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第2章 英雄の最期

第29話 再び盗賊のアジトへ

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 ルシエンは炎に包まれ崩れ落ちる。

 ……衝撃的な光景だった。

 彼女の身体はすぐに焼き尽くされ、消し炭になってしまった。

 一瞬の出来事に対処すらできず、私たちはただ立ち尽くして彼女の死を見届けるしかなかった。

 まさか彼女が死を選ぶとは思わなかった。
 しかも自らの身体を炎で焼き尽くすなんて……

 ルシエンと同じ邪教の魔女のジーニアが、我が身可愛さであっさり退散したビオレールでの過去が、この結末を想定していなかったとは言える。
 でも、それは言い訳に過ぎない。

「こういうこともある。
 儂らドワーフとしては、隠れ里を知った人物を殺す手間が省けたがな」
「父ちゃん!そういう言い方は……」

 フィーリアは父親のクルトさんに文句を言いたげに振り向くが、途中でやめたようだ。
 ベレニスも悔しそうに唇を噛んでいた。

「戦場なんだ。敵に悔いても仕方がない」
「リョウ……」
「ホント、傭兵って無神経なのね」

 リョウの発言に、ベレニスは苛立つように口にした。

「ただ、まだ全ては終わってない。
 ナフト殿と合流し、残る盗賊どもをザガンの街まで送り届けなければならん。
 俺1人でやるから、みんなは休んでいてくれ」
「ううん。私も行く。
 依頼なんだしちゃんとやらないとね」

「ホント傭兵ってアホね。
 はは~ん。もしかして報酬独り占めするつもり?
 そうはいかないんだからね!」
「しゃあないっす。また自分が道案内するっすよ」

「ローゼは魔力が切れてるんだろ?無理するな」
「あはは、大丈夫だって。
 心配してくれてるのは嬉しいけど、今は……その、みんなと一緒にいたいから。
 それにいざとなったらこの杖で叩くから!」
「傭兵を⁉」
「違う!襲ってくる敵を!」

 そう言って私は、杖を振る姿をベレニスに見せる。

「ならやっぱり傭兵にするのよね!
 その時は私も手伝うわ♪」

 俺は襲わんのにって顔をリョウはしてるが、私たちの同行は認めたようだ。

「小僧よ、こっちの盗賊の死体の始末は我らドワーフがやっておく。
 気にせず行って来るがよい。
 フィーリアをよろしく頼むぞ」

 クルトさんたちドワーフに、この場を任せて私たちは歩きだした。

 少しふらつくけど、まあ大丈夫かな?
 後方でフィーリアとベレニスの言い争いが聞こえたが気にしない。

「リョウは今こう考えてるんじゃない?
『……ルシエンはノイズを様をつけて呼んだ。
 ならばノイズは邪教に関係していたのか?
 今後は邪教を探るのを重点にするべきだな。
 邪教か、ビオレールの教会のように内側で巣食ってるのだろうか。
 外から見ただけではわからないのが難点だな』
 って」
「まあ、な。よくわかるな」

 歩き出した山道での私の問いかけに、リョウは驚いたように私を見る。

「そりゃあ、結構長い間、一緒に旅してきたからね」
「だから傭兵は駄目なのよね。
 真っ先にローゼについて心配して、優しい言葉をかけないからモテないのよ」

 ベレニスが横から割り込んできて、リョウを睨む。

「そっすよ、リョウ様。ローゼさんは魔王の器っす。
 リョウ様に何かあれば魔王になる可能性大なんすから、気を使ってあげないと」

 フィーリアもベレニスに同調してリョウを責める。

「ならないってローゼが宣言したんだ。
 なら、ローゼのことは信じてもいいだろう」

 う~ん……嬉しいような、残念なようなリョウの答え。

「うわっ……傭兵って女心がわかってないのね。
 ……ドン引き」
「そっすよ。特にローゼさんはリョウ様一筋なんだから」

「ちょっ⁉フィーリア!」
「きしし。ローゼさん……顔、赤いっすよ」

 フィーリアの指摘に、私は顔が熱くなるのを感じ手で仰ぐ。
 その様子を見たベレニスが笑いだして、リョウは不思議そうに私を見る。
 うぅ……私が何でこんな目に。

「ともかく、ローゼさんはリョウ様が生きて隣りにいれば大丈夫だと思うっすから、リョウ様は離れちゃ駄目っすよ」
「てか、どうなの?
 ぶっちゃけローゼが魔王って、ピンと来ないのよね~」

「ベレニスさんの疑問も当然すね。
 ローゼさんは魔王の器の1人ってのが正しいっす。
 魔王は七英雄の魔女アニス様の姉、アリスが世界で唯一降臨した魔王っす。
 けど、シュタイン様の遺した手記では、本来魔王になるはずだったのはアニスだったそうっすからね」
「ほえっ⁉そうなの⁉」

 フィーリアが、私の憧れの七英雄の魔女アニスの名前を出した。
 しかも魔王になるはずだったのはアニスだって……衝撃的な内容に思わず大声を出してしまう。

 リョウも驚いてフィーリアを見る。
 ベレニスだけは当然とばかりに頷いてる。

「ベレニスも知ってたの?」
「フフン♪私が知ってるわけないでしょ?」

 ベレニス、胸張って自慢することじゃないよね。

「コホン。と、ともかくシュタイン様の手記によると、アニスはずっと引きずってたっす。
 姉の魔王アリスを倒してからもずっと。
 そもそも魔王の器というのは、膨大な魔力の持ち主であり、世界を混沌にしたい渇望と、魔界から呼び寄せし魔族をも包んでしまう、慈愛の心を持ってる人のことを指すっす」
「慈愛?」

「秩序も混沌も、等しく包み込む心を持ってるってことっすね。
 そうでなくては魔族も好き勝手暴れて、収拾がつかなくなるっすから」

 フィーリアの説明に、私は少しだけだけど納得できた気がした。

「ローゼって、敵や悪党が死ぬのも嫌がってるわよね。
 ドワーフたちが、盗賊皆殺しにしてるのも嫌がってたしね」
「それは……死んで終わりってのが嫌なだけで、敵や悪党に情をかけるつもりはないんだけど」

 ベレニスの言葉に私は反論する。

「ローゼはそれで良いさ。
 俺はローゼが間違った道に進むとも思えんしな」

 リョウが私を見て、真顔で言ってくる。
 私は思わず赤くなる顔を隠してしまう。
 それ嬉しいけど……恥ずかしい言葉だぞ。

 そんな私の様子を見て、ベレニスとフィーリアがニヤニヤしてるし。

「まあ、リョウ様次第なんすけどわかってないようなんで、この話は置いておいて。
 ……もう一つローゼさんのことを訊いておくっすね」
「何?フィーリア?」

「ルシエンはローゼさんを、ローゼマリー王女様と呼んでましたが事実っすか?
 10年前に、両親である王と王妃と一緒に病死したっていうお姫様……」
「ああ~うん。今更隠しても仕方がないかな?
 そうです。私がローゼマリー王女です。
 今はただの魔女ローゼだけどね」

 私は正直にフィーリアに答える。
 なぜ生きてるのか。なぜ病死になったのか。
 真実は両親が邪教の魔女に殺されたこと。
 その魔女も使い捨てですでに死んでいること。
 私を育てた魔女ディルについてと、ビオレールでの魔女騒動の真実まで。

 渓谷や山道を歩きながらする話でもないけど、ざっくばらんに、目的地の盗賊の隠れ家だった洞窟が見えるまで。

「ローゼさんって脳天気な恋愛脳かと思ってたっすけど、ははあ……う~む。そういう事情だったっすか」

「って!フィーリアは私をそんなふうに見てたの⁉」

 フィーリアが衝撃受けてるけど、私も衝撃だよ。

「話は後だ、ナフト殿と合流するぞ」

 リョウの一言で、私たちはナフトさんの待つ洞窟に向かう。

「魔女ディル魔女ディル魔女ディル。
 ……う~ん、どっかで聞いたような気がするんすよねぇ」

 フィーリアのそんな独り言が、洞窟の入口で木霊した。
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