、ジェラ、ガトーがいた。
みんなで座り込んで、何かを作っている。
「おねえちゃん、出来たー!」
「すごいっ! すごいっ! 上手に出来たわねー!」
「これね、おねえちゃんにあげる!」
小さい女の子が、クレナの頭に花の冠をのせる。
「せっかく上手に作れたのに、いいの?」
「また作るから平気ー」
「そっか~。ありがとう」
クレナがニッコリ微笑んだ。
そんなふうに、無邪気にわらうんだな。
……カワイイ。
「お似合いですわ、クレナちゃん」
「ボ、ボクもつくったらあげるから!」
「私も私も~」
「こっちのおねえちゃんは下手くそだな~」
「うっさいわね、こういうのは苦手なのよ」
みんな笑顔だ。
子供たちだけじゃない。
リリアナも、ジェラも、ガトーも。
……あんなふうに笑えるのか。
クレナを中心に、笑顔の輪がひろがっている。
すごいな。
まるで魔法だ。
「あー、向こうにもおにいさんがいるー!」
「ほんとだー」
「こっちにおいでよー」
オレをみつけた子供たちが、かけよってきて、手をひっぱっていく。
「お、お兄様?!」
「やぁ、兄さんがこんなところにくるなんて珍しいね」
輪に加わると、なんだかみんな静かになった。
オレが加わったのはまずかったか。
やはり、第一王子だからか……。
「うふふ、なんとこのお兄さんは、剣の達人なのです!」
「えー!」
「ウソだー」
「さぁ、みんなでお兄さんと戦ってみましょう!」
男の子たちが、木の棒にお花を巻き付けたようなお手製の剣を構える。
こんなものも作ってたのか。
クレナを見ると、片目を閉じて、笑顔でこちらを見ている。
お願いってことかな。
しかたないな。
「さぁ、この最強の剣士をたおせるのは、だれかな~」
クレナが花冠を大事そうに上にかがける。
「このお兄ちゃんを倒した人には、私がつくった花冠をプレゼントするよー!」
「えー! クレナちゃん、それわたしが欲しいですよー!」
「いくぞー!」
「おにいちゃん、かくごー!」
しばらく男の子達とあそんだあと、再び輪に戻ると、みんな笑顔でむかえてくれた。
「おつかれさま。ごめんね、ありがとー」
クレナの頭の上には、たくさんの花冠がのっていた。
「おにいちゃん、たのしかったー!」
「またあそぼうぜ!」
男の子がオレにだきついてくる。
不思議と……いやな気分じゃない。
「クレナちゃんが、王子さまも輪に入れるように気を使ったんですわ」
近くにすわっていたリリアナがボソッと声をかけてきた。
まぁ、そうだろうな。
「これは、お城の子供たちがヒマそうにしてたのを、クレナちゃんが声をかけたんですわ」
「そうだったのか」
「クレナちゃんは、優しすぎます……」
まぶしそうにクレナを見つめている。
「おい、これやるよ」
とつぜん、男の子が使っていた花の剣を渡してきた。
「つぎは負けないからな。その剣でお前もしゅぎょうしとけよ」
こまったな。
こういうときにどう反応すればいいんだろう。
少し周りが静かになる。
せっかくクレナが輪に入れてくれたのに。
「じゃあ、私からもプレゼント!」
突然クレナが近づいてきて、オレの頭に花冠を載せた。
「じゃじゃーん、第一回花の剣士大会の優勝は、このお兄さんですー!」
クレナが顔を近づけてきて、そっと耳打ちしてくる。
「ありがとうでいいんですよ。男の子も喜びます」
そうか。
そうだよな。
この男の子にとって、この剣は宝物だったんだよな。
「えー。こんなすてきなプレゼントをありがとう! 次も負けないぞ!」
もらった花の剣を大きく上にかかげてみる。
「楽しかったー!」
「次はぼくがかつぞー!」
「つぎはまけないー!」
剣をくれた男の子も、ほかの子供たちも、みんな笑顔だ。
横を見ると、笑顔のクレナがいる。
……本当に。
かなわないな、彼女には。
**********
子供たちと別れて。
オレはクレナを部屋に送っていった。
「ごめんなさい、シュトレ王子。まきこんじゃって」
「いや、久しぶりに全力で遊べて楽しかったよ」
「それって、本気で言ってます?」
「ははは、もちろん。オレがウソつきみえる?」
「うーん、どうでしょう?」
二人でクスクス笑いあう。
なんだなんだコレ。
自然に話せるぞ。
「なぁ、クレナ」
「ハイ? どうかしましたか?」
不思議そうな顔で見つめてくる。
頭に乗ったままの花冠がすごく似合っていて。
本当に、妖精みたいだ。
「……シュトレでいい」
「え?」
「シュトレと呼んでくれていいから」
きょとんとした顔のクレナ。
しまった!
勢いでおもわず言ってしまった。
すごく恥ずかしい。
少し考えるポーズをしたクレナが笑顔で答えた。
「わかりました、シュトレ様」
カワイイ。
抱きしめたい。
か、仮でも婚約者だし。
しかし、いきなりそんなことをしたら嫌われるんじゃないか。
「ふぅ、なんでそこで抱きしめないかなぁ?」
後ろから女の子の声がした。
「キ、キナコ!」
「キナコちゃん!」
キナコちゃんは、両手を広げて、やれやれといったポーズをする。
「あれだけ甘い雰囲気だったのに。キスくらいはするかと思いましたよ」
「キナコ! 面白がってるだけでしょう!」
「えー、ごしゅ……クレナちゃんに言われたくないなぁ」
……危なかった。
ホントに危なかった。
「それじゃあ、オレはこれで」
「今日はありがとうございました、シュトレ様」
笑顔で手を振ってくれた。
カワイイ。
この笑顔が見れただけで満足だ。
うん、満足……だよな。
**********
次の日。
門のある城壁から付近を眺めていた。
クレナ達は朝から、親父の工房に出かけている。
「クレナちゃんを、ここで待っているんですか?」
後ろから声をかけられた。
な、なんでオレの行動がバレてるんだ!
焦って振り向くと、金髪の少女が立っていた。
「なんだ、リリアナか。こんなところでどうしたんだ?」
「同じですよ」
「同じ?」
「私もここで、クレナちゃんを待ちますわ」
前から少しだけ思ってたことがある。
まさかなんだが、リリアナはもしかして……。
「あ、帰ってきましたわ!」
門の近くに、クレナとキナコちゃんの姿が見えた。
声をかけようとした次の瞬間。
暴走した馬車が後ろから近づき、クレナ達をさらっていった。
「ク、クレナちゃん!?」
「クレナー!」
なんだあいつらは。
クレナを誘拐だと。ふざけるな!
あの馬車にあった紋章。
あれは確か……。
「助けに行くぞ!」
「あたりまえですわ!」
クレナ無事でいてくれ!
オレは、リリアナに伝令を頼むと、逃げた馬車を追っていった。
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