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 4つの治療院では1日に20人程の欠損の治癒を行っている。これだけで金貨400枚になる。更に、僕の北治療院は他の治療院より値段が高めに設定してある上に伯爵からの特別患者が時々やって来たり、難病の患者なども来る為、収入が凄い事になって居る。

 現状弟子達には一律月金貨50枚を支払っている。これは、世間から見たら破格の給料だ。商会の従業員で、通いが月に銀貨8枚程度。住み込みなら銀貨5枚位が相場だ。

 貴族家のメイドでも月に金貨1枚貰えれば多い方だと言われている。まあ、治療師と使用人を同一視するのもどうかと思うが、目安にはなると思う。

 ちなみに窓口の受付嬢にも金貨10枚を毎月払っている。

 支出に対して治療院全体の収入が月に白金貨40枚位はあるだろう。これを全部僕が独り占めするのはどうだろう?

 一応治療院の維持費等にも一部当てているが、残りは使わずに保管している状態だ。

 弟子たちの給料を上げても良いのだが、あまりお金を与え過ぎるのもどうかと思う。まあ最大でも白金貨1枚が限度だろう。それ以上は貴族や商人の収入を超えてしまう。上位の冒険者なら、月に白金貨10枚位稼ぐ者は居るが、それに合わせて良い物だろうか?

 僕としては、弟子たちが独り立ちするのを希望している。その時に、新しい治療院を立ち上げる資金としてプールして置くのも一つの手だ。

 まあ、いずれ欠損の患者は減って来るはずなので、この悩みは今だけの物と言う可能性もある。

 弟子達にはリカバリーの可能性を教えてある。今は欠損に対しての治療で手一杯なのであまり使用していないが、リカバリーを使う事で今まで治す事が難しかった病気や怪我に対応できるようになる。

 一番顕著なのが、眼だろう。この世界には眼科医が居ない。なので視力の補正をするのにヒールを使っている。だが、ヒールでは一時的な効果しか無く、定期的に魔法を掛けないと行けない。

 これに対しリカバリーなら元の状態に戻す事が出来るので、視力の補正も出来るし、失明も治せる。

 実は欠損と同じ位、失明者は多い。両目が失明すると生きて行く事が難しいので、教会が保護しているらしいが、片目が失明あるいは限りなく視力が低い者はかなりの数居る。

 なので、治療院に来る欠損者が減って来たら、今度は失明を治す事に決めている。既に治療院の名前は知れ渡っているので、値段は安めに設定する予定だ。

 また、リカバリーは後天的な怪我に対して有効だ。腰痛やヘルニア、リュウマチ等にも効果がある。もう少し気軽に来てくれても良いと思うのだが。

 更にエクストラヒールを覚えた事で治療の幅が大きく広がった。脳卒中や心臓病にも対応できる。

 こうなると、本当に救急車が欲しくなる。時間との勝負の患者は相当数いるはずだ。治療の幅が広がり治せる人が増えた分。助けられる患者を助けられないジレンマに悩む事になる。

 弟子たちは順調に育っている。マリオンは既に独り立ちが可能な位までのレベルに来ている。本人が希望するなら治療院の一つを専属に使って貰っても構わないと考えている。

 一応これ以上治療院を増やしたり弟子を取る事は考えていない。4つの治療院だけでは王都全体をカバーする事は出来ないと言うのは解って居る。だが、僕が独占してしまっては、この国に医学が根付かない。

 現状うちの治療院以上の治療は難しいだろうが、治療院と言うビジネスが儲かる事は理解出来るだろう。後は何処かの商会なり貴族が真似をしてくれる事を待っている状態だ。

 あえて言わないが、相談してくれればノウハウを教える事位はしても良いと考えているし、誰かが治療院を始めても邪魔したり潰したりはしないぞ。

 ちなみにこれだけ治療院が話題になっても、教会に高いお金を払ってハイヒールを掛けて貰う者は減って居ない。教会で欠損は直せないので、そもそも欠損を持つ者は教会には行かない。

 どうやら、教会に行っても病気が治らない者や、教会でハイヒールを受けるお金が無い者が治療院へ来ている様だ。これは教会と住み分けが出来ていると納得するべきなのか、悪しき風習を払拭すべきか悩む所だ。

 さて、話は変わるが、南治療院は貧民街にある。その為、患者の構成が他の治療院と若干違う。軽度の患者が多いのだ。欠損の治療は他の治療院で予約を取れなかった者が来るので人数的には変わらない。

 その為、緊急を要する患者や治療の難しい患者は滅多に来ない。その為、ここの担当になった治療師は、ヒールだけで事足りる事が多い。実践でエクストラヒールを使う機会が無いのだ。

 だが、貧民街だけあって、栄養状態の良くない患者も多い。これを診る治療師は本来ならヒールで治せる病気や怪我でもあえてエクストラヒールを使って治している。要は患者を弟子たちは練習台に使っているのだ。

 褒められた事では無いが、怒る程でも無いので見逃しているが、始めは一人だったのが、今では皆がエクストラヒールを使う様になってしまった。

 これによって、思わぬ副作用が出る事になる。

 貧民街の人達が健康になってしまったのだ。例えば、手を怪我して治療院に訪れた患者がエクストラヒールを全身に掛けられる。すると、栄養状態が改善されるだけでなく、隠れて見えなかった病気まで治ってしまう。結果、元気で健康な状態になってしまうのだ。

 こうして、健康で元気な者が増えると、貧民街から外へ働きに出る事になる。そして、貧民街にお金が少しずつ回る様になって来たのだ。

 1か月もすると、昔の貧民街とは違う様相を見せる様になってくる。

 まず、冒険者が増えた。次に商店が増える。そして、貧民街が活気に溢れる事になる。もはや貧民街とは言えない状態になりつつある。

 ここを出て行く者も多いが入って来る者も多くなる。結果、人の流れが出来、他の街の様に経済が回り始めたのだ。これにより治療院の患者数も徐々に伸びて来た。

 そして、今では他の治療院と変わらない位忙しくなってしまったのだ。

 これが良い事なのか悪い事なのか判断は付かないが、弟子たちは南治療院に行くのを楽しみにするようになった。

 6人でローテーションを回しているので、行く度に街の様相が変わるのが面白いらしい。

 噂を聞いて来る患者も増えた為、難しい患者も徐々に増えて来る。それもやりがいがあって良いらしい。

 まあ、暇だと言って行きたがらないよりはマシかなと思う。

 そんなある日、スポンサーでもある商会の商会長から、ケルビンを返して欲しいと言う連絡が来た。西に新しい治療院を開き、そこをケルビンに任せると言う話だ。

 これは事前に取り決めされていた事なので断る事は出来ない。まあ、悪い話では無いので断らないけどね。

 ケルビンはもっと学びたい事が沢山あるのにと言いながらも嬉しそうだった。

 これを機に、東治療院をマリオンに任せる事にした。

「マリオン。東治療院は完全に任せる。受け取った治療費は全部マリオンが自由に使って構わない。受付嬢の給料もその中から払ってくれ。受付嬢はマリオンが気に入った者を引き抜いて連れて行ってくれ。また、新規に弟子を取っても構わない。弟子に何を何処まで教えるかも自由だ。」

「あの?勉強会の参加は続けても良いのでしょうか?」

「その判断も任せる。参加したいなら歓迎するし、参加しなくても構わない。」

「勉強会には参加させて下さい。まだまだ知りたい事が沢山あります!」

「何時もの時間に中央治療院に来れば参加出来る。そう難しく考えるな。」

 これで、マリオンとケルビンが独立する事になる。他のメンバーで中央と南を回す事になるだろう。

 僕は相変わらず北治療院を担当する。少し早いが、僕の予定通りに事は運ばれている。失明の治療が始まる頃には、もう一人くらい独立させたい。

 まあ、残りの弟子達はじっくり育てて行こう。ケルビンの治療院が軌道に乗るまでは新しい治療院を開業するつもりは無いしね。欠損の患者もまだ暫くは続くはずだ。
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