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第百八話

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 翌朝ギルドに行くとエリシアが何やら掲示板を眺めて1枚の紙を剥いだ。受付嬢の所へ持って行き手続きをしている。リュートはポツンとそれを見ていた。

「さあ、試験に行くぞ。」

「いや、何の依頼を受けたんですか?」

「レッドグリズリーだ。これはBランクの魔物だが攻撃力だけならAランククラスはある。凶暴だが弱点があって、そこを突けばCランクの冒険者でも倒す事は可能だ。今日はこいつを攻撃魔法無しで倒して貰う。」

「攻撃魔法無しって事は支援系は使っても良いと?」

「当然だ。支援系の魔法は戦士のスキルと同じだからな。」

 ん?また判らない単語が出て来たぞ、スキルってなんだ?

「スキルってなんですか?」

「君はスキルも知らないのか?レベルを上げるとスキルを取得できる。スキルは魔力を消費しない魔法の様な物だ。ちなみに私の場合。一定時間の速度アップと腕力アップがスキルだ。」

「って事は、僕もそれなりのレベルがあるから何らかのスキルを得ている可能性があると?」

「だろうな。だが君は記憶喪失なのだろう?だから今日は支援魔法は許可する。」

 スキルか?どうすれば調べられるのだろう?ステータス魔法にスキルの項目は無かった。レベルの概念もこっちへ来て初めて知ったし。レベルやスキルを調べる魔法が作れれば便利なんだが、創造魔法は使う気にならないな。

「とりあえず行くぞ。今日は南東の森へ入る。」

「南東ですか?」

「ああ、レッドグリズリーが増えて来ている様なので退治しないと畑が荒らされる。重要な依頼だ。」

 2人はギルドを出て、東門に向かう。最初にリュートがこの町に来た時に潜った門だ。東へと進み見覚えのある街道を歩き畑があると言う場所まで来る。どうやら小麦や野菜を栽培している様だ。何人かの農夫が居るがあの大男は見かけなかった。更に東へ進み。道がT字になっている地点まで辿り着く、ここまでの所要時間1時間弱、そこから南へと下る。

 南へ下る事30分程で魔物の気配が増えて来る。サーチに小型の魔物が掛かった事を告げるとエリシアは小物は無視しろと言う。大物だけに気をつけろと言う事だろう。

 それから10分後大物の気配を察知する。

「右40メートル大物です。」

「多分レッドグリズリーだろう。基本私は動かない。君の力量を見せて貰おう。」

 完全丸投げですか。そうですか。

 まず、サーチの威力を上げて、向こうにもこちらを気付かせる。30メートルを切ったところで他に魔物が居ない事を確認して。自分に身体強化魔法とプロテクトを掛ける。

 魔物はこちらに気付いた瞬間から速度を上げている。1直線にこちらに走って来るので30秒も掛からずに戦闘になるだろう。

 リュートは戦闘に適した地形に陣取る。森の中でも木が少なく立ち回り易い場所だ。10秒ほどで敵の姿が確認出来る。でかい!

 さすがは熊の魔物、体長は3メートル近い。弱点があると聞いていたので鑑定を掛ける。どうやら爪がヤバいらしいがそれ以外は特に武器が無いあるとすれば腕力だろう。ならスピードで勝負だな。

 身体強化+敏捷性で消える様にレッドグリズリーの後ろへ回り込む。一太刀浴びせたが毛皮が厚く刃が通らない。

 振り向くグリズリーの後方へ回り込む様に動き、今度は首を突いてみる。やはり刃が立たない。

 これは参った。優位なポジションから攻撃しているのにダメージを与えられない。弱点は何処だ?刃の通りそうな所って?

 剣って意外に不便だな。と思いつつグリズリーの爪撃を躱していると、そう言えばドラゴンは目を攻撃されるのを嫌って居たなと思い出す。クマとドラゴンでは違うかもしれないが、生き物なら目を潰されれば戦力が落ちるはずと思い。目を狙う戦法に切り替える。

 スピード重視で敵を翻弄し、懐へ入る。身体強化された体で飛び上がり、グリズリーの上へと躍り出ると右目に向かい剣を突き刺す。

 目は柔らかかった。そのまま剣は脳へと突き刺さった。レッドグリズリーの巨体が倒れる。

「見事だ。やはり君の戦闘能力はAランク相当あるようだ。」

 エリシアが後方3メートルの位置に居た。

「どう言う事ですか?」

「レッドグリズリーは実はAランクの魔物なのだよ。嘘をついて悪かったな。」

「なるほどそう言う事ですか。で、試験は合格ですか?」

「もちろん合格だ。」

 こうして2人は領都へ向かう事を決めたのであった。

 冒険者ギルドにレッドグリズリーの死体を持って行くと。金貨10枚が支払われた。なんでもレッドグリズリーには毎年数人の被害者が出るらしく、見つかるとすぐに討伐依頼に出されるのだが、Bランク以上で無いと倒せないのでなかなか討伐されないらしい。今年は目撃証言があった翌日に討伐されたので被害者が出ないだろうと感謝された。

「さて、依頼も済んだし、明日には領都へ向かおう。その為の準備をしないとな。」

「準備ですか?」

「領都までは二日半の行程だ。3回は野営する事になる。タイミングよく村があれば良いが、そう言う事は滅多に無い。3日分の食料と野営の為のテントを購入する。」

「具体的には何を買うのですか?」

「通常の冒険者なら干し肉とパン。水やワイン。テントに毛布。あとはポーション類だな。」

「マジックバッグがあるので食事は温かい物を持って行きましょうよ。水は魔法でなんとかなりますし。回復系の魔法も使えます。テントと毛布があれば問題無いですね。」

「なんと言うか、君は変わった男だな。」

 それは誉め言葉なんでしょうか?

「ちなみに干し肉って美味しいのでしょうか?」

「ああ、あれは食事とは言えんな。生きる為に喰うと言った感じだ。」

 ふむ、そこまで言われる干し肉って、逆に興味が沸くなジャーキーとは違うのだろうか?

 冒険者用の道具屋に行きテントと毛布を2つずつ購入する。併せて銀貨5枚だ。高いのか安いのか判らない。

 それから、町で美味しいと評判の食堂へ行って6食分の食事を購入する。出来たそばからマジックバッグに仕舞ったので温かいままだ。それからワインとエールを樽で購入した。

 その後宿へ帰り。明日の朝で宿を引き払う事をおばちゃんに伝える。部屋に着くと早速エリシアが脱ぎ始める。もう慣れたな。リュートも着替え、部屋全体にクリーンを掛ける。

 食事まではまだ時間があるので、領都についての情報をエリシアに聞く。

 領都は人口20万人程でこの国で3番目に大きい都市だそうだ。辺境伯が統治しており騎士隊と魔法師団があるそうだ。また学校が幾つかあり、周辺の町から学生が集まっているので学生の多い街としても知られているらしい。

 中には冒険者学校なる物まであるそうだ。

「そう言えばスキルってどうやって確認するんですか?」

「スキルは冒険者ギルドで大銅貨1枚払えば調べてくれるぞ。」

「それって他人にはバレませんか?」

「ギルド職員には守秘義務があるからな。問題無いだろう。」

「じゃあ、僕ちょっと行って調べて貰います。」

「解った。食事までには戻れよ。温いエールは飲みたくないからな。」

 そこですか?まあ、良いけど。リュートは走って隣のギルドへ向かった。

 ラフな格好のリュートに受付嬢が驚いている。

「どうしたんですか?」

「ちょっとスキルを知りたくて。」

「それでしたら大銅貨1枚になりますが、よろしいでしょうか?」

「お願いします。」

 そう言って大銅貨1枚を差し出すと、何やら魔道具の様な物を持って来た。

 魔道具はドーム型になっていて1か所穴が開いている。穴の奥に大きめの魔石の様な物が埋まっている。

「ここから腕を差し込んで中の石を握る様にして下さい。」

 言われた通りにすると。何やら発光する。

「もう良いですよ。」

 手を離すと穴の反対側からカードの様な物が出て来る。

「これがスキルカードです。魔力を流すとスキルが確認出来ますよ。個人のスキルは重要な個人情報なので人気のない所で確認して下さい。」

「解りました。ありがとうございます。」

 礼を言ってギルドを辞した。隣の宿屋に帰る。所要時間5分で済んでしまった。

 部屋に戻るとエリシアがベッドで寝てた。なんて無防備な娘だ。

 起こすのもなんなので、ユーリはスキルカードを取り出し魔力を流してみる。

「アイテムボックス、強靭化、敏捷性アップ、剛腕、片手剣レベル1、魔力操作レベル3、探知、隠密行動、鍛冶レベル1、錬金術」

「随分と沢山スキルがあるな。」

 後ろから声を掛けられ吃驚する。エリシアさん寝てたんじゃ?

「これは多いんですか?って言うか、人に見せても大丈夫でしょうか?」

「一つ一つは問題無いが、アイテムボックスは知られると不味いかもな。」

「やはり?一応、マジックバッグを持って誤魔化してるんですけどね。」

「私の下着もアイテムボックスに入っていたのか?」

 そう言ってズボンをおろす。いや、見せなくて良いから。

「アイテムボックスには使い方の判らない物も入っています。これが僕の記憶の手掛かりになればと思い。大事にしまってあるんですが。」

「ふむ、君はもしかしたら違う大陸から来たのかもしれないな。」

 エリシアさん鋭すぎます!

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