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第3章 公爵令嬢の選択

第17話 商業ギルド

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 王都商業ギルドの区画は、早朝にもかかわらず多くの人々や馬車が行き交っていた。
 
「へえ~、みんな早起きね~。
 でも空いている店はないのが不思議。なんで?」
 
 ベレニスはキョロキョロして、あれれ?という顔をしている。
 
「鶏が鳴くと市門が開くっすからねえ。
 それで多くの行商人が街に入ってくるっす。
 今の時間は行商人たちが商品を卸して、商業ギルドやこの街の商人と取引してる時間っすよ。
 つまり今、この区画にいるのは商人が大半っすね」
 
「ふうん。んで?どこへ行くつもりなの?」
「まずは商業ギルド本部っすね。
 この時間なら大勢の商人が詰めてるっす。
 そこに行ってみるっすよ」
 
 ベレニスは、ふうんと、相槌を打って歩き出した。
 
 王都商業ギルド本部は、噴水広場の近くの一等地にある立派な建物だ。
 
 扉を開けると広いエントランスがあり、談笑している者もいれば、商品の説明をしてる者、受付に商品の納品をしている者と様々な商人たちがいた。
 
 正面奥にはカウンターがあり、そこで職員と話をしている者もいる。
 その奥の部屋では商談が行われており、交渉している者たちもいるようだった。
 
 フィーリアはスタスタ歩き、ベレニスもついていく。
 すると1人の男が2人に近づいてきた。
 30代半ばくらいの男性で、身なりが良く品のある雰囲気を醸し出し、友好的な笑みを浮かべて2人に話しかけてきた。
 
「これはこれは、幼い少女にエルフの少女ですか。
 一体どのようご要件で、当ギルドをお訪ねでしょうか?」
「あ~、自分はこういうもんす。
 こっちのエルフは旅の仲間っす」
 
 フィーリアは懐中時計を見せた。
 
「ほほう?それは1人前の商人の証である時計ですな。
 失礼しました。ならば要件は取引でしょうか?
 品物は何でございましょう?」
 
「あ~、すいませんっす。今日は別の要件で訪ねたっす。
 自分、旅をしてるんすけど道中お世話になった商人の方々が多くいるんすが、そのうち何人かの詳細がわからなくなっちゃってるんすよ。
 ですので、ここ1年ほどの間で、このギルドに訪れた人物の名が記されているリストを見せてほしいっす」
 
 男は少し不思議そうな顔をしたが、ああ、と納得したように頷いた。
 受付の女性に数冊のバインダーを持ってこさせ、フィーリアの前に差し出す。
 
 これはどうもっす、と言いながら受け取り、フィーリアは中身を確認する。
 
「あんた、よく平気でぺらぺら嘘が言えるわね。感心しちゃうわよ」
「ベレニスさんの嘘が見破れる変な特技も感心すよ。
 ともかく、ちょっと黙っててもらえるっすか?」
「何がわかるのそれで?」
「後で教えるっすから」
 
 フィーリアはペラペラとリストをめくっていく。
 そして気になる名を見つけ絶句し、さらに頻繁に訪れていたが、このひと月の間に全く訪れていない人物の名を記憶した。
 
「どもっす」
「何かわかりましたか?」
「そっすねえ。ホレイショさんの名が半月前に載っていてビックリしたっす」
 
「ホレイショ?ああ、ファインダ王国の商人ですな。
 彼ならもうリオーネに帰りましたよ」
「そっすかあ。自分がお世話になったのはホレイショさんがまだ行商人だった4年前っすが、ファインダの王都リオーネで店を持ったんすねえ。羨ましいっす」
 
 男へリストを返却し、他愛ない雑談をしてフィーリアはベレニスを連れて商人ギルド本部を後にした。
 
「ホレイショって人が怪しいの?」
「いやいや、その人は雑談で使用しただけっすよ。
 知人であるのは事実っすけど」
 
「勿体ぶってないで教えなさいよ。
 なんかわかったんでしょ?
 ドワーフのくせにフィーリアは豪快さが足りないのよ」
「いやいやベレニスさんこそエルフのくせに、繊細さが足りないんじゃないっすかね」
 
 相変わらず喧嘩する2人であったが、フィーリアが真面目な顔で、じゃあ言うっすけど、と前置きして告げる。
 
「あのリスト、頻繁にルインズベリー公爵家の当主エクベルトの名が記されていたっす。
 けれど先月からパッタリと途絶えたっすね」
「それって重要なの?本人じゃなく代理人が代わりに来てたんじゃないの?」
 
「いえ、先月以降から本日まで新規の名はなかったっす。
 まあ1人いたっすけど、自分の知ってる名だったのでそれは除外するっす」
「つまりルインズなんちゃらって貴族の偉い人が定期的に訪れていたのに、一切来なくなったってこと?
 え~っと、どゆこと?」
 
「こういうのは、大体表向きには商売の取引と見せかけて、裏で密談ってのが相場っす。
 それが必要じゃなくなったのか、はたまたルインズベリー公爵に何か遭ったかっすねえ」
「何かって何よ」
「さあ、そこまでは。
 でもルインズベリー家の動向を調べた方がいいと思うっす」
 
 そんな会話をしながら商業ギルドの区画を歩いていると、あちこちの店が開き始め、街は買い物客で賑わい始めていた。

 そんな中でベレニスが気づく。
 
「尾行されてるわね」
「ということはリストを見たのは正解っすね。
 気づいてはいけない事実が記載されていたってことっすねえ。
 わかりやすくて助かるっす」
 
「ここで倒すわよ」
「いえ、ベレニスさん。
 このまま走って、商業企画の東の端の魔導具店まで向かってくださいっす。そこに匿ってもらうっす」
 
「珍しいことを言うのね。その店を巻き込んでいいの?」
「巻き込むも何も、自分の予想が正しければ当事者っすよ。その店の主人は」
 
 バッと走り出す2人に、尾行者も慌てて追い掛ける。
 
「逃がすな。殺しても構わん」
 
 尾行者たちは、そんな物騒なことを呟きながらフィーリアたちを追う。
 
 こうして、尾行者とフィーリアたちの追いかけっこは幕を開けたのだった。

 裏路地を右へ左へと逃げる、フィーリアとベレニス。
 ベレニスは得意の風の精霊術で風を纏い、フィーリアの手を引いて走る。
 
 やがて2人は商業区画の東の端に到着した。
 
 ここら一帯は新米商人が出店する区画で、本店から暖簾分けをした店が多い。
 
 フィーリアはベレニスの手を離し、立ち止まった。
 行き止まりの壁に阻まれたからである。
 
 尾行者たちが追いつき、2人に詰め寄る。

 フィーリアは尾行者の人相風体を眺めつつ、冷静に状況を分析していた。
 
(この距離なら魔導具で反撃できるっすし、剣で斬りかかられても大丈夫っすけど……問題は)
 
 と考えながらチラリと横を見る。
 そこには、はぁはぁと息を切らせながら、地面にへたり込んでいるベレニスの姿があった。
 
「体力ないっすねえ。エルフは」
「普通1時間も走ったらこうなるわよ!
 エルフはねえ、ご覧の通り細いの。
 ドワーフは体力と腕力で勝負する種族だけど、エルフは知恵と精霊の力で勝負するんだから。
 てか、私が精霊魔法使いまくったんだから感謝しなさいよね!」

「……そんだけ喋れるなら、問題なさそうっすね」

 ベレニスに文句を言われ、フィーリアはやれやれという表情をした。
 
 そんな2人のやり取りに、尾行者も無駄口を叩くなと言わんばかりに睨み付け、ベレニスも男たちを睨み返しながら口を開く。
 
「それで?目的は何?」
「こっちが訊きたい。お前ら何を探ってやがる」

 フィーリアも毅然とした態度で口を開く。
 
「教えるとでも思うっすか?」
「なら死ね」

 相手は8人。商業ギルドに雇われている、冒険者か衛兵崩れの者たちだろうとフィーリアは想像した。
 
『風の精霊よ、突風吹かせて!』

 ベレニスが精霊魔法を発動する。
 男たちを吹き飛ばして、壁に激突させてやると気合を込めて。

 だが……
 
「なっ⁉」

 男たちは無傷で立っていた。
 
「……魔導具『風盾』っすね。
 貴重な品を持っているのに驚きっすが、これでこの王都の商業ギルド本部が、裏でコソコソ何かをやってるのが証明されたっす」
「はあ?なんでよりによって風盾なのよ!」
 
「……そりゃあ追跡する相手がエルフだからっすねえ。
 それこそ自分等が追われる理由が、ギルドでリスト確認したからって答え合わせっすね」

 ベレニスが憤慨してる間に、男たちは剣を抜いて襲い掛かる。
 振り下ろされた剣をフィーリアは横に回避し、ベレニスもヒラリと避け、横から蹴り飛ばした。
 
「一斉にかかれ。ガキと風魔法を封じられたエルフ。
 誰かが斬られようと構わず斬り殺せ」

 敵方の犠牲を厭わない命令に、ベレニスは呆れた。
 
「ホントくだらないわね。
 こんな連中とやり合いたくないけど、しょうがないわね」
「まあ待つっす。
 ベレニスさんが魔法を封じられた分、ちょいとこっちが不利っす。
 それに連中、教会の時と同じ魔導具の指輪を身に付けてるっす」

 裏切りと見なしたキーワードで、装備者を殺害する残酷な魔導具だ。

 尾行者の態度から、知らずに付けているとフィーリアは感じた。
 追い詰め、問い糾したら相手は死ぬだけだとも。
 
「じゃあ逃げる?でも囲まれてるわよ。後ろは壁だし。
 ジャンプするには高いわよ」

 ベレニスがそう考えた瞬間。
 フィーリアが壁に手を触れると、壁が宙に浮いた。
 
「はああああああ⁉なんじゃそりゃ」

 尾行者たちが驚愕する。
 フィーリアの右手には、まるで真綿でも持っているかのような巨大な壁があった。
 
 状況を理解できない尾行者たちやベレニスを尻目に、フィーリアは右手を軽く振りかぶり壁を投げた。
 
 ドゴンと大きな音を立て、尾行者たちは壁の下敷きになった。
 
「まあ、死んでないと思うっすが、この騒ぎで衛兵が絶対来るっす。とっととずらかるっすよ」
「フィーリア。……あんたやっぱりドワーフねえ」

 呆れて嘆息するベレニスであったが、すぐに新たな視線に気づき、振り返る。
 
 壁があった向こう側に、1人の美女が佇んでいた。
 
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