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第七話

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「これは商売になるな・・・」

「え?」

 父上の発言にユーリだけでなく、周りのみんなも驚きを隠せない。

「商売ですか?」

「そうだ、これを売ってみる気は無いか?」

 父上は冗談を言う様な性格ではない。しかし、6歳のユーリに商売を勧める等、普段の父上ならあり得ない。

「ユーリは将来何になるつもりだ?」

 真面目な顔でそう問われた。だが、ユーリにはこの世界の就職状況や貴族の仕組み等も良く解っていない。答えに窮する。

「それだけの魔法の才があるのだ、学院へは行くのだろう?しかし、ユーリはまだ6歳だ、学院へ行く12歳まであと、5年以上はある。その間、ただ遊んでいるのでは面白くないだろう?商売をやって手に職を付けて置くのも悪く無いのではないか?」

 確かに、このまま毎日本を読んで暮らすよりも、商売をやった方が、文明を進めると言う目的には近づく。

「やってはみたいですが、やり方が分かりません。」

「それはそうだ、何もユーリ一人でやれとは言わない。有能な商人を一人付けてやろう。それならば、どうだ?」

 有能な商人と二人で商売を始めるのであれば、もっと色々な事に挑戦出来るかもしれない。これは悪い話では無い。

「店や金は出してやる。商会を立ち上げて、人を使う事を覚えるのはユーリにとって、必ず将来武器となるだろう。ただし、オーバルバインの家名を出す事は許さない。もちろん失敗しても金を返せとは言わないぞ。どうだ、やってみる価値はあると思わないか?」

「はい。僕のやりたいように出来るのであれば、是非お願いしたい話です。」

 父上は満足気に頷く。

「ところで、父上。こう言う物もその商会では販売出来るのでしょうか?」

 そう言ってユーリは掌に紙に包まれた物を空間から取り出し、父上の方へ向ける。

「これは?」

「軽食です。パンに焼いた鶏肉を挟んだ簡単な物です。食べてみて下さい。」

 照り焼きチキンサンドである。コッペパンに横から切れ目を入れ、レタスを数枚とマヨネーズを乗せ、その上に照り焼きにしたチキンを乗せて挟んだ物だ。
 この世界は料理が遅れている、特に調味料は塩や砂糖でさえ高価過ぎて、庶民では気軽に使えない。日本では手軽な軽食もここでは非常に珍しい物になるはずだ、珍しいなら商売になるだろう。

 父上は手にした紙包みを見まわしてからそっと開いた。

「ほう?香ばしい甘い香りがするな。それにこのパンの柔らかさはなんだ?」

「とりあえず一口食べてみて、商品になるかどうか教えてください。」

「分かった。」

 そう言うと父上はガブリと一口照り焼きサンドを頬張った。瞬間、目を見開き、ビールの時以上の驚きを見せた。どうやら、この世界でも味覚の違いはあまり無い様だ。

「これは、なんて複雑で美味しい味なんだ。噛めば噛むほど色々な味が混然と一体になり旨味へと変わって行く。売れる、間違いなく売れるぞ!」

「ありがとうございます。あ、皆さんの分もありますので、食べてみて下さい。」

 そう言うと、ユーリはテーブルの上に大皿に乗せた照り焼きサンドを次々と出して回った。一通り出し終わると、父上がまだ食べたそうな顔をしていたので、更に追加で30個ほど出して置いた。食堂を見回すと、皆、笑顔だ、中には涙を流しながら食べている者もいる。これなら他の物も出せるかも?と、思った時、二人の兄上が居ないのに気が付いた。

「そう言えば兄上達はどうされたのです?」

「アルとジークなら今日は早番で、まだ暗い内に王城へ向かいましたよ。」

 母上が答えてくれた。

「なら、兄上達が帰ったら渡して下さい。」

 そう言って更に10個の照り焼きサンドをテーブルに出す。
 父上はその会話を聞いていて何やら思案し始めた。

「ユーリ、このグラスなんだが、まず、陛下に献上したい。50個程同じ形同じ大きさで揃えられるか?」

「可能ですけど、50個と言うとかなりの重量です。更に割れ物ですので馬車では運べませんよ。」

「大丈夫だ、マジックバッグがある。これに入れれば問題なく運べるし、壊れもしない。」

 父上はそう言って笑っていた。なるほど、マジックバッグと言うのはアイテムボックスの付与をしたバッグだったはず。かなり高価だと本に書いてあったが、流石は伯爵家。マジックバッグが家にあるとは思っていなかったユーリは感心しきりだ。

「ちなみにマジックバッグって僕でも買えますか?」

「あー、大きさによるが、4メートル四方でも、白金貨がいるぞ。」

 この世界の通貨は、下から鉄貨=10円 鉄貨が10枚で銅貨=100円 銅貨が10枚で大銅貨=1000円 大銅貨が10枚で銀貨=10000円 銀貨が10枚で金貨=10万円 金貨が100枚で白金貨=1000万円となっている。
 マジックバッグ一つで数千万円って・・・

「ちなみに僕、マジックバッグ作れますが、持ってたら不味いですかね?」

「「「え?」」」

 そこにいる全員に突っ込まれた。
 
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