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 僕の話を聞き終わった、竜王の爺さんがため息を一つ付いてから話す。

「事情は分かった。だが、全てはお主の推測の域を出ない。決定的な証拠が無いと真相には辿り着けんぞ。」

「解っています。僕も闇雲に神に喧嘩を売ろうとはしませんよ。けど、疑念があるなら、それを晴らさないとスッキリしませんからね。」

「まあ、お主の推測が正しければ儂も被害者の1人になる訳じゃ。協力は惜しまんぞ。」

「助かります。何かあったらまた相談に乗って下さい。」

 その日はそれで終わりにした。

 翌日から真相探しに奔走する事になるのだが、相変わらずブラスマイヤーと連絡が取れない。

 地上に居ても真相に辿り着く手掛かりがある訳でも無く、神界に行くのも躊躇われる。もし、神界に行って完全に神になってしまったら、もう戻る事は出来ないだろう。

 さて、どうしたものか?僕の記憶が操作された物なら自分の記憶を探っても答えは見つからないだろう。

 いや、待てよ。僕は何時から記憶を操作されて居たんだ?それ以前の記憶を探れば何か手掛かりが見つかるかもしれない。

 一番怪しいのは僕が前世で死んだ記憶が無いと言う事だ。まずは、そこまで記憶を遡ってみよう。

 しかし、前世の最後の記憶辺りは靄が掛かった様に不鮮明になってしまう。では、それより以前はどうだろう?

 この世界に来るおよそ2時間位前の記憶はちゃんと残っている。どうやら、この辺りで記憶を弄られたのかな?しかし、どうやって?

 そう言えば僕には前々世の記憶らしきものがあったな。もう少し遡って地球で産まれる前の記憶を辿ってみよう。

 地球での19年間を遡り産まれる前の魂の記憶を追いかける。

 そこで僕が見た物は、この世界だった。正確に言えばこの世界を見下ろす僕だ。

 天界から僕はこの世界を眺めている。他に誰も居ない。

 どう言う事だ?他の神は?いや、それ以前に僕は神だったのか?神だったとしたら他の神は何故僕が解らなかったんだ?

 唯一神。ふとその言葉が頭に浮かんだ。

 そうか、思い出して来た。僕は神だ。それもこの世界の唯一神だ。僕の他に神は居ない。

 神界等と言う物は無い。あれはまやかしの神の世界だ。

 ブラスマイヤーたちは他の時空から来た、侵略者だ。僕は彼らの手によって記憶を操作され、別世界の人間に無理やり転生させられた。

 そう、地球での19年間あれは仕組まれた物だ。エイジと言う人間に封印されたとも言う。

 しかし、突然僕の自我が目覚めるとは誰も予想出来なかった様だ。僕は自我が目覚めると同時に、記憶と体を地球に残したまま、この世界に戻って来てしまったのだ。

 神である僕が転生できる体などこの世界には無い。もっとも近かったのがブラスマイヤーだったと言う事だろう。

 偽の神達はさぞかし慌てた事だろう。だが、僕に記憶が無い事に気が付き僕を地上に落としたと言うのが真相だ。

 ある意味ブラスマイヤーは被害者だった訳だ。ブラスマイヤーは仲間に切り捨てられ、僕と一緒に抹殺される計画だったのでは無いかと思う。

 やたらと僕が事件に巻き込まれたのも全て、偽の神達の仕業だろう。神が地上に干渉しないと言うのは真っ赤な嘘だった訳だ。

 かく言う僕も神の時は結構頻繁に地上に降りていた様だ。救済の箱舟を創ったのは僕だ。長老の最後の1人が見つからない訳だ、それは僕だからだ。

 救済の箱舟は元々、外洋を航行する技術を伝える為の組織だった。それを偽の神達が、テロ組織へと変貌させた様だ。

 全ての元凶はあの侵略者達と言う事になる。何処から来たのか解らないが、この世界を乗っ取るのが目的なのはハッキリと思い出した。

 これは僕の手でケリを付けなきゃいけない事だ。竜王の爺さんには悪いが連れて行く訳には行かない。

 神界等と言うのは奴等が作ったただの空間だ。僕が行っても何の変化も起こらない。もし、神界に行ったら完全な神になるのなら、最初にブラスマイヤーに転生した時点で僕は完全な神になって居たはずだ。何故、こんな簡単な事に気が付かなかったんだろう。

 さて、以前の僕だったら奴等全員と戦ったら良くて五分五分と言ったところだったろう。だが、今の僕ならおそらく奴らを瞬殺出来るんじゃないかと思う。

 これはブラスマイヤーのお陰と言っても良いだろう。ブラスマイヤーは何故、僕に力を与えたのだろう?いずれ自分の身の破滅に繋がると解って居たはずだ。

 もし、この戦いに不安要素があるとしたらブラスマイヤーの存在だろう。

 僕はブラスマイヤーに対して非情になれるだろうか?

 だが、やらなければこの世界を乗っ取られてしまう。意を決して空中に転移した。

 空中で瞑想し、自分の体調を整える。問題無い。戦える。

 神界とやらの場所は、神の力を開放した今の僕なら簡単に解る。

 通常、地上から空に向かえば、ただ上に行くだけだ。精霊界には精霊界の、神界には神界の行き方がある。地上の上に精霊界が、その上に神界があると言うが、物理的な上下では無い。

 要はその世界の波長に合わせれば良いのだ。僕は一度だけ経験した神界の波長を思い出す。

 僕はその波長を捉えながら上空へと向かう。波長の合わない精霊界は無視して、神界へと辿り着く。

 僕の事を見ていたのか、こうなる事を予想していたのか、数名の偽神が待ち構えていた。見覚えのない奴等ばかりだ。

 偽神達を瞬殺しながら先へと進む。この奥には僕が最初に訪れた会議室の様な椅子とテーブルがあるはずだ。

「エイジ君だったわね。ようやく神になる決心がついたのかしら?」

 声を掛けて来たのはローレシアだ。

「悪いが全てを思い出したので、掃除に来た。」

「掃除ねぇ。君に付けた腕輪は君の力を100分の1に抑える効果があるのよ?それで私たちに勝てると思っているの?」

「腕輪ってこれの事か?」

 僕は封印の腕輪をストレージから取り出しローレシアに投げつけた。

「これは?どうやって外したの?」

「引っ張ったら取れた。」

「馬鹿な事を言わないで、これはあなたの力では絶対に外せない様に調節してあるのよ。」

「じゃあ、企業秘密って事で。」

 僕の態度が気に入らないのか、ローレシアが睨みつけて来る。

 なんか、偽神の数が少ないな?それにブラスマイヤーの気が感じられない。

「なんだか前に来た時より寂しく無いか?それにブラスマイヤーの姿も見えないな。」

「ブラスマイヤーの奴、突然暴れ出して5人もの神を殺したわ。あなた、彼に何をしたの?」

「いやいや、何も出来る訳無いだろう?って言うか、そのブラスマイヤーは?」

「ブラスマイヤーにはちょっとお仕置きが必要だと思ってね。」

「お仕置き?何をしたんだ?」

「人間に転生させてあげたわ。残念だったわね、ブラスマイヤーと2人なら私たちに勝てると思って来たんでしょ?」

 何と言うか壮絶に勘違いをしているな。僕とブラスマイヤーがグルだと思って居たのか?

「つくづく愚かだな。お前らに神の座は荷が重いだろう?今、楽にしてやるよ。」

 知らない間に周りを偽神に囲まれていた。まあ、何人いても同じだけどね。

「この人数を相手に一人で勝つ気でいるの?」

 この人数って、ブラスマイヤーが5人殺して、そのブラスマイヤーが居なくなって、更にさっき僕が4人倒したから既に10人減ってますけど?あれ?神って全部で12人じゃなかったっけ?なんか増えてない?

「馬鹿ね。5人殺されて補充しないと思っていたの?」

 あー、そう言う事ですか。って事は全部で7人か、軽いな。

 ローレシアの目の前で6人の偽神を瞬殺してやる。驚くローレシア。

「なんで?ブラスマイヤーより強いなんてありえない。」

「聞きたい事がある。20数年前、僕を地球に飛ばしたのは誰だ?」

 僕はローレシアが全ての黒幕だと疑っている。

「原初の神に決まっているでしょ?」

「嘘だな。原初の神など存在しない。全て思い出したと言ったろう?」

 ローレシアがあからさまに狼狽えている。
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