7 / 151
第七話
しおりを挟む
「これは商売になるな・・・」
「え?」
父上の発言にユーリだけでなく、周りのみんなも驚きを隠せない。
「商売ですか?」
「そうだ、これを売ってみる気は無いか?」
父上は冗談を言う様な性格ではない。しかし、6歳のユーリに商売を勧める等、普段の父上ならあり得ない。
「ユーリは将来何になるつもりだ?」
真面目な顔でそう問われた。だが、ユーリにはこの世界の就職状況や貴族の仕組み等も良く解っていない。答えに窮する。
「それだけの魔法の才があるのだ、学院へは行くのだろう?しかし、ユーリはまだ6歳だ、学院へ行く12歳まであと、5年以上はある。その間、ただ遊んでいるのでは面白くないだろう?商売をやって手に職を付けて置くのも悪く無いのではないか?」
確かに、このまま毎日本を読んで暮らすよりも、商売をやった方が、文明を進めると言う目的には近づく。
「やってはみたいですが、やり方が分かりません。」
「それはそうだ、何もユーリ一人でやれとは言わない。有能な商人を一人付けてやろう。それならば、どうだ?」
有能な商人と二人で商売を始めるのであれば、もっと色々な事に挑戦出来るかもしれない。これは悪い話では無い。
「店や金は出してやる。商会を立ち上げて、人を使う事を覚えるのはユーリにとって、必ず将来武器となるだろう。ただし、オーバルバインの家名を出す事は許さない。もちろん失敗しても金を返せとは言わないぞ。どうだ、やってみる価値はあると思わないか?」
「はい。僕のやりたいように出来るのであれば、是非お願いしたい話です。」
父上は満足気に頷く。
「ところで、父上。こう言う物もその商会では販売出来るのでしょうか?」
そう言ってユーリは掌に紙に包まれた物を空間から取り出し、父上の方へ向ける。
「これは?」
「軽食です。パンに焼いた鶏肉を挟んだ簡単な物です。食べてみて下さい。」
照り焼きチキンサンドである。コッペパンに横から切れ目を入れ、レタスを数枚とマヨネーズを乗せ、その上に照り焼きにしたチキンを乗せて挟んだ物だ。
この世界は料理が遅れている、特に調味料は塩や砂糖でさえ高価過ぎて、庶民では気軽に使えない。日本では手軽な軽食もここでは非常に珍しい物になるはずだ、珍しいなら商売になるだろう。
父上は手にした紙包みを見まわしてからそっと開いた。
「ほう?香ばしい甘い香りがするな。それにこのパンの柔らかさはなんだ?」
「とりあえず一口食べてみて、商品になるかどうか教えてください。」
「分かった。」
そう言うと父上はガブリと一口照り焼きサンドを頬張った。瞬間、目を見開き、ビールの時以上の驚きを見せた。どうやら、この世界でも味覚の違いはあまり無い様だ。
「これは、なんて複雑で美味しい味なんだ。噛めば噛むほど色々な味が混然と一体になり旨味へと変わって行く。売れる、間違いなく売れるぞ!」
「ありがとうございます。あ、皆さんの分もありますので、食べてみて下さい。」
そう言うと、ユーリはテーブルの上に大皿に乗せた照り焼きサンドを次々と出して回った。一通り出し終わると、父上がまだ食べたそうな顔をしていたので、更に追加で30個ほど出して置いた。食堂を見回すと、皆、笑顔だ、中には涙を流しながら食べている者もいる。これなら他の物も出せるかも?と、思った時、二人の兄上が居ないのに気が付いた。
「そう言えば兄上達はどうされたのです?」
「アルとジークなら今日は早番で、まだ暗い内に王城へ向かいましたよ。」
母上が答えてくれた。
「なら、兄上達が帰ったら渡して下さい。」
そう言って更に10個の照り焼きサンドをテーブルに出す。
父上はその会話を聞いていて何やら思案し始めた。
「ユーリ、このグラスなんだが、まず、陛下に献上したい。50個程同じ形同じ大きさで揃えられるか?」
「可能ですけど、50個と言うとかなりの重量です。更に割れ物ですので馬車では運べませんよ。」
「大丈夫だ、マジックバッグがある。これに入れれば問題なく運べるし、壊れもしない。」
父上はそう言って笑っていた。なるほど、マジックバッグと言うのはアイテムボックスの付与をしたバッグだったはず。かなり高価だと本に書いてあったが、流石は伯爵家。マジックバッグが家にあるとは思っていなかったユーリは感心しきりだ。
「ちなみにマジックバッグって僕でも買えますか?」
「あー、大きさによるが、4メートル四方でも、白金貨がいるぞ。」
この世界の通貨は、下から鉄貨=10円 鉄貨が10枚で銅貨=100円 銅貨が10枚で大銅貨=1000円 大銅貨が10枚で銀貨=10000円 銀貨が10枚で金貨=10万円 金貨が100枚で白金貨=1000万円となっている。
マジックバッグ一つで数千万円って・・・
「ちなみに僕、マジックバッグ作れますが、持ってたら不味いですかね?」
「「「え?」」」
そこにいる全員に突っ込まれた。
「え?」
父上の発言にユーリだけでなく、周りのみんなも驚きを隠せない。
「商売ですか?」
「そうだ、これを売ってみる気は無いか?」
父上は冗談を言う様な性格ではない。しかし、6歳のユーリに商売を勧める等、普段の父上ならあり得ない。
「ユーリは将来何になるつもりだ?」
真面目な顔でそう問われた。だが、ユーリにはこの世界の就職状況や貴族の仕組み等も良く解っていない。答えに窮する。
「それだけの魔法の才があるのだ、学院へは行くのだろう?しかし、ユーリはまだ6歳だ、学院へ行く12歳まであと、5年以上はある。その間、ただ遊んでいるのでは面白くないだろう?商売をやって手に職を付けて置くのも悪く無いのではないか?」
確かに、このまま毎日本を読んで暮らすよりも、商売をやった方が、文明を進めると言う目的には近づく。
「やってはみたいですが、やり方が分かりません。」
「それはそうだ、何もユーリ一人でやれとは言わない。有能な商人を一人付けてやろう。それならば、どうだ?」
有能な商人と二人で商売を始めるのであれば、もっと色々な事に挑戦出来るかもしれない。これは悪い話では無い。
「店や金は出してやる。商会を立ち上げて、人を使う事を覚えるのはユーリにとって、必ず将来武器となるだろう。ただし、オーバルバインの家名を出す事は許さない。もちろん失敗しても金を返せとは言わないぞ。どうだ、やってみる価値はあると思わないか?」
「はい。僕のやりたいように出来るのであれば、是非お願いしたい話です。」
父上は満足気に頷く。
「ところで、父上。こう言う物もその商会では販売出来るのでしょうか?」
そう言ってユーリは掌に紙に包まれた物を空間から取り出し、父上の方へ向ける。
「これは?」
「軽食です。パンに焼いた鶏肉を挟んだ簡単な物です。食べてみて下さい。」
照り焼きチキンサンドである。コッペパンに横から切れ目を入れ、レタスを数枚とマヨネーズを乗せ、その上に照り焼きにしたチキンを乗せて挟んだ物だ。
この世界は料理が遅れている、特に調味料は塩や砂糖でさえ高価過ぎて、庶民では気軽に使えない。日本では手軽な軽食もここでは非常に珍しい物になるはずだ、珍しいなら商売になるだろう。
父上は手にした紙包みを見まわしてからそっと開いた。
「ほう?香ばしい甘い香りがするな。それにこのパンの柔らかさはなんだ?」
「とりあえず一口食べてみて、商品になるかどうか教えてください。」
「分かった。」
そう言うと父上はガブリと一口照り焼きサンドを頬張った。瞬間、目を見開き、ビールの時以上の驚きを見せた。どうやら、この世界でも味覚の違いはあまり無い様だ。
「これは、なんて複雑で美味しい味なんだ。噛めば噛むほど色々な味が混然と一体になり旨味へと変わって行く。売れる、間違いなく売れるぞ!」
「ありがとうございます。あ、皆さんの分もありますので、食べてみて下さい。」
そう言うと、ユーリはテーブルの上に大皿に乗せた照り焼きサンドを次々と出して回った。一通り出し終わると、父上がまだ食べたそうな顔をしていたので、更に追加で30個ほど出して置いた。食堂を見回すと、皆、笑顔だ、中には涙を流しながら食べている者もいる。これなら他の物も出せるかも?と、思った時、二人の兄上が居ないのに気が付いた。
「そう言えば兄上達はどうされたのです?」
「アルとジークなら今日は早番で、まだ暗い内に王城へ向かいましたよ。」
母上が答えてくれた。
「なら、兄上達が帰ったら渡して下さい。」
そう言って更に10個の照り焼きサンドをテーブルに出す。
父上はその会話を聞いていて何やら思案し始めた。
「ユーリ、このグラスなんだが、まず、陛下に献上したい。50個程同じ形同じ大きさで揃えられるか?」
「可能ですけど、50個と言うとかなりの重量です。更に割れ物ですので馬車では運べませんよ。」
「大丈夫だ、マジックバッグがある。これに入れれば問題なく運べるし、壊れもしない。」
父上はそう言って笑っていた。なるほど、マジックバッグと言うのはアイテムボックスの付与をしたバッグだったはず。かなり高価だと本に書いてあったが、流石は伯爵家。マジックバッグが家にあるとは思っていなかったユーリは感心しきりだ。
「ちなみにマジックバッグって僕でも買えますか?」
「あー、大きさによるが、4メートル四方でも、白金貨がいるぞ。」
この世界の通貨は、下から鉄貨=10円 鉄貨が10枚で銅貨=100円 銅貨が10枚で大銅貨=1000円 大銅貨が10枚で銀貨=10000円 銀貨が10枚で金貨=10万円 金貨が100枚で白金貨=1000万円となっている。
マジックバッグ一つで数千万円って・・・
「ちなみに僕、マジックバッグ作れますが、持ってたら不味いですかね?」
「「「え?」」」
そこにいる全員に突っ込まれた。
2
お気に入りに追加
632
あなたにおすすめの小説
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!
酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。
確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。
だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。
当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。
結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。
当然呪いは本来の標的に向かいますからね?
日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。
恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
殿下はご存じないのでしょうか?
7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」
学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。
婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。
その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。
殿下はご存じないのでしょうか?
その方は――。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる