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第1章 復讐の魔女

エピローグ

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 ビオレールより遠く離れたレアード王国の小さな街に、一組の冒険者夫婦が居着いた。
 
 かつてビオレールで冒険者として活躍していたが、ある事情でレアード王国に移住したのである。

「よお、聞いたかい?
 ベルガー王国のビオレールって街で領主が殺されたらしい。
 あんたらベルガー王国の出身だろ?
 ビオレールってどんな所なんだい?」
「そうだなあ。
 北は人の立ち入りを許さないスノッサの森、南は険しいボルガン山地、南東は広大なとこしえの森で西は平原が広がってる。
 東はダーランド王国との国境で、その先には大森林が広がっている」

 酒場のマスターにそう答えると、冒険者の夫の方は、エールをグイッと呷る。
 妻の方もエールをゴクリと飲み、夫に同調した。

 そして2人は話を続ける。
 2人の会話は周囲の冒険者たちの耳にも入り、やがて酒場の喧騒に溶け込んでいったのだった。

「しかし犯人がわからないって、ベルガー王国は大丈夫なのかい?
 また戦争になるとか勘弁だぜ」

 マスターは、ダーランド王国の謀略説を信じてるようだった。
 流布された噂は尾ひれが付き物。
 そんなマスターの話を受け、冒険者の妻である女がエールをグイッと呷って答える。

「謀略じゃないから大丈夫よ。
 女癖の悪いハインツ伯爵だったもの」
「おや?何か知ってるのかい?
 知ってるのなら教えておくれ」

 マスターは情報を聞き出すため、女の話に乗った。

 だが夫婦は時間を確認すると、マスターからの奢りの酒を断り席を立つ。

「アンナ、そろそろ宿に戻るぞ。
 明日も早くから仕事だ」
「そう。マスターさんまた今度ね。
 じゃあ帰りましょうかクロード」

 クロードと呼ばれた冒険者は、マスターに手を挙げて酒場を後にする。

「なあ、アンナ。ハインツ伯爵の件だが…」
「あら?私たちにはもう関係ないもの。
 それともビオレールに戻りたい?
 バルドさんやディアナ……クスッ、それに魔女のローゼちゃんと傭兵クンも元気かしらね?」
「いや、今更戻ってもな。ここで頑張ろう」

 クロードはアンナの手を引き、帰路につく。
 月明かりの夜道。
 背後の妻の口が、夜空に浮かぶ三日月のように歪んだのを知らずに。
 
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