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 プラット酒場に向かう。基本この世界の酒場は食堂も兼ねているので朝から営業している。

 まあ、冒険者なんて職業は、暇な時は朝から酒を呑んでいる事も多いので需要はある様だ。

 中に入るとそれなりに人が入って居る。半数は冒険者だろう。

 その中でも特別濃い気を放っているグループが居る。人を寄せ付けない空気だ。恐らく彼らが『双炎の槍』だろう。

 5人組の男たちは何やら話し合っている。恐らく次の依頼の話だろう。

 僕はゆっくりと彼らの元へ歩いて行く。

 僕の気配に気が付いたのか、一人の男がこちらを見た。

「なんだ?俺達に用事か?用事がないならこっちに来るな。」

 噛みつく様な物言いをする男を別の男が制した。

「呑み過ぎだ。お前は少し黙ってろ。」

 恐らくこの男がリーダーだろう。

「悪い。邪魔するつもりは無いよ。優秀な魔法使いが居ると聞いて会いに来たんだ。少し話が聞きたい。」

「あんた、Sランクのエイジだろう?あんたと敵対するつもりは無いよ。」

 リーダーの男は、魔法使いを呼んでくれた。

 となりのテーブル席を借りて、2人で話す。

「少し前の話になるが、王都の外壁に突っ込んだドラゴンを止めたのは君だよな?」

「ほう?あれが止めたって解る奴が要るとは思わなかったよ。完全には止めきれなかったからな。」

「その時の状況を知りたい。なるべく詳しく教えて貰えないかな?」

「構わないけど、何でそんな事が知りたいんだ?あんたならもっと手際よく止められたんじゃ無いか?」

「実は国からの依頼でな。当時の詳細を報告しなきゃならないんだ。」

 僕の言葉にバッシュは詳しく様子を聞かせてくれた。だいたい予想した通りだが、あの時双炎の槍は狩りを終えて西門を潜る為に列に並んでいたらしい。

 突然ドラゴンの鳴き声が聞こえたと言う。つまり、落下中ドラゴンは生きていた事になる。

 騒然となる人々、だがドラゴンは飛べない様でどんどんと落下して来る。このままでは外壁を突き破って王都に侵入してしまうと誰もが思った時、バッシュは物理障壁を展開したそうだ。

 周りの人間は皆混乱していたのでバッシュが魔法を使ったのを見ていた者はおそらく居なかっただろうと本人は言っている。

「まあ、俺の魔法じゃドラゴンを止めきれなかったが、ギリギリ外壁が全壊する前にドラゴンが止まってくれたって感じかな。」

「なるほど、だいたいこちらの予想通りの話だ。ありがとう助かったよ。」

 僕は金貨を2枚テーブルに置いて席を立った。

 金貨2枚は多いのかバッシュが躊躇っている。

「情報料だ。国から出ている金だから遠慮するな。」

 そう言って酒場を出た。

 話を聞いて確信する。この件に救済の箱舟は絡んでいない。これが落下中のドラゴンが死んでいたと言うのなら話は別だが、生きていたのなら自然に落下したのだろう。噴火時の毒ガスか噴煙にやられたと考えるのが普通だ。

 さて、こうなると王城爆破事件以降、救済の箱舟は動いていない事になる。何故奴らは急に動く事を止めたんだ?

 国王を殺害した事で奴らの目標は達成したと言うのだろうか?だとすれば用意された箱舟は何の意味があるんだ?

 とりあえずこの情報は元公爵やクラ―ネルと共有して置こう。

 折角出て来たのだから、今日は狩りをするぞ。まあ、歯ごたえのある魔物を20匹も狩れれば満足だ。

 戻るのが面倒なので転移で東門の外へ出た。最近はこっちに来る事は滅多に無いので奥まで行けば、手ごろな魔物が居るだろう。

 Sランクの魔物だけ選んで20匹程狩って、ギルドで換金して家に帰る。ストレージの中にも魔物は沢山入っているので、白金貨10枚になる様に調節して売って来た。

 家に帰ると、珍しくセリーが応接間でお茶を飲んでいた。

「どうした?疲れたのか?」

「いえ、そう言う訳ではありませんが、頭を使ったので甘い物が欲しくなりまして。」

 なるほど、メインはお茶ではなくケーキか。

「ところでさ、うちの財政ってどうなってるの?」

「財政ですか?基本領地からの収入で公爵家は回りますよ。ただ、少し贅沢をしたいと言う事になると、月に白金貨5枚は欲しい所です。まあ、うちの場合はあなたのギルド口座に白金貨5000枚程の貯金がありますので、臨時の出費はそこから補って居ます。」

 なるほど、ギルドでは狩りの代金は白金貨1枚分しか当日には貰えないので残りは貯金に回る。それが知らない間に白金貨5000枚になって居たわけだ。まあ、有効に使われているのなら問題は無いだろう。

「ところでセリー。うちに金庫ってあるのか?」

「一応ありますよ。領地からの収入や使用人の給料等を入れて置く必要がありますからね。」

「じゃあさ、これも入れて置いてくれない?」

 そう言って以前救済の箱舟の資金源だった白金貨50万枚を箱で出す。

「これは?」

「ああ、なんか適当にアイテムボックスにお金を突っ込む癖があってさ、知らない間にたまって来ていたから、この際処分したくてね。」

「もしかして、この箱全部、白金貨ですか?」

「ああ、恐らく50万枚はあると思う。」

「思いっきり贅沢しても一生使いきれない金額じゃ無いですか。どうするんですかこれ?」

「それでも、まだ半分位なんだけど。とりあえずセリーが自由に使って良いよ。」

「自由にって、私に国でも興せと?」

 お?セリーが冗談を言うとは珍しい。

「財政の苦しい貴族に融資してみてはどうだ?我が派閥の将来に繋がらないか?」

「なるほど、そう言う使い方なら無駄にはなりませんね。」

「他にも有望な商会に融資して置くと言うのもありだと思うぞ。」

「でも、これはあなたの個人財産では無いのですか?」

「言ったろう?それでも半分だって。僕だって、使い切れないお金を持っていても意味が無いからね。」

「いっその事、お父様に変わって、あなたが国王になった方が良いかもしれませんね。」

「いや、そう言う面倒なのは勘弁してほしい。公爵の地位だって好きでやってる訳じゃ無いんだから。」

 よく考えたら貴族じゃなくても金は稼げるんだから、面倒な爵位にしがみ付く必要は無いのだが、それでも子供には貴族の地位を与えたいと考えている自分が居る。矛盾しているのは解って居るが、子供は親を選べないからね。

 まあ、子供を鍛えて稼げる冒険者にするって言うのも一つの手ではある。もし、自分の子が貴族は嫌だと言うなら、それも考慮すべきかな。

 セリーに付き合って紅茶を飲みながら、そんな事を考えていると色々な事が、どうでもよくなって来た。

「そう言えば、公爵家の力があれば、平民を男爵にする位は可能ですよ。そう言った人物は今の所居ませんか?」

「ほう?公爵ってそんな権限があるんだ?でも、今はそこまでの人材は居ないかな。でも覚えて置くと後で役に立ちそうだ。助かるよ。」

 そう言えばビアンカが正式にクラ―ネルと結婚したら、弟子が居なくなるな。新しい弟子でも取るかな?でもって、育ったら爵位を与えると言うのも良いかもしれない。

 ん?隠居して弟子を5人位取って鍛えて、余生を過ごすのもありかもしれない。幸い蓄えは十分あるから、山奥に家でも建てるかな?

「あなた?何か馬鹿な事を考えてませんか?」

 エスパーが居た。

「いや、ビアンカが男だったら爵位を上げても良かったなと思っていただけだ。」

「ビアンカさんは優秀ですからね。クラ―ネルさんも頭が良いし。マリーカさんが2人の会話に着いて行けないとボヤいてましたよ。」

「マリーカ嬢も大変だな。セリーが少し教えてやれば良いのでは無いか?」

「私もあなたとクラ―ネルさんの会話には着いて行けませんからレベルは一緒かと?」

「まあ、僕とクラ―ネルの話は方向性が違うからな。セリーはどちらかと言うと貴族の政治的な話が得意だろう?僕やクラ―ネルは冒険者出身だからね。同じようにマリーカ嬢もこれから貴族の政治の話が必要になるはずだ。伯爵夫人だからね。そう言う話が出来るのはセリー位しか居ないんじゃないか?」

「そうかもしれませんね。私で役に立てるなら相談に乗って差し上げる様にします。」
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