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第2章 英雄の最期

第5話 フィーリアvsベレニス

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 フィーリアは私たちの事情を聞いて頭を抱えた。

「領外に出ちゃいけないっすか。それは難儀っすねえ」
「西のルートじゃ駄目なの?
 それなら商隊に紛れて行けるんだよね?」

 フィーリアに奢ってもらった紅茶を飲みながら尋ねてみる。

「まあ、最悪そうするしかないんすけど、それだと故郷の村に期日通りに帰れないんすよ。
 自分から『5年以内で帰る』って置き手紙を両親にして旅に出たんで、約束を破ることになっちゃうんす」
「ちょっと待ってくれ、5年前?」

 リョウが、小柄で童顔、外見は愛くるしいという表現のみが当てはまるフィーリアを眺めつつ、首を傾げる。

 それに対し、フィーリアは当然とばかりに答える。

「6歳っすね。旅に出たのは。自分、今は11歳っす」
「そうなのか。9歳ぐらいだと……いやなんでもない」

 って!リョウ、気にするのはそこじゃないでしょ!
 てか今の発言で、フィーリアがリョウに対して向けていた敬意の眼差しがなくなった気がするぞ!
 女の子の年齢は、間違えるのが正解の時もあれば、正しい答えの時もあるのだぞ⁉

「両親には内緒で旅に出たの?6歳で?」
「まあ、今考えると早すぎたかなあとは思うっすけど、当時はそうするしかないって考えちゃったっす。
 若気の至りっすね」

 いやいや、今でもめっちゃ若いでしょ! 

「売られたとか、逃げ出したってわけでもないのか」
「あ~、そういうふうに見られるっすよねえ。
 違うっすよ。親子仲は普通で、里も平穏だったっすから。ただ……」

 と言ったところでフィーリアが下を向いた。

「約束通り戻ったら、再び大陸を巡る旅に出る予定なんすが……約束破ったら絶対に両親は許してくれないっす。
 なので是が非でも期日前に戻りたかったんすよ。
 約束は守る。これは商人の絶対条件なんす」

 そう語るフィーリアの瞳は真剣だった。
 何が彼女の行動の原動力になってるのかはわからないけど、その想いは本物だと感じ取れた。

 ギルドの他の冒険者も聞き耳立ててるなあ。
 重たい雰囲気が漂っている。
 リョウも、どう言葉をかけたらいいか悩んでるように見えるし。

 でも何か口にして場を和ませなきゃ。
 そう思って口を開こうとした瞬間だ。

 ギルドの扉が開き、欠伸しながらベレニスがやってきたのは。
 フィーリアがピクッと反応して、ベレニスも目をゴシゴシしてこっちを見る。

「げっ!エルフ!」
「はあ?何が、げっよ!
 ドワーフがこんなところで、私のローゼとおまけの傭兵と一緒になんでティータイムしてんのよ。
 あんたこそ場違いでしょ!」

 っておい、誰が私のローゼだ。
 いや違う。ちがくないけどそれよりもドワーフ?
 フィーリアが?

 エルフと同じく、存在自体が激レアとなっているドワーフ。
 初めて見たけど人間と全然変わらんぞ。
 ギルド内も、ベレニスがまたなんか変なことを口走ってるって雰囲気だし。

「自分は依頼人っすぅ~。
 エルフこそこんな時間まで寝ていて、今更現れるなんて相変わらずのぐ~たらな種族っすねえ。
 勤勉なドワーフを見習ってほしいっすぅ~」
「はあっ⁉酒飲みビヤ樽体型のドワーフに言われる筋合いないんですけど。
 それにあんた、私より小さいじゃない!歳上に敬意払いなさいよ‼」
「自分はお酒飲まないし、ビヤ樽体型でもないっすぅ~。それに年齢不詳のエルフに言われたくないっすぅ~」

 言い合いを始めるベレニスとフィーリア。

 わあ~何これ~。どうしたら良いんだよ。

 エルフとドワーフが仲悪いってのは書籍の知識で知っていたけど、まさか初対面でいきなり口論が始まるなんて。

「年齢不詳はドワーフだって同じじゃないの!
 チビだけど一体何百年生きてるのかしら?」
「ドワーフの寿命は300年っすぅ~。
 エルフのような、無駄に長生きだけが特徴の種族と一緒にしないでほしいっすぅ~」
「長生きだけ?この耳が見えないのかしら?
 チビが特徴のドワーフと違って美しい耳でしょ。
 それにエルフは森と共に生きる自然を愛する種族よ。
 ドワーフみたいに酒と鉱石が頼りの種族じゃないわ!」
「ぷぷっ!一目でわかる特徴なんて低能な種族らしいっすねえ」
「なあんですって~」

 これはヤバいって!
 どっちも言い過ぎ!

「ちょっ⁉2人共!落ち着いて!
 ベレニス!見た目は歳上なんだから広い心で受け止めてあげる!
 フィーリア!口があれば会話で解決するんでしょ?
 ここはそれを実行すべきでしょ⁉」

 なんとかなだめようと間に入る。
 しかし2人は私の言葉を聞いてないのか、いや聞く気がないだけか、睨み合いを続ける。

 でも少し経つと私の言葉が効いたのか、フィーリアが引き下がったのだった。
 ぐっとこらえた表情になり、下を向いてため息一つ吐く。

「久しぶりにエルフを見て興奮しちゃったっす。
 ごめんなさいっす」
「フフン♪わかればいいのよ♪
 あいたっ!何すんのローゼ⁉」
「ベレニスも謝るの!」
「なんで私が!」

 頭を叩いた私に抗議の声を上げるベレニス。
 でもこっちは構わず、フィーリアに向き直り頭を下げる。

「仲間がゴメンね。
 私に免じてなんて偉そうに言えないけど、不愉快な気分にさせたままなのは嫌だから、私にも謝らせて!」

 私に続いてベレニスも頭を下げ、やっと場の険悪なムードが和らいだ。
 でも私たちとフィーリアの間には微妙な空気が流れる。

 どうしよう。困ったな。
 ……ていうかリョウ……困惑してどうしようと思って、途中で諦めて嵐が通り過ぎるのを待とうとしたでしょ?
 視線でわかるんだよ? 後でお説教だからね!まったくもう。

「それで?依頼は何なの?受けてやらなくもないわよ?」

 ベレニスはプイッとしながらも、依頼内容が気になるのか訊いてくる。

「傭兵に魔女にエルフっすか。
 ……これが運命なんすかねえ……」

 私がざっくりベレニスに説明していたら、聞こえてきたフィーリアの呟き。

 最初は単に、出会った私たちのことを指す言葉だと思ったけど、台詞に妙なひっかかりを感じて考えてみる。

 運命……そういえば、ドワーフは女神への信仰心が厚いって本で読んだことあるなあ。

 この日は結局、これで解散となり翌朝改めて結論をとなった。
 けれど翌日、私たちの領外出国禁止が解かれた一報を聞くことになる。

 それが大いなる旅の始まりで、私たちの運命が大きく動くことになろうとは、この時は誰も想像しなかった。
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