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 1週間程は予約の患者に対応するので手一杯だった。が、それも徐々に減って来る。別に欠損者を全部治した訳では無い。最初はお金を持っている者だけが押しかけたのだ、お金を持っていない者は、貯金してから受診する。つまり第一次のピークが過ぎたと言う事だろう。

 まあ、ここからは欠損の患者は少なくなるが、ゼロになる訳では無い。まだ潜在患者数は10万人を超える数居るので、新しい欠損を治せる治療院が出来ない限りは、うちの治療院に来るしか治す方法は無い。

 また、貴族の患者もあまり来ていない。下級貴族はともかく、上級貴族ともなると、街の治療院に行く訳には行かないのかもしれない。

 そんな中、ある上級貴族から呼び出しを喰らった。

「貴族からの呼び出しですか?囲い込みでもしようと言う考えでしょうか?」

 今日の中央治療院の担当はランクスだ。

「いや、恐らく向こうからこっちに来れないから、呼び出して治療をさせる気だろう。想定の範囲内だ。と言うかこれを待っていた。」

「どう言う事ですか?」

「依頼人はパドナーン伯爵家、伯爵家なら後ろ盾に丁度良い。恩を売って、利用させて貰おうと考えている。」

 まあ、実際には伯爵の人柄を見てからでは無いと判断出来ないが、相手にとっても美味しい話になるはずだ、普通なら断らないだろう。

 中央治療院を途中からランクスに任せて、僕は貴族街に向かう。転移を使ったので2時には伯爵家に着いた。

 執事に案内されて応接室で少し待つと、2人の男がやって来た。若い方の男には右腕が無い。

「其方が欠損を治せると言う治療師か?」

 40代前半の鋭い目つきの男が声を発した。恐らく彼が伯爵だろう。

「はい。私の他に3名欠損を治せる治療師が居ますが、彼らは弟子になりますので、本日は私が出向きました。」

 すると伯爵は一度若い男の方を向き。こちらに向き直し言う。

「この者を治す事は可能か?」

「詳しく診断した訳では無いので確実とは言えませんが、恐らく治ると思います。その傷は比較的新しいですよね?」

「ほう?見ただけで判るのか?」

「いえ、彼の動きがぎこちなかったので、欠損を負ってからそれ程時間が経って無いのではと推測したまでです。」

 その言葉に若い男は驚いている。

「ぎこちないか?私には普通に見えるのだが?」

「失礼ですが、こちらの方はかなりの腕の剣士だと見受けます。そう考えて動きをみると、普段の動きの50%位しか動けていないのでは無いかと思われます。」

「治療師なのに剣術にも詳しいとは面白い奴だな。」

「お褒め頂きありがとうございます。治療を始めても構いませんか?」

 欠損を負って間もないならエクストラヒールが効く可能性がある。ちなみにエクストラヒールで欠損を治した方がリカバリーで治すより即効性が高い。つまり、日常生活に戻れる時間が短縮できるのだ。

「構わない。やってくれ。その代わりと言っては何だが、儂が見ていても構わないだろうか?」

「構いませんよ。魔法を使いますので、近づき過ぎなければ問題ありません。」

 僕の感が正しければ、恐らくこの若者は欠損を負って1週間は経っていないはずだ。ならばエクストラヒールでも十分行ける可能性がある。

 まずは無詠唱でエクストラヒールを掛ける。

 思った通りだ、彼の傷口の細胞はまだ再生可能な範囲だ。徐々に肩から腕が生えて来る。指先まで再生するのにおよそ5分程時間が掛かった。

 ここまで大きな欠損だと、まだ弟子たちには難しい。おそらくリカバリーを3回位は掛ける必要があるだろう。

「驚いたな。欠損を治すと言っても指程度だと思っていた。まさか腕1本治せるとは思って居なかったよ。」

「恐れ入ります。そちらの方、手はちゃんと動きますか?」

「動く。俺の手が、戻って来た。」

 どうやら成功の様だ。

「良い物を見せて貰った。褒美を取らせよう。白金貨10枚でどうだ?」

「あ、治療費は一律金貨5枚になっています。それ以上は受け取れませんよ。」

「治療費では無い。褒美と言ったろう?」

 ここが勝負どころだな。

「褒美と言うなら、金銭では無く、別の物を頂けませんか?」

「ほう?何が欲しいのだ?」

「伯爵様の後ろ盾を。」

「なるほど、お主程の治療師が後ろ盾を持って無いと言うのは意外だな。」

「伯爵様にも悪い話では無いと思うのですが?」

「解った。お主の後ろ盾、このパドナーン伯爵が引き受けよう。」

 どうやらパドナーン伯爵はちゃんと損得勘定の出来る男らしいな。

「紹介が遅れたな、この男、私の腹心で、ゼノバと言う。腕も立つが頭も切れるぞ。何かあったら、こいつに相談すると良い。」

「解りました。よろしくお願いします。」

 ゼノバが軽く頷いた。

 これで、念願の後ろ盾が出来た。これから貴族を相手に治療院を運営して行くつもりなので、後ろ盾があるのは心強い。

 中央治療院に戻り、皆が集合するのを待つ。そう言えば最近南治療院の様子を見に行って無いな。明日は、こっちに2人呼んで、僕は南に行くかな。

 皆が集合した所で、パドナーン伯爵が後ろ盾についた事を発表する。

「さて、貴族の後ろ盾が出来た所で、もう少し北に進出しようと思う。」

「それは、新しい治療院を開くと言う事ですか?」

「そうなるな。おそらく、そこでの患者は貴族がメインになると考えている。」

「今の2つの治療院はどうするんですか?」

「南に1名、中央に1名、新しい治療院に1名がローテーションで入る様にするつもりだ。僕は基本的に3か所を1日で回って手伝いをする形にしたい。」

「1人で治療院を回すって事ですよね?」

「それなんだが、受付を1名雇うついでに新人を3人雇うかどうか決めかねている。」

「新人ですか?戦力にはなりませんよね?」

 こう言う時ハッキリ物を言うのはマリオンだ。

「戦力どころか、治療院を回しながら指導をしなければならなくなる。」

「それは、メリットが無いのでは無いですか?」

「まあ、1か月はそうだな。だが、1か月もすればお前ら程度には動けるようになる。治療院3に対して治療師が7人になる。」

 正直、治療院はもう一つくらい増やしたい。1つは僕が担当するとして、他の3つは2人ずつに任せられる。

 4つの治療院をネットワークで結んで、弟子たちが治療できない患者は僕の所に回して貰えば王都の患者を網羅出来ると言う考えだ。

「治療師7人と言うのは大きな組織ですね。しかも全員が欠損を治療出来るとなると、世間の注目も集めますね。それに今なら弟子になりたいと言う魔法使いは多い筈です。タイミング的には最適かもしれません。」

「ふむ、それもあるが、貧民街にはまだ欠損を持った者も多い。実験台になりたがっている人も沢山いるんだろう?治療師を育てる環境的にも今がベストだと考えている。」

 まあ、3人の弟子には1か月程、かなりの負担を掛けるが、僕もフォローに回るし何とかなると考えている。

「そう言う事であれば、新人の指導をやらせて頂きます。」

「そうか?本当に新人を雇っても大丈夫か?」

「任せて下さい。」

 と言う事で、新たに4人の求人を商業ギルドに頼んだ。

 3店舗目の北治療院は、僕が適当な場所に賃貸で借りた。貴族街から程近い商業地帯の外れなので、結構な家賃を取られた。それでも回収する自信はある。相手は貴族なので他の治療院とは値段も変えて大丈夫だろう。欠損の治癒の値段は同じだけどね。

 北治療院が使える状態になるのに10日程掛かるそうだ。その間になるべく新人を育てよう。

 3日後、商業ギルドに頼んで置いた人員が集まったと連絡があった。話題の治療院だけあって、希望者が殺到したそうだ。

 4人を連れて中央治療院へ帰る。

 まず、受付の新人を先輩に任せて、新人治療師3人を連れて、治療室へ行く。今日はマリオンが入っているので、暫く見学をさせる。

 現状では2店舗しかないので、中央で僕が3人の指導をする。まあ、マリオンが手に負えない患者は診るけどね。
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