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第八十話

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 ユーリが帰って戦争終結の報告をしたが、国王はまだ終結宣言を出していない。時間的に早すぎるのと、他の諸侯が帰ってきて無いからだ。諸侯は領地に軍隊を置いてから王都へ集結するので、少なくてもあと7日は掛かるだろう。諸侯が王都へ集結してから戦争終結宣言が出される手はずになっている。

 また、帝国の皇帝の思惑が解らないのも一つの要因かもしれない。今回の戦争で分かったが、この世界の情報事情はかなり遅れている。各国に諜報部員を放っている様だが、通信手段が無い為、情報が届くのに時間が掛かり過ぎ、手遅れになる事も多いそうだ。今回の戦争でももっと早く情報が届いていればこんな急な出兵にはならなかっただろう。

 ユーリは通信機器を何か開発する事を心に決めた。空間魔法を何かに付与すれば時間を短縮する魔道具が出来るだろう。ユーカの商会と組んで作っても面白いかもしれない。

 7日の間無為に過ごすのも無駄なのでユーリは領地の開発や新しい商売等を考えたり、久しぶりに学院へ行ったりして、ゆったりと過ごした。

 そして7日後諸侯が王都へ帰還した。そして戦争終結宣言が出されると王都はお祭り騒ぎになるのであった。国王陛下が完全勝利と言う言葉を使ったのと、王国軍に死傷者ゼロと言うのも大きかっただろう。

 その後、戦争の功労者を称える儀式があり。ヘルムウッド辺境伯を始め、諸侯に報奨金が配られた。基本戦争に参加した者には、出費を補って余りある報奨金が貰える。これは経済を回すのに必要だからだ。今回、ユーリは自分一人しか参加していないので丸儲けである。

 そして、最後に最大の功労者として、ユーリの名前が呼ばれた。

「オーバルバイン子爵。此度の戦争を終結させた功績は大きい。他の諸侯も最大の功労者は其方だと申して居る。よって其方を伯爵に陞爵する。」

「ありがたき幸せ。」

「これからも余とこの国を支えてくれよ。」

「解りました。あ、でも、そうなるとオーバルバイン伯爵が2人になってしまいますけど?」

「お?確かにそうじゃな。宰相、確かこう言う時は、アレがあったな?」

 そう言って陛下が宰相に声を掛ける。宰相は解っていたかのように1冊の薄い本を取り出す。

「これには現在使われていない家名が載っている。どれも由緒正しい家系で途中で途絶えた物だ。王家の分家、つまり公爵家の命名などにも使われるが此度の様に同じ家名が2つになる時にも使われるものだ。」

 宰相はそれを陛下に手渡す。陛下はざっと斜め読みしてから。

「新伯爵、其方に『グレイソル』の名を与えよう。これは過去に公爵家が使用していた名前だ。名に恥じぬよう活躍する事を期待する。」

 この言葉にどよめきが起こる。ユーリは知らないが、公爵家が使っていた名前を公爵家以外が受け継ぐのは異例の事態なのだ。

「ありがたく頂戴します。ユーライナ・グレイソル伯爵。王国に変わりなき忠誠を誓います。」

「うむ。」

 国王陛下が満足そうに微笑んでいる。周りの諸侯からは拍手が上がる。


 家に帰り。執事のフロッシュさんに伯爵に陞爵した事と家名が変わる事を話し、他の使用人にも周知する様に指示を出す。

「伯爵に陞爵とは、おめでとうございます。しかし、そうなるとこの家ではちょっと問題がありますね。」

「問題ですか?」

「そうですね、ご実家と比べてみれば判るのではありませんか?」

「なるほど、家格ですね。父上に相談してみます。」

「それがよろしいかと。」

 父上も儀式に参加していたのでユーリが伯爵に陞爵した事は知っているはずだ、時間を見計らって相談に行こう。それまで街をぶらついて時間を潰そう。家から商店街の方向へ進んで行くと、大通りに辿り着く、この辺は商会が多く並ぶ。大通りを越えて更に進むと商店が増えて来る。中には商店より小さい商会もあるし、逆に商会より大きな商店もある。この辺の線引きはどうなっているのか一度商業ギルドで聞いてみるかな?商店街の周りには屋台が多い。これはこの辺が冒険者ギルドと宿屋の中間に位置するからだ。屋台のメインの客は冒険者らしい。幾つか屋台を覗いて目に付いた物を購入して行く。アトマス商会が販売している調味料がどれだけ普及しているかの調査だ。味はまだまだだが以前の塩だけの食事に比べればだいぶ進歩しているのが解る。串焼きなどは炭で焼いただけでも美味いのでちょっとタレを工夫すれば格段に美味くなる。店主にちょっとアドバイスしてやろうかとも考えたが止めて置いた。

 そのままぶらぶら歩いていたら、冒険者ギルドが見えて来た。そう言えばしばらく来てないけど、ギルドカードって有効期限とかあるのかな?

 そろそろ父上が帰宅する時間になる。ユーリは転移で実家の伯爵家へ飛ぶ。厩舎を覗くと魔改造馬車が2台並んでいたので父上が帰っている様だ。魔改造馬車をメンテしてから家に入る。父上に用がある事を伝えると書斎に通された。

「伯爵に陞爵か、まだ成人もしてないのに大出世だな。母さんも喜んでいたぞ。」

「ありがとうございます。えーと、今日は家の事で相談に来ました。」

「そんな事だろうと思ったよ。ユーリの場合、魔法で改築が出来るんだよな?」

「改築も新築も可能ですよ?」

「だったら、貴族街の放置されているなるべく大きな物件を買え。」

「なるべく大きなって言うのは、侯爵家よりも大きくても構わないのですか?」

「そうだ。陛下から家名を貰った貴族は公爵家に近い権威を持つ。だから、とにかく金を使え。と言う事で大きな家だ。使用人も50人は雇え。」

「解りました。自重はしなくて良いって事ですね?」

「あくまでも家に関しては、だがな。」

「参考になります。何時も父上に相談に乗って貰って助かってます。」

「あ、母さんに会って行けよ。最近来ないので心配してるぞ。」

 母上に挨拶をして、伯爵家を辞する。母上はかなり喜んでいるらしくテンションが高かった。

 翌日、商業ギルドへ行き、貴族街で一番大きい屋敷が欲しいと言ったら、元公爵家と言う物件を紹介された。なんでも買う者が居なくて困ってるとか。値段を聞くと白金貨50枚だそうだ。それは売れないだろう。

「もう60年以上放置されているんですよ。お値段も半額近くまで下がってますし。お買い得ですよ?」

「建物は何人くらい住める?庭は?」

「建物には80人位は住めますね。あと使用人用の寮も別棟で付いてます。パーティーホールは150人規模のパーティーが出来ますよ。庭は馬車が50台は留まれるかと。」

「解った買おう。」

「本当ですか?」

「その代わりと言ってはなんだけど、今住んでる家は今月で賃貸終了って事で処理して置いて。」

「その辺は大丈夫です。」

 ユーリは白金貨50枚が入った袋を差し出す。

「これで良いんだよね?」

 白金貨50枚を即金で払うとは思って居なかったギルド職員は慌てて枚数を数えていた。

「た、確かに。鍵をすぐに用意させますので少し待って下さい。」

「家は自由にいじって構わないんだよね?」

「はい、もう伯爵様の物ですので売ろうが焼こうが自由です。」

 いや、焼かないからね。
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