46 / 131
第2章 英雄の最期
第5話 フィーリアvsベレニス
しおりを挟む
フィーリアは私たちの事情を聞いて頭を抱えた。
「領外に出ちゃいけないっすか。それは難儀っすねえ」
「西のルートじゃ駄目なの?
それなら商隊に紛れて行けるんだよね?」
フィーリアに奢ってもらった紅茶を飲みながら尋ねてみる。
「まあ、最悪そうするしかないんすけど、それだと故郷の村に期日通りに帰れないんすよ。
自分から『5年以内で帰る』って置き手紙を両親にして旅に出たんで、約束を破ることになっちゃうんす」
「ちょっと待ってくれ、5年前?」
リョウが、小柄で童顔、外見は愛くるしいという表現のみが当てはまるフィーリアを眺めつつ、首を傾げる。
それに対し、フィーリアは当然とばかりに答える。
「6歳っすね。旅に出たのは。自分、今は11歳っす」
「そうなのか。9歳ぐらいだと……いやなんでもない」
って!リョウ、気にするのはそこじゃないでしょ!
てか今の発言で、フィーリアがリョウに対して向けていた敬意の眼差しがなくなった気がするぞ!
女の子の年齢は、間違えるのが正解の時もあれば、正しい答えの時もあるのだぞ⁉
「両親には内緒で旅に出たの?6歳で?」
「まあ、今考えると早すぎたかなあとは思うっすけど、当時はそうするしかないって考えちゃったっす。
若気の至りっすね」
いやいや、今でもめっちゃ若いでしょ!
「売られたとか、逃げ出したってわけでもないのか」
「あ~、そういうふうに見られるっすよねえ。
違うっすよ。親子仲は普通で、里も平穏だったっすから。ただ……」
と言ったところでフィーリアが下を向いた。
「約束通り戻ったら、再び大陸を巡る旅に出る予定なんすが……約束破ったら絶対に両親は許してくれないっす。
なので是が非でも期日前に戻りたかったんすよ。
約束は守る。これは商人の絶対条件なんす」
そう語るフィーリアの瞳は真剣だった。
何が彼女の行動の原動力になってるのかはわからないけど、その想いは本物だと感じ取れた。
ギルドの他の冒険者も聞き耳立ててるなあ。
重たい雰囲気が漂っている。
リョウも、どう言葉をかけたらいいか悩んでるように見えるし。
でも何か口にして場を和ませなきゃ。
そう思って口を開こうとした瞬間だ。
ギルドの扉が開き、欠伸しながらベレニスがやってきたのは。
フィーリアがピクッと反応して、ベレニスも目をゴシゴシしてこっちを見る。
「げっ!エルフ!」
「はあ?何が、げっよ!
ドワーフがこんなところで、私のローゼとおまけの傭兵と一緒になんでティータイムしてんのよ。
あんたこそ場違いでしょ!」
っておい、誰が私のローゼだ。
いや違う。ちがくないけどそれよりもドワーフ?
フィーリアが?
エルフと同じく、存在自体が激レアとなっているドワーフ。
初めて見たけど人間と全然変わらんぞ。
ギルド内も、ベレニスがまたなんか変なことを口走ってるって雰囲気だし。
「自分は依頼人っすぅ~。
エルフこそこんな時間まで寝ていて、今更現れるなんて相変わらずのぐ~たらな種族っすねえ。
勤勉なドワーフを見習ってほしいっすぅ~」
「はあっ⁉酒飲みビヤ樽体型のドワーフに言われる筋合いないんですけど。
それにあんた、私より小さいじゃない!歳上に敬意払いなさいよ‼」
「自分はお酒飲まないし、ビヤ樽体型でもないっすぅ~。それに年齢不詳のエルフに言われたくないっすぅ~」
言い合いを始めるベレニスとフィーリア。
わあ~何これ~。どうしたら良いんだよ。
エルフとドワーフが仲悪いってのは書籍の知識で知っていたけど、まさか初対面でいきなり口論が始まるなんて。
「年齢不詳はドワーフだって同じじゃないの!
チビだけど一体何百年生きてるのかしら?」
「ドワーフの寿命は300年っすぅ~。
エルフのような、無駄に長生きだけが特徴の種族と一緒にしないでほしいっすぅ~」
「長生きだけ?この耳が見えないのかしら?
チビが特徴のドワーフと違って美しい耳でしょ。
それにエルフは森と共に生きる自然を愛する種族よ。
ドワーフみたいに酒と鉱石が頼りの種族じゃないわ!」
「ぷぷっ!一目でわかる特徴なんて低能な種族らしいっすねえ」
「なあんですって~」
これはヤバいって!
どっちも言い過ぎ!
「ちょっ⁉2人共!落ち着いて!
ベレニス!見た目は歳上なんだから広い心で受け止めてあげる!
フィーリア!口があれば会話で解決するんでしょ?
ここはそれを実行すべきでしょ⁉」
なんとかなだめようと間に入る。
しかし2人は私の言葉を聞いてないのか、いや聞く気がないだけか、睨み合いを続ける。
でも少し経つと私の言葉が効いたのか、フィーリアが引き下がったのだった。
ぐっとこらえた表情になり、下を向いてため息一つ吐く。
「久しぶりにエルフを見て興奮しちゃったっす。
ごめんなさいっす」
「フフン♪わかればいいのよ♪
あいたっ!何すんのローゼ⁉」
「ベレニスも謝るの!」
「なんで私が!」
頭を叩いた私に抗議の声を上げるベレニス。
でもこっちは構わず、フィーリアに向き直り頭を下げる。
「仲間がゴメンね。
私に免じてなんて偉そうに言えないけど、不愉快な気分にさせたままなのは嫌だから、私にも謝らせて!」
私に続いてベレニスも頭を下げ、やっと場の険悪なムードが和らいだ。
でも私たちとフィーリアの間には微妙な空気が流れる。
どうしよう。困ったな。
……ていうかリョウ……困惑してどうしようと思って、途中で諦めて嵐が通り過ぎるのを待とうとしたでしょ?
視線でわかるんだよ? 後でお説教だからね!まったくもう。
「それで?依頼は何なの?受けてやらなくもないわよ?」
ベレニスはプイッとしながらも、依頼内容が気になるのか訊いてくる。
「傭兵に魔女にエルフっすか。
……これが運命なんすかねえ……」
私がざっくりベレニスに説明していたら、聞こえてきたフィーリアの呟き。
最初は単に、出会った私たちのことを指す言葉だと思ったけど、台詞に妙なひっかかりを感じて考えてみる。
運命……そういえば、ドワーフは女神への信仰心が厚いって本で読んだことあるなあ。
この日は結局、これで解散となり翌朝改めて結論をとなった。
けれど翌日、私たちの領外出国禁止が解かれた一報を聞くことになる。
それが大いなる旅の始まりで、私たちの運命が大きく動くことになろうとは、この時は誰も想像しなかった。
「領外に出ちゃいけないっすか。それは難儀っすねえ」
「西のルートじゃ駄目なの?
それなら商隊に紛れて行けるんだよね?」
フィーリアに奢ってもらった紅茶を飲みながら尋ねてみる。
「まあ、最悪そうするしかないんすけど、それだと故郷の村に期日通りに帰れないんすよ。
自分から『5年以内で帰る』って置き手紙を両親にして旅に出たんで、約束を破ることになっちゃうんす」
「ちょっと待ってくれ、5年前?」
リョウが、小柄で童顔、外見は愛くるしいという表現のみが当てはまるフィーリアを眺めつつ、首を傾げる。
それに対し、フィーリアは当然とばかりに答える。
「6歳っすね。旅に出たのは。自分、今は11歳っす」
「そうなのか。9歳ぐらいだと……いやなんでもない」
って!リョウ、気にするのはそこじゃないでしょ!
てか今の発言で、フィーリアがリョウに対して向けていた敬意の眼差しがなくなった気がするぞ!
女の子の年齢は、間違えるのが正解の時もあれば、正しい答えの時もあるのだぞ⁉
「両親には内緒で旅に出たの?6歳で?」
「まあ、今考えると早すぎたかなあとは思うっすけど、当時はそうするしかないって考えちゃったっす。
若気の至りっすね」
いやいや、今でもめっちゃ若いでしょ!
「売られたとか、逃げ出したってわけでもないのか」
「あ~、そういうふうに見られるっすよねえ。
違うっすよ。親子仲は普通で、里も平穏だったっすから。ただ……」
と言ったところでフィーリアが下を向いた。
「約束通り戻ったら、再び大陸を巡る旅に出る予定なんすが……約束破ったら絶対に両親は許してくれないっす。
なので是が非でも期日前に戻りたかったんすよ。
約束は守る。これは商人の絶対条件なんす」
そう語るフィーリアの瞳は真剣だった。
何が彼女の行動の原動力になってるのかはわからないけど、その想いは本物だと感じ取れた。
ギルドの他の冒険者も聞き耳立ててるなあ。
重たい雰囲気が漂っている。
リョウも、どう言葉をかけたらいいか悩んでるように見えるし。
でも何か口にして場を和ませなきゃ。
そう思って口を開こうとした瞬間だ。
ギルドの扉が開き、欠伸しながらベレニスがやってきたのは。
フィーリアがピクッと反応して、ベレニスも目をゴシゴシしてこっちを見る。
「げっ!エルフ!」
「はあ?何が、げっよ!
ドワーフがこんなところで、私のローゼとおまけの傭兵と一緒になんでティータイムしてんのよ。
あんたこそ場違いでしょ!」
っておい、誰が私のローゼだ。
いや違う。ちがくないけどそれよりもドワーフ?
フィーリアが?
エルフと同じく、存在自体が激レアとなっているドワーフ。
初めて見たけど人間と全然変わらんぞ。
ギルド内も、ベレニスがまたなんか変なことを口走ってるって雰囲気だし。
「自分は依頼人っすぅ~。
エルフこそこんな時間まで寝ていて、今更現れるなんて相変わらずのぐ~たらな種族っすねえ。
勤勉なドワーフを見習ってほしいっすぅ~」
「はあっ⁉酒飲みビヤ樽体型のドワーフに言われる筋合いないんですけど。
それにあんた、私より小さいじゃない!歳上に敬意払いなさいよ‼」
「自分はお酒飲まないし、ビヤ樽体型でもないっすぅ~。それに年齢不詳のエルフに言われたくないっすぅ~」
言い合いを始めるベレニスとフィーリア。
わあ~何これ~。どうしたら良いんだよ。
エルフとドワーフが仲悪いってのは書籍の知識で知っていたけど、まさか初対面でいきなり口論が始まるなんて。
「年齢不詳はドワーフだって同じじゃないの!
チビだけど一体何百年生きてるのかしら?」
「ドワーフの寿命は300年っすぅ~。
エルフのような、無駄に長生きだけが特徴の種族と一緒にしないでほしいっすぅ~」
「長生きだけ?この耳が見えないのかしら?
チビが特徴のドワーフと違って美しい耳でしょ。
それにエルフは森と共に生きる自然を愛する種族よ。
ドワーフみたいに酒と鉱石が頼りの種族じゃないわ!」
「ぷぷっ!一目でわかる特徴なんて低能な種族らしいっすねえ」
「なあんですって~」
これはヤバいって!
どっちも言い過ぎ!
「ちょっ⁉2人共!落ち着いて!
ベレニス!見た目は歳上なんだから広い心で受け止めてあげる!
フィーリア!口があれば会話で解決するんでしょ?
ここはそれを実行すべきでしょ⁉」
なんとかなだめようと間に入る。
しかし2人は私の言葉を聞いてないのか、いや聞く気がないだけか、睨み合いを続ける。
でも少し経つと私の言葉が効いたのか、フィーリアが引き下がったのだった。
ぐっとこらえた表情になり、下を向いてため息一つ吐く。
「久しぶりにエルフを見て興奮しちゃったっす。
ごめんなさいっす」
「フフン♪わかればいいのよ♪
あいたっ!何すんのローゼ⁉」
「ベレニスも謝るの!」
「なんで私が!」
頭を叩いた私に抗議の声を上げるベレニス。
でもこっちは構わず、フィーリアに向き直り頭を下げる。
「仲間がゴメンね。
私に免じてなんて偉そうに言えないけど、不愉快な気分にさせたままなのは嫌だから、私にも謝らせて!」
私に続いてベレニスも頭を下げ、やっと場の険悪なムードが和らいだ。
でも私たちとフィーリアの間には微妙な空気が流れる。
どうしよう。困ったな。
……ていうかリョウ……困惑してどうしようと思って、途中で諦めて嵐が通り過ぎるのを待とうとしたでしょ?
視線でわかるんだよ? 後でお説教だからね!まったくもう。
「それで?依頼は何なの?受けてやらなくもないわよ?」
ベレニスはプイッとしながらも、依頼内容が気になるのか訊いてくる。
「傭兵に魔女にエルフっすか。
……これが運命なんすかねえ……」
私がざっくりベレニスに説明していたら、聞こえてきたフィーリアの呟き。
最初は単に、出会った私たちのことを指す言葉だと思ったけど、台詞に妙なひっかかりを感じて考えてみる。
運命……そういえば、ドワーフは女神への信仰心が厚いって本で読んだことあるなあ。
この日は結局、これで解散となり翌朝改めて結論をとなった。
けれど翌日、私たちの領外出国禁止が解かれた一報を聞くことになる。
それが大いなる旅の始まりで、私たちの運命が大きく動くことになろうとは、この時は誰も想像しなかった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる