【魔女ローゼマリー伝説】~これって、王女の立場を捨てた私が最強天才魔女になって、愛する人と一緒に英雄伝説になるまでの冒険劇なんですよね⁉~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第29話 オルタナ・アーノルド

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「ふうん、城への侵入にこんな地下道があったのね。
 知らなかったわ」

 薄暗い地下道を歩きながら、ベレニスは関心の声を出す。

「何か起きた時の、お偉いさんの脱出用だろう。
 バルド殿、よくご存知で」
「ギルドマスターになってすぐに、ここを使われた事件が起きてな。
 守秘義務があるから言えんがな。
 最もここも守秘義務があったが、まあこの際使わざるを得ない」

 リョウとバルドさんが、道すがら会話をしながら前を歩く。
 私はそんな2人の会話に耳を傾けつつ、辺りを警戒している。
 ディアナのいる城に潜入するために、私たちはこの地下道を進んでいる。
 万が一見つかれば、街の衛兵たちに囲まれ、脱出不可となって詰むだろう。

「ローゼ、ディアナが城のどこにいるのかわかるの?」
「……ジーニアは重症だったし治癒をお願いしてるはず。
 だから、おそらくは城の救護室」

 バルドさんは話を聞いた後、チラリと私を見た。

「なら兵舎の近くだな。
 庇護対象として護衛し、話を聞くには最適だろう。
 後はどの程度兵を配置されているかだが、街に衛兵を繰り出し、領主代行や他の貴族連中にも護衛を付けているはずだ。
 そう多くいないと思う」
 
「その予想が当たってくれるとありがたいです。
 ……それから一つだけ、みんな良いかな?
 ディアナを殺そうとは私は考えていない。
 何とか話で決着をつけられないか考えてる。
 だからディアナを殺すのは禁止ね」
「またローゼは難しいことを言うわね。
 ま、別にいいけどね」

「……術者の死以外で、塗り替えられた世界を元に戻す方法があるなら俺は構わん」
「タイムリミットは設けたほうがいい。
 衛兵共に何千と囲まれようが、俺とお前らなら脱出は可能だろう。
 だが、オルタナ・アーノルドが現れたら、迷わず逃げろ」

 バルドさんの忠告にリョウは即賛同した。

「そんなに凄いの?傭兵も警戒してたけど?
 めっちゃ綺麗な顔だし性格もいいし」

 ベレニスが、バルドさんを値踏みするような目で見る。

「あれは次元が違う。
 オルタナの父は大陸七剣神に数えられている英雄アデル殿。
 その血を色濃く受け継いでいるオルタナは、アデル殿に並ぶ才能を持っているともっぱらの評判だ。
 麒麟児オルタナ・アーノルド……実際に会って事実だとわかった」

 バルドさんの言葉から、強い畏怖が感じられた。
 
 みんなを誘導するように、松明で明かりを照らしながら地下道を進むこと30分程。
 バルドさんがここだと言い、地上に繋がる階段を前に立ち止まる。

 私は緊張からゴクリと唾を飲み込むのだった。
 
 出た場所は城の中庭だった。

 運良く誰もいないようだと、ホッと胸を撫で下ろす。
 綺麗に整備された石畳や、整えられた植木が月明かりに照らされ、幻想的な光景を醸し出していた。
 
 兵舎は向こうかな?
 ディアナの居場所を探ろうと周囲をキョロキョロ見渡し、探索魔法を発動させようとした瞬間。

「おや、当たりを引いたようだ」

 中性的な凛々しい声が、私たちの背後から聞こえる。

 バっと振り向くと、そこにはオルタナさんがヴィムさんと共に立っていたのだった。

「こいつは大外れを引いちまったな。逃げるぞ」
「おっとそうは行かない。
 地下道の道は封鎖させてもらおう」

 オルタナさんが私たちに向かって剣をかざすと、剣気の波動が空気を震わせた。
 ヴィムさんが、地下道への階段に剣を突き差して塞ぐ。

「ギルドマスターがいるとは驚きですね。
 まさか領主殺しに一枚噛んでいたとはなあ」
「ヴィム。君はバルド殿の相手をせよ。
 私がアランの傭兵君を頂こう」
「格で言えば逆な気がしますが?」
「クスッ。強さに身分も年齢も関係ないさ。
 さあ存分に戦おうではないか!」

 瞬きする間もなく、オルタナさんの姿が消えた。

 次の瞬間、オルタナさんはすでにリョウの目の前に立ち、剣戟の音が響いた。
 まるで、私とベレニスを無視するかのように。

「ちょっ⁉なっ!悪いけど傭兵に加担するわ!
 オルタナ!正気に戻ったら謝るから‼」

 ベレニスの風魔法がオルタナさんの背後を襲う。
 けれど剣を一閃し何事もなかったかのように、防衛に必死のリョウと再び剣戟を交え続ける。

「くっ!ベレニス!次は私と同時に‼」

 いや、駄目だ。
 剣一振りで風魔法を切り裂くオルタナさん。
 そんな人を倒す威力の魔法を放ったら、リョウが巻き込まれてしまう。

 オルタナさんは避け、リョウだけが私たちの魔法で倒れる最悪のシナリオが待っているだろう。

「転移で逃げろ!俺とバルド殿は何とかする!」

 猛攻に耐えながらのリョウの叫び。
 そんな!ここまで来て見捨てるなんて絶対嫌だ!

「ほう?逃げる?
 君たちの目的はディアナ嬢とジーニア嬢なのだろう?
 その2人なら兵舎にいる。
 ローゼちゃんとベレニスちゃんは、さっさと向かえば良いんじゃないかい?」

「その通りだ!もう賽は投げられた!
 ここは俺とリョウ殿に任せて早く走れ!
 他の衛兵が来る前にだ!」
「ちっ!それしかない……か!
 行け!2人共!」

 バルドさんの叫びに、リョウも唇を噛み締めながら叫んだ。

「行くわよローゼ。
 ここにいても、悪いけど私たちに出来ることなんかないわ」
「……リョウ!お願い!死なないで!」

 そう叫び返し走る私とベレニス。
 出端は最悪の出目だ。
 けれどディアナと決着をつければ、オルタナさんがリョウと戦う理由もなくなる。

 それまで耐えて……リョウ。

 ***

 ……遠ざかるローゼとベレニスの姿を見て、クスッと笑い剣を振り続けるオルタナ。

 防戦一方で耐えてるリョウだったが、その笑みを見て悟る。

「オルタナ殿……俺たちのことを正確に覚えてるようだな」
「さて、どうかな?
 ただ運良く引いた当たりくじよ。
 互いに存分に剣を振るおうではないか!」

 バルドとヴィムの戦いは、ややバルドに分があるが、早期決着はない状況だった。

 リョウは舌打ちし、ローゼとベレニスを心配に思いつつも、強者と戦える悦びに高揚感を抱くのであった。
 
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