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幼少期編

7.お嬢様と剣と魔法の世界

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 公爵令嬢のリリアナちゃんから、お誕生日パーティーの招待状が届いた。
 やったー! 初のお誕生日会お呼ばれが、リリアナちゃんだ!
 思わず、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
 彼女からは、招待状もらえないと思ってたよー。

「ずいぶん嬉しそうだね、ご主人様」
「あたりまえじゃない。おバカ王子のせいで、いろいろ大変だったんだから!」

 私の横で、しっぽをピーンとたてている小さなドラゴン。
 
 あの白い空間から帰ってきた後。
 子猫サイズの小さな赤いドラゴンが、一緒にベッドの上でグーグー寝ていた。
 メイド長のセーラがあわてて、お父様に報告。
 どこから拾ってきたのかとか、いろいろ聞かれたんだけど。
 ……答えようがないよね。
 まさか、「神様みたいなものからもらいました」なんて信じてもらえないだろうし。
 とにかく。
 妹直伝のおねだり作戦で、なんとかペットとして飼っていいことになった。
 ありがとう、妹よ。無敵のおねだりポーズ、異世界でもちゃんと役に立ったよ! 

 ドラゴンは知能が高いので、しゃべる個体も多いけど。
 子供のドラゴンは基本しゃべらない。
 なので、人前ではしゃべるのを禁止しているんだけど、部屋ではすごくおしゃべりだ。

「あー、そういえば婚約したんだっけ。大変だねー」
「あのね、仮だからね、仮!」
「でも、王子様に惚れられるなんて、さすがボクのご主人様!」
「それ、違うから。少し黙っててね、ドラゴンくん」

 そうなんだよね。
 私とリリアナちゃんとの事情は少し複雑になっていた。
 あのおバカ王子のせいで。


**********
 
 お誕生日パーティーから数日後、お城から戻った父は、険しい顔をしていた。

「クレナ、よく聞きなさい」
「お父様?」

「正式に、シュトレ王子と、リリアナ嬢の婚約は解消された」

 リリアナちゃん、あんなに可愛いのに。
 新しい世界で初めてできたお友達を思い出す。
 おバカ王子め! 彼女、悲しんでないといいな。

「……同時に、クレナとシュトレ王子との婚約も仮決定した」
「え?」
「まあ、いろいろあったんだが。王子がな、どうしてもと引かなかったんだ」

 なんでさ。
 あのおバカ王子様!

「とはいえ、まだ仮の状態だ。クレナはどうしたい?」

「……イヤです、お断りしたいです」
「ははは、はっきり言うなぁ」

「でも、お父様。……私がお断りすると、みんなに迷惑がかかりますか?」

 うつむき、手をぎゅっとにぎりしめる。
 王子様と婚約とか、ホントに無理なんだけど。
 相手は王族だしなぁ。
 逆らったら、反逆罪とかお家断絶とかあるのかなぁ、これ。

「そんなことは気にしなくていいさ」

 お父様は、優しい瞳で私を見つめていた。

「お父さんはね、実は王様と友達なんだ」

 イタズラっぽい表情で微笑みかけてくる。

「え?」
「だから、イヤなら直接王様に伝えても平気だよ。王様にもそう約束させたからね」
「……ホントに?」
「クレナの好きにして大丈夫だよ」

 頭を優しく撫でてくれた。手のひらから優しさが伝わってくる。

「ありがとう、お父様」

 私は、お父様に抱きつきながら、この想定外の展開について考えていた。

 なにこれ? 全然ゲームの展開と違うんですけど。
 自称神様みたいなものさん、聞こえてます? さっそく予言外れそうなんですけど?
 50%の予言、役に立ってないんですけど! 


**********


「もうすぐ出発ですじゃ」

 サイドを三つ編みにしてひとつにまとめた髪。
 ふわふわで可愛い虹色のドレス。
 バッチリおめかしさせられた私は、父親に手を引かれて、飛空船に乗り込んだ。
 リリアナちゃんの領地へは、魔法石で動く飛空船で向かう。

 魔法石は、流れ星から流れ出る魔力を、特別な石に閉じ込めて作成される。
 魔法石の力は、石の大きさや魔法石を作成する職人さんの技術で違ってくる。
 
 ランプの明かりから、こんなに大きな船まで動かせるなんて。
 さすが、ファンタジー世界。魔法石の力ってすごいなぁ。


 船内はオシャレな空間になっていて、窓際に大きなソファーとテーブルが置かれていた。
 お父様に促されて、向かい合わせに座る。
 私のひざの上には、ちょこんと小さなドラゴンが乗っている。

「揺れるから、しっかり座ってなさい」
「はい、お父様」

「さぁ、浮上しますぞー」

 操縦するのは、ベンジャミンこと、ベンじい。白髪にちょびヒゲのベテラン執事だ。 
 お父様の前の代、つまり私のおじいちゃんの頃からお屋敷にいる使用人だ。

 わくわく。

 この世界にきてから、初めての乗り物。
 しかも魔法で動く飛空船!
 これこそ、求めてた異世界生活だよね!
 
 ソファーに座ってからしばらくすると、ふわりと体がういたような感覚がした。
 前世に乗ったことのある飛行機は違って、ふわふわ浮かんでいる感じがする。
 私はドラゴンを抱えた状態で不思議な感覚を楽しんだ。

 すごいな。
 窓から外を見ると、すぐ近くに雲が見えてきた。

「結界があるから、もう、外に出ても大丈夫だよ。」
「……外?」

 首をかしげる。

「デッキにあがっても平気だよ、一緒にいくかい?」

 お父様が、部屋から上に伸びている階段を指さす。

 外に出られるの?
 見たい! 絶対見てみたい!

「いってみたいです、お父様!」
 
 お父様に手をひかれて、船のデッキに上がってみた。
 肩には、いつのまにかドラゴンが乗っている。
 外に出ると、結界のおかげなのか、船内と同じで寒くないし風も吹いていない。
 不思議な感じ。

 目の前には雲海が広がっていた。
 どこまでも広がる雲の絨毯と、澄み渡るような青空。雲は前世とは違い、魔法の力でキラキラ光っている。
 本当に海みたいだなぁ、これ。
 
 あまりに綺麗すぎて。言葉が出てこない。
 お父様は、優しい顔で私を見つめていた。
 肩にいたドラゴンは眠いのか、ふぁとあくびすると、すとんとデッキにおりて部屋に戻っていった。 

「すごく綺麗だったわ、ありがとうお父様!」
「楽しんだかい?」

 しばらくデッキでの景色を堪能した私は、お父様と一緒に部屋に戻った。

「ところで、小さなドラゴンの名前はきまったのかい?」
「いいえ、お父様。まだ考え中ですわ」
「そうか。素敵な名前をつけてあげなさい」

 お父様は、再びデッキに戻っていった。
 
 部屋のソファーに座った私は、ふと、これから会うリリアナちゃんのことを思った。
 彼女とケンカしたつもりはないけれど。
 王子様の件で結果的に巻き込んんじゃったし。
 王子との婚約解消はちゃんと謝らなくちゃだよね。もしそれで彼女が落ち込んでたら慰めてあげたい。
 招待状が来たから、嫌われてはいない……って思いたいけど。でももし、嫌われてたら。
 ……うーん、どうしよう。

「心配ですか、ご主人様」

 先に部屋に戻っていたドラゴンが、ひざの上にのってくる。 

「うん、それはそうだよ」
「いざとなったら、地球世界の『土下座』なんていかがですか?」
「……ねぇ、なんでそんな知識持ってるの?」
「それは、ドラゴンですから」

 知識……。
 あれ? 
 なにかが心の中でひっかかった。
 たしか、ゲームの知識だとリリアナは確か……。
 カバンからメモ帳を取り出す。
 あの白い空間で神様みたいなものと会ってから、いつも持ち歩いている『ファルシアの星乙女』メモ。
 ゲームのことを思い出す度に書くようにしている、私の大事な生命線。(確率50%)

 なになに。
『召喚された星乙女に攻略対象を奪われたリリアナは、何故か王国ごと愛しい人を手に入れようとクーデターを起こす』
『どの攻略対象との恋愛ルートでも、イベントは発生し、乙女や攻略対象の活躍でクーデターは失敗する』
『彼女に常に付き従っていた、伯爵子息「クレナ・ハルセルト」もクーデターに参加。二人とも捕らえられて処刑される』
 
 ……。

 …………。

 メモした時点で気づいてよ、私!
 
 ちょっと何、クーデターって! 
 好きな人奪う為に、国を巻き込むとか。
  
 おまけに、考えてみたら。
『攻略対象を奪われたリリアナ』って、私まさに奪っちゃってますけど!
 クーデター起こすの? 私死ぬの?
 50%の確率って言ってたけど。今普通に危険だよね、これ!

「まぁまぁ、おちついてくださいよ、ご主人様」
「ドラゴンくん、これ見て! このままだとクーデターで私死ぬことになるよね?」
「大丈夫ですよ、ボクは死にませんから」
「え? それ私が死ぬのと関係ないよね? 全然大丈夫じゃないよね?!」
「それより、少し危険な感じがします。なにかが近づいてきてますよ」

 なにか近づいてる?
 窓の外を眺めていると、雲の奥に、大きな影が見えた気がした。

 なんだろう?
 慌てて、お父様のいるデッキにかけ上がる。

「お父様、あれなに?」
「どうした、クレナ?」
「雲の中に、なにか大きな影がいたの」

「ん?」

 私の指さす遠くの雲をみたお父様は、険しい顔をする。

「あれは、まずいな」

 飛空船が大きく揺れた。

「旦那様、ワイバーンがでおった!」

 船室に、ベンじいの声が響き渡る。


 ワイバーン。
 ゲームの中でも出てきたドラゴンタイプのモンスター。
 体長十五~二十メートルくらい。
 
 普段は、雲の中のキラキラ光る「魔法の力」を食べているが、飛空船を見つけると、炎のブレスを吹き、鋭い爪と牙で襲いかかってくる。
 ゲームでは中ボス扱いで出てきた強力な魔物だ。
 
 ドドーン。

 船に備え付けてある大砲が、ワイバーンを攻撃する。
 ワイバーンは、砲撃をよけながら、飛空船に近づいてくる。

 ふとデッキの奥を振り返ると、お父様が鎧を着こんでいた。
 透き通るような空色に、我が家の家紋が装飾されている魔星鎧スターアーマー
 

「すぐに倒してくるから。おとなしく待ってなさい」
 
 ヘルメットのバイザーおろすと、魔力が起動したのがわかる。
 胸のあたりから後ろに向けてキラキラと魔法の帯が流れ出した。背中まで長く伸びた魔力帯は、まるで魔法の羽が生えたよう見える。

「……キレイ」

 ゲーム画面では、戦闘パートで何度もみたけど、実物はキラキラしてすごくきれいだった。
 父はデッキにあがると、ワイバーンの方向に飛んで行く。


 私は、ゲームの内容を思い出していた。

魔星鎧スターアーマー
 前世のアニメに出てくるロボットみたいな鎧。
 魔法石を核にして動く鎧で、魔法の力でモンスターと戦う。
 様々な武器を使うことができ、空も飛べる。
 
 実物を見ると、それはすごくキレイで。そして圧倒的にカッコよかった。

 
 ワイバーンはすでに飛空船の近くまで迫っている。

「いけません、お嬢様! 早く部屋の中へ!」

 私は、ベンじいの手を振り切り、デッキに残って戦闘を眺めていた。

 肩のドラゴンと一緒に見上げると、お父様とワイバーンが戦っている。

 ワイバーンが炎のブレスを吐く。
 光る剣を持ったお父様は、ブレスを二つに切り裂いた。切られたブレスは左右に分かれ消滅する。

 ワイバーンは、足の鋭い爪で、襲い掛かる。

 お父様は、爪を剣で受け止める。
 カキーン
 大きな音が響き渡り、そのまま押し合いになる。
 すると突然持っていた剣の光が強くなり、そのまま大きく振りぬいた。
 ワイバーンの足が切断される。
   
「ぎゅわわるるる」

 声にならない悲鳴をあげる、ワイバーン。

 足を切られたワイバーンは、大きく逃れようとする。

「逃がさん!」
 
 剣を一度後ろに引くと、大きく前に振りかぶった。
 剣から放出された魔法の波動がワイバーンを捉える。

 ゲームの中で見たことがある。
 たぶん、剣持ちキャラが使えた剣技、ソニックブームだ。

「おっと、いかん」

 切り裂かれたワイバーンは浮力を失い、そのまま雲の中に落ちていった。
 お父様は、落ちていくワイバーンの死体をすごいスピード追いかけ、飛空船に回収してきた。

「これは、久しぶりの大物ですな」
「まぁ、少しやりすぎたが、羽は無事だ。高く売れるだろ」
「お父様ー!」
「なんだ、クレナ。部屋でおとなしくしてなかったのか」
 
 バイザーをあげた父は、一瞬あきれた顔をしていた。
 でも、大喜びしている私を見て優しい顔に変わる。

「お父様すごい!カッコいい!」
「ははは」

 お父様は照れたように笑う。

 ゲームの戦闘とは全然違った。すごく! 本当にすごくかっこよかった。

 これだ、私がやりたいのって!
 まさに異世界生活!
 決めた! 私もいつか、あんな風に魔星鎧スターアーマーを着て戦うんだ!

「ねぇねぇ、ご主人様」
「しーっ、しゃべっちゃダメ!」
「あれ美味しそう……」

 ボソッと、肩のドラゴンつぶやいた。

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