上 下
24 / 66
第1章 復讐の魔女

第23話 疑わしきは魔女

しおりを挟む
 前日の夜、領主の寝室。
 領主ハインツは女を抱いていたが、クソっと悪態をついて女を下がらせた。

(司祭やシスターまで捕まるなんて、おのれ魔女のローゼとやらめ!
 魔法陣を封じやがって!)

 ハインツの野望はビオレールから、大陸へ覇を狙うことだ。
 そこに思わぬ妨害が現れた。
 老婆の魔女の指示が、ふざけたものであることに憤慨していた。

(派遣したのが、ジーニアという小娘とロック鳥だけとは!)

 老婆の魔女。
 それはハインツに近付き、魔獣を呼び寄せて使役する術を教えた人物。
 ロック鳥を古びた教会に置き、魔法陣を護るように仕向けたのも彼女の指示であった。

 だが魔女の少女・傭兵の少年・エルフの少女に魔法陣の存在を暴かれ、窮地に陥った。

(まあ良い。司祭もシスターも使い捨ての駒よ!
 俺が知らぬ存ぜぬを貫けば何とかなる!)

 ハインツはベッドから起き上がり、不敵に笑う。

 ここ領主の寝室は、警備の衛兵に常に護られているだけではない。
 一度ここに入った者以外は侵入不可の、特殊な魔導具が仕掛けられている。
 この寝室に攻め入るなんて、誰もできないのだ。

(それにしても、トール・カークスめ。
 俺が教会に行った日、女を抱いていると思っていたが、証言から何か俺の城で探しているようだな)

 探されて困る物は山ほどある。
 特に邪教に関連する魔法陣は危険だ。
 既に王国騎士の何人かは、トールに指示されて動いているようだと、情報も耳にしている。

(……宰相に告げ口しておくか。
 トールは伯爵領を乗っ取り、謀叛を企んでいたと。
 それで失脚してくれれば、俺にとって都合の良い展開だ)

 忌々しい魔女ローゼとやらの存在も脳裏に浮かぶ。

(クソッ!恥をかかせよって。
 必ず魔獣召喚の魔法陣を新たに構築させ、アンナと同じようにしてやる!)

 悪態をついた後、彼はベッドに入り、就寝した。

 ***

 ハインツの首にナイフが突き刺さった。
 最期に目にするは、暗闇の寝室に光る三日月の口。

「っ…………コヒュッ!」

 ハインツの喉にナイフを突き刺した影は、そのまま転移魔法で去っていった。 

 ***

 領主のハインツ伯爵が殺されたという報せは、瞬く間にビオレール中に広がった。

「え~、ビオレール領に住まう領民に告ぐ」

 戦時でもない現状で起きた異常事態。
 ビオレール城の城壁から、集まった民衆に演説する人物を見てリョウの顔色が変わり、殺意を隠そうと必死になる姿で悟る。
 あの白髪混じりの中年男が、宰相の側近である元パルケニア王国貴族、トール・カークスなのだと。

「既に噂が広まっているようなので簡潔に話す。
 領主ハインツ・ビオレールは何者かに殺された。
 伯爵の家族は無事である。
 だが世継ぎは幼年である為、政務を行うのは難しい」

 そこで間を置くトール。 

「よって伯爵の側近の貴族や騎士、王国から派遣されている騎士たちと協議の結果、暫くの間、私がビオレール領主代行として務める事となる。
 陛下と宰相閣下が、より相応しき代行者を送ってくださるまでであるがな」

 ざわつく民衆。
 当然だろう、演説の内容は領主の地位を奪う乗っ取りではないかと。

「ああ、心配しなくてよい。
 このトール・カークスが皆の不安を取り除き、必ずや良き領政を約束しよう。
 時節が来ればハインツ伯爵の長男リヒター殿が領主となる。それも約束しよう」

 民衆のざわつきが強まった。
 いきなり現れた悪評高き人物が領政を担うのだ。
 不安でしかない。

 演説するトールの左横は、銀製の鎧や兜を纏った騎士たちに、貴族と思われる面々の青褪めた顔。

 あ、カルデ村で盗賊引き渡した時のムカつく貴族もいた。

 右横には黒鎧の面々。王国軍の騎士たち。
 オルタナさんも端っこの方にいるのが見えた。

 ……こっち側は平然としてる……か。

「殺したのは誰で、どうやって殺されたんだ!」

 民衆の中から声が上がる。

「寝室で絶命していたゆえ、寝込みを襲われたと思われる。
 犯人は未だ不明だ。
 このトールが必ずやその罪に相応しい報いを与える」

 民衆はまたまたざわめく。

「そんなの、魔法を使える奴が伯爵を殺したに決まってるじゃないか!」

 民衆の1人が叫び、それに呼応する『そうだ』の合唱。

「マズい流れかも。
 まるで過去の歴史であった魔女狩りの発端にそっくり」

 私の呟きにベレニスも警戒感を強める。
 現状このビオレールの街で、人を殺せるほど強い魔力を持ってる人物は、私とベレニスとディアナさんぐらいだ。

 真っ先に魔女狩りの対象にされてもおかしくない。

「教会での騒動で行方をくらました、ジーニアという者も魔女だったんだろ?
 そいつが犯人じゃねえのか?」

 またも民衆から飛ぶ声。
 その声にトールは首を横に振り否定する。

「今は憶測は控えるべきであろう。
 だが情報提供は大歓迎だ。
 教会での騒動に関わりがあるかないかに関わらずな」

 民衆のざわめきが、さらに一層強くなった。

 この演説が切っ掛けとなり、ビオレール領では不穏な空気が漂い始めるのだった。

 その日の夜、私はディアナさんから2人きりで話をしたいと告げられ、郊外にある彼女が泊まる宿へと足を運んだ。

「大変な事になったわね。
 ベレニスちゃんは暴れてない?
 大丈夫かしら?」
「あ~大丈夫です。
 ご飯食べてお風呂入って、宿のベッドですぐに爆睡しましたんで。
 リョウが隣の部屋にいますし、何かあっても対処はしてくれると思います。
 ……それでディアナさん。
 私と2人っきりで話したいことってなんですか?」
「今後についての相談よ。
 ローゼちゃんも魔女狩りの事は知ってるでしょ?
 もし起こったら、どうする?」

 ディアナさんは真剣な表情で聞いてきて、私はそれに対してうーんと唸る。

「まあ……逃げて旅をするかもですね。
 前にディアナさんに占ってもらった、私の両親を殺したノエルという魔女。
 ……死んでいたとしても、どういう人物だったかを辿るのも悪くないかなって」
「クスッ。ローゼちゃんらしい答えね。
 その旅には傭兵君もベレニスちゃんも、当然付いてきてくれると思っている。
 違うかしら?」
「それは……」

 甘い考えしてるって思われてるのかな?
 確かに、リョウとベレニスを頼りにしたい気持ちもある。
 俯いて考えてしまう私に、ディアナさんは微笑んだ。

「ローゼちゃん。
 別の選択肢を取らないかしら?」
「えっと……何か良い方法あるんですか?」

 さすがは運命の女神に愛されし占い師。
 頼りになるなぁと期待の眼差しを向ける私。

 そして……
 
 バアァァァァン!!

 突然、部屋の窓が勢いよく開け放たれた。

 そこにいたのはジーニア。
 修道服姿で漆黒の剣を片手に、狂気の笑みを浮かべて立っていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...