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第九十五話

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 ユーカとイルミが来ると、おやつと同時に雑談タイムになる。これは何時もの事だ。この雑談タイムに新商品が生まれる事が多いので、雑談と言う名のディスカッションとユーリは捉えている。

「そう言えば通信の魔道具は売れてるんですか?」

 バートさんが思い出した様に聞いて来た。ここに居るメンバーは普段から使いこなしているのであまり意識していないが、外で使ってると結構目立つ。

「発売から結構立ちますのでだいぶ出てますよ。30万台は突破したと聞いてます。この国の貴族や商人の人口を考えるとまだまだ売れるでしょうね。」

「うちの学院でも貴族の子は持ってる人多いですよ。持ってるのが1種のステータスになってる感じかな。」

 イルミが意外な情報をくれた。学生と言うシェアが残っていると言うのはユーリにとって朗報だ。

「売れるとは思ってましたが、そこまでですか?やはり値段設定と使いやすさが秀逸ですよね。」

「ユーリ君の魔道具は余計な機能を一切付けないので使いやすいんですよね。お父さんも褒めてました。」

 これはユーカの発言だ。流石は魔道具屋の娘だ見る所が違う。

「新商品も魔道具が良いんでしょうか?」

 チェスカさんが聞いて来る。

「いや、特にそう言う縛りは考えなくて良いですよ。自由な発想で行きましょう。今回の『聞く物語』もたまたま魔道具と相性が良かっただけですから。」

「そうだよね、学院販売部の時も縛りは値段だけだったし。」

 イルミさん年上には敬語を使おうね。

「そう言うイルミは何か思いついたの?」

「ん~、あんまりたいした物じゃないけど、これは売れないかな?」

 そう言って飲んでるコーラを顔の高さに持ち上げる。

「コーラ?」

「じゃなくって、冷たい飲み物。冷蔵庫は販売してるけど、家庭用には普及してないでしょ?氷を作る魔道具なんて冷蔵庫より高いし、何時でも何処でも冷えた飲み物が飲めたら良いかなって。」

「あ、それは私も思った。ユーリ君と一緒に居ると何時でも冷たい飲み物が出て来るけど家では温い水か果実水だもんね。熱い紅茶は自分で淹れられるけど、冷たい物って氷魔法が使えないと無理だよね。」

 イルミの発言にユーカも喰いついた。

「確かにユーリ君が出すおやつや軽食は普通じゃ食べられないわね。」

 チェスカさんも同意見らしい。

「ん~、一応『大地の恵亭』と言う食堂に行けば食べたり飲んだり出来るんだけどね。」

「いや、ポイントは何時でも何処でもって所なのよ。特に家でくつろぎながら飲みたいのよね。お店で冷たい物を買っても家に持って帰ったら温くなっちゃうでしょ?」

「それはありますね。うちの商会でも飲み物を扱ってますが、冷蔵庫を購入しようか悩んでいるんですよ。エールや果実水は冷えていた方が断然美味しいのは解ってます。しかし、購入してすぐに飲む人ばかりじゃありません。家に持って帰ってから飲む人が多いですからね。」

 バートさんまで参戦して来ました。

「冷たい飲み物に需要があるのは解りました。仮に作ったとして何処で販売しますか?」

「うちの商会で扱いたいですね。」

 バートさんが真っ先に答えた。

「雑貨屋イルミやベンマック商会でも需要はあるわよ。」

 イルミが追随する。

「喫茶店や食堂からも引き合いは来るんじゃないかしら?」

 これはチェスカさんだ。

「家庭用に販売するなら食料品を置いてある店なら何処でも売れるんじゃありませんか?」

 ユーカも話に加わる。

 自分で考えた商品と言う形にするのがユーリの目的だ、なのであえて皆に考えさせる。

「値段はどうする?冷えてる事を加味してもあまり高いと売れないでしょ?」

「そうですね。銅貨3枚位が限界かと。ただ、エールと果実水が同じ値段と言うのはあり得ませんね。」

 こう言う時のバートさんは頭が切れる。

「では、ソフトドリンクを銅貨2枚、アルコールを銅貨3枚にしましょうか?」

「妥当ですね。それなら十分に商品になります。」

「解りました1日下さい。実現できるかどうか色々考えてみます。」

「出来ればコーラやレモンスカッシュみたいな他では売って無い飲み物もお願いね。」

 イルミはそっちが重要らしい。

「あ、そう言えばバートさんの実家、ライビット商会は小麦を扱う商会ですよね?どんな種類の小麦を扱ってるんですか?」

「え?小麦に種類はありませんよ。全部王都近郊で取れた小麦で、それを粉にしてパン屋や貴族の屋敷、料理店等に卸しています。」

 小麦に種類が無い?ユーリはちょっと考えてバートさんに聞いてみる。

「出来れば、その小麦粉見せて貰えませんか?あと、パンも持って来て貰えるとありがたいのですが。」

「構いませんよ。商会は近いのですぐに持って来ましょうか?」

「お願いします。」

 そう言うとバートさんが急いで商会から出て行った。

「どう言う事?」

 イルミが聞いて来る。

「バートさんが帰るのを待ちましょう。難しい話になるので実物を見た方がわかり易いですから。」

 ユーリはコーラとクッキーのおかわりを出して皆に勧める。議論が白熱したので喉が渇いただろう。

 5分程でバートさんが戻る。手には袋を2つ持っている。

「これが、うちの小麦粉です。そして、こちらがそれを使ったパンですね。」

 バートさんがテーブルに2つの袋を置く。

 ユーリはその内の1つ小麦粉の入った袋を開けて中身を手に取る。

「これは全粒粉ですね。」

「全粒粉ですか?」

「はい、小麦の粒をそのまま挽いた物を全粒粉と言います。」

 ユーリはもう一つの袋を開けてパンを取り出し、2口分くらいの大きさにちぎって皆に渡す。

「まず、このパンを食べてみて下さい。」

 言われた通り皆がパンを食べる。

「どうですか?」

「どうって、普通のパンの味だね、柔らかいけど。」

 他の皆も同意見らしい。次にユーリがパンを出し同じようにちぎって皆に渡す。

「次にこっちのパンを食べてみて下さい。」

 皆がパンを口に運ぶ。

「あれ?味が違う。こっちの方が舌触りも良いし、美味しい。」

「こうして食べ比べると分かりますね。これは何が違うんですか?」

 バートさんが真剣な顔で尋ねる。

「小麦の粒には皮と胚芽と言う物が付いています。それを取り除いてから挽いた物を小麦粉と言います。更に言うと小麦には種類が幾つもあって、バートさんの持って来た小麦はパンには向かない種類ですね。」

「パンに向かない小麦?うちの小麦の使い道は90%がパンですよ。」

 バートさんが唖然とした顔でそう言った。

 ユーリは皿に3種類の小麦粉を乗せてテーブルに出す。

「左から、パンに使う小麦粉、麺類に使う小麦粉、お菓子に使う小麦粉です。」

 そしてもう1枚皿を出し、バートさんが持って来た全粒粉を乗せて並べる。

「色が全然違う。他の小麦は何が違うんですか?」

「小麦の種類が違います。」

「小麦に種類があるなんて多分誰も知らないと思いますよ。他の小麦を扱う商会も同じ方法で販売しています。」

 バートさんが力なく呟く。

「麦を仕入れて挽いて売ってるんですよね?麦は直接農家から?」

「いえ、農家の元締めの大農家があって、そこから仕入れています。」

「なら、僕が直接小麦粉を卸しましょうか?キロ幾らで仕入れていますか?」

「仕入れはキロ銅貨1枚前後ですね、その年の取れ高で変動します。販売価格は1キロ銅貨2枚前後です。」

「なら、仕入れ銅貨1枚販売銅貨2枚に固定しましょう。製粉した状態で卸しますので儲けは増えるはずです。」

「解りました。後で、必要な分量を計算してお知らせします。」

「了解です!」

 
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