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第百一話

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 まずはサーチの魔法を周囲に掛けてみる。小動物の気配はあるが、魔物は居ない様だ。次に街道に沿って細長くサーチを掛ける。こうすると若干距離が延びる。まずは自分が立っている位置から右へ、人の気配は無い。次に左へ、こちらにも人の気配は無い。

 困った。時刻はもうすぐ夕刻、周りは徐々に暗くなって来ている。野宿しようにも準備が無い。ここが街道の中間ならどちらへ行っても町まではかなり歩く事になる。魔物に襲われるのは必至だ。

 そう考えていた時右手側に何かの気配が引っかかる。魔物か?集中してみるとどうやら人の気配だ。ただ、こんな時間に1人と言うのが引っかかる。少し待つと姿が見えて来る。

 屈強そうな大男だ。見た目は農夫に見える。意を決して声を掛ける事にする。

「すみません。町へ行くにはどっちが近いのでしょうか?」

「なんだ?見かけない顔だが何処から来た?」

 大男が質問を質問で返してくる。

「それが、自分でも分からないのです。気が付いたらここに倒れていました。」

「ん?不審な奴だな。こっちには畑しかない。町はこっちだ。俺は町へ帰る途中だ。お前は町から来たんじゃないのか?」

 どうやら右手は行き止まりで畑になっているらしい。左手が町だと言う。

「記憶が、無いんです。自分が誰なのか、何処から来たのか、何も思い出せません。」

「そいつは困ったな。一緒に来い。衛兵に保護して貰うと良いだろう。」

「衛兵ですか?」

「ああ、フラムの町はこの国最東端の町でな。割と大きい。町の厄介事は衛兵が大抵解決してくれる。」

 リュートは大男に着いて歩きながら話を聞いている。

「身分証か金は持ってるか?」

「身分証は持っています。それによるとリュートと言うのが僕の名前らしいです。」

「おまえ、自分の名前も忘れてるのか?」

「はい。フラムの町と言うのも聞いた事がありません。何処の国の町なのでしょうか?」

 その言葉に大男は天を仰いだ。

 大男の名前はドラスクと言うらしい。彼の話によれば、この国はナイトハルト王国と言うらしい。ベスグラント王国を知ってるか尋ねたが、聞いた事が無いと言われた。

 どうやら別の大陸に飛ばされた様だ。問題は飛ばされたのがユーリの魂だけなのか、リュートも一緒に飛ばされたのかと言う事だ。

 町に着く頃にはもう日は沈んでおり、門が閉まるまで10分と言うギリギリの時間であった。町に着くとすぐにドラスクさんが衛兵に事情を話してくれて、リュートは衛兵の詰め所に連れていかれた。

「記憶が無いそうだが、身分を証明するものは持っているか?」

 そう問われたので冒険者ギルドのカードを提示する。

「リュート、ランクEか。どうやらギルドカードは本物らしいな。この時間ならまだ冒険者ギルドは開いている。ギルドに行って自分の事を聞いてみると良い。」

 そう言って冒険者ギルドの場所を教えてくれた。

 問題は2つ、知り合いがこの町に居た場合。どう誤魔化すか。居なかった場合。お金をどうするかだ。

 とりあえず冒険者ギルドへと向かう。場所は中央へ向かって歩けば大きな建物が見えて来るのでそれがギルドだと教わった。

 なるほど、すぐにギルドは見つかった。中央へ行くに従って冒険者の密度が増えて来る。その冒険者の出入りしている建物がギルドだとすぐに判る。

 ギルドに入ると出入りの激しい訳が解る。ギルドの半分程が酒場になっているのだ。一仕事終えて酒を飲んでから帰るのが冒険者流なのだろう。まだ、時間的に早いので依頼の報告をしている者も多い。多分、この時間帯が一番混むのでは無いだろうか?

 リュートは一通り見渡し、空いてるカウンターを見つけると、そこへ向かった。

「ちょっと聞きたい事があるのですが、良いでしょうか?」

「聞きたい事?ここは冒険者登録の窓口だが、構わないか?」

 リュートは頷いてから、ギルドカードを出し。この名前に見覚えが無いか聞いてみる。

「実は記憶喪失で自分が誰か分からないんです。手掛かりはこれだけで。」

「それは大変だな。ちょっと待っててくれ他の奴にも聞いてみるから。」

 暫く待つと何人かのギルド職員がリュートの顔を見に来た。皆首を横に振っている。どうやら僕を知っている人は居ないらしい。となると、リュートも何処かからこの地へ飛ばされた可能性が高くなる。

「記憶喪失だって?金は持ってるのか?」

 いきなり後ろから声を掛けられた。

「ああ、驚かせたか済まんな。ギルドマスターのべリアスだ。」

 背は大男と言う程では無いが威圧感が凄い。ギルドマスターだけあってレベルも高いのだろう。

「それなんですが、一応お金は持ってるんですが、ここで使えるかどうか?」

「ん?どう言う事だ?見せてみろ。」

 リュートはアイテムボックスから出して置いた。銀貨と銅貨を3枚ずつカウンターに出す。

「これは見た事が無い硬貨だな。」

「ベスグラント王国と言う所の通貨です。」

「ベスグラント王国?確か、西にある大陸の国の名前じゃ無かったか?」

 ギルドマスターが振り返って職員に尋ねるが明確な答えは返ってこない。

「これはこの国じゃ使えんな。何か金になるような物は持ってないのか?宝石とか武器とか?」

 リュートは少し考えるが宝石は大きな原石位しか持っていない。武器は使わないので持っていない。

「あの、魔石なら少し持ってますが?」

「魔石か?物によっては買い取るぞ。」

 リュートはあまり大きすぎない魔石を5つほどカウンターの上に乗せる。

「割と大きいな。オークと狼系の魔物かな?全部で金貨2枚なら引き取ろう。どうだ?」

「銀貨で貰えるならその値段で構いません。」

「解った。おい!銀貨20枚払ってやれ。しかし、記憶喪失の割にそう言う所はしっかりしてるな。」

「多分、金貨はあまり使った事が無いのかもしれません。」

 そう言ってギルド職員から小さな袋を受け取る。中には銀貨が20枚入っている。見た事の無い銀貨だ。

「あ、それから、安い宿屋を探しているのですが?」

「それならこのギルドの隣が宿屋になっている。冒険者用の宿屋で1泊銀貨1枚で食事つきだ。」

「それは助かります。」

「暫くこの町に居るなら依頼も受けてくれよ。」

「解りました。装備を整えてからまた来ます。」

「おう、待ってるぞ!」

 ギルドを出るとすぐ左隣が宿屋になっていた。宿屋に入りとりあえず5日分の代金を支払う。

「夕食はすぐ食べられるけどどうする?」

 宿屋のおばちゃんが聞いて来るので頼むと答える。

 食堂の椅子に座ると殆ど同時に料理が出て来た。パンにスープ、肉串とエールだ。

「エールは2杯目からは有料だよ。」

 リュートは丸1日何も食べていなかった様だ。食事を見た途端お腹が空いてるのが解る。まずパンをかじる。固くぼそぼそしたパンだ。スープを一口。思ったより塩味がきつくない。野菜が多めで出汁になっていて、意外に美味しい。肉串も無難な味だ。スープをパンに付けながら食べると結構食べられる。エールはやはり温い。その上、ちょっと酸っぱかった。

 口直しに果実水を頼むと銅貨1枚だと言われたので銀貨を出してお釣りをもらう。

 果実水も温かった。

 部屋に入り、自分と部屋にクリーンの魔法をかけて横になる。まだ寝るには早い時間だが、今日は疲れた。

 これからどうするべきか考えているうちに眠りに就いてしまうリュートだった。

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